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Gundam Divine 外伝
作:ダビデ


第一話
その髪は血を浴びたかのように赤く、その顔は罪の無い子供のように純粋であった。その罪人の罪は「無実」そのものであった。
「こいつ、大丈夫か?」
牢屋の様な実験室で若い男が他の二人の老人研究員立ちに問い掛ける。彼の言うこいつはその実験室で体の自由を奪う服を着た赤毛の女性であった。しかし若い研究員が心配していたのは全身の傷ではなく、彼女が口から血を吐いている事と明らかに元気が無い事であった。
「心配するな、脈拍数は通常だ。薬の副作用でも出たのであろう。」
頭の上には毛をはやしていない、白髭が目立つ研究員が冷たく言った。するともう一人の老人が言う。
「そうだな今日はこのぐらいにしておくか・・・。ちゃんと世話しろよ、俺はここで失礼する」
彼も又髭を生やしていたが髪の毛も生えており、色はまだ茶色だった。彼がこれを言ったあとに二人の老人はその場を去った。そうすると若い研究員はタオルと近くの冷蔵庫から食べ物を取り出し、女性の近くまでより話し始める。
「大丈夫か?ほら、血はこれでふきな」
若さゆえか彼はやはり心配だった。差し出されたタオルを彼女は口でくわえて噛むとそれをすぐに落とした。その後彼女はただ彼を見つめた。
「睨まないでくれよ。君は完全じゃないんだ」
そう言うと彼はパンを裂いて彼女に一切れ渡した。少し戸惑った後、すぐに彼女は彼の手にあるパンを口で奪い取った。
「後少しの我慢さ。いずれこの部屋から出られる。服だって着れるよ。いう事を聞けば戦争も終わってきっと自由になれるさ。」
それを聞いても彼女はまるで嬉しそうではなかった。いずれ食事が終わると男は周りの機械を異常が無いか調べたりしてから電気を消して去った。彼女は暗闇の中ただ一人ぼっちだった。しかし特に寂しいなどとは感じなかった。むしろ彼女にとって一人と言う事は自分に危害を加える人も自分に実験をする研究員も いないと言う事であり安心できた。しかし壁に鎖で繋がれている状態は座り込むのも難しく睡眠をとるのにはいつも苦労していた。
こんな日々が後一週間続いた後、若い男のいう通りになった。彼女についていた鎖は外された。もちろん抵抗しようとは思ったがその力はもちろん無かった。そしてその時から数日は彼女の記憶はあやふやだった。ただ、気付いたときには軍服を身につけており、又あの男が目の前にいた。若い研究員であった。
「おはよう、気分はどう?ほら、これ読んで」
そう言うと彼が差し出したのは何やらMSの操作説明書であった。しかし彼女はそれが何なのか分からず後少しで口にくわえようとした所を彼に止められた。
「おいおい、何をするんだ?・・・あ、そうか、僕とした事が忘れてたよ。君は言葉が分からないんだったね。どうしよう・・・。」
しかし、この時、彼女は予想外の事をする。
「ア・・・リガト」
彼はこれを聞いて思わず驚いた。彼女は既に言葉を覚え始めていたのだ。彼はとりあえず冷静に対応した。
「・・・どういたしまして。そっか、いきなりMSの操作は覚えてもらえないな。まずは言葉の勉強だな。まいったな」
この頃には彼女は今の状況を思い出し始めていた。彼女は今トレーニングルームのような所に居たのだ。ここ数日間はここで、弱りきったからだを半強制的に鍛えられていたのだ。困り果てた若い研究員に白い髭の研究員が彼の後ろまで近寄り、肩に手を置くと彼に説明した。
「安心したまえよ。彼女の学習能力は普通の人間と比べ物にならない。飲み込みは早い。言葉なんてすぐに覚えるさ。」
衰えていた筋肉を元に戻すのにそれほど時間はかからなかった。しかし、彼女に休む時間は余り与えられない。すぐさま彼女には言葉を学習してもらわなければならかった。
若い研究員の名前は健と言った。名前に感じを持つ人間は珍しいがどうやらそれは彼の家系の人間が代々守ってきた伝統らしかった。他の研究員と比べ、若いにもかかわらずこのチームの中にいたのは、彼がちょっとした天才であったからであった。彼は何と高度な生物学を専門し、18歳の若さで大学を卒業していた。しかし、その若さゆえの世間知らずと経験不足さで同じチームの研究員達に軽蔑されていた。そんな彼はよく老人の研究員達の考え方に意見していた。
健は彼女にどうやって言葉を教えるかでも老人達と違う意見を持った。
「彼女には必要最低限の知識しか与えない。私達のやり方の方が手っ取り早いし余計な知恵が付かなくて済む。」
「しかし、非人道的なやり方です!まるで人を機械のように扱っています!」
健は冷静な相手に対して常に情熱的に反論した。
「一ヶ月だけ下さい!私の方法の方が優れていると言う事を証明して見せます。」
目を輝けさせながら喋る彼を見て研究員は冷静に答えた。
「・・・二週間くれてやる。だが二週間以内に証明できなければ、彼女には洗脳部屋に来てもらう。」
洗脳部屋・・・それは帝国軍の非人道性を証明する物であった。通常は反抗的な態度を持つものを使いやすくするために使われている物であった。帝国軍のMSパイロットのほとんどはこの部屋を経験していた。老人研究員達の提案はこの部屋を利用して彼女に言葉を教える物であった。
「・・・わかりました。」
それから彼は二週間彼女に言葉を教えた。その方法は本や会話を通して、という方法だった。学習能力が高いだけあって、彼女は飲み込むような速さで言葉を習得した。そして最後の日には会話が成り立つほどであった。
健と教育の経験のある他の研究員と彼女は三人で施設の一つの部屋で会話の練習をしていた。しかし、そこに老研究員達が入ってきた。
「さぁ、二週間たった。どうなんだ?ちゃんと覚えたのか?」
彼らはこうは言っていてたが彼らが取る行動は既に決まっていた。
「結構覚えましたよ単語は既に150個ぐらい覚えたし、会話だって・・・」
しかし彼の老研究員達の説得に彼女が横やりを入れる。
「健・・・この人達、恐い」
純粋な訴えではあったが彼らの気に触るには十分すぎた。
「・・・恐くなんか無いさ、アプフィル。」
だが心の中では健は彼女に同意していた。老人達はついに本性を見せる。
「健君、どうやらこれ以上君に任せるわけにはいかなかった。彼女を拷問室に入れる、最初からこうするべきだったのだ。」
彼らは無理矢理彼女を連れていった。アプフィルはただ健と一緒に居たいだけであった。恐怖とともに連れ去られ、彼女は健の名前を繰り返し叫んだ。
「待って下さい!・・・ちゃんと言葉を覚えているではありませんか!」
しかし彼の言葉も虚しく、彼らの耳には届かなかった。自動ドアが音も立てすに閉まる。
「・・・そんな。」
第二話
人は間違いから学んでいく。ならば間違ってない人間からは、学ぶ事など無い。
アプフィルには、拷問室での記憶はなかった。残ったのは結果だけであった。彼女の頭の中で叩き込まれた言葉が次から次へと沸き上がってくる。連邦軍、モビルスーツ、戦争、憎しみ、正しい、正しくない、撃つ、殺す、勝利、敗北、そして死。感情は残っていなかった。彼女はその部屋に入る前の記憶を忘れていた。だが、長く忘れていたように感じる名前がふと浮き上がる。健。そして、彼女は彼に会いたいと思うようになった。
「健さんは何処ですか?彼に会いたいのですが・・・」
彼女は横にいた老研究員に尋ねる。彼は他の研究員の顔色をうかがい、彼らがうなずくと、彼は彼女に教えた。
「彼なら、あなたが拷問室に入る前に居た部屋に、居るはずです。」
彼のその言葉の言い方から、何かを隠しているかのような様子が伺えたが、アプフィルにはそれが分からなかった。
「ありがとうございます。」
しかし、彼女がその場所についた時、彼女にとって理解を超えた出来事が既に起こっていた。彼女は言葉を学んだだけで意味が分からない物が多かった、しかし、ここで彼女はある言葉の意味を知る。死。
「健・・・?」
健は倒れていなかった。壁によっかかり地面に座っていた。彼の右肩には一つの穴があった。そして彼の周り辺り一面には赤い物が飛び散っていた。咲き乱れる花が如く。そして健は名前を呼ばれても動かなかった。
アプフィルは彼にかけより、彼の表情を伺うように地面に座った。彼の頭には肩と同じ穴が空いていた。拳銃による物だったが無論アプフィルには分からなかった。そして、彼女はついに理解し始めていた。死。あの部屋で学んだ言葉。知識ではなく勘のような物で理解したのだ。
そして、その理解は衝撃のように彼女を襲う。その理解は新たな疑問を生んだ。その疑問への答えが分からないと彼女には湧くようなストレスが溜まった。そしてそれは解き放たれた。叫んだ事の無い叫びと、流した事の無い涙が防ぎきれずに溢れてきた。彼女はまだ生まれて間も無いが、その短い間に見つけた、小さな希望の火が、わざわざ大量の水で消されたのだ。
アプフィルが疲れて、叫び止まるといつの間にか後ろにいた老研究員静かな声で言う。
「失敗作だな。彼女は・・・」
この言葉の意味をアプフィルは知ってはいたがこの時はどうする事も出来なかった。彼女はまだ憎しみの意味を知らないのだから。
第三話
脳ある鷹は爪を隠す。脳ある鷹は憎しみを隠す。そして安心しきった相手を引き裂く。
健の死から半年あまりがすぎた。アプフィルはこの六ヶ月で様々な事を学んだ。彼女は六ヶ月で通常の人間には2年はかかるMS操作の訓練を終わらせたのだ。言葉の学習といい、研究者達は彼女の驚愕的な学習能力に自ら驚いていた。彼女には様々なテストが行われ、全てにほとんど何の異常も見られなかった、一つを除いて。精神鑑定。彼女にはどうやら精神に不安定な部分があるようであった。そのせいか、健が死んでからと言うもの彼女はほとんど話をしなかった。しかし研究員達にとってはそれだけ扱いやすくなるだけで好都合であった。
今日はついに初の本物のMS操作テストであった。研究場の外にある軍事施設にあるMSデッキに向かっている途中での出来事であった。見知らぬ研究員が通りすがりのドアを開けたとき彼女は中をほんの少しみた。しかし、中で何が行われているのかを理解するには十分であった。
巨大なテストチューブのようなガラスに閉じ込められている人方の物体。瓶詰めの赤ん坊。彼女はついに自分の正体を理解した。そして彼女は待っていた、この時を。知る必要のある事柄を全て理解し、必要な物をすべて手に入れたなら、後は心のささやきに耳を傾けるだけ。
そして彼らはMSデッキにたどり着いた。
「あれだ、お前のMSは。バルキリーと言う。」
そこにはほかのMSとは明らかに違うデザインのMSがあった。赤と白の色で塗装され、比較的細く華麗なデザインから、高速接近戦闘用MSだと言う事は明らかであった。実はこのMS、帝国軍が地球で手に入れた一部の「ガンダム」の設計図の設計思考を元に開発されており、リミッターがかけられてはいるものの、バルキリーは理論的に他の帝国軍製MSの二倍以上性能があるはずであった。いわゆるガンダムを作るための試作機であった。
彼女は自分からバルキリーに乗った。そして起動させた。通信から聞きなれた研究員の声がした。
「さあ、出撃させてくれ。模擬戦闘テストを行う。」
しかし彼女はMSを動かさなかった。アプフィルはMSのスペックと武器を確認していた。
大型ビームブレイドが二つ。ビームブレイドの充電にも使うさやの形をしたビームキャノンが二つ。それだけのシンプルなデザインだった。
「どうした?なぜいう事を聞かない」
すると彼女は突然、周りにあったMSを破壊し始めた。ビームブレイドの威力はすさまじく、少なくとも周りにあった物は一機のこらず破壊されてしまった。
「おい!なにをやっている!やめろ!」
しかし、聞く耳を持たない彼女は出撃し、遠距離から研究員達がいる司令室にねらいを定める。
「今までありがとう。でも、あなたたちの言いなりになるつもりは毛頭無いの・・・。残念だけど、消えてもらうしかないわ。」
「ま、まて!分かった、私達が悪かった、だから命だけは!」
アプフィルは少し考えてみたが、彼女の考えは変わらなかった。
「駄目、やっぱり生かしておけないわ。」
バルキリーからはビームキャノンが放たれ、司令室とその周辺に見事な穴が空いた。出撃準備のされているMSが居ない事と、突然の襲撃に何もできずにクローン技術開発所はほとんど破壊された挙げ句、アプフィルを逃してしまった。
だがアプフィルには当てはなかった。彼女は自分の人生の目的を果たしたのだからそれでよかったと思ったし、後悔はないようであった。やがてバルキリーのMSもエネルギーが切れ、彼女は宇宙空間を、酸素も数日しか持たないような鉄の棺桶ですごす事をしいられた。しかし、この時、彼女の想像を絶する事が起きた。
彼女の機体、バルキリーは引っ張られていたのだ。エネルギーが切れ、スラスターを使い切っていた影響で一定方向に機体は止まらず進み続けていたが、その進む方向が変わっていたのだ。バルキリーのカメラにはある丸く青い物が映っていた。彼女が見た事の無い物であった。
地球。人間の故郷であった。
近づくにつれそれは次第に大きくなり、引っ張る力も強くなっていた。ついに画面いっぱいに地球が映ると機械類が異常の報告を始めた。
「どういう事!?この惑星は何なの?」
機体は完全にコントロール不能になっていた。地球の大気圏に突入するとゆっくりと、だが確実に機体の温度が上昇し始めた。優れたMSだったバルキリーはそれに見合わせる冷却装置が備わっており、冷却装置の作動により温度の上昇は中和され始めた。
しかし、それにも眼界があったのか温度は溜まらず上昇していく。そしてついに地上が見え始めた。だが彼女が始めてみた地上は森でも砂漠でも、地面ですらなかった。
機体は真っ直ぐ海へと向かっていた。重力の影響により超高速で移動している上に機体の表面は既に金属が溶ける温度に近づいていた。そして海との衝突により機体の温度も速度もかなり落ちたがそのまま海底に激突した。そして彼女は衝撃と高熱で気絶をした。
彼女が目を覚ました頃には大変な自体になっていた。酸素も残り少ない上に溶けた表面から空気が漏れ、水がMSの中に入ってきていたのだ。だがMSはまだ辛うじて動く状態だった。アプフィルは何とかバルキリーを起こすと何とか地上に出ようと海底の坂を登り始めた。しかしカメラを上に向けても水面は見当たらない上に酸素は後15分持つかどうかであった。のんびりしている暇はなかった。宇宙戦闘用に作られたMSは水の中と言う状態に対しては有効であったが歩く動作が苦手であった。にもかかわらずアプフィルはバルキリーに走るような動作をさせて水面に出ようとした。高い操縦性でアプフィルは倒れずに操作し続ける。
しかし、15分では到底地上に出られるはずも無かった。残りに2分の所でやっと水面の近くまで来たが地上に出るためのはまはなかった。それどころか、下り坂になっていた。ここでアプフィルは賭けに出る。その山で一番高い所に立ちバルキリーをジャンプさせた。そしてバルキリーの脚部にある力で行ける最大の高さまで行くと彼女は一か罰かコクピットから出る。パイロットスーツはなかったがコクピットが完全に開く前にアプフィルは大きなひと息をとった。そして不器用な泳ぎ方で水面に何とか出る。バルキリーはゆっくり海底の闇へと消えていった。そして幸運にもアプフィルの前に大陸の姿があった。まだ遠かったが泳げる距離ではあった。
数分後何とかアプフィルは地上に上がる。だがもう体はびくとも動かなかった。そのはまで倒れていた彼女だったが、徐々に空の星々が姿を見せはじめていた。アプフィルは自分の体を少し起こすと美しい夕焼けを見た。周りの光景全てが彼女には新しく、美しかった。だが彼女は本当に孤独になってしまった。浜のすぐ近くには森があったが、周りには生き物の気配そのものが無かった。
人間ヒトの故郷でアプフィルはしばらく過ごすこととなった。彼女にただ一つ足りない本能を頼りにして・・・
第四話
輝く太陽が希望と勇気ならば、光る月は絶望と悪意の誘惑であろう。闇が広がる空には太陽に似た小さな星があるように、絶望する人は、たとえ偽りのものであってもの、希望を探す。それは星を眺めるように空しく、悲しく、力強い。
地球に落ちてからいくつもの日々が過ぎた。アプフィルは落ちた当初、体調が優れず、食べ物をろくにとることができなかった。何が食物であり何がそうでないのかが分からないと言う事もあるが、それ以前に慣れない環境への変化に彼女の体がついていけなかったのだ。今では知識も付きリンゴやサクランボなどといった果実や食べられる野菜などを主に食べていた。しかし、なれるまでにかかった時間のせいで彼女はかなりやせていた。
そんなある日、彼女は遠くで爆発のような音と光を目撃する。ほかに誰もいないはずのこの地球で、山火事のような炎ならともかく、爆発が起きるのは不自然きわまりないと思ったアプフィルは急いで爆発の方角に向かう。爆発は小二時間ぐらいで止まったが彼女は方角を見失わず三日かけてそこに向かった。その途中で彼女は思いがけないものを見つける。
緑と紫の塗装が施され、雰囲気は違うもののバルキリーと似た頭部をしているMSであった。通常バックパックがついてるはずの背中から煙が出ており腰から下は川に沈んでいた。地上に出ている上半身には戦闘後のような細かい傷やビーム兵器などからの焦げ目がついていた。あたりにはほかに何も見えなかった。まだ使い物になるかもしれないと思ったアプフィルはコクピットをあけるべく、胸部に乗りコクピットハッチを探す。しかし、入り口はどこにも見当たらずもしかしたら別な位置にあるのではないかと思って頭部に上ろうとしたその時、コクピットが開いた。
しかし、そこにはまだ生きている人間がいた。気を失っていたためアプフィルは彼をなんとかコクピットから引きずり出し地上に降ろした。気を失っている彼をどうすればいいかわからなかったがとりあえず川の水をくみ、彼の顔にぶっかけてみたが、変化はなかった。念のために息をしているか確認すると息はしているし、心臓ももちろん動いていた。仕方がないのでアプフィルはMSに乗り込んでみる。
MSはまだ動いていた。アプフィルが唯一乗ったことのある帝国性のMSであるバルキリーと似た仕組みであったため操作しようとするが、Warningの文字とともに被害の報告が画面に現れた。MSの名前は「エウリュアレガンダム」で、左足が破壊されており歩行不可能である上に背中についていたメインスラスターが大破しており使い物にならず空を飛ぶこともかなわなかった。
MSのエネルギーもほとんど使われており、残り少なかったが、まだビームライフルもビームクロウも使えた。また、頭部バルカンもまだ使用可能であることが分かった。しかし今のアプフィルにとって武器であるそれらは使えたとしても意味がなかった。
その日から数日間、大雨が降り、その影響で川が増水しエウリュアレのほとんどが水に入っている状態になってしまった。その上、そのエウリュアレのパイロットは未だ意識不明だった。しかし、彼のパイロットスーツには地球の模様がついたロゴがついており、スーツのデザインそのものがアプフィルの使用していたものとだいぶ違うことから彼女は彼が帝国軍の兵士ではないと判断した。そのためアプフィルは彼を保護し目が覚めるまでできる限りの看護をした。もちろんそんな経験の彼女は彼のためにあまり何もできなかった訳だが、彼はまだ生きていた。
アプフィルが彼を見つけてから三日間過ぎたその夜であった。彼はついに目を覚ました。目を覚まし、起き上がりながら頭を抱えた。
「痛ってー。いったい何が起きたんだ?」
そういいながら彼は辺りを見回した。見覚えのない風景と人に彼は驚いたが、のんきな態度は変わらなかった。
「いったいどれくらい気を失ってたんだ俺は?全くこんな頭痛は生まれて初めてだぜ」
しかし、アプフィルも至って冷静であった。頭の中ではあれがやっと目を覚ましたこと確かに喜んではいたが、それを決して表情に出さなかった。
「どのくらい気を失っていたかなんて私には分からないわ。それよりあなたは何者なの?あのモビルスーツは何?」
しかし、男はすぐに答えず頭を抱えて嫌がるよな声を出してから間を置いて答えた。
「質問は一つずつにしてくれ。俺はスワン・デビッドっていうものだ、あのモビルスーツがなんなのかは正体不明なあんたに安々、教える訳には行かないぜ。あんたこそ誰なんだ?」
この問いにアプフィルは戸惑いを見せた。名前しか分からない相手に自分のことを話していいのかどうか分からないと言う事もあったが、それよりも彼女は自分が何者なのかをよく分かっていなかったということの方が大きかった。
「私は、アプフィルっていうの。なんていったらいいのか分からないけど、分かりやすくいえば帝国軍からの脱走者ね。私はあのモビルスーツに似たものに乗ってここにきたの。」
「曖昧な答えだな。好きじゃない。・・・だが助けてくれたのは確かだし、俺も帝国軍から逃げてきたものだからな。分かった、信用して教えてやろう。」
デビッドは少し間を置き近くの木を背もたれにして地面に座り込んだ。ゆっくり話し始めた。
「あのモビルスーツは昔、この星で作られたモビルスーツに似せて作った物だ。二つとない試作型だが、今じゃあのざまだ、使い物にならない。似た物に乗ったといったな?それは多分ガンダムを再開発するために作った試作だろう。いや、それを改良した物かな、再開発の試作品で帝国軍が所有していた物は一つしかなかったはずだからな。そのMSはなんという名前だった?」
「バルキリーという物だったわ。今は海の底だけどね。あなたが乗っていたMSはエウリュアレガンダムといったわね。でもバルキリーはガンダムではなかったわ。」
「それもそのはずだ。帝国軍はガンダムの設計図を一度も手に入れてないのだからな。帝国軍に偽物の設計図を送ったんだ俺は。俺とこの地球で反帝国軍の革命を起こした人たちがな、ガンダムの設計図を見たときに帝国軍に渡してはならないと思ったと同時に、それを帝国軍への反撃のチャンスとみたんだ。だが、まさかこんなことになろうとはな・・・」
これをいい終えた後デビッドはアプフィルから目線をそらし数日前に爆発が起きていた方向に目をやった。
「連邦軍はどうしたの?彼らは助けにこなかったの?」
「ああ、来たさ。連邦軍も帝国軍をつぶす二度とないかもしれないチャンを逃したくなかったからな。だが遅かったのさ。無事に脱出していればいいのだがな。」
この話をしている間もデビッドは決してその方角から目を離さなかった。
「あんたには悪いが、雨がやんだら俺はあいつらの基地に向かう。そうだ、あんた名前はなんていうんだ?」
「私はアプフィルというの。分かっているわ、あなたにはまだ希望があるのね。」
この言葉にデビッドは眉毛を片方あげた。
「アプフィル・・・リンゴ?面白い名前だな。アプフィルには希望はないのか?」
しかしアプフィルは答えなかった。彼女はただ目線をそらしていた。その質問に答えるつもりはなかった。
「そうか・・・。まぁいいさ、雨はまだ少し降ってるが、俺はもう行くぜ。生きていたらその時は恩を返すぜ。それと、あまり思い詰めるんじゃねえぜ。じゃあな。」
そう言ってデビッドは森の中に消えていった。アプフィルには何となく、彼が約束を果たすまで生きているとは思えなかった。だが消え行く彼はアプフィルにない物があった。アプフィルはそれを少しうらやましく思い、彼がせめて目的を果たせなくとも、生き残れるようにと、思った。
このとき、彼女は感じたことのない感情を感じる。寂しさに似るその感情は孤独感であった。
第5話
ずっと探していたのかもしれない。すがる何かを。見落としていたのかもしれない。もっと大切な何かを。逃してしまったのかもしれない。人としての自分を。
デビットがいってからかなり長い時間が経っていた。
あの人はどうなったのだろうか・・・。数日前にみた宇宙に打ち上げられていた宇宙船たちはいったいどんな意味があったのだろうか。死んでいなければいいが。
そんなことを考えながらアプフィルは赤い果実にかぶりつく。地球に落ちてから肉は口にしていなかった。経験を通して野菜、茸、そして果実など、食べられる物と食べられない物を覚えたがやはり何か足りない感じがしていた。長い間人間がいなかった地球は食物であふれていた。だがアプフィルは狩りや釣りをする知恵も力もなかった。生きることに問題があった訳ではなかったが、彼女は帝国軍の基地に人が残っているかどうか確かめにいった。しかし、彼女は細心の注意を払っていった。彼女は泥や植物の根っこなどを使って体に植物や木の枝などをつけ、保護色のメイクをしていた。
基地は物静かだった。人間どころか、ほかの生き物が近くにいる気配すらしなかった。だが彼女は警戒を怠らなかった。地面をはうようにしゃがみゆっくりと森から出てきた。相変わらず人の気配はなかった。彼女はゆっくりと一番近くにある倉庫に向かった。
倉庫の門はがら空きにされており中をみることができた。倉庫はMSを保管するための物らしくはしごや階段がたくさんあった。しかし、肝心のMSは一つもなかった。逆に言えば倉庫ははしごと階段以外はほぼ完全にからであった。そのままアプフィルは基地の施設をすべて調べた。MS、戦艦などはもちろん、資料や食物など、ほとんど残っていなかった。
そしてアプフィルはある研究施設を見つける。そこにあった物の数々は見覚えのある物であった。テストチューブで育つ、人の形をする人ならざるもの。無論、彼らを一つも見かけることはできなかったが、施設の故意的な破壊があった。死体はないが地面についている血は黒く変色して固まっていた。アプフィルの顔色は何一つ変わらなかった。だが彼女の内側は様々な感情であふれて、はちきれそうだった。その施設は彼女の誕生の理由を物語っていた。彼らは悪魔のような実験を地球でも行っていた。そう、神になろうとする彼らは悪魔そのものであったのかもしれない。
どうしようもない怒りを感じていた彼女は近くの机の上にある一冊のノートに気づく。なぜそこにおいてあるのか?忘れ物なのか?いらなくなった物だったのか?それを知る方法はもちろんない。だがアプフィルは中をのぞかずにはいられなかった。ノートに近づくと彼女はそのノートの上に手紙のような封筒が一緒に置いてることに気づく。中をあけて読んでみるとそこにはこう書かれてあった。
"これを誰かが読んでいるということはつまり、帝国軍が敗北し、連邦軍が我らの研究に興味を持っているということだ。それはつまり、その研究の指導をしていた私の死を意味する訳だが、この際、そんなことはどうでもいい。大切なのは研究の完成である。人類は進化をするのだ。次に進む力を持っている。私はそれをこのノートに記す。そして我が息子アダムよ、まだ生きているのなら見せてやるがいい。お前が持つ可能性と力を。私にはもはやお前しかいない。"
手紙はそこで終わっていた。そこには筆者の名前などはいっさいなかった。だがアプフィルには誰が書いた物なのかはだいたい検討がついていた。自分を作ったくそ野郎どものうちで殺しそこねたのは限られているからだ。
アプフィルはファイルをあける。そこにはアプフィルの理解を超えた研究による発見や、実験の結果などが記されていた。遺伝子の仕組みの解明、ほかの生き物から遺伝子をとることではなく、遺伝子そのものを作り替えることで意のままの人間を作ることができると書かれており、その方法まで記されていた。それをみるアプフィルは意外にも冷静であった。そして後方のページまで進むと実験の結果が記されていた。
"第一の実験、人の形にはほど遠い形で成長が進み、一週間もたたないうちに死滅。第二の実験、成長を早めるために施しをした事があだになり、肉体が退化した状態のまま成長、一ヶ月以内に心臓の筋肉が体の成長についていけず、死亡。"
その後にも延々とかかれていた。そして、第二十六の実験の報告に最初には結果の写真があった。そこにはアプフィルの写真があった。そこにこうかかれてあった。
"第十六の実験の結果は成功と言えた。初の人が作った人間が完成した。遺伝子操作の副作用により髪の毛は赤く、精神状態に異常がみれるが、学習能力や身体能力は予想以上に高いと言える。だが精神状態の異常により第一研究施設の暴走事件を起こし、新型MSバルキリーを奪って逃走。彼女の育成に関わった研究員によりアプフィルと命名される。"
さらに次の実験結果にはこうかかれていた。
"第十七の実験の結果は成功だった。外見的に異常は全くなく、アプフィルを上回る学習能力と身体能力を見せる。精神状態の異常はあるが、前回の失敗を繰り返さないように精神安定剤を使用する事で暴走を防いだ。MSにのせても暴走しなかった。さらに初の実践テストでは見事敵のMSを4機も撃破する。そのまま、第十六前線部隊に所属させたところ、驚異的な戦果をあげる。しかし、精神の異常は悪化し、様々な症状が彼の所属していた戦艦の艦長から報告があった。その艦長は彼をアダムと命名していた。"
さらにはそこにはアダムの写真があった。長く黒い紙にぱっとしない目つきだったが、どこか強い魅力を感じさせる人物であった。そのどちらかというと報告書に近い日記はそこで終わっていた。しかし日付から察するとアダムはアプフィルがバルキリーを奪って逃げたあの日から三週間もたたないうちにアダムは初の実践テストを行っていた。ならば間違いないとアプフィルは思った。あの日見かけたあの部屋の中で研究員たちに囲まれて巨大なガラスチューブの中に入っていた男はこの男だ。
アプフィルはこのファイルと研究施設が地球にあることからアダムがここにいたことを理解した。ファイルには明白にされてないが。
アプフィルはしばらく基地を探検し、細かく調べた。次第に暗くなっていったため、ためしに電力発電所がまだ作動するかどうか調べたところ、正しく動くことがわかり電気をつけた。しかもなんと、電気がつくと水も流れることがわかった。それからしばらくアプフィルは基地を住みかとし残ってるパソコンや資料を読み上げた。彼女のモビルスーツや兵器類などに関する知識が増え、森の中で生きていたときより快適に生活できた。
第6話
紅は血の色。血が暗示しものは生贄であり、自己犠牲である。純粋な流血は無益な争いによってもたらされ、汚された血球は正義の生贄である。紅は意味のある死を意味する色である。
数日後のことだった。アプフィルは空から戦艦が地球に降りてくるのを見た。その戦艦には宇宙連邦軍のロゴがついていた。アプフィルは宇宙連邦軍をあまり知らなかったが、帝国軍の敵というだけで信用する気にもならなかった。しかもたったの一隻で降りてくるのは明らかに不自然であった。その上、その戦艦はファイルと手紙が置いてあった研究所の近くに下りていた。アプフィルは事前に基地で見つけた拳銃を持ち、保護色メイクを施し、様子を見に行った。
アプフィルは彼らの結構近くまで来ていたが、戦艦から降りてきた人たちは彼女に気づかなかった。降りてきた人たちは基本的にライフル類の武装をした兵士と見覚えのある科学者たちだった。10数人降りた後、最後に三人の人間が戦艦から降りる。その三人は横に並んでおり、真ん中の人間は手錠がかけられていた。彼の右と左にいる二人は片手にライフル、もう片手を使って彼の腕をつかんでいた。真ん中にいた人は体の至る所に包帯をしており、歩き方もどこかぎこちなかった。
そして、アプフィルはついに、その囚人の顔を見る。長く黒い髪、女性に近い顔立ち、そして漆黒の瞳。彼こそがアダムであった。どこか人間らしさすら欠けるような顔は見間違えようがなかった。彼が、つかまった状態でここに来ていることは二つの意味があった。ひとつは帝国軍が敗北したこと、もうひとつはあの地獄の研究がまた始まるということであった。そしてアプフィルの生きる意味があるとしたなら、それをとめることにあった。
戦艦は降ろす人を全員降ろすとすぐに戦艦は基地にあったランチャーパッドに取り付け宇宙に戻った。何をそんなに急いで宇宙に戻らなければいけないのかはアプフィルには理解できなかったが、彼女にとっては都合のいい事態だった。そして、その戦艦が見えなくなることを機会に、アプフィルは行動に出た。
ちょうどアダムとアダムを連れている二人が通り過ぎた後だった。アプフィルは拳銃でアダムの横にいた二人三発使ってを不意に撃ち殺した。アダムをおよそ反射的に地面に落ちた兵士からライフルを拾った。それを構え、前に立っていた兵士に向けたころには彼らもまたアダムとアプフィルのほうに銃を向けていた。しかし、見覚えのないアプフィルの登場と、突然の事態にまだ頭が追いつけず、アダムとアプフィルのほうが一瞬早く彼ら三人を撃ち殺す。倒れ行く敵の姿は死の実感を思わせる。周りに敵がいないか確認してからアダムはアプフィルに近寄る。
「ありがとう。何者かはわからないが、助かったよ。」
しかし、ここでアプフィルに異変があった。彼女はなんと、涙を流していた。
「・・・大丈夫か?」
しかし、彼女は静かに顔を上げ、答える。
「・・・始めまして。あなたは、私の弟ね」
よく見ると、拳銃を握る彼女の両手は震えていた。
そのとき、アダムは彼女の言葉を理解していなかったし、なぜ震えているのかも理解できなかった、だが彼は自分の恩人を安心させたかった。
「大丈夫だ。俺は敵じゃない、だから大丈夫だ。ほら、泣くんじゃない、まだ敵はいるのだから。」
すると、彼女はゆっくり泣くのをやめた。そして震えも止まるとただアダムについていった。敵も銃声に気づき、警戒していた。アダムはすばやく死体から手錠の鍵を取り上げ、自分の手錠を外した。
「敵は残り9人ぐらいだな。おそらく外に3人、研究室に残りって所だな。」
アダムが言ったとおり、外には三人の兵士がいた。彼らは辺りを見回すように慎重に離れないように行動していた。だが慎重さの中にも手慣れがあり、スムーズに行動していた。こっちには気づいていなかったが、コンテナの後ろに体を隠していた。
「よし、後ろから回り込もう。ほら、ライフルをとって。」
それを聞くとアプフィルは拳銃をポケットに戻し、したいからライフルを取ってアダムについていった。アダムとアプフィルは研究施設と向かい側にある建物の周りを回っていた。そこを回るとコンテナの左側から右側に移れるので、相手に気づかれずに銃声のしたところから離れられた。見知らぬ施設でのこの戦いは両者に影響があったが敵は訓練された兵士、戦いが簡単に終わるはずもない。しばらくはにらみ合いのような沈黙が続いた。互いに敵の居場所も人数もよくわからない状態であった。しかし敵に見つからないためと、敵が物音を立てたときに居場所がわかりたいためであった。
そしてアプフィルにはアダムが考えていることがわかった。アダムはコンテナの後ろに回りこみ、一か八かの賭けに出るつもりだった。しかし、アプフィルにはなぜか、彼にそんなことをさせてはならない気がした。アプフィルは敵にばれてしまうという危険を承知で提案した。
「私に考えがあるわ・・・」
そのころ、三人の兵士は・・・
「さっきからずっと静かだな」
「しっ!ばか、ばれるだろ!」
話し合っていたのはコンテナの内側にいた二人であった。その二人に対してコンテナの端で周りの様子を見回していた。
「大体お前はなー」
「さっきの場所にはもういないな・・・」
様子見をしていた男が口を開く。
「え?」
もう一人の男に大して怒っていた男が割り込んで彼が言ったことに疑問を持つ」
「どういうことだ?」
かれはまじめな顔をして彼に聞く
「どうやら見ていない間に移動したようだ」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
コンテナの端から顔だけだしていた男が、自分の体を出して隣にしゃがんでいた男が見えるようにした後、アダムとアプフィルがもともといた辺りに指を指した。
「さっきまであそこに影が見えたが今はないからだ、問題は何処に行ったかだな。」
隊長格であった彼がそれを聞くと顔が青ざめた。
「・・・ここにいるのはまずいな、ほかのものと合流して研究員たちを守ろう。」
ほかの二人がそれ聞いて「了解」と答えた後ほかの人たちがいた研究施設に戻った。しかし、そこに待ち受けていたものは彼らが期待したものではなかった。施設は彼らに見える距離にあったが警戒して向かう距離としては結構あった。だが彼らは施設との距離が半分ぐらいになったとき、銃声と悲鳴を耳にする。
彼らは警戒を解き一目散に施設に向かった。たどり着いた彼らを待っていたのは不自然に暗い部屋であった。シャッターは下ろされ、窓からの光がなく部屋の中を見せていた光は彼がそこに入るために開けたドアから入っていたわずかなものだった。
「どうした?みんな大丈夫か?」
明らかに普通じゃない状況を見た三人は警戒しながらも部屋に入っていく。隊長格の兵士は自分の歩く音が水溜りを踏むときのようにぴちゃぴちゃという音を出していることに気づいた。彼はその液体がなんなのかを調べるためにしゃがんだその瞬間三発のすばやい銃声の後に明かりがつき、彼はようやく状況を把握した。だが、時すでに遅し、そこにあったのはすでに死んでいる仲間全員の姿と自分の頭に向けられるひとつの拳銃とひとつのライフルだった。
「さすが、といっておくべきか。連れて来た仲間が悲鳴も上げずに死んでしまったな。」
そういいながらついてきた二人の頭に穴が開いていることを確認する。アダムが彼に話しかける。
「おかしい、三発撃ったのに一人外したのかな。偶然か?」
兵士は立ち上がった。
「あいにく、幸運だけがとりえでね。いや、不運かな。前もって言っとくが、拷問するつもりなら無駄だぜ、俺は詳しいことは知らない。お前が変な気を起こさないようしろといわれただけだからな。」
「本当にそう思うのならば、銃を捨ててくれるかしら。」
今まで黙っていたアプフィルが口を開く。
「ああ、もちろん」
そういうと彼はライフルを始め、ハンドガンやナイフ、グレネードまでもを取り出し投げ始めた。武器をすべて捨てた後両手を空に挙げ、抵抗する気がないことをはっきりさせた。しかしその態度には恐怖や不安といったものが一切なかったように見えた。その態度が信用できなかったアダムは自分についていた手錠を取り出し彼につけた、彼の態度が変わったわけではないが。
「俺は捕虜ってわけか?」
アダムはまだこれからどうするかを考えていたが質問が簡単に彼の考えをとめてしまった。
「わからない、だが今は着けておく」
その質問に答えた後、この男をどうするかを考えた。だがアプフィルはすでに答えを持っていた。
「この人に手錠をかける必要はないわ。」
アダムはこれをまったく理解できなかった。
「・・・どういうことだ?」
「さぁ、うまく説明できないわ。でもこの人の態度は自信から来るものではないわ。なんとなくだけど、彼は私たちに対して敵意があるとは思えない。」
アプフィル自身、自分でなぜそう思ったのかはわからなかった。
「本気なのか?」
「彼はただの兵士よ、上からの命令で動いてるに過ぎない。彼がその気なら、仲間にだってなりうると思うわ。」
「そうは言ってもな。信用できるものか」
そのまましばらく二人はその男を見つめた。男は思わず息を呑んだが彼は自分に戦意は無いという事を伝えようとした。
「命をとらないんなら、何でも言うこと聞くぜ。」
「勘違いしないで、あなたを脅そうとしているのではないの」
「まて、アプフィル。甘い、甘すぎる。連邦軍が俺をほしがってる限りは信用できる人間などいない。仮に今言うことを聞いても、いつ裏切るかなんてわからないぞ。」
「だから、信用できるとかできないとか私はそういうことを言ってるのではないの、無駄に彼を殺す必要は無いと言っているだけ。実際彼は武器を捨てたわ、このまま見逃して何の害があるというの?それに外の森は危険がいっぱいよ、私たちはともかくとしても、彼一人だったら私たちについてこない限りあまり長く持つとは思えないわ。脅して奴隷にする必要などどこにも無いの。」
「だからこそだアプフィル、こいつに自由を与えたらそれこそ何をしでかすかわからないんだ。」
「それは違うわ、彼は私たちを殺したりでもしたらこの星で生き残れないわ。私たちを殺すことは自殺行為なの。だから信用できるとか、できないとかの問題ではないのよ。彼の立場になってみて、次にいつ仲間が来るかもわからないこの星に彼は自ら自分を孤立させるようなことをするかしら?」
「・・・」
アダムは不満そうにアプフィルを見つめるが、妙に説得力のある彼女に意見に賛成することにした。
「お前にあるのはどうやら幸運のようだな。せめて名前を聞こうか。」
ルークは彼に突きつけている銃をそのままにした常態で手錠を外し始めた。
「セスだ。よろしくな。」
手錠を外した後も彼は決して変な行動を取らなかった。
「ところで、勘違いしてるようだから言っとくが、次に仲間がいつ戻ってくるかぐらいかはわかっている。おそらく一ヶ月もしないうちにこのことを何も知らない人たちがこの星に住むために移住し始める。これは極秘のオペレーションだったからな、詳細を知っているものは少ないし、上の方は公にするつもりは無いだろう。ここにい人が住み始めたら、彼らにまぎれていればとりあえず怪しまれることは無いだろ。」
このときアプフィルとアダムはお互い驚いた顔で見合った。
「その考えには賛成だわ。あなたたちは一ヶ月間は持つ様に食べ物とかもちゃんと持ってきたのでしょう?この基地で彼らが来るまで待ちましょう。」
しかし、アダムはやはりどこか不満そうだった。
「・・・そうだな。」
そしてこの時点から三人はしばらくともに運命を歩むこととなった。戦争が終わったばかりの世にまた新しい争いの種の存在を知りながら。














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