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巡検 1

 午前は新規登録者、午後からは予約した希望者のステータスを見る生活にもだいぶ慣れてきた。

 最近では、冒険者や傭兵だけでなく、商人や学生なんかも列に見受けられるようになってきた。


 万人のステータスを見ている内に分かってきた事は、百人に一人くらい、獣人との混血の者がいると言う事だ。

 本人は知らないくらい、遠い繋がりかもしれない。

 しかし、魔力や体力と並んで、聴覚や脚力と言った項目がある者はどこかで獣人の血が混じっている。

 ラヴァには、獣人のステータスには特殊な部分があると簡単に説明していたが、詳しい事は保留にしてある。

 ギルド側が注目しているのは、職業レベルとスキルなので、そういう部分に気が付いているのは俺だけだ。

 獣人のステータスを見る機会は、まだおとずれていない。

 その時が来れば、もしかしたらラヴァあたりは気付くかもしれないな。

 デリケートな話しなので、今度ルークを介して先王に相談した方がよさそうだ。


 ギルド内に、昼休憩を知らせる音楽が流れる。

 キリのいい所で、午前の業務を終わらせる。

 今日から二日間かけて、午後はメンシス騎士団へ赴き、全員のステータスを見る事になっている。

 医者の健康診断みたいだ。

 ギルドの馬車に乗って、メンシス騎士団の駐屯地まで送ってもらう。


「騎士の方達に会えるなんて、楽しみだわ」


「貴族のお兄さんがいっぱいなんですよね? 楽しみですぅ」


 同行するラヴァとレンジーがはしゃいでいる。


「あれ、人選間違えたかな……?」


「女性ですからね」


 俺が呟くと、ユージンが仕方ないという風に苦笑いした。

 女人禁制という訳じゃないし、騎士団側は問題ないのだが、ラヴァがこんな反応をするとは思わなかった。

 二人とも、乙女のように目が輝いている。


「ふふふ……貴族のみに遺伝するスキルってあるのかしら? 騎士の職業レベルのデータが取れるいい機会だわ」


「ギルドにいたら会えないような、貴族でお金持ちで格好いいお兄さんとの出会いが、わたしを呼んでますぅ!」


 訂正する。

 二人の目は、まだ見ぬ獲物を想像してよだれを垂らす肉食獣のようだった。

 ラヴァは安定のデータ収集、レンジーは玉の輿と目に書いてある。

 かわいそうに、ユージンがドン引きしている。


「はは、歪みネェーな」


「……ユージン、頑張ろうな」


「……はい」


 クインシーが俺は知らないとばかりに窓の外へ視線を反らした。

 ユージンと俺は、男二人で肩を叩き合ったのだった。


 スキルを公表する前の話しになるが、メンシス騎士団員半分のステータスはすでに知っている。

 改めて見直す理由の一つは、水晶を通して、データとして整理するためである。

 もう一つは、騎士団や貴族を見て回る時に発生する問題を洗い出しておくためだ。

 メンシス騎士団ならば、何かあっても対処しやすい。

 他の貴族との繋がりも強いので、俺のスキルの理解が広がるキッカケにもなるだろう。

 そういう先王陛下の考えの元に、俺達はメンシス騎士団に向かっていた。


「ヤッホー! 皆さん、お揃いで!」


 駐屯地に着くと、ルークとジェラードが出迎えてくれた。

 ルークの腕の怪我は、もうすっかりよくなっている。

 完治するまで、何度か傷の具合をたずねたので間違いない。


「奥で団長がお待ちです」


「分かった」


 毎日顔を合わせているとはいえ、騎士団内で話すのは、あの時以来だ。

 団長の部屋に入ると、書類に目を通していたトリスタンが顔を上げた。


「……ノア」


「や、今朝ぶり。紹介するな。こちらが、魔法ギルドのラヴァ。スキル相談員のユージンとレンジー。俺の助手をやってもらっている」


 トリスタンはひとつ頷き、ラヴァ達に名乗った。


「私はトリスタン・シュテルン。メンシス騎士団を預かっている。話しは先王陛下から聞いている。後は副団長のバルドに任せる」


 最後に、頼んだ、と静かに言った。

 これから先は、副団長のバルドが監督として着いてくれるらしい。


「久しぶりだな、ノア君。あの時はすまなかった」


 バルドが頭を下げて、俺に謝った。

 俺の様子はトリスタンに聞いていたが、実際に会って一言謝りたかった。バルドはそう言った。


「バルドさん……」


 俺はうろたえそうになるのを、ぐっと我慢した。これがバルドのけじめなのだと思ったからだ。

 根っからの武人気質で、筋を通すその姿勢は、憧れるものがあった。

 顔を上げたバルドに、俺は頷く事しか出来なかった。

 バルドが大きく笑い、再び歩き出した。


「準備は整っている。さっそくだが、見てもらえるかな?」


 バルドに案内された広い板張りのホールには、騎士達が集められていた。

 メンシス騎士団は、隊長が十人、隊長の下に十人前後の騎士で構成されている。

 単純計算で百人の団員と、三十人程度の騎士見習いを抱えているのだ。

 その他に、家来を連れている者もいるが、俺が見るのは騎士と騎士見習いのみである。


 有事の際は、騎士の元にそれぞれの家の兵士が就くらしい。

 兵士は常駐せず、何かあれば故郷から徴収される。

 兵士と言っても、農民であったり一時的な契約を交わした傭兵であったり様々だ。

 更に言うと、家格によって集まる兵士の頭数が違ってくる。

 特にメンシス騎士団は貴族の子弟で構成されている。

 跡取りならば、故郷へ戻って指揮を取らなければならなくなる。

 四男だったりすれば、ある程度力のある家柄でなければ兵士を用意する事も難しい。

 その辺りに誰も突っ込まないのは、騎士団を動員するような人同士の戦争がしばらく無いせいだろう。

 組織のあり方を語ろうにも、俺は日本を守っている自衛隊の構成すら知らない。

 本当に、何も知らないで守られていたのだな。


「ノアさん、どうしました?」


「……いや。まず、第一歩だ。頑張ろうな」


 俺の言葉に、ユージンは何の疑問も持たずに頷く。

 人類のためだなんて言えない。

 家族や仲間、自分が死なないように、俺が出来る事をやる。

 そのための、大きな第一歩だ。


2015/01/12 修正

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