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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第三章【騎士団編】
31/82

狂信者 3

新しくアルフォンスの挿絵を、登場人物紹介にアップしました。おぎあつさん、ありがとうございます。


戦闘描写とか嫌いじゃないんですが、難しいですね。


「参りました」


 アリスが肩で息をしながら、バルドに一礼した。


「いやぁ、久しぶりにヒヤリとしたよ。強いな、君」


「あなたの剣は、ひと振りがとても重かった。ただ速いだけの私とは比べ物にならない。お相手ありがとうございました」



 バルドが剣を肩で支え、マロース達がいる方を向いた。


「ハンス。真剣を使って訓練なんて、何を考えてんだ?」


 ハンスは未だに負けを認めたくないのか、顔を歪めて吐くように言った。


「スキルを使えば……! あんな女……!」


 スキルや魔法を使っていないのは、アリスも同じである。

 バルドが何か言う前に、マロースがハンスを冷たく見下ろして言った。


「騎士なら潔く負けを認めろ。隊の恥晒しめ」


「……す、すいません、マロース隊長」


 ハンスは慌てて姿勢を正したが、マロースはもうそちらを見ていなかった。

 バルドは溜め息をついて、今度はマロースとスミスを交互に見て言った。


「お前達もだ。なんで止めなかった」


「申し訳ありません!」


「フンッ。本人同士の了解を得たので、問題無いと思いました」


 マロースの悪びれない言葉に、いつも柔和な表情のスミス隊長が表情を引き吊らせた。


「そこの、」


 マロースが、何故かこちらを向いた。視線が俺に集まり、嫌な汗が流れる。


「団長のご友人とやらは、訓練には参加しないのかい?」


「私は、ただのギルド職員なので……」


「ふぅん。以前、そこの見習いに混じって木刀を振っているのを見たが。僕の誘いには乗ってくれないのか?」


 確かに、体を動かしたくてソル達に混じって木刀を振った事があった。

 目的は体を鍛える為であって、剣技を磨くためでは無い。

 だが、マロースにしたらそんな事は関係ないのだろう。


「ならば、私が相手に」


「アリス、いいから」


 前に出ようとするアリスを止める。

 せっかくバルドがアリスに勝って、騎士団の面目が保たれたのだ。マロースの実力は知らないが、仮にアリスが勝てば、ややこしい事になる。


「ノア君、やるのか?」


「まあ、せっかくの機会ですから」


 上着を脱いだ俺に、バルドが声を掛けてきた。

 俺はこれまで、見習い三人の注意を受けて、マロースとは単独で接触しないようにしていた。

 あちらも、特に接触を図ってくる様な事は無かった。こうして直接話しをするのは初めての事である。


「武器は木刀でも構いませんか?」


「ああ、好きにするといい」


 マロースは意外にも素直に木刀で試合する事を認めた。

 バルドにも言ったが、せっかくの機会である。

 マロースがどんな人間なのか、少しは分かるかもしれない。

 少しばかり痛い思いをするのは我慢だ。

 俺は木刀を正眼に構えた。


 やる前から言うのも何だが、全く勝てる気がしないな。

 マロースと目が合う。

 俺はスキルで、マロースのステータスを読み取った。


「始め!」


 バルドが合図して、試合が始まる。

 間合いが詰まるのを嫌がる俺に、マロースが仕掛けて来る。


「どうした、掛かって来い!」


「うわっ」


 マロースが右左に打ち込むのを避ける。

 ナイジェルやトリスタンと比べれば、速くない。

 マロースのステータスの印象は、魔術の素質が高いと言う事。

 トリスタンより、身体の能力値は低かった。

 先程から見ている限りだと、フランと同じ、アウロラ流だ。


「逃げてばかりじゃ、試合にならないぞ!」


 マロースが俺の逃げ腰を笑いながら、どんどん打ち込んで来る。

 マロースの攻撃を受け流しながら、あれ? と思う。俺でも受け流せている。

 フランと手合わせして、体がアウロラ流の型が頭に入っているせいか?

 マロースがただ油断して手加減しているせいかもしれない。

 どっちにしろ長くは保たない。長くやればやる程、対人経験の浅い俺が不利になる。

 マロースは幾つかの型を組み合わせ、最後に大きく突き放す技が好きなようだ。それを繰り出す為に、半歩後ろに下がる。

 俺が反撃出来るとすれば、その時ぐらいだろう。


「……グッ」


「そろそろ終わりにしてやろう!」


 避け損ねた木刀が逸れて太股を強く打った。めちゃくちゃ痛い!

 しかし、よろめいている暇は無い。

 マロースが後ろに半歩下がった。今だ!

 よろつきかけた足を無理やり踏ん張って、強く前に踏み出した。


「シッ……!」


 俺の繰り出した突きは、マロースの頬を掠めた。

 マロースは驚愕の表情で、上体を仰け反らせている。

 俺は手首を返して、体勢を元に戻そうとした。

 その時、振り上げた俺の木刀が、たまたまマロースの利き手に当たった。

 木刀を取り落とす事は無かったが、マロースは白い肌を真っ赤にさせて怒りだした。


「お前ぇえ!」


 力一杯振り下ろされた木刀を受け止めるが、うまく勢いが殺せず、俺は後ろに吹っ飛ばされた。

 体勢を立て直す暇もなく、容赦無い打撃が連続して俺に襲い掛かる。

 俺は、ほぼ膝立ちの状態で頭を守っていたが、ついに木刀を弾き飛ばされた。


「止め!」


 鋭い声で、バルドが怒鳴る。

 それでもマロースは無防備な俺に木刀を振りかざした。 

 バルドは、俺とマロースの間に体で割って入り、試合を止めた。


「マロース!」


 バルドの太い声が耳朶を打つ。ハッとしたマロースは、それでも怒りに顔を紅潮させながら、尻餅を付いている俺を睨み付けていた。


「僕は認めないからな!」


 そして、そう吐き捨てる様に言うと、速い足取りで兵舎へと去っていった。

 慌てて取り巻き達もマロースを追いかける。


「認めないって、俺の負けだよな?」


 地べたに座ったまま脱力している俺に、ソル達が駆け寄って来て言った。


「すごかったっス! マロース隊長に一撃入れるなんて!」


「ほんとほんと。おい、大丈夫か?」


「今のは偶然だよ」


 フランの手を取り、立ち上がる。

 認めないって、あれを一撃入れたと認めないと言う意味か。


「怪我は大丈夫かい?」


 スミス隊長がそう言って、足に触れた。


「まぐれでも何でも、一撃は一撃だ。片付けはいいから、傷を冷やしてきな」


 バルドがそう言い、訓練はお開きになった。

 

 

 俺はソル達やアリスと共に、水場に移動した。


「完全に敵に回したな。マロース達を」


「まぁ、いつかはこうなる気がしてたけどなー」


 ジェラードが溜め息混じりに呟くと、フランが笑いながら言う。


「ソル達の忠告、無駄にしてしまって、ごめんな」


「よくも知らない部外者なのに、挑発に乗ってしまって申し訳ない」


 俺とアリスが頭を下げると、ソルがぶんぶん頭を横に振った。


「いや! こちらこそ、巻き込んでしまってというか……」


「そうだな。マロース隊が俺達にキツく当たるのは前からだし」


 ソルが肩に触れる。

 まさか、マロースにやられたのか?

 視線で問う俺に、ソルは苦笑いで首を振った。


「やったのはハンスだけどな」


 マロースは、徹底的な貴族主義者で、自分より格下の家には絶対に従わない人間らしい。

 ソルは平民から、養子で貴族になった。

 元から目を付けられていたが、騎士になると決まって、我慢がならなかったらしい。

 見習い達は、騎士と共に街を見回りする時、ランダムに各隊に振り分けられる。

 たまたまマロース達の隊に振り分けられたソルは、解散後にリンチにあったのだ。

 後から別の隊に見回りに行っていたフランとジェラードが駆け付けて、なんとかその場はしのいだが、ソルは肩を痛めた。


「それ、他の隊長達は知ってるのか?」


「いいや。直接やるのはマロースじゃなくて取り巻き達さ。訴えた所でマロースが指示したっていう証拠は無い」


「けど……!」


 俺は言葉を飲み込んだ。そんなの間違っている。

 しかし、訴えた所でマロースが首謀者だと言う決定的な証拠は無いのだ。

 嫌がらせは酷さを増し、我慢出来ない者は騎士団を去っていく。これまでもそうだったと、フランは言う。


「結局、辞めてしまったらそれまでだ。実力がある者は上に行ける。ソルみたいにな。もう少しの我慢だ」


 ジェラードが言った。

 ソルとフランは、新魔窟発見の時、前線で戦った。その実力が認められ、騎士になる事が決まっている。


「ごめん……。ジェラード……」


「謝るな。俺はいいんだ」


 ジェラードは連絡係りとして二の郭門まで走り、その後は後方支援に回った。

 彼の本当の得物は槍で、普段と同じようにただの見回りを装って現場に向かったので、剣しか持ち合わせていなかった。

 無理をせず、ジェラードは自分の判断で下がった。言い換えれば、騎士になるチャンスを逃したのだ。


「全く味方がいない訳でもないさ。スミス隊長なんかは色々配慮してくれるしな!」


 フランは、この話は終わりだとばかりに、わざと明るく言った。


「とにかく、これまで以上に慎重に行動するべきだ。ルークにも馬車の事故の事や、今日あった事を話しおいた方がいい」


「そうだな」


 ジェラードに注意され、俺は頷いた。

 単純にハンスやマロースの事をトリスタンに言った所で、問題は解決しないだろう。

 フランが突然、思いついた! と声を上げた。


「なぁ、アリス。しばらく王都にいるなら、ノアの護衛をしたらどうだ?」


「それは良い考えっス! アリスさん強いし!」


 俺はその提案に驚いてアリスを見た。


「わかった。そうしよう」


 直ぐに頷くアリスに俺は頭を抱えた。



2015/01/11 修正

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