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ユージン

 ユージンは、再びノアに再会できた事が本当に嬉しかった。

 魔法ギルドで再会したノアは、変わらない笑顔でユージンを受け入れてくれた。

 無事な姿を見て安心したし、再びノアの元で働けるという事がユージンには、なにより嬉しかった。

 ノアに話したい事がたくさんあった。

 吟遊詩人からノアが怪我をしたという話を聞いて、どれだけ自分や、ノアの知り合い連中が心配したか。

 ノアがいなくなった後のギルドの様子。

 ムッスやマリーがどうしているか。ああ、エマ室長が結婚するからと言って、室長を辞めて故郷に帰った話もしたい。


 伝えたい事が多すぎて、うまく言葉にできないユージンを見て、ノアが苦笑しつつ、落ち着かせてくれる。

 ユージンはノアの、この困ったような笑顔が好きだった。

 またノアの下で働ける。

 こうして王都まで来たのだ。話す時間はある。

 今はただ、ノアの役に立つ事を自分の使命として頑張ろう。

 ユージンは自分に言い聞かせ、ラヴァとこれからの事を話すノアの横顔を見つめた。


 ユージンがノアと出会ったのは、ユージンが足に大怪我をして、冒険者としての生命線を失った時だった。

 故郷の友人は、スキルがあっても動けないユージンをパーティーメンバーから外し、放り出した。

 メンバーを解除するには、基本的に双方の同意が必要だったが、ユージンは抵抗しなかった。

 元からお情けでメンバーに入れてもらっていたのだ。

 足手まといが役立たずになったのだから、しょうがない、とユージンは諦めていた。

 ユージンの生まれた村は貧しく、若者はみな、大きな街に出て出稼ぎするのが当たり前だった。

 ユージンには力が無かった。金も無いから装備もろくに揃えられないし、属性魔術も使えない。

 しかし、冒険者と言う職業はユージンの憧れだった。

 村の若者みんなの憧れと言ってもいい。

 ハイリスク、ハイリターンであるのは理解していた。

 それでも、ユージンが金を稼ぐ道は他に無かった。そう思い込んでいた。

 ビビリのユージンが唯一持っているもの。

 それは危険察知というスキルだった。


 結局、スキルを生かしきれないまま、ユージンは足に大怪我を負った。

 アルブスの街で生活するには、金が掛かる。

 ちゃんとした治療も受けられない、まともな仕事を探す事もできない。

 ユージンは、ゴミ捨て場のガラクタを拾って、怪しい露店に売っていくらかの金を稼ぎ、なんとか凌いでいた。

 そんな生活は分かり切った事だが、長くは持たなかった。

 仲間に見捨てられ、村に帰る事もできず、金も尽き、ろくな治療も受けられなかった足の状態は悪くなるばかりで、ユージンは野垂れ死に寸前まで追い詰められた。


 ノアと出会った日、ユージンはある決意をしていた。

 いままでずっと肌身離さず持っていた、ペンダント。

 そこには珍しい石がはめ込まれている。

 その宝石には、小さな亀裂があった。亀裂はいつの間にか入っていた。ユージンはそれがとても残念だった。

 このペンダントは、ユージンが祖母にもらったお守りだった。

 ユージンの大好きな祖母。いつでも優しかった。

 ユージンが冒険者になりたいと言って、家族に馬鹿にされた時も、祖母だけは笑わずに、ユージンを応援してくれた。そしてこのお守りをくれたのだ。

 絶対に売るものかと思っていたが、こうなっては仕方ない。

 ペンダントを売って、恥を忍んで村に帰ろう。

 ユージンは、最後にギルドのアイテム鑑定所に向かう事にした。

 露店で売るか、宝石商に売るか考えたが、どうせ安く買い叩かれる。

 買い取ってくれるかどうか分からないが、正統な価値が分かる者に一度でいいから見てもらいたかった。

 そしてギルドでペンダントを見てくれたのが、ノアだった。

 ノアは一ギルド利用者であるユージンの事を覚えていた様子だった。

 しばらく姿を見ていなかったので、心配してくれていたらしい。

 ユージンのペンダントはマジックアイテムであり、それなりに価値のあるものだった。


「きっと、このペンダントが君の命を守ってくれたんだと思います」


 宝石に入った亀裂は、持ち主を危険から守った証だと、そうノアが言った。

 ユージンは、祖母を思って泣いた。

 やはりペンダントは売りたくない。どうすればいいのだろう。

 ユージンが暗い顔で立ち尽くしていると、ノアがひとつ頷いた。


「そのペンダント、私が銀貨二枚で引き取りましょう」


 ユージンは思わず顔を上げた。

 銀貨二枚あれば、三ヶ月は楽に暮らせるだろう。欲に目が眩んで、売らないと決めた決意が揺れる。


「引き取って、しばらく鑑賞させてもらいます。買い戻したいならば、同じ額、銀貨二枚でお返しします。働き口を探しているんですよね?」


「え、え……?」


混乱するユージンに、ノアは困ったような、しかし優しい笑顔でゆっくりと続けた。


「ちょうど助手を探していたんです。私と一緒にアイテム鑑定所で働きませんか?」


 すぐには正社員にはなれませんけど、お給料は出しますよ、と。


「は、えっと、おねがいします……!」


 ユージンは、訳が分からないまま、しかし何故か安心した気持ちで頷いていた。

 ユージンの勘が言っていた。この人は安全だ。絶対悪い事にはならない。


 ユージンの判断に間違いは無かった。

 ノアは当面のユージンの面倒を見てくれた。

 足の治療費も代わりに出してくれたし、ギルドで仮契約を交わす時も推薦人になってくれた。

 ノアの助手として雑務をこなし、ムッスやマリーと共にアイテム鑑定所で働き、学ぶ事ができた。

 半年が経つと、ユージンの手元には銀貨二枚のたくわえが出来ていた。

 ノアは利子など取らずに、ユージンのペンダントを返してくれた。


「ノアさん、これじゃあ、ノアさんが何の得もしていないですよ」


「優秀な助手を安い給料でこき使ってるんだから、いいんじゃない?」


 そう言われて悪い気はしないユージンだったが、どうしても納得がいかない。

 なおも引き下がらないユージンに、ノアは言った。


「じゃあ、何か危ない場所に行かないといけなくなったら、ユージンのペンダントを貸してくれるか?」


「もちろんです! いつでも言ってください!」


 のろまで、びびりで、何の役にも立たないと思っていた自分をノアはここまで引っ張り上げてくれたのだ。

 もし次、このペンダントが持ち主を守ったら、この宝石は壊れ、マジックアイテムとしての力を失うだろう。

 ノアの為ならそれでもいいと、ユージンは思った。


 ノアが王都に旅立ってしばらく。

 ユージンはやっと鑑定士のスキルを手に入れ、毎日を充実させていた。

 そんな時、吟遊詩人が運んできた凶報に、ユージンはひどく動揺した。

 獅子王の身内であり、獣人だろうがどんな職業の者であろうが、人は人として扱うノアは、アルブスでは良い意味で有名だった。

 アルブスは獣人が多く街で生活しているので、獣人達がノアの噂を話しているのを知って、ユージンはノアの身に何があったのか聞きだした。

 吟遊詩人達は街から街へ、ノアが英雄であるかのように、獣人達に唄って歩いていると言う。

 ユージンは、何故、自分はノアにペンダントを渡さなかったのか悔いた。


 ギルドから王都への要請が来た時、ユージンは一も二も無く、その話に飛びついた。

 王都に着き、ノアの特殊なスキルについての説明を受けた時、ユージンは何の抵抗もなくその話を受け入れる事ができた。

 ノアならば、そう言った能力を持っていても、なんの不思議もない。むしろ納得した。

 きっとそのお陰で、自分はここにいるのだから。

 ユージンは、ノアが各地から集められた鑑定士と言葉を交わすのを、ただ静かに見ていた。

 負けられない。この中の誰よりも、ノアの役に立ってみせる。

 そして何かあった時、今度こそこのペンダントを渡そう。


 ノアが、改めてユージンに向き合った。


「ユージンも、よろしくな」


「もちろんです! また色んな事教えて下さいね」


ユージンは決意を込めて、ノアの手をぎゅっと握った。


2015/01/12 修正

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