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巡検 2

 バルドの登場に、団員の視線が一斉にこちらを向いた。

 俺は怯みそうになる自分を叱咤して、笑顔で前に出る。


「ギルドから派遣されて参りました。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、ノア・イグニス・エセックスです」


「同じく、助手のユージンです」


「レンジーです。よろしくお願いしますぅ」


 ユージンが緊張した顔で、俺の後に続いた。

 レンジーは完璧な笑顔だ。先程の本音を聞いてしまったので、素直にかわいいと思えない所が残念である。


「私は、ラヴァ・カルブンクルス。魔法ギルドの協力者ですわ」


 どうぞ、よろしくと口に手をあてて微笑む姿は、まさに淑女である。

 前列にいた若い青年が、ラヴァの笑顔にあてられて顔を赤くした。

 他にもチラチラとラヴァに視線を送る団員がいる。

 こちらも残念ながら本音がデータ収集なので、俺とユージンは苦笑いである。


 自己紹介も終わり、目的の説明と事前に配っておいた同意書へのサインを求めた。


「では、準備が済んだ方から始めます」


 俺はそう言って、即席で用意されたカウンターへと向かった。

 ラヴァの用意してくれた水晶の前に座る。

 ラヴァは少し離れた所で、もうひとつの水晶を用意している。

 筆記用具と名簿を手に、準備万端である。

 俺の話しを補足するため、バルドが言った。


「これは先王陛下も奨励されているギルドの新しい活動だ。団長から話しがあったように、なるべく参加するように」


 ただし、とバルドが続ける。


「これは強制では無い。諸事情により参加を辞退する者は、同意書の代わりに、拒否や保留の理由を書いて提出しろ」


 強制はしない。

 スキルを知られたくない者は必ずいるだろうから。

 拒否の理由を聞くのは勿論、これからの参考にするためである。


「では一番隊から、お願いするとしよう」


 バルドがドスンと俺の前に座った。

 一番隊の隊長は、トリスタンであるが、彼は全体の指揮をとる団長なので、実質的には副団長のバルドが面倒を見ている。

 バルドが率先して並んでくれたのは、とてもありがたかった。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 一番隊の団員は、アルブスから王都まで一緒に旅をした時に顔を合わせている。

 俺が駐屯地に姿を見せた時も、よく声をかけてくれた人達だ。

 問題無くステータスを焼き付けていく。

 さすがバルドに直接鍛えられているだけあって、全体的にレベルの高い人ばかりだった。みんな、何かしら声を掛けてくれた。


「次は、我ら三番隊が行かせてもらおう」


 一番隊を全て見終わると、三番隊のジョセフ隊長が芝居がかった動作で現れた。

 グレーの髪と同色の髭がカールしている。

 三番隊のメンバーも、皆キビキビとした動きでジョセフ隊長の後ろへと、一列に並んだ。


「ふふ、久しぶりだね、ノア君。これからも団長をよろしく頼むよ」


「はい。俺に出来る事なら」


 ハシバミ色の優しい目が、俺を見つめる。

 ジョセフ隊長はメンシス騎士団の中で一番年上だと聞いた。

 彼もまた、バルドと同じくトリスタンのよき理解者なのだろう。

 

 そういえば、ギルドカードを持っていない者は、新規登録してもらう事になっている。

 首都育ちの騎士は、ギルドカードを持っていない者が多い。

 城壁の外に出る必要も、クエストを受けて金を稼ぐ必要も無いからだ。

 故郷から団に入った者や、遠征に出た事がある者は別である。


「はい、お疲れ様でした。こちらがジョセフ隊長のステータスです」


「ありがとう。不思議なものだな。服を着ていると言うのに、全てを見られている気分だ」


 目をキラキラさせながら、ジョセフ隊長が言った。

 悪気は無いのだろう。

 興味津々な顔で、しげしげとカードを眺めている。

 しかし、その例えは止めてほしい。俺が覗き魔の変態みたいだから。


 今日このホールには、全団員の七割程度が集められているらしい。

 この場にいないのは、トリスタンと、二番隊、四番隊、十番隊である。

 一番隊、三番隊を見終わった所で、俺はホールに目を向けた。

 同意書とこちらを交互に見ていた者達も続々と列に加わり始めた。

 ユージンとレンジーが、同意書の回収や列の整備をしてくれている。

 一番隊と三番隊は、全員参加だったが、他は各自の判断に任せると指示が出たようだ。

 続々と、列に並ぶ団員達のステータスを見ていく。


「もういないか? では、お前達も見てもらえ」


 騎士の希望者を見終わり、次は見習い達の番になった。

 見習い達の決断は早かった。

 三十人程度いる見習い達のほとんどが、列に加わった。

 一刻も早く騎士として認められるには、自分のステータスを知る事は大きなメリットだからだろう。

 参加しなかった騎士達が、隅の方でそれを眺めている。

 すでにステータスを焼き付け終わった騎士達は、解散していいとバルドが言った。

 それでも、まだこの場に残っている騎士もポツポツいる。


 見習い達も無事に見終わり、ユージンとレンジーはギルドへ帰らせた。

レンジーは、


「ええー! もう少し騎士様達とお話しさせて下さいよう」


 などと言って、この場に留まろうとしていたが、話すなら明日にしてくれと説得した。

 ユージン達には同意書などの書類をギルドまで送り届けてもらわなければならない。

 彼らはギルドの寮に住み込んでいるので、帰るついでだ。

 ラヴァはさっそくデータを分析するからと、ユージン達とギルドの馬車に乗って行った。

 途中で魔法ギルドに寄ってもらうそうだ。

 ラヴァが帰ろうとする姿に、引き止めたそうな団員達の視線が集まっていた。

 そららに気づいているのかいないのか、全てを振り切って彼女は帰っていった。


「ノアさん、待っていて下さいね! 明日までにはデータを全てまとめてご覧に入れますわ!」


「ああ、うん。俺も自分なりにチェックはしてあるから、ほどほどにして下さい」


 俺の言葉も聞こえているかあやしい。それほどまでにラヴァは上機嫌だった。

 その満面の笑みに、さらに被害者が増えている事に気がついて、俺は何も見なかった事にした。


 これで一日目の仕事は終わりだ。

 明日は大事なスキル相談を主に行う。

 これも団員の自由参加型だ。

 ステータス焼付けに参加しなかった者も、相談したい事があれば並んでもかまわない。アドバイスできる事は限られてくるけれど。

 俺も今日ステータスを見れなかった者を見終わったら、相談員として話す。

 隊長格、俺が個人的に気になってチェックした人物あたりを優先させてもらう。


 二番隊と四番隊が明日にまわされたのは、騎士団の仕事の関係もあるが、彼らの隊長に問題があったからだ。

 二番隊は、マロースとハンスの隊だ。

 マロースは隊長から降格したが、二番隊に平の騎士として今も在籍している。ハンスは除籍された。

 そして四番隊は、スミスが隊長を勤めていた。スミスも除籍されている。

 スミスは単独犯で、他の隊員も寝耳に水だったようだ。

 それでも、トリスタンの配慮で彼らは明日まとめて見る事になっていた。

 そして、十番隊は団の中でも特別な役割をしているらしい。

 一応同じ隊に入っているが、全員が一堂に集まる事はほぼ無いそうだ。

 明日のデータ収集は、参加を希望する者が半分もいるかどうか分からないが、一応聞くだけ聞いてみる事になっている。


「帰るぞ」


「トリスタン。仕事お疲れ様。帰ろうか」


「ああ」


 書類仕事を終えたらしい、トリスタンが現れた。

 俺は駐屯地から、トリスタンと馬車に乗って、イズーの待つ屋敷へと帰宅した。

 クインシーは、屋敷に着いたと同時に姿を消した。

 彼は屋敷内だと、用のある時しか現れない。食事も全て自室でとっている。


「なぁ、今日は三人で晩飯をとらないか?」


「……それが、普通なのか」


 俺はトリスタンに、イズーと一緒にご飯を食べないか持ちかけてみた。

 かねてから、思っていたのだ。

 あんなに広い食堂で、お互いに離れて食事をしていて味気ないとは思わないのだろうかと。

 俺は静かな食事も悪くないと思ってるが、その反面、寂しさも知っている。

 それは俺がこれまで、家族や仲間と食事を囲む機会があったから知れた事だ。

 ならば、トリスタンやイズーはどうなのだろう。

 家族なのに、食事は別々。同じ屋敷に住んでいて、ほとんど顔もあわさない。

 トリスタンとイズーの仲が悪くないのは知っている。

 事情があるのも分かっているし、貴族の掟に反するって言うなら諦めるが。


「おじさん達とは、よく一緒にご飯を食べたよ。家族なら、普通の事だと思う。イズーも、きっと喜ぶ」


「そうか……」


 少し考えた後、トリスタンは、静かに控えていた執事を呼んだ。


「クラウス、あれの部屋に食事の用意を」


「はい、トリスタン様。すぐに手配致します」


 トリスタンは、これでいいかと俺に聞いてきた。

 俺は笑って頷いた。


 その日はいつもより楽しい晩餐になった。

 イズーは始終にこにこと笑っているし、トリスタンもいつもより酒の進みが速い。

 俺も二人のそんな様子を見て、気分が良かった。

 こうして、時間の合う日の晩餐は、三人でとるのが恒例になった。


2015/01/12 修正

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