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異世界にて奏でる伝説 ~時を止める者~ 作者:英姿颯爽
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日常

 いきなりだが早乙女奏(さおとめかなで)はハイスペックだ。授業だけで試験の成績は常に上位、運動神経抜群、それに加えて本人に自覚はないがかなりの美形である。そんな奏にも欠点がある。それはまるで人形のように無表情であるというものだった。

 別にとある事件がきっかけで、その日を境に一切の感情が表に出なくなったとか、そういうシリアスな事情は全くない。まるで何かに呪われているかのように面白いと思っても笑えないし、どんなに悲しくても表情も崩れなければ涙も出ない。それに問題は表情だけではない。無表情に合わせて引きずられるように発せられる冷静な彼の口調が不気味さを一段と際立たせている。

 当の本人はあまり気にしていないようだが……

 そんな奏の頭の中は、本人だけにしか分からないが今日も絶好調。言い換えれば、かなり残念だった。

 奏がいつものように朝のホームルームが始まる5分前に教室に入ると、これまたいつものように男女それぞれ別種の視線を向けてくる。

 男子の視線で気づくのは嫉妬、羨望、時々恐れ。恐れはまだ分かるよ。近くに一切表情を変えない人がいたらかなり不気味だもんな。でも、嫉妬と羨望については理解できない。その黒い視線を向けるべき奴が他にいるだろと声を大にして言いたい。言えないけども。

 女子の視線で気づくのは……いや、これもまたよく分からない。男達の分かりやすい視線と違ってこのなんとも表現しづらい感じ。

 とりあえず、男女ともに言えることは「こっち見んな!」である。まぁ、実際は言わないけどな。なんで言わないかというと、コミュ障だからだよ。言わせないでくれ。一応、気にしているんだ。

 思い返すと俺の母さんも恐るべきポーカーフェイスの使い手だったな。俺は母さんに似たのかもしれない。でも、無表情や口調ってほとんど遺伝関係ないんじゃないか?あと、父親については顔も見たことがないので一切知らない。あまり興味もないが……。

 一度だけ、微笑んだ母さんを見たことあった。確かお小遣いを貯めて初めて誕生日プレゼントを渡した時だったな。あの顔は一生忘れないだろうな。その時母さんはこんなことを口にしていた。


「ごめんね。今は何も言えないの。だけどきっと私も奏も心の底から笑えるようになるからね。それまでは……」




 その一週間後に母さんは行方が分からなくなった。



 警察にも捜索願を出したが、結局何の手掛かりもなかった。どこに行ってしまったんだろう。あの母親のことだから生きてはいると思うが……。



 さてさて、話を戻そう。注目を浴びないためにもっと早く学校に行けばいいと考えたこともあったが、それが難しいからこの時間なわけで。その理由はただ単に朝が絶望的に弱いから。

 それもこれもあの憎たらしい祖父母のせいで俺の寝る時間が地味に削られてるからだ。夜中に酒飲んで暴れないでくれよ、頼むから。ご近所様に謝りに行くのはかなりストレスがたまるんだよ。

 この時間に来れるだけでもかなりがんばっていると俺は自賛したい。寝られる時間が増えるなら登校時注目されるぐらい楽なもんだ。


 祖父母について考えてたらなんかイライラしてきた。うん。あの人たちについては今日はもう考えないことにしよっと。



 ん~……というか教室に入っただけで注目されるっていうのがそもそもおかしいよなぁ。特に男たちの視線。別にお前らに何かした覚えは一切ないぞ。というのもほとんど関わっていないからな。この学校に入学してからもう半年近く経つのにね。あれ?女子ともほとんど話してないんじゃ……

 ぼっちとか言わないでくれ。悲しくなるから。一切、表情に出ないけどな!やっぱり俺との会話が致命的につまらないのだろうか。一度だけ沢木に「早乙女は話しかけづらい雰囲気がある」と言われたことがあるが、もうそれは俺ではどうしようもないので気にしないことにした。ちなみに正義感溢れるコイツとすらまだ数回しか話したことがない。俺は救済対象じゃないのかな?

 あっ、沢木っていうのはいじめなど卑怯なことが大嫌いなやたら正義感に溢れている茶髪で目鼻立ちがくっきりしている長身イケメンだ。クラスのリーダー的立ち位置だった気がする。名前は(れん)でクラスメートのからは普通に蓮だったり特に女子からは沢木くんとか呼ばれている。ちなみにけっこうモテているっぽい。


 モゲテシマエ!!


 いかんいかん。熱くなり過ぎたようだ。クールダウンしようか。



 ふぅ……



 もっとも奏自身も相当モテているのだが、自分では全く気付いていないというのが厄介極まりない。その他男子大勢が羨むのも当然である。



 沢木の傍にいつもいるのが前園哲(まえぞのてつ)島田春平(しまだしゅんぺい)の二人。前園はいかつくて、いかにも不良といった外見。なんでも沢木とは小学校からの親友らしい。羨ましいな。親友。俺もいつかはできるのだろうか。できると思う。いや、思いたい。

 小柄で童顔の島田の方は、沢木を見る目がキラキラしており、尊敬しているのが丸分かりだ。沢木の言うことは絶対という様子。いじめに合いそうなところを助けてもらってからそうなったらしい。もはや、尊敬を通り越して崇拝しているのかもしれない。

 沢木は、モテてるわりに以外にも取り巻きは男だけなので、腐女子がそれをエサにエンジョイしているという噂が流れている。



 さてと……



 教室のドアを開け、皆の視線に気づいて一瞬でここまで思考の渦にのまれたわけだがそろそろ席に着こうか。


 んっ?数秒、クラスのアイドル瀬川ちなつと目が合ったがすさまじい勢いで目をそらされた。地味にショックだな今の。表情には全く出ないけど。

 瀬川ちなつはいかにも大和撫子といった風貌で、艶やかな黒髪を腰のあたりまで伸ばしている。目は好奇心旺盛なわんこのようにクリッとしており、活発な印象を抱かせている。目が合った数秒間、女子の方から黄色い声が聞こえた気がしたが、まぁ十中八九、近くにいた沢木に対してだろうな。うん。


 そして男ども。なぜ俺を睨むんだ。意味が分からん。



 奏が席に着いて少し経ったところで本鈴が鳴り、先生が教室に入ってきていつも通りホームルームが始まった。



 さて、今日も頑張りますか。





  ~~~昼休み~~~


 私の名前は瀬川ちなつ。クラスの女の子からは、ちなっちゃんとかちなつと呼ばれてる。男の子からは瀬川さん呼びが多いのかな。突然だけどこの学校には、女の子たちに人気がある3人の男の子がいる。そのうち2人はうちのクラスなんだから驚きだよね。

 一人目は、一つ上の2年生で阿久津龍斗先輩。鷹のような鋭い目をしていて、髪をツンツンに逆立てているワイルドな人。仲が良いみたいでたまに前園くんに会いにくるので何回か話したことがある。見た目は怖いけど意外にノリの良い人で優しかったな~。あっ意外とかいってごめんなさい。私の分析によるとああいうギャップにときめく子が多いみたい。うちのクラスではちょっとネタも混じってワイルド先輩とか呼ばれている。本人も知ってるみたいで、その呼ばれ方がお気に入りらしい。ケンカも強くて中学生の頃、よく分からないけど不良さんたちの間で伝説になったんだって。やっぱりちょっと怖いかも……。

 二人目は、うちのクラスの沢木くん。頭も良いし、サッカー部で一年生なのにもうレギュラーなんだって。間違ってることや曲がったことが大嫌いでいじめとかも率先して止めさせようとする行動力がすごい人。だから男女問わず人気が高いんだよ。友達もたくさんいて毎日楽しそうにしてる。友達の琴美(ことみ)ちゃんが言ってたけど、なんだっけ?リア充とかいうのなんだって。うちのクラスにも沢木くんに好意を抱いてる子もいるし、他クラスにも多いみたい。沢木くんと一緒にいることが多い前園くんや島田くん、それにたまに来るワイルド先輩が一緒にいるところをみて真奈(まな)ちゃんがグヘヘ……と変な笑い方してるけど大丈夫かな?


 そしてそして三人目。沢木くんと同じでクラスメートの『人形王子』こと――










 奏くん!きゃ~~~!妄想の中で奏くんと目が合っちゃった!!もう恥ずかしすぎて爆発しそうだよー!なんであんなにかっこいいの?なんであんなにクールなの?なんであんなにミステリアスなの?謎だらけなのがまた素敵すぎるっ!でも、私は彼と一度も話したことがない……。そう、一度も……。ヘタレって言わないでぇ~~。話しかけようと毎日勇気を振り絞るけど、変に話しかけて嫌われたらどうしようと考えて踏み出せない。

 奏くんの笑った顔は誰も見たことがないと言われるほど、彼はいつも無表情なんだよ。最近では彼の笑顔を見た者は一生幸福が約束されるとかいう謎な噂が流れ始めてるし……。私は噂を流した人物に心当たりがあるけどねぇ。確かにもし私が彼の笑顔を見たら幸せすぎて気絶しちゃうかも。あっ想像したらよだれが……。


 あっ、私がこんなにもトリップしてるのはちゃんと理由があるんだよ。後から振り返れば今日は色んな意味で運命の日だったのかもしれない。

 というのも今日の朝いつものように奏くんのことをジッと見ていたら目が合ってしまったんだよ!数秒間頭の中が真っ白になり、恥ずかしすぎて自分でも驚くくらい素早く不自然に顔を背けてしまい、後から後悔……。


 
 この時、クラスの女子の大半が偶然ではあるがちなつと奏が見つめ合う瞬間を目撃しており、少しの間女子たちが色めき立つのだが見つめ合った本人たちがそれに気づく様子はない。もっとも、ちなつに至っては余裕がないというべきかもしれない。




 どどどどぉしよぉーー!!初めて目が合っちゃったぁ~!幸せすぎて鼻血が出そうだよ~!恋のキューピットがいっぱい見えるよっ!私に向けて矢を連射してくるよっ!これがお母さんがよく言ってる「惚れた弱み」ってやつなんだね!


 幸せを一人で受け止め切れなくなり今の出来事を琴美ちゃんに話してみた。


「えっ、……ち、ちなつって、さ、早乙女くんのことがすすす好きなんだっ!シラナカッタナー……(どうしよう私もなんて言いづらい)。」


 最後の方はよく聞こえなかったけど、明らかに動揺したなんともいえない反応をされた。むむむ……。こっ、これはもしかして恋のライバルというやつではっ!?もし琴美ちゃんがライバルだったら手強過ぎるよ!彼女は明るめの茶髪にツインテールで、身長155cmの私よりも低い140cm後半。少し攻撃的なつり目をしてて、目だけみたらかわいいより美人って印象が浮かぶロリッ娘なんだよ~。

「琴美ちゃんは好きな人いるの?」

「どどどうかな~。あははは……」


 そう言いながらも、チラっと目線が奏くんの方へ向かう。


「はぁ~。もう琴美ちゃんごまかすの下手すぎるよっ!目線で丸分かりだよ~」

「うっ、私ってそんなに分かりやすい?」

「うん。性格が素直すぎて全部顔に出ちゃうタイプだね琴美ちゃんは」

「私ババ抜きとかでもいつも負けちゃうんだ……」


 ちょっと気になったので探ってみた結果、やっぱりライバルでした。嘘をつけない性格の琴美ちゃんはあっさり自供して、恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃった。涙目の彼女は女の私が違う方面に目覚めてしまいそうになるくらいかわいかった。ちなみに彼女も奏くんと話したことがないらしい。


 完璧なポーカーフェイスを学ぼうと思い、奏くんを観察しているうちに気になりだしちゃったんだって。きっかけまでかわいいとは……。うぅ、流石は我がライバル。手強い。


 そしてお互い少し話し合った結果、こんなことでは話しかけられないまま三年間が終わる可能性が浮上してしまい、二人で話しかけよう作戦を実行することにしたんだけど大丈夫かな……。



 さすがに二人なら大丈夫だとお互い励まし合い、私は琴美ちゃんと一緒に奏くんのもとへ向かった――


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