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イカスミパスタ

作者: TEN

その親子は、俺がサイゼリアのバイトを始めてから間もなくの頃にやって来た。

ここはファミレス。家族で来店する客なんて至極ありふれた存在。

しかしこの親子、とにかく異様で目を引いた。


くたびれた感じの母親に連れられた息子とおぼしき人物は、色白でぽっちゃり。

やたらに肌は綺麗なのだが、よく見るとそれなりに老け込んでいる。


年齢不詳というか、いや、明らかに“おじさん”と呼ばれて然るべき年齢なのだが、締まりのない顔付きのせいだろうか?とても幼く見える。


そんな少し不気味な風体のいい年した男と母親が頻繁にやって来るものだから、店員や常連客の間では少し有名だった。


彼らは決まった曜日、夜の七時過ぎに登場し、毎回同じものを注文する。


息子がミラノ風ドリアとイカスミパスタ。

母親がミラノ風ドリアのみ。


息子は、ただでさえ緩んだ表情を薄気味悪く破顔させ俺に言う。

「いつもの、ちょうだい!」


その物言いに俺は言い知れぬ苛立ちを覚えながらも、

「イカスミパスタお一つ、ミラノ風ドリアお二つですね。かしこまりました」

と、普段通り対応。

それを見て息子は、とても満足気なニンマリ顔を母親に向けた。


ある日、発注ミスでイカスミパスタを用意する事が出来ない事があった。

タイミング悪くやって来た息子にそれを伝えると、しょんぼりと首をもたげメニューを見直し、他のものを指差す。


俺は注文を取りバックヤードに戻る際、親子を見てヒソヒソ笑っていた中学生くらいの男性客三人が、何やら悪巧みを働いているらしい事に気付く。


親子はこのファミレスの名物だったので、面白がってからかう子供もいるのだ。


彼らは自分が食べ残したスパゲティになんと、ドリンクバーから持って来たコーヒーを盛大にぶっかけ真っ黒にし、母親がお手洗いでいない隙をついてそれを息子に持って行ったのである。


「ねぇ、イカスミパスタ好きなんでしょ?俺のやるよ。はい」

男子は悪戯っぽく笑いながら差し出す。


注意しなければならないと思ったが、息子がどういう反応を示すのか興味が湧いてしまい、黙って観察を続けた。


息子は一瞬戸惑いながらも受け取ってしまった。

男子はすぐ自分の席に戻り、俺同様に息子の行動を見守っている。


息子はキョロキョロとあたりを見回してから、そのコーヒーぶっかけスパゲティを…食べた。


彼は数口食べると異変に気付き、つるつるの顔をくしゃくしゃにして、

「わあ!わわわあ!にがーい!」

と、コーヒースパゲティを吐き出した。


男子達は大爆笑している。

母親は騒ぎを聞きつけたのか慌ててトイレから出てくるも、一瞬顔を歪ませ、醜態を晒す息子に冷ややかな眼差しを向けた。

が、すぐにハンカチを出して駆け寄る。


…俺はその日を境にバイトを辞めたので、今でもあの親子がイカスミパスタとドリアを食べに来ているかは分からない。

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― 新着の感想 ―
[一言] その後が妙に気になります。次回作読みたいです。
[良い点] とにかく登場人物の母子をバカにして笑いものにしようという意思が強く感じられます。文章もそれに徹底して余計な描写をがないことはある意味で評価できます。逆に言えばそれしかありません。 [気にな…
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