「よっしゃー!ようやくこの時が!」
僕は箱の入った紙袋を抱えて家へ走って行った。
僕の家は小さなマンションで少し住民が変わっている。
全員【超】がつくほどのオタクなのだ。
まあ僕もその一人で、学校にも行かず、日々フィギアを買うため仕事をしている。
仕事と行ってもネットで依頼されたコスチュームを作るというものなのでほとんど家にこもっているのだが。
商品の値段は材料によって決まり、フリルが沢山ついたメイド服なんかはたまに2万円をこす。
今日も依頼が沢山入っており、部屋には作りかけの衣装が置いてあった。
しかし、今回は材料を買ってきたのではない。
材料を買ってきた時もまああんな感じでうきうきしているが。
早速ノートパソコンに電源をつけ、起動する間に紙袋から箱を取り出す。
パッケージには髪が肩につく程度にカットされた青髪に緑眼で、水色メイド服の少女の絵が描いてあった。
そのメイドの絵の上には上には、
「メイドぷろぐらむ」とポップ調で書かれてある。
名前は自分でつけるらしく、名前は無い。
簡単に言うと、これはパソコンの画面上で話したり活動したりする暇潰しのシステムみたいなものである。
しかしこの作品は何故か30個限定という超レアモノで3年探してこの在庫を見つけたのだ。
その分値段もかなり高く50万した。
僕は食費を削って金が集め、今日やっと買えたのだ。
先ほどから不気味と言って良い笑いをしながらパッケージを見ている。
パッケージからパソコンに視線を移すと既に立ち上がっていた。
僕は早速ノートパソコンにその
「メイドぷろぐらむ」をインストールするべくCDを入れ自動再生されるのを待った。
すると画面上に
「インストール」と写しだされ、インストールが始まる。
既に息は荒く、画面に顔を近付けた。
しかしインストール時間がやたら長い。
しかしあと10分の辛抱である。
《10分経過》
用がすんだCDはかしゃんと音を立て、パソコンの右側から出てくる。
僕はそのCDを取りだし、読み込む面を上にして机に置く。
いちいちしまう暇など僕なかった。
素早く画面左下の
「スタート」を押し、
「すべてのプログラム」と書いてある所にカーソルを合わせる。
すると数十個の項目がずらりと並び、項目の1番端に
「メイド」とオレンジの枠で囲ってあるところがあった。
これが先ほどインストールしたもの。
マウスでダブルクリックすると、項目はしまわれ、画面がピンク色に変わって「メイドぷろぐらむ」と青い字で出てきた。
更にその字の後ろに、パッケージの絵が出る。
何回見ても萌えるその絵にちょっと見とれてしまった。
しばらくすると、「はじめる」とひらがなで出てきたため、そのボタンを押した。
「この度はメイドシステムをご購入頂き、誠にありがとうございます――」
ネレーター衣装の女の人の立ち絵が現れ、挨拶から「メイドぷろぐらむ」の話をし始めた。
その声もかなりのアニメ声で夢中になって聞いていると、新しい画面に切り替わる。
「私がご主人様のお世話をさせて頂きます。名前を決めてくださいませ。」
パッケージの子の立ち絵だ。
声も想像通りでかなり可愛い。
て、そうだ。名前決めんのか・・・。
ネーミングセンス無いんだよ・・・。
なんかアニメみたいな名前にしたいと辺りを見回す。
しかし少しも決まらず頭を抱えている僕を、そのメイドは瞬きをしながら見ていた。
もうここは適当で!
僕は普通の女の人の名前を思い浮かべ、当て字にした。
「あかつき みな」・・・にしよう・・・。
当て字はっと・・・。
僕はポケットから携帯を取り出す。携帯ではパソコンでは無い当て字をするのだ。
あかは緋で・・・つきは坏。みなは、もう少し可愛く「みなな」にしてひらがな。
よし。
「緋坏みなな」に決定!
「決定を」押すと
「素敵な名前をありがとうございます」と「みなな」は微笑んで見せる。
「では、この画面を消してもう一度起動してみてくださいませ。」みななは一礼すると歩き去ってしまった。
僕はみななのいなくなった画面を消し、もう一度起動させる。
今度は画面はそのままで、みなながデスクトップを優雅に歩いて登場した。
僕は付属のマイクを襟につける。
「君がみなな?よろしくね」
そう言うと、みななは
「こちらこそお願いしますね」と笑顔を見せた。
人の言葉はきっと発音で理解しているのだろう。しかしとても凄い技術だ。
それに動きも何というかやたらにリアル。
しかし分からない言葉もある筈だと少し意地悪な言葉を言ってみた。
「みなな、お茶を持ってきて。」
みななは
「はい!」と大きく返事をして画面から消える。
…まさか、分かった?
数秒するとみななは紅茶を運んで来た。
コマンドがやたら多いぞこのソフト…
…あ、こう言う事はできない筈だ。
「みなな、インターネット開いてくれないかな?」
みななはまた大きく返事をすると、インターネットのアイコンに手を当て、ぱこぱこ叩いた。
するとアイコンは真ん中にへこみ、インターネットが開く。
どうやら起動させる事も分かるらしい。
パソコンの使用状況、インターネットの接続状況について聞いて見たが、音声&グラフ付きで簡潔に答えてくれた。
もうその手の問題も思い付かなくなり、僕が無言になると、みななは眉を八の字に曲げる。
「ご主人様?紅茶はお好きではありませんか?」
「え?」
心配そうなその声に少し戸惑った。
「一度画面を倒してみて下さい。」
僕は何が起きるか分からず警戒しながらパソコンの画面を倒す。
するとそこには、みなながさっき運んで来た紅茶が湯気をたてていた。
「う、うわああああ!!」
僕は椅子ごと後ろにひっくり返る。
なぜ現実にあるんだ!?
僕は恐怖に似た感情を隠せずにはいられなかった。
「大丈夫ですか!?」
パソコンからみななの声がする。
「この紅茶は……?」
「ご主人様が頼んだので…。」
僕は気を落ち着けるように2、3度深呼吸をした。
それから椅子を直し、座ってから画面を上げる。
「どうぞ。お召し上がりくださいませ。」
「その前に一つ。」
僕は紅茶に手を伸ばして言う。
「何で紅茶を出せたんだ?」
みななはこほんと咳払いをする。
「私達、【メイドぷろぐらむ】の正式名称は、【Un programme informatique vivre《生きるコンピュータープログラム》】と言います。つまり私達は、最先端の技術で作り出された現実に存在し、感情を持ち、自分の力で話したり動いたりする生物なのです。…しかし、私は少し特殊らしく、PCの中でのみ作りだされる物を現実に生み出すことが出来るようです。」
にこにこと微笑む彼女は語り終えると鼻唄を歌いだす。
上手いとは言えないが何だか愛らしい。
「みなな、それならこちらに出ることも出来るよね?」
「え、あ、はい…つまりそうなりますね。」
みななは少し戸惑い気味に言った。
「なら、握手しない?手出して。」
みななは頷くと恐る恐る小さな手をこちらに差し出す。
その手は、予想通り画面を突き抜け、手だけ立体になる。
僕も恐る恐る人指し指を差し出し、第一関節をやっと握れるほどのその手に当てた。
そのみななの手は体温があった。
その時、僕の脳に一つの考えが浮かぶ。
【もしかして外に出せるんじゃないか】
僕はその手を優しく親指で押さえ、ぐっとこちらに引き寄せた。
「んにゃ!な、ご主人様!」
案の定、体がにゅっと画面から引き出され、キーボードの上に落ちる。
「うにぃー…痛た…て、ん?」
小さなその頭は僕の顔を見上げる。
みななはたばこの箱くらいの大きさで、多分五頭身。
「ひゃっ!」
みななは小さな悲鳴を上げる。
まあそちらからしてみれば僕は巨人だもんな。無理は無い。
「ご主人様…あの、これは…?」
「みななが聞いてどうするんだ。ちょっと待ってて。」
僕は本棚の上の段ボールを取りだし、中の部品をベッドの上に出した。
それは、いつだか昔買った人形の家で、小さな家具がたくさん入っている。
家具を全て出すと、家を組み立てた。
みななに丁度良い大きさで、家具を一つずつ置く。
みななは自分の家に目を輝かせて見ていた。
家具はなんだか高級そうなデザイン。
すると、あるものが目に留まる。
「みななって風呂入るのか?」それは浴槽だった。
「ええ、あ、是非お願いします。」
その家はドアなどは存在せず、隠すことはできない。
そこで浴室は布をセロハンテープでつけて隠した。
そして三分経つと立派な家が完成。
さすがにマイホームに住むとメイドでも何でも無いな。
みななは早速家に入った。
ベッドで跳ねたり、浴槽を見たりしているみななに僕は話かける。
「みなな」
水色メイドはこちらを見て首をかしげた。
「思ったんだけどさ、マイホームに住んだらメイドじゃないだろ。」
みななは嬉しそうな顔から一変し、もの凄い形相になった。
「そ、そうでした…しかしこの様な小さな体では、家事をすることさえ出来ません…メイドじゃないですね…。」
落ち込みすぎなみななに
「いや、僕と話してくれれば十分だから」と慰めた。
「それだけでいいのですか?このカップに紅茶をいれる事なら出来ますよ?」
みななは1cmほどのカップを差し出す。
「お湯はどうやって沸かすんだ?」
みななは小さな台所に入ると、やかんを取り出した。
「何でできてんの?そのやかん…」
みななは首を傾げて、
「そりゃ鉄ですよぅ」と当たり前のように言った。
無駄に細かいな…。
「それじゃあ火は起きるの?」
みななは再び台所に入り、がちゃがちゃやっている。
「火を起こすというよりガラスの上が加熱され、その熱で料理するようです。」
結構最新型キッチンである。
いや、でも加熱されないと意味が無いじゃないか。
「加熱されないだろ?」
「電池式です。」
おい。細かすぎだ。
ていうか子供のおもちゃなのに火とか使うな。
「しかし電池がありませんよ。」
みななはまた何かごちゃごちゃやっている。
台所で見えないが、恐らく電池を入れるところをいじっているらしい。
「あ、待て待て。電池ならこのプラモに…」
ロボットのプラモ(60分の1)の背中の蓋をあける。
単三の電池が二本横に並んでいた。
「電池って単三かー?」
電池を取り出しながら相変わらずごちゃごちゃやっているみななに話しかける。
「いいえ、単五です。」
**********
みななの突然の要求に寒い中買い出しに行った僕。
な の だ が
こういう時に限って単五は売り切れ。皆何に使ってんだ。
別に単三みたいにたくさん使う場面無いだろ。
「だ、誰か手伝ってくれないものかのう…」
歩道橋を渡ろうとした時、背後からおじいさんのような声がした。
見ると、やはり声通りの仙人みたいな、顎に白い見事な髭を生やした老人がいる。
老人の設定ベタすぎんだろ!
しかも重そうな荷物をしょっている。
作者てめーベタ過ぎんだよ!
「コメディとは言え作者を出すのはタブーじゃよ。」
突然老人が話しかけてきた。
心読むんじゃねえよ!てか
「じゃよ」とかベタにも程があるぞ!
「ワシは電池の神でな…。この荷物をもってくれると単五電池が貰える。」
正体ばらすの早すぎだぼけぇ!しかも展開言うな!電池の神って何だよ!最新型神まで誕生か!?ていうか単五電池とかもっと別の人間だったら
「あ、要らないです」とかスルーされるわ!
思わず連続突っ込みをしてしまう。
みななが来て初めて気が付いた。
僕って突っ込みキャラなのか…。
でも今の俺には単五は必要じゃないか!さっさとじいさん助けて貰うとしよう。
「ふぅ。じゃあ持ちますよ。」
僕はその荷物を持つ。
すると、持った荷物が地面に吸い付くように下がる。
これ重すぎ!
またまた突っ込んでいるとじいさんは口裂け女のような速さで歩道橋を渡る。
「てめーは一生単五電池と生きてろ!」
ぺっと唾を吐くとじいさんは走り去った。
「あんのじじいてめぇぇぇ!」
やばい。突っ込み疲れてるのに怒鳴ったらさらに疲れた…。
僕は仕方なく無言でじじ…じいじを呪いながら一生分の単五電池を抱え歩き出した。
***********
「ご苦労様で…て、なんて量ですかそれ!」
みななは一生分の単五電池に目を丸くしていた。
「えーと…単五電池はいくつ必要なんだ?」
額の汗を拭いながら僕は言った。
「ご主人様が買い出しに行ってる最中火力を強めるために改良しましたから…5本ですね。」
意外と器用だな…さすがPCプログラム。機械についてはお任せか。
しかし僕はある事に気が付く。
あの店には単五電池の
「三本セット」しか置いてなかったのだ。
もし売り切れてなかったら僕は家と店を往復する事になった訳で。
じいじに感謝した。
電池を入れると、みななは火(?)をつけて僕に水を取ってきてくれとせがんだ。
コップに水を汲むと。みななは小さなカップで水をちびちびくみ、やかんの中に入れた。
それからメイド服のポケットから小さなティーバックを出し、食器棚からカップと同じ白に金の装飾が施された急須を出す。
慣れた手付きでティーバックを急須に入れ、丁度沸いたお湯をティーバックの入った急須に注いだ。
「ご主人様も飲みますよね?」
この小さなカップでか?
まあここはみななの気持ちを考えて肯定的返事をしよう。
「うん。お願い。」
そう言うとみななは嬉しそうに食器棚から同じカップを出して、僕のコップに入っている水で綺麗に洗う。
当然この小さな家は水道には繋がってないため、水は出ない。
みななは出来上がった紅茶をカップに注いで、まず僕に渡してから自分のをテーブルに置いて椅子に座る。
それから紅茶をすすり出した。
何とも可愛い仕草だ。
PCプログラムだと言う事をつい忘れてしまう。
僕も手渡された紅茶を一気に飲んだ。
一気に飲んだというか滴のような量なのでそれしか出来ない。
だが美味しいのは分かる。
「あ、飲み終わりましたらここに置いてくださいませ。」
みななはぽんぽんと自分が紅茶を置いているテーブルを叩く。
僕は言われた通りにカップを置く。
その時、作りかけのメイド服が目についた。
「あ、やばいやばい。忘れてた!」
僕は慌ててメイド服を手にとり、ベッドに戻る。
「何ですか?それ?」
みななは紅茶を飲み終えたらしく、二人分のカップを洗いながら尋ねてきた。
「ん?僕の仕事だよ。みななもこれで買ったんだ。」
「素敵なお仕事ですね!」
みななの言葉に息が詰まる。
依頼品を渡してお礼を言われた事はあるが、誉められた事は無かったからだ。
「依頼品、出来たらみななのメイド服も作ってあげるよ。」
そう言うとみななは目を一層輝かせ、喜びのあまり洗っていた食器を落とす。
その食器はコップの奥深くに沈み、みななは手を一生懸命伸ばして取ろうとしていた。
「あーあ。ちょっと待って。僕が取るよ。」
みななは手を離し、僕に任せた。
「あ、これ?」
僕は指に乗せたカップをみななに差し出す。
みななは頭を下げてお礼を言った。
***********
しばらくしてから、ようやくメイド服の本体が出来た。
後はエプロンを作るだけである。
とは言ってもエプロンなんて慣れると5分程で作りあげられるのだが。
「出来た!!」
出来上がったメイド服を掲げる。
ふかふかとしたベッドに昼寝していた(本当にメイドなのか?)みななは驚いて跳ね起きる。
「お、悪い。起こしちゃったか?」
「いえ…あ、完成したんですか!?」
みななは目を輝かせていた。
「でもまだあるんだよな…」
ため息をつくと、「ファイトですご主人様!」と隣から聞こえた。
もう疲れなんてどうでも良くなってくる可愛らしさ。
「まあ僕は疲れたし一眠りするよ。みななおやすみ。」
「おやすみなさいませご主人様。」
こうして、僕とみななの奇妙な生活は始まったのだった。
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