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R E D - D I S K 0 1  作者: awa
CHAPTER 04 * THINKING AND SAYING
21/91

* Beginning Of Summer Holiday

 けっきょくリーズたちは、インミと挨拶を交わす程度になったらしい。

 私は、視線を合わせなくなった。

 携帯電話からは、彼女の名前が消えた。

 そして、終業式の日を迎えた。明日から、一ヶ月と少しの長い夏休みがはじまる。

 「なんで朝っぱらからこんなことしなきゃいけないわけ?」数歩先で階段をのぼりながらゲルトが訊いた。

 私たちは朝のHRで担任から、終業式のあと職員室に、全教科全員分の夏休みの宿題を取りにこいと言われた。ガルセスにも手伝わせようとしたのに、彼は逃げた。

 「私に訊かれても困ります」私は二教科分の宿題を持っている。本当に重い。

 折り返し部分の踊り場にあがると、彼はまた階段のステップへと足を踏み出した。

 「エレベーターつければいいんじゃね? ヒト乗れなくてもいいから、とりあえずこういうのを乗せるやつ」

 こちらも彼のあとに続く。「それいいね。でもそれ使えるの、一年だけじゃないの? 二年と三年は第二校舎よ。考えたら私ら、まだマシかも」

 彼は笑った。「それは言えてる」

 階段をのぼりきったゲルトの前に右側から、同級生のダヴィデ・カーツァーとイヴァン・タスカ、カルロ・マーニが現れた。立ち止まったカーツがゲルトの手荷物を見る。

 「なにしてんのそれ」

 「見ればわかるだろ。小間使いだ」

 カーツァーはゲルトの隣に並んだ私の手荷物へと視線をうつした。

 「うわ。強烈」

 いいリアクション。「持ってからうわって言え。強烈だと思うんなら手伝え」

 「無理。俺らD組。お前らB組。反対方向」

 舌打ちしたかったがやめた。「解答欄の答え一行ずらして書きやがれ。始業式の日にうわーってなれ。そんでみんなの前で恥かきやがれ」

 「アホ」笑いながら歩きだす。「じゃーな」

 笑うタスカもマーニと一緒に歩きだした。

 「しっかりな、可哀想な小間使いお二人さん」

 ムカつく。「うっさいわアホタスカ!」

 そしてこちらも彼らとは逆方向、B組の教室へと歩きだす。

 「なんなの? なんでみんなこう、薄情者なの?」

 「気にするな。お前がいちばん薄情だから」ゲルトはさらりと言った。

 ムカつく。

 と、視線の先、B組の教室からハヌルが出てきた。こちらの姿を確認し、近づいてくる。

 「ちょっと」

 ゲルトも気づいた。「嘘だろ。薄情じゃないのがあいつだけとか言わないよな」

 「今から方向転換する? それかC組の教室に入る?」

 「ぜひそうしたいな。ついでに宿題もやってくんねえかな」

 「そうしてくれたら素敵。そしてこの屈辱的状況をC組全員で体験してくれないかな」

 「この恐怖もオマケでな」

 ハヌルは笑顔で駆け寄ってきた。怖かった。

 彼女は普段より七オクターブくらい高い声を出した。「手伝うけど」

 「ゲルトのほうがたくさん持ってるよ」

 「俺は平気」そう言うと、彼はズカズカと歩き出した。

 もしもーし。競歩かと思うような速さなんですけど。

 「じゃあ半分持つ」

 普段どおりの低い声でそう言うと、ハヌルは一教科分の宿題を私の手から取った。その表情は、あきらかに不満そうだった。

 もういいよお前。「ありがと」

 歩きながら、ハヌルはまさかの質問をぶつけてきた。

 「アゼルとつきあってるってホント?」まさかの名指しだ。

 「なんで?」まだ一週間なんですけど。

 「なんかそういう噂が」

 なぜそんなに噂が好きなのだろう。「噂なんてアテにならないでしょ」

 「んじゃつきあってない?」

 うざいよもう。「あれが私なんかを相手にすると思うの?」

 ハヌルは笑った。「だよね」

 誰か今すぐ私に殺人許可証をください。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 放課後、B組の教室でそのやりとりを話すと、ゲルトの席に横を向いて座ったアニタは、涙が出るほど大笑いしてくれた。笑いすぎだとつっこむと笑いながらごめんとあやまり、三度ほどの深呼吸で息を整え、やっと落ち着いた。

 「で? けっきょくつきあってるって言わなかったわけ?」アニタが訊いた。

 「言わない。うるさいだけだもん。エルミにまで話が伝わって質問攻めとか、そんなのイヤ」

 「口止めすればいいじゃん」

 私は肩をすくませた。

 「口止めが通用する相手じゃないでしょ」

 彼女が笑いながらうなずく。「確かに。とりあえず宿題、どうする? 今年もうちに泊まりにくる?」

 小学四年の頃から、夏休みに入って最初の金曜と土曜と日曜にアニタの家に泊まり、宿題をまとめて消化するというのが恒例行事になっている。

 ──の、だが。「おばあちゃんに言うの、すごく気まずい」

 「ああ、うちはママが話してくれたもんね。じゃあ土日だけにしてみる? それか交互に昼間、お互いの家に行き来するか、もしくはとりあえずぜんぶ自力でやって、そのうちまとめて答え合わせするか」

 小学校の時はラクだった。ドリルの最後のページに答えがついていた。問題を自力で解いたとしても、最終的には自分で答え合わせをするという流れだ。中学ではその答えがまず存在しない。誰かのを写すことは可能だろうが、どこまで不正が通じるのか、よくわからない。

 「自力でやろっか」と、私。「とりあえず中学の最初だけでも真面目に」

 「真面目にやらなきゃいけないのは三年だと思うけど」

 「真面目な三年生なんてこの中学にいないんじゃないの」


 けっきょく私たちは最初の数日、互いに家に引きこもり、自力で宿題をやった。

 翌週の土曜にはアニタの家に泊まり、宿題の答え合わせをした。アニタの家なら、難しい問題があっても彼女の母親や姉のタニアが教えてくれる。

 日曜日、アニタの家で夕食を食べさせてもらってから祖母の家に帰り、祖母と少し話をしたあと、シャワーを浴びて部屋に戻った。

 約一週間、リーズたちの誘いを一切断った。宿題をやるからと。

 マスティから“真面目気取りのアホ”とメールが入った。ブルからは“ガラじゃない”と。

 だが彼らにとっていちばんガラじゃなかったのはアゼルのほうらしく、奴もけっきょくこの一週間、補習漬けになっていたらしい。

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