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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第四章【魔法ギルド編】
45/82

再会

どうもお久しぶりです!

読者の皆さん、お気に入り登録して下さっている皆さん、評価を付けて下さっている皆さん、ありがとうございます。

次話、閑話を挟んで新章に入ります。

やっと窓口復帰です!


これからもよろしくお願いします。

 俺は屋敷の周りを走らされていた。


 陽が昇る前にクインシーに叩き起こされ、寝ぼけ眼のまま着替える。

 言われるがまま外に出ると、すぐに走って来いと蹴り飛ばされた。

 俺は走るのが苦手だ。

 クインシーはただ走れと言う。明確な目標もなく、自分のペースも分からずに走るのはかなりの苦痛だった。

 怪我の影響で体力が下がった分、取り戻す必要はあるし、クインシーは俺の事を考えて鍛えてくれているんだ。文句など言えない。

 俺が走るスピードを緩める度、クインシーが水のつぶてを足にぶつけてくる。

 例え、クインシーが笑顔と呼んでいいのか迷う程の凶悪な表情をしていたとしても、これは俺の為なんだ。きっとそうだ。


 一時間程走り、汗を流してから、朝食の席に着く。

 それから魔法ギルドに向かい、午前中はラヴァとスキルについて話し合う。

 午後は新たな協力者達のスキルを読み取り、データを分析にまわす。


 夕方。

 屋敷に戻ると、再びクインシーに後ろから狙われながら走る。

 ひたすら走る。

 トリスタンと夕食をとり、自室に戻る頃には疲れきっていた。

 ベットに入った俺は、何もせずに、すぐに意識を手放すのだった。

 そんな日が何日か続いた。

 俺は自然と夜明け前に目覚めるようになり、ストレッチをしてクインシーを待つようになった。

 やはり走るのは苦手だったが、クインシーの絶妙な激のおかげで、俺はなんとか走り続ける事ができた。

 キツイ事は間違いない。クインシーは、何というか、無茶をしているようで加減が分かっているのだ。

 ただ走るだけなので、特にアドバイスをくれる訳ではない。基本的に無言で、ひたすら走っている俺を、クインシーがじっと監視している。

 俺が本当に限界で、ぶっ倒れそうになると、今日はここまでだなと止めてくれるのだ。


「ずっと走ってるだけで、飽きねーのか?」


 ある日の夕方、クインシーがそう問いかけてきた。

 俺は首を振った。

 鍛錬とは、飽きるとか、嫌いだとか、そういうもんじゃないと思ったからだ。


「先生の指示に従いますよ」


 俺は自分の身を守りたいだけで、剣術や魔術を積極的に学びたいわけではない。

 王都に来てからは、たまに騎士団の駐屯地で木刀を振るぐらいで、運動不足を感じていた。

 本格的に護身を身に着けるには、今の俺はまだまだ、体の基礎がなっていないのだろう。

 ごちゃごちゃ考えたが、つまりだ。

 クインシーは先王陛下が認める、ベテランの傭兵なのだ。その彼が走れと言うなら、俺は走る。


「ふん、いい心がけだな。飽きたなんて抜かしたら……」


「そう言ったら?」


 俺はごくりと息を飲んだ。


「そうだな、夕食の後も走らせただろうな」


「いっ……!」


 言わなくてよかったー!

 絶対嫌だ。

 全力でそう思ったが、俺は賢明にも口には出さないでおいた。


 そんな生活サイクルに慣れ始めた頃、今日も魔法ギルドの研究室に向かった俺は、意外な人物と再会する事になる。


「ノアさーーん! お久しぶりです!」


「え、ユージンじゃないか!」


 研究室のイスに座っていたユージンは、俺を見るなり立ち上がって目を輝かせた。


「お前、いつ王都に? アルブスのギルドはどうしたんだ?」


「ノアさん、怪我したって聞きましたよ。大丈夫なんですか?」


 お互い会話にならない。俺はとりあえず、ユージンをイスに座らせた。


「よし、いったん落ち着こう。俺はこの通り無事だよ」


「よかった、本当に……。吟遊詩人から話を聞いた時には、俺もう、びっくりして……」


 ユージンの言う、吟遊詩人とは、大体が獣人で構成された大道芸人の一団の中にいる語り部の事だ。

 彼らは決まった故郷を持たず、街から街へ、芸や噂を流しながら移ろう。

 獅子王と呼ばれ獣人達に慕われるおじさんが襲われた事件は、獣人が多く暮らすアルブスでは、大きく話題になったのだろう。


「それで、ユージンの話を聞かせてくれないか?」


「うっす。俺、鑑定士のスキルを習得できたんです!」


「よかったじゃないか! これで正規の職員としてギルドで働けるな」


 俺は自分の事のように喜んだ。ユージンも笑顔で頷く。

 ユージンの事は、ずっと気になっていたのだ。

 無責任にも独り立ちまで面倒を見れず、ムッスやエマ支部長に任せるしかなかったから。


「俺、ギルドの要請を受けて、王都に来たんです。どうも、各地から鑑定士のスキル持ちを集めているみたいで。でも、そんな事より、ノアさんの下でまた働けるって聞いて、俺、王都行きをすぐ決めました!」


「そうか、そっか。ありがとうな、ユージン。また一緒に働けて嬉しいよ」


「はいっす!」


 ユージンは満面の笑みで、元気よく返事をしてくれた。

 尻尾がブンブンふられているような。

 おかしいな、彼は生粋の人族だったはずだが。


「そういや、ムッスやマリー、アルブスのみんなはどうしてるんだ?」


「皆さん、元気ですよ。ムッスさんも来たがってました。けど、彼女はアルブスの鑑定所のエースですからね。それで俺に話がきたんです」


 未だ獣人に対する差別が激しい王都に、ムッスが来るのは大変だろう。


「マリーはまだ、スキルが出ないんです。王都に来れない事、相当悔しがってましたよ」


「はは、そっか」


 お嬢様気質のマリーは、普段は上品に振舞っているが、ひとたび熱くなれば苛烈な勢いで意見をまくし立てる。

 王都行きを決めたユージンに突っかかるマリーが目に浮かぶようだった。


「おはようございます、ノアさん」


「おはようございます、ラヴァ。それに皆さんも」


 しばらくユージンと話していると、ラヴァ達がやってきた。

 いつもの助手の他に、見慣れない者が数人いる。

 多分、ユージンと同じく鑑定士のスキルを持つ者達だろう。

 各地から集められて、ここへ呼ばれたのだ。

 俺はそう推測し、その考えは当たっていた。

 ラヴァから紹介された鑑定士達は、みんなバラバラの生まれや育ちだった。

 共通点はあるのかと聞いたら、特に無いそうだ。

 今分かっている、アビリティースコアの習得条件は少ない。

 今何かしらの共通点で絞るより、ランダムに選んで地道に条件を探すという事らしい。


「そろそろ、ギルド利用者への試験的サービスを始めようと思います。その時、彼らには、新設するスキル相談窓口に交代で就いてもらおうと思うの」


 とうとうか。俺はぐっと手を握った。

 ユージンもだが、鑑定士のみんなも、事前に俺のスキルの話はしてあるらしい。

 まずは、新規のギルド登録者に対してステータス焼付けのサービスを開始する。

 事前に、利用規約も新しく説明する。

 カードの情報がどういったものか理解を得て、情報が水晶を通してギルドに蓄積される事も承諾してもらってから、ステータスの焼付けを行う。

 ステータスの焼付けは新規利用者を優先し、従来の利用者がステータスの焼付けを希望する場合、予約定員制で受け付ける。

 それ以外の者は、ステータスの焼付けが終了するまで、新しく作られたスキル相談窓口に対応してもらう。

 ここは、これまで蓄積されたデータを分析し、その情報を元に、スキル獲得に必要な条件をアドバイスする部署だ。

 ステータスの焼付けが終わらない限り、その人の向き不向きなどは分からないが、ある程度の指針を打ち出す事はできる。

 各地から集められた鑑定士のみんなは、三の郭のアイテム鑑定所でスキルを伸ばしつつ、交代で相談窓口にも入り、人を見る目を養ってもらうという事らしい。

 どのくらいの人がこのサービスを理解して、利用したいと思うかは実際に初めてみないと分からないが、今のところ、ステータスの焼付けができるのは俺しかいない。

 ユージン達にも、一緒に頑張ってもらうのだ。


「よろしくお願いします、皆さん」


 そう言って頭を下げると、集められた鑑定士のみんなから、それぞれ返事が返ってきた。


「ユージンも、よろしくな」


「もちろんです! また色んな事教えて下さいね」


ユージンと俺は、かたい握手を交わした。

 

2015/01/12 修正

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