表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第四章【魔法ギルド編】
42/82

ただいま

 魔法ギルドからの帰り。

 ルークと別れた俺は、クインシーと共に馬車に揺られ、トリスタンの屋敷に向かっていた。御者はトムさんだ。

 俺が屋敷に帰ると知って、トリスタンがよこしてくれたらしい。

 トムさんは、魔法ギルドの前で会うなり俺の手を握って、心配しましたと言ってくれた。




「シュテルン公爵家の坊ちゃまが、騎士団のダンチョーやってんだっけ」


「トリスタンは良い団長ですよ。優しいし」


 俺が思ったままの事を言うと、クインシーが鼻で笑った。


「ハッ。初めて聞いたな。メンシス騎士団長は、怖いだの冷徹だのと言われているらしいが」


「誰がそんな事を?」


「知らねえよ。ただの噂だ。ま、それが一般的なイメージってやつなんじゃねぇの。金持ちへのやっかみもあるだろうけどな」


 確かに、トリスタンのあの鉄仮面は周囲に誤解を与えるのかもしれない。


「イメージか……」


 一般的と言うのは、王都の民の感覚の話だ。

 クインシー曰わく、王都の騎士のイメージとは、あまり良くないものらしい。


「別にメンシス騎士団に限った事じゃねぇ。王都の民は、壁に守られてるからな」


 辺境の騎士団は、周辺の街や村の人々にとって、モンスターから守ってくれる重要な存在だ。

 しかし、壁に守られた王都の民にとって騎士の重要度は低いのだ。

 中には、騎士は威張り散らすだけで役立たずだ。税金の無駄使いだと言う者達もいるらしい。

 そう言えば、王都に来てからギルドと騎士団を往復する毎日だった。

 クインシーに言われて、騎士達がどう思われているのか改めて分かった。

 確かに、中にはマロースのようなやつもいる。だが、多くの騎士達は、国の為を思って日々鍛錬をしている。みんな良い人達だ。


 これから先、ギルドとの連携を取る機会が増えれば、きっとそのイメージも改善されるだろう。


「……頑張ろう」


「ま、悪いイメージってのは中々変わらないもんだ。気長にやんな」


 クインシーがニヒルに笑った。

 軽く放たれたその言葉には、何だか重みがある気がした。

 俺は小さく頷いた。





 屋敷に着くと、トリスタンとアリスが出迎えてくれた。


「ただいま」


 自然と口から出た言葉に、自分で驚いた。


「ああ、よく帰った」


 トリスタンがそう答えた。あのトリスタンが。しかも笑った、気がした。


「お帰り、ノア」


「お帰りなさいませ、ノア様」


 ポカンとした俺を見て、アリスが笑いながら言った。

 トリスタンの後ろに控えた執事とメイド達も、静かに頭を下げて挨拶してくれた。

 俺はもう一度、笑ってただいまを言った。



「えっと。先王陛下から話があったと思うんだけど、」


「護衛のクインシー・キューだ。世話になる」


 いつもの鉄仮面に戻ったトリスタンが、ああ、と頷いて執事をチラリと見る。


「クインシー様のお部屋は、ノア様のお隣の部屋をご用意しております。後程ご案内致します」


「護衛する側にとっちゃ、そりゃ助かるが。随分扱いが良いんだな、こんなチンピラ相手によ」


 トリスタンは首を振った。


「ノアをよろしく頼む」


 短い言葉だったが、クインシーにはそれで充分だったらしい。


「フッ。任せろ」


 次いで、クインシーがアリスに目線を向けた。


「そんで、このお嬢さんは誰だ?」


「私はアリス・ルルー。ノアを守るためにここにいる」


「アンタ、ノアの為に命捨てる覚悟があんのか?」


 鋭い目つきで、クインシーがアリスに問いかけた。

 俺は首を振る。アリスに命を捨てる覚悟などして欲しくなかった。

 アリスはチラリと俺を見た後、すぐにクインシーに向き直った。


「それはノアが望んでいない。生きてノアを守る。それが私の覚悟だ」


 アリスは一切迷わずに、そう言い切った。

 クインシーが溜め息をついて俺を見る。


「おいノア。お前どんだけ甘やかされて生きてんだよ」


「う……」


 生きて他人を守る。

 それがどんなに難しい事なのか、俺には分からない。

 俺の我が儘や傲慢で、アリスを縛ってしまっているんだろうか。


「ま、別に何人いようが構わない。俺は俺で動く。邪魔はすんなよ」


「分かった」


 クインシーはそれ以上、深く突っ込んでこなかった。

 アリスとも折り合いをつけたようで、俺はホッと息をついた。


「明日っから魔術の訓練も始める。じゃあな」


「お休み、ノア」



 


 アリスやクインシーと別れ、俺はトリスタンと共に静かな屋敷を歩いていた。


「……すまなかった」


 突然、トリスタンが囁くように言うものだから、一瞬何を言われたか分からなかった。

 言葉に詰まった俺を見て、どう思ったのか、眉間にシワを寄せたトリスタンが歩くのを止めた。


「本当に、すまなかった」


「うわわ、聞こえたから、分かったから頭上げてくれ!」


 俺が慌ててそう言うと、トリスタンはゆっくりと顔を上げた。


「何か間違っていたか?」


 首を傾げるトリスタンに、俺は頭を抱えた。

 アルビオンの貴族って、人に頭なんか下げないんじゃなかったっけ?


「バルドに聞いた」


 つまり、副団長に庶民の謝罪の仕方を聞いたと言う事だろうか。


「団長として、友人として、だ」


「トリスタン……。分かったよ。ちゃんと考えて謝ってくれて、ありがとう」


 そう言うと、少し考えてからトリスタンが言った。


「それは、謝罪を受け入れてくれると言うことか?」


「そうだよ。許す。仲直りだ」


 トリスタンの眉間のシワが無くなった。

 あれは困った顔だったのか。

 別に怒ってもいないし、喧嘩した覚えもないが、言って正解だったようだ。


「仲直り……」


 心なしか、トリスタンの声が柔らかい気がする。俺はなんだか小さい子供を相手にしている様な気分になった。

 

 静かに側に控えていた執事と目が合った。

 彼は嬉しそうに笑っていた。




「実は、イズーにノアの事を話したのだ」


「俺の怪我の事を?」


 トリスタンが頷く。

 箱入りのお嬢様に、血なまぐさい話を聞かせてしまったな。


「……お前に怪我をさせた事をイズーに責められてな」


 愛する妹に言われたのが、よっぽど堪えたらしい。トリスタンの眉間にシワが戻っている。


「ご、ごめん」


「いや」


 そんな話をしている内に、イズーの待つ部屋に着いた。

 部屋に入ると、俺を見たイズーが、ソファーから立ち上がった。


「ノア!」


「は、はいっ」


 イズーは俺の真正面、すぐ側まで来ると、ピタッと止まった。


「し、心配、心配しました!」


「あ、」


 イズーはその大きな緑色の瞳から、ボロボロと涙を流した。

 それでも、無事を確かめるように、その目はじっと俺を見上げている。

 ネコ耳はぺたりと伏せられ、薄い肩は小さく震えている。


「無事に、戻りました」


「はいっ」


 どうしよう。

 更に泣いてしまった。

 無条件に抱きしめてしまいたくなる気持ちを押さえる。


「……心配してくれて、ありがとう」


 胸の前で祈るように合わせられたイズーの両手に、俺の両手を重ねた。


「怪我は、もう大丈夫なのですね?」


「はい、治りました」


 そう言うと、やっと安心したのかイズーが笑ってくれた。

 良かった、本当に良かったと嬉しそうに繰り返すイズーに、俺も嬉しくなって笑った。




2015/01/12 修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ