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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第四章【魔法ギルド編】
37/82

クリスとアリス 2

頑張って更新速度を上げたいです。

少し短めですが、このサブタイトルのお話はこれで終わりです。


少し前の事ですが、200万ユニークアクセス達成しました!

ありがとうございます!

「お前が昔から争い事を避けているのは、なんとなく感じていた。だからギルド職員になったんだろう?」


 俺が城から出て行く時、クリスは一言も反対しなかった。それは、どうでもいいと思っていたのではなくて、俺を理解していたからだったんだな。


「なのに、何故父上を庇って刺されたんだ」


 いきなり話が飛躍した。


「ご令嬢、それでは自分の父が害されてもいいような口ぶりだが」


「そうだ。ノア、お前が普通の生活を望んでいるのであれば、父上を見捨てるべきだった」


 アリスが片眉を上げて真意を尋ねるが、クリスはあっさりと肯定した。

 何を考えているんだ、実の父親を見捨てればよかったなんて。


「そんな、そんな事できない! クリスだって、あの場にいればそうしただろう?」

 

「私は父上の娘だ。当然、そうする。だが、お前はなんだ?」


 クリスが突き放すように言った。

 俺は、俺はただのギルド職員だ。孤児で、おじさんには好意で保護してもらっただけの。だが、クリスは俺の事を家族と言ってくれたのでは無かったのか。


「ノア。犠牲もなく手に入る平和など、刹那の夢だ」


 クリスは立ち上がり、窓の外を見ながら言った。その横顔は冷たく見える。

 おじさんを助けなければ、俺はロトス帝国に出会う事は無かっただろう。俺のスキルについて知られていたとしても、直接皇女と俺が会わなければ、先王も白を切れたかもしれない。

 俺は手を握り締めながら言った。


「おじさんを犠牲にすればよかったと言いたいのか」


「そうすれば、お前はただのギルド職員でいられた」


 人間は無意識に自分を一番に考えてしまう生き物だと思う。しかし、家族と自分の幸せを天秤にかけて、そうして手に入れた平和の、なんて後味の悪い事か。

 俺はそんな自分の在り方に耐えられないだろう。

 立ち上がり、クリスに詰め寄る。


「俺は! おじさんを犠牲には出来ない。そんな生き方は、したくない!」


「それがお前の本心か?」


「ああ」


 こんなに大きな声を出したのは久しぶりかもしれない。

 クリスの確認にも、俺は強く頷いた。


「そうか。……お前は甘いな、ノア」


 甘い、か。

 確かに。自分は巻き込まれたくない。それなのに犠牲も払いたくないとわがままを言っているんだ。二度目の人生だと言うのに、精神的に成長出来ていないな。


「だが、お前はそのままでいてくれ」


 やっとこちらに向き直ったクリスが、儚く微笑んで言った。


「やっと、ノアの本心を聞けた気がするな。そんな怖い顔もはじめて見た。いや、真剣な顔か」


「え?」


 言われて、自分の顔をぺたりと触った。そんな怖い顔をしていたのだろうか。


「ご令嬢はノアを試したのか」


「人聞きの悪い冒険者だな。ノアが何を考えているのか知りたかっただけだ。ちゃんと私達の事を家族だと思っているのか、とかな」


「確かに珍しいものを見た。笑顔以外の表情もできるんだな」


「そうだろう。昔からこうだ。ちょっかいを掛けても、苦笑いをするばかり。悪戯のし甲斐の無いやつだった」


「そう言えば、馬鹿な貴族に理不尽な目にあわされた時も、ノアは曖昧に笑っていたな」


 それは、マロースと木刀で打ち合った時の事だろうか。馬鹿貴族って、アリスがはっきり言いすぎなんだと思うが。


「困っても、悲しい時も、笑ったまま眉を下げるだけだ。そんな顔しているから、いいように周りに使われるんだ」


「器用だな。いや、不器用と言うべきか。ご令嬢が心配してここまで来たのも分かる気がするよ」


「なんだ、話の分かる冒険者だな。名前は何と言ったっけ?」


「アリスだよ、ご令嬢」


「アリス、ご令嬢はよせ。クリスと呼んで構わない」


 ちょっと、待ってくれ。なんで意気投合してるんだよ。

 俺はクリスと真面目に話していたはずだ。それなのに、表情の話になってから、俺は置いてけぼりになっている。

 最初とは打って変わって、女性陣はこの短い間にトントン拍子に仲良くなったようだ。


「クリス、俺にも分かるように説明してくれ」


俺は、座っていたソファに、沈み込みながら言った。


「なんだ。賢いノアにも分からない事があるんだな」


「本当にな。例えば女心とかな」


 アリスが茶化して言うと、クリスもそれに乗って、二人で笑い出した。

 

 クリスは、俺がクリス達の事を家族と思っているか知りたかったと言った。

 確かにこれまで、そういう話はした事がなかった。クリスに家族だと思われていないと、俺は今日まで勝手に思い込んでいた。

 だが違った。

 関係を曖昧にして家族の縁を遠のけていたのは俺の方だったのだ。

 アリスが試したと言ったが、あれは俺に本音を言わせる為に、わざと厳しい事を言ったクリスの言葉を指しているんだよな。

 そこまではいい。

 甘いままでいろって、どういう事だろう。

 その後の表情やら女心やらも全く分からない。俺は降参と手を上げて、クリス達に聞いた。


「言った通りだよ」


「後は自分で考えるんだな」

 

 男にも負けない力強さと、女の美しさを兼ね備えた二人は、まるで姉妹のように息を合わせて言うのだった。




2015/01/11 修正

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