表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第一章【異世界の日常編】
3/82

俺のお仕事

二話目投稿します。

ギルド職員の話なんて、需要あるのかな?

 傭兵を見送って、次を呼ぶ。

 まだまだ列は途切れない。俺と同じ中級から上級者向けの斡旋窓口は二つある。

 もうひとつの席には、モンスターの知識とギルドの窓口経験を兼ね備えた、美人な女の子が座っている。

 これぞギルドの窓口と言った感じで、男だったら迷わずそちらに並びそうなもんだが、何故か俺の列の方が長い。


 これは別に俺が野郎共にモテるとか、そんなおぞましい事では無い。断じて!

 ただ、ああやって一言かけるようになってから、利用者達の俺に対する態度が変わってきた気がする。

 後から上司であるギルド支部長に聞いたのだが、どうやら俺が送り出した者達の生存率がやたらと高いらしい。(成功率では無い、生存率である。)

 それが利用者達の中で口コミで広がり、俺の列に並べば生きて戻れる、みたいなジンクスになったと。

 ジンクスだけじゃなく、あの一言が欲しいって直接聞いてくる奴もいる。はっきりと生存率が上がるのなら、誰だってそれに飛びつくだろう。

 俺の一言の情報は、ギルドに張り出された情報からでは分からないのだ。まだ誰も知らないくらい新鮮で、ピンポイントな情報である。


 情報源は誰にも言っていない。そろそろ支部長あたりにはバレていそうだが、俺は静かに暮らしたいんだ。

 RPGでよくある、国の陰謀に巻き込まれたり、勇者とか魔王だとかの冒険に連れて行かれたり、戦争に駆り出されたりするのはごめんである。

 ここは紛れもない現実で、俺はこのファンタジー極まった世界で生きていかなきゃならない。ギルド利用者(お客様)には悪いが、冒険者や傭兵みたいに、毎日生死を賭けて生活したくはない。今の所、金に困るような事も無いし。

 RPGだとか、ファンタジーだとか、この世界で生きてきた奴らには、聞いた事もない単語であろうそれらを俺が知っているのは何故か。それは、俺が転生者だからだ。

 俺は地球の日本という国で二十三年間生きてきた。気がついたら、このファンタジー溢れる世界に生まれ落ちていた。ぬるま湯のような世界から、一気に明日も知れぬ世界へ。



 二歳頃から記憶の混同が始まり、今はあの頃の記憶と、この世界での記憶は完全に同化している。前世の名前は思い出さない様にしている。今の俺はノアと言う。

 最初は戸惑ったが、明日も知れぬのは別に日本で生きていたって一緒だ。いつ事故にあうかなんて、誰も知らない。もしかしたら雷に打たれて死ぬかもしれない。有名人だろうが、金持ちだろうが、死ぬ時は死ぬ。

 なるべく長く、心穏やかに生きたいのなら、油断せずに、身の回りに注意を払う。無謀な事をせずに、堅実に生きる。

 俺はそう思ったし、そうやって生きていこうとしている。

 だから冒険者や傭兵なんかにはならず、今ギルド職員としてここにいる訳だ。


 先程、色々と巻き込まれたくないと言ったが、自意識過剰だからでは無い。

 俺の持っている特殊な点がバレて、ギルドの上層部や国の中枢部の耳に入れば、必ず目を付けられると分かっているからだ。

 転生者である事もそうだが、「鑑定士」と言う先天的なスキル持ちであるということ。

 もうひとつ、精霊の声が聞こえて、姿が見えるということ。

 これが異世界では普通の事であればどんなによかっただろう。


 スキルと言うのは人によって練度が違うが、人生が二回目のせいか、俺のスキルはレベルがカンストしているのだ。MAXである。

 「鑑定士」と言うスキルは本来、物に対して使うスキルであり、人に向けて使っても装備品の鑑定がされるだけで、本人の鑑定などできるはずがないのだ。

 しかし、俺が鑑定のスキルを発動させると、人間だろうが獣人だろうが、その者のレベルや、MPやHPと言ったゲームじみたものが数値化して見えてしまう。果ては、まだ本人も知らない、開花していない潜在能力まで分かってしまう。


 そして、精霊の姿なんてものは無いとされている。妖精と呼ばれる存在はいるし、場所や人によれば見えるし、使役できる。

 精霊はもっと格上の存在で、魔法使いの中でも、格の高い白魔法士や召喚士なんかだと、精霊魔法を使えるらしい。それでも、力の片鱗を少し借りる程度が精一杯だと聞いた時は驚いた。

 誰も見た事が無くて、大いなる力の存在のみが感じられている。この世界での精霊は、そんな認識らしい。

 俺には幼い頃から見えていて、何度も助けて貰っている。確かに誰にも見えていないようだったし、俺も安易に話しかけたりしなかったから、独り言の多い変人だと思われる事は無かったけれど。



「ようノア、なんか良い仕事紹介してくれよ。」


「アレックス。お前、ちょっとは自分で探せよ。」


 アレックスは、例の一言を欲しがる奴の筆頭だ。最近では仕事そのものを選んでくれと言ってくる。彼は傭兵で、剣士としては中々のレベルであり、潜在能力もまだまだ伸びしろがある。

 こうやって頼ってくれるのは、悪い気はしないが、その分こいつの生死の一端を預かっていると思うと、全面的に喜べないのも確かだ。

 なんだかんだ言って、アレックスとは俺がギルド職員になって以来の付き合いだ。公私は分ける方だが、ついつい言葉使いも気安くなる。


「これなんかどうだ。ランクは低いが、帰り道に何かに会うかもしれない。」


「何か、ね。もちろん倒せば討伐の報酬は出るんだろ?」


「そうだろうね。運良く狩れたら、良い素材も手に入ると思うよ。」


「なる程、それ受けるよ。」


 簡単に決めやがって。

 何かなんて不確かなモンスターの情報に不安は無いのか。俺を信じ切られても困る。そう目で訴えるが、アレックスはいつものように笑って請け合わない。

 以前聞いた時には、何かあったとしても、それを選んだのは俺自身だから、お前が責任を感じる必要は無いと言っていた。考えが甘いとも言われたな。だが嫌いじゃないとか言ってたが。


「じゃあ、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ。ご無事でのお帰りをお待ちしております」


 マニュアル通りの言葉で締めくくり、アレックスを見送った。


 帰りに会うかもしれない何かとは、レッドベアーである。簡単に言うとすごくデカくて攻撃的な熊だ。

 アレックスなら一人でも倒せるモンスターであり、この辺りで出るモンスターの中では、良い素材が採れる。毛皮や牙、爪から肉。内臓も薬になるし、全身素材の塊で、売ればしばらくは金に困らない。

 あれだけの説明でも、アレックスなら、会うかもしれないモンスターがレッドベアーだと分かっただろう。

 レッドベアーの話は、俺の秘密の友達、仲の良い風の精霊が朝一で教えてくれた。


 レッドベアーは普段森の奥にいて、人の前に姿を現す事は稀である。エサを求めてか、縄張りを追い出されたのか、アレックスに勧めた依頼先の村近くまで出てきているようだった。

 有害なモンスターは、一々クエストを発注せずとも討伐報酬が出る仕組みになっているし、森の奥に潜るとしたら他のモンスターにも警戒が必要だが、割と浅い所で狩れるのならば、これほどおいしい獲物はいない。

 レッドベアーは夜行性である。村での依頼を終えたアレックスが、夕方になり起き出したレッドベアーと帰り道で鉢合わせするだろという予想である。

 俺はこうして、精霊の伝えてくれるモンスターの情報と、ランクだけでは把握できない、本人の特性を「鑑定士」のスキルで見極めながら仕事の斡旋を行っているのだ。



2015/01/10 修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ