手負いの獣 2
大変お待たせしました。
ここの所、忙しさを言い訳に、更新をサボっていました。
自信喪失してしまっていたんです。
自分の書く話は、ちゃんと面白いのだろうか、と。
悩んでいる間に、色んな人と話して、頑張って見ようという気持ちになりました。
最初は漠然としていて、先が見えない状態でした。
せっかくここまで続かせる事ができたのですから、今は最後まで書ききりたいという気持ちも、ちゃんと持ってます。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
頑張ります!!
俺達は、ひとまず騎士団の駐屯地へと移動する事となった。
怪我をしたリーダーには、トリスタンの屋敷で休んでいるよう勧めたが、着いてくると言ってきかない。
「俺も連れて行ってくれ。案内役は必要だろう?」
リーダーは、痛みを感じさせない動きで立ち上がった。
確かに、正確なモンスターの居場所を知るのは、リーダーだけである。
その言葉に納得したのか、トリスタンはリーダーの同行を認めるのだった。
駐屯地への道中、リーダーがモンスターについて自分の考えを話してくれた。
「最近、モンスターの異常な行動が目立つんだよ。国も密かに調査してるって噂だ」
リーダーの話に、俺は心当たりがあった。
五大国同盟から調査の命を受けて、アルやソフィアは、今も各地を回っているはずだ。
モンスターにも、ある程度、棲み分けや縄張りがある。
極端な言い方だが、川辺のモンスターは、乾燥した砂漠地帯では生きていけない。
弱いモンスターが、強いモンスターのいる縄張りに入れば追い出されるだろうし、食べられる事もあるだろう。
その自然の法則を無視した、モンスターの目撃情報が増えているらしい。
これまでは、僻地の数カ所で確認されていただけだったが、旅人や冒険者達の間でも噂になるぐらい、その異常は広がっているのだろう。
リーダーがなぜ、その話しを今したかと言うと今回のオルトロスもその影響ではないかと思っているからだ。
「オルトロスは、確かに正体は謎とされてるが、あそこまでデカいなんて、聞いた事がない」
アリスが頷いた。
「オルトロスは、火を操ると聞いた事がある。沼地に住み着いているというのも不自然に感じる」
突然変異か、何か理由があって縄張りを追われたのか。
何にせよ、正体が分からないままでは、倒すのは厳しい。
リーダーはそう考えて、俺のスキルが使えないかギルドに話しを持ちかけたらしい。
駐屯地に到着した。
トリスタンの指示で、団員達は、慌ただしく装備を整えに向かった。
「ノアさん!」
会議室で地図を広げていた所に、息を切らせたルークが入って来た。
「ノアさん、ギルドで聞きましたよ! 本当に、討伐について行くんですか?」
「ああ、ルークも事情は聞いただろう? 俺のスキルが役にたつなら、行くよ」
「危険だと分かってて? なあ、ノアさん。そんな事しなくてもいいんだ。あんたの力は、貴重なんだから大切にするべきだよ。団長もそう思いませんか?」
少し前の俺は、そう思っていた。危険な場所に行かなくても、ちゃんと役にたっていれば誰にも悪く言われないだろう。
そうやって自分に言い訳をして、現実から目を逸らして来た。
「トリスタン達が俺を守ってくれたように、俺も彼らの助けになりたいんだ」
日本にいた頃、凄惨な事件や大きな事故のニュースを聞いても、俺は身近に感じる事ができなかった。
痛ましいと思う気持ちはあっても、結局は、他人事だと流していた。
リーダーの部下が亡くなったと聞いても、そのどこか冷めた感覚は同じだった。
それでも参加すると決めたのは、トリスタン達が他人じゃないからだ。
たまたま、魔術の無効化ができて、ユージンは助かった。もし何も出来ずに力の発覚を惜しんで、ユージンを見捨ててしまっていたらと思うと腹の底が冷たくなる。
同じように、トリスタン達がリーダーの部下のように帰って来なかったら、俺は一生後悔するだろう。
精霊の事は、皆にまだどう話していいか分からないが、スキルの使いどころがあるなら、生かすべきだ。
「キューの旦那が何か言って、そそのかしたんでしょう?」
「そそのかしたとは、人聞きがワリーな」
会議室の隅にいたクインシーが、鼻で笑った。
「ルーク、違うんだ。俺が自分で決めたんだ」
ルークはどうしても、俺を引き止めたいようだった。
俺の意志が固いのを感じ取ったのか、ルークは一呼吸置くと、改まって言った。
「いいか、ノアさん。あんたの力はもう、個人で扱うレベルを超えてるんだ。これからは、国の為に、働くんだよ」
「なあ、ルーク」
俺は半ばルークの声に重ねるように、問いかけた。
「俺は今後、どういう扱いになるんだ?」
「……ギルドは辞める事になると思う。ノアさんは、王城に部屋を与えられて、何不自由なく暮らせるよ」
「そうか……」
アビリティースコアの有用性や俺の存在は、ゆっくりと各地に知れわたっていった。
ブラックベリー盗賊団のような存在が現れたのなら、ギルドの一職員として、アルビオン王国も放っておけない。
保護するという名目で、俺はアルビオン王国の預かりになるのだろう。
ロトス帝国あたりに何を言われようと、もう構わないらしい。
「詳しくは、先王陛下から伝えられると思いますけど。多分、騎士団や近衛兵中心の討伐派遣の窓口をやってもらう事になるだろうね」
「分かった。ルークがここにいるって事は、先王陛下は、オルトロス討伐の話しは知っているんだよな?」
ルークは、俺の真意をはかりかねた様子で頷いた。
「先王陛下が、俺に討伐へ行かないよう言ってるのか?」
「……何も。ああ、もう、俺が心配しちゃ悪いか!」
ルークは、やけくそとばかりに本音を吐き出した。
やはり。
ギルドから要請が来た時点で、分かっていたが、先王陛下は俺が討伐に向かう事に反対じゃないらしい。
先日の事があってから、どうも先王陛下が何を考えているのか分からないままだ。
とにかく、俺はまだギルド職員で先王陛下から与えられた最後の自由な時間なのかもしれない。
ルークは、先王陛下からの命令ではなく、俺を引き止めようとしてくれた。スキルではなく、俺自身の心配をしてくれたわけだ。
「ルーク、大丈夫だよ。俺は前線に出ないし、騎士団もアリスも、クインシーもいるんだ」
「はいはい、分かってますよ!」
先程までの、真剣な雰囲気はどこかへいってしまった。
ルークはわざと、いつも通り振る舞おうとして、大げさに肩をすくめた。
「そこに、ルークがいてくれたら、もっと心強いんだけど」
俺は自然と笑って、ルークに言った。
そっぽを向いていたルークが、待ってましたとばかりに、くるりと振り返った。
「ノアさんってば、人使い荒いんだから。俺は便利屋じゃないんですよ?」
「表情と言動が一致してないぞ、ルーク」
「とんだ茶番だナ」
アリスが冷静な突っ込みを入れ、クインシーが呆れたように手をひらりと振った。
「うるさい、うるさい! キューの旦那は、外のお仲間に、ちゃんと作戦伝えておいてよ!」
クインシーの傭兵仲間も、今回の討伐に参加するらしい。
騎士団からは、トリスタン率いる一番隊を中心に、実戦経験のある三番隊と魔術が得意な九番隊が戦う。
二番隊は、王都の入り口を少し出た所に、後詰めとして配置される。
例の正体不明だった十番隊は、メンバーのひとりがすでに現場に先行しているという。
正式に騎士になったフランは、二番隊に配属された。ソルは六番隊なので、今回は留守番である。
地形の把握や装備の準備をすませた俺達は、会議室を出た。
団員が整列する広場に向かうと、そこには竜がいた。
「良かった、良かった。間に合ったみたい」
ルークが、安心したようにいった。
竜といっても、鞍を乗せられ、騎乗用に躾られた、小型のドラゴンだ。
「竜騎士から借りてきたんだ。ノアさんには、空からオルトロスを観察してもらおうと思って」
ルークは、俺が説得に応じなかった場合の事もちゃんと考えて行動していたようだ。
「問題は、誰が一緒に騎乗するかなんだけど……」
「ならば私が共に乗ろう。動物の扱いの心構えはあるし、騎士の資格も持っている」
ひとりでは、ドラゴンに騎乗出来ない俺のために、アリスが名乗り出てくれた。
ドラゴンは気高い生き物で、訓練を積んだ者でも乗りこなすのは難しいと聞いた事がある。
アリスは、父から竜の騎乗の仕方を教わったらしい。
人に慣れ、訓練された竜は珍しい。
竜騎士団のドラゴンは、騎士の位がある者でなければ操ってはいけないといった決まりがあった気がする。
メンシス騎士団の戦力を削るわけにもいかないし、アリスは見事に条件をクリアしていた。
「バッチリじゃん! さすが、俺!」
ルークが得意気にする、その背後に見慣れない人影があった。
クインシーの側に、いつの間にか片目に傷のある男が立っている。傭兵仲間のひとりらしい。
何事か話した後、片目の男は静かに頷いて、この場を離れていった。
いよいよ王都を出る時が来た。
二の郭の城壁をくぐると、俺は初めて王都に来たときのように、空気が変化したのを感じた。
俺と同じ馬車には、アリス、ルーク、クインシー、リーダーと見習いの騎士の何人かが同乗している。
顔を上げてみると、クインシーだけが、俺の変化に気づいたようだった。
「お前も感じたか。相当、魔力の保有量が多いんだな」
クインシーは、肩をぐるぐると回して言った。
「何の話だ?」
アリスが尋ねると、クインシーはまあいいか、と呟いて話し出した。
「アルビオンの城壁には、古い呪いが掛かってる。まぁ、結界みたいなもので、王都では大規模な魔術をぶっ放せないようになってんだ」
王都の城壁に、そんな秘密があったとは、知らなかった。
魔力の保有量が多いものは、空気が変わったように感じる事があるらしい。
クインシーは、体が軽くなったと言う。一度も体が重いような仕草を見せなかったが、本当は何かしらの影響があったのだろうか。
俺は体に変化が出るほどではなかったので、クインシーの魔力が強いという事だろうと考えた。
王都を出た途端、腕のブレスレットがぶわりと反応した。
精霊達がざわついているのを感じる。これは警告ではなく、挨拶のようだった。
精霊の多くは、王都の壁を越えないようだ。それが城壁の結界のせいなのか自然界を好んでいるせいなのかは、俺には分からない。
隙間から入ってくる風が、頬を撫でる。
俺には、それが久しぶりという囁きに聞こえた。
馬車は、紋章の掲げてある大きなアーチをくぐり抜け、王都を後にした。
やる気なし英雄譚の津田彷徨さんが、当作品のレビューを書いて下さいました!
ありがとうございます!
こりゃあ更新せねば!とやる気でました!
2015/01/12 修正