狂信者 2
サブタイトル変更です。
前中後で終わりそうにないので、数字にしました。
GWなんて都市伝説組です。旅行行きたい。
「もういい。気にしていない」
「いや、女性に野郎だなんて! 本当にすまない」
アリスが素っ気ない返事をするので、フランはまだ気まずそうにしている。
彼女は本当に気にしていないと思う。多分、元からああいう話し方なのだ。
仕切り直して、俺はソル達を紹介した。
「アリス・ルルーだ。冒険者をやっている。よろしく」
アリスが自己紹介をして、俺達は駐屯地に向かって歩き始めた。
俺はアリスにこれからどうするのか尋ねた。
「しばらくはギルドで金を稼ごうと思う」
実家の母には手紙を出したそうだ。
今日もいくつか簡単な依頼を受けて、とりあえずの宿代はあるらしい。
これまでは、ニコルの借金を返す為稼いでいたが、今度は自分の為、母や村の為に依頼を受けるのだと、アリスは言った。
アリスなら、ランクをすぐに上げられるだろう。
「そう言えば、ノアさんとアリスさんはどうしてあそこにいたんっスか? ノアさん、馬車降りてましたけど……」
俺は、先程道であった事故の事、たまたまアリスと居合わせて、助けてもらった事をソル達に掻い摘んで話した。
「そんな事があったのか……。少し気になるな。商人の名前は分かるか?」
ジェラードが俺達に聞いた。
「名前は分からない。確か、荷台に斧のマークが描いてあったような……」
「私も見た。二振りの斧が交差していたな」
ジェラードは、何か思案した顔のままで頷いた。地元に詳しい人間なら、商人の特定も可能だろう。
「ま、ただの事故ならそれでいいんだが」
しばらく雑談しつつ歩いて、俺達は駐屯地に到着した。
「今更なんだけど、騎士団に女性を入れても大丈夫なのか?」
「特にダメって言う規則は無いっス。騎士団の知り合いの人間なら、訓練場の出入りは平気っスよ」
「昔は女騎士もいたくらいだしな。団員の家の者も出入りするし、その辺は厳しくないんだ」
「まあ、兵舎に近づかなきゃ大丈夫だろ」
ソル、ジェラード、フランが順に説明してくれた。訓練場に入ると、他の騎士や見習いと目が合う。
「お前達、やっと帰ってきたのか」
「「「隊長!」」」
「こんにちは、スミス隊長。彼らは俺に付き合ってくれていたんです」
スミス隊長とは何度か話した事がある。
いつも柔和な顔で、たまに顔を合わせると、声を掛けてくれる。ソル達見習いにも評判が良い。
「ああ、ノアくんの護衛か。ご苦労さん。見回り組の他の者達は帰ってきているのに、お前達だけ戻って来ないから、気になっていたんだ」
ソルの肩をポンポン叩きながら、スミス隊長は笑って言った。
「い、いた……!」
ソルは少し肩を庇うようにして、後ろに下がった。
「そんな強く叩いてないぞ?」
「あ、いえ。少し痛めたみたいで。大丈夫っス!」
スミス隊長が驚いた顔をした。
俺も驚いた。本当に大丈夫なのか?
「ならいいが。さて、お隣の方は見ない顔だけど、どなたかな?」
「彼女はアリス。俺の知り合いです。騎士団の訓練を見たいと言うので、連れて来ました」
見学させてくれと言うと、スミス隊長は快く受け入れてくれた。
「なんなら、少し訓練に混ざるかい? 丁度、何人かで立ち会いをする所だったんだ」
アリスは無言でコクコクと頷いた。彼女なりに喜んでいるらしい。
剣先の潰してある剣を持ち、スミス隊長の元に十人程度が集まって来た。
「フラン、アリスと組んで。ソルは今日は見学だ」
スミス隊長が指示を出す。
ジェラードは同じ見習いを見つけてすでにペアを作っていた。
「フラン、頑張れ」
アリスのソロランクA相当の実力を知っているので、俺は心の中でフランにエールを送った。
「始め!」
スミス隊長の掛け声で、それぞれが剣を振りかざす。
鋼のぶつかり合う高い音が響く。
フランは普段、明るくノリのいい性格である。
しかし、剣を持つと全くと言っていい程、雰囲気が変わる。
アウロラ流という貴族が好んで学ぶ流派。その優雅な型をお手本の様に使いこなす。
対して、アリスは特にこれといった型を学んで来た訳ではない。
父親が冒険者だった時に学んだ我流の太刀筋を元に、さらに実戦で半年間磨きを掛けた戦士の戦い方だ。
最初は、フランの繰り出す隙の無い剣に翻弄されていたアリスだが、その内タイミングを掴んだのか、一気に勝負に出た。素晴らしいスピードでフランの剣を捌き、絡め取る様に下に払い落とすと、体勢が崩れたフランに一瞬で詰め寄り、首元に剣を突き付けた。
「参った。強いな、アリス」
「フランの剣は美しいな。勉強になった」
両手を上げて、フランが負けを認めた。
どちらも全く違う戦い方で、見ていてとても格好良かった。
フランの美しい剣も凄いが、アリスの対応力がずば抜けていた。
「おいおい、見習いが女冒険者に負けているぞ」
マロース・フロスト。
例のナンバースリーが、取り巻きと共に現れた。
なんとも高飛車な物の言い方だ。
「もうすぐ騎士になるんだろう? 騎士団の恥を晒すなよ」
「手加減でもしてやったのか?」
取り巻きが口々に勝手な事を言うと、他のやつらも馬鹿にした様に笑った。
フランが弱いんじゃない。アリスを馬鹿にするな。
そう言いたいが、戦っているのは俺ではない。
「ならば、騎士の強さをご教授願おう」
アリスは声を荒げるでもなく、マロース達に向かって言った。
他の団員もそれぞれ決着が付いたようで、スミス隊長がこちらにやって来た。
止めようとする隊長を手で制したマロースは、取り巻きの一人の名を呼ぶ。
「ハンス、行け」
アリスとハンスが向かい合う。
ハンスが腰の剣を抜いた。真剣だ。
「待て! 真剣はダメだ!」
「私は構わない」
スミス隊長が止めようとするが、アリスが平気な顔でそう言った。
その一言でマロースサイドから強い視線がバシバシ飛んでくる。
本人にその気が無くても、すごく挑発的に聞こえる言葉だった。
「始めろ」
マロースが開始の合図を出す。
両者が静かに向かい合い、半時計周りにゆっくりと回る。
先に動いたのはハンスだ。
力強く足を踏み出し、間合いを詰めに掛かると、素早い振りで剣を横にないだ。
その瞬間、アリスは消えて見えた。
大きく前に出たハンスの左横に、突然現れたアリスの剣先が、彼の首にピタリと向いていた。
斜め右に飛び上がる様にしてハンスの剣を避けたアリスは、一閃、フェンシングのように剣を突き出したのだ。
完全に相手の動きを予測したとしか思えない。
「っな……!」
ハンスは勿論の事、マロースと取り巻き達も驚きに目を見開いている。
凍り付いた空気を壊したのは、バルドの快活な声だった。
「おう、面白そうな事やってんじゃねぇの」
バルドは試合を見ていた団員の輪を越えてアリスに近付くと、ニカッと笑って言った。
「俺は副団長のバルドだ。良かったら相手してくれるか?」
アリスはまた頷いた。
バルドとアリスの試合は本当に凄まじかった。
両者とも目で負えないくらいのスピードで何合も打ち合い続けた。
バルドは見た目から、もっと力業を得意とすると思っていたが、繊細な剣捌きでアリスの素早さに対応していた。
その内、アリスの眉間にシワが寄りだした。額に汗が滲む。
本人達にしか分からない力の均衡が、少しずつ崩れ出しているのだろう。
とうとうアリスの剣が宙に弾かれた。
2015/01/11 修正