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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第三章【騎士団編】
26/82

今日で連載始めて一ヶ月です。

まだまだ素人で甘い部分も沢山ありますが、これからも見守って頂けると嬉しいです。



 夕方頃、トリスタンが屋敷に帰ってきた。

 リビングで顔を合わせると、トリスタンに街であった事について聞かれた。

 ある程度は、王城からの帰りに騎士団に寄って知っているらしい。


「ソル達のお陰で怪我は無いよ」


「そうか」


 俺を襲った獣人は、本来なら三の郭の住民らしい。

 何故二の郭に入れたのかは、現在調査中との事だ。

 三の郭には、獣人の住む一角があり、そこで生まれた獣人が職に就けずに犯罪に走る事があるそうだ。


 獣人はまだ大人には見えなかった。

 もし俺が勇者だったら、あの獣人を拾い上げて、どうにか面倒を見てあげようとしたのだろうか。

 仮にそう出来たとしても、俺は俺を傷付けようとした者を助ける気にはならない。俺は首を振って、これ以上考えない事にした。


「大丈夫か」


「ああ。今度からは気を付けるよ」


 トリスタンの眉間にしわが寄った。

 鈍臭いと思われたかもしれない。


「ならば、妹に会ってくれ」


「そうだな、挨拶しないと」


 トリスタンは、着替えてくると言って退出した。

 俺も正装した方がいいのかと執事に聞いたが、そのままでいいらしい。

 貴族というのは人に会うのにも服装を一々気にするのだと、なんとなく聞いてはいたが、それは本当の様だ。

 特に女子は、人に会うに相応しい格好でないと、人前に姿を表さない。


 クリスは例外である。

 おじさんと同じく、彼女は実用性に重きを置いている。

 妹さんも用意が整ったそうなので、トリスタンと共に応接間に移動する。

 体が弱いと聞いていたから、起き上がって大丈夫なのかと思ったが、寝室を人に見せる訳にもいかないのだろう。


 応接間には、既に妹さんが待っていた。

 体は小さく、肌も白い。

 長い間、屋敷から出ていないのだろう。

 髪の色はトリスタンと同じく黒で、瞳は透き通った様な緑だ。

 左右に編み込まれた髪が、猫耳のようになっていて、とてもかわらしい。



「イズーです。はじめまして」


「ノア・イグニスと申します」


 鈴を転がした様な子供っぽい声。

 トリスタンに紹介され、お互いに挨拶を交わして思った印象は、意外と元気そうに見える、である。

 彼女からは、母と同じような儚さを感じなかった。

 これが空元気ならば、悲しい事だ。

 にこにこと笑うイズーは、無邪気に俺に問い掛ける。


「ノアさまは、お兄さまのお友達だと聞きました」


「はい、仲良くさせて頂いております」


「まあ、本当に? お兄さまの友人に初めてお会いしましたわ」


「イズー」


 トリスタンの眉間にしわが寄った。

 トリスタンにも友人はいるだろうに。無表情なトリスタンに、にこにこ笑うイズー。顔は似ているのに、性格の違う兄妹だな。


「ノア、イズーをスキルで見てくれ」


「え、ああ。俺はいいけど……」


 鑑定士のスキルで見れば、彼女の悪い部分が見付かるかもしれない。

 例えば、極端に毒耐性が低いとか、体力値が人の平均より低いとか。

 もし火耐性が低いならば、熱さに弱いと言う事になる。

 そうやって弱点や欠点を補い、耐性の底上げをしていけば、虚弱体質も少しは改善されるかもしれない。

 イズーはまだ若い様だし、試すだけの価値はあるだろう。


「私は構いませんわ。お兄さまの言うとおりにお願い致します」


「分かりました」


 トリスタンも頷く。

 俺はスキルを発動させた。


 あれ? 別に普通だ。

 どこか特別偏っている数値は無い。耐性も低くないし、体力もそこそこある。

 トリスタンを弱くした様な数字の並び方である。

 俺が不思議に思ってトリスタンを見ると、彼は言った。


「イズーの種族が見えるか?」


「ああ、見えるよ。人族の平均値って感じだ。特別変わったスキルは無いようだけど」


 トリスタンは少し考えてから言った。


「獣人であれば、特殊な耐性があるものなのだったな?」


「そう。人族と獣人族ではステータスの覧が違うから」


 例えば、鳥の獣人ならば、中には飛べる者もいる。

 すると、ステータスにその部分が反映されて見えるのだ。


「それは、ハーフやクォーターでもか?」


「そうだが。まさか、彼女は…」


 獣人との間の子供なのか?

 そう思ったが、トリスタンは首を振った。

 とにかく、彼女が体が弱いと言うのは世間向けの嘘らしい。

 では一体、何故そんな嘘を付いてまで、この屋敷に隔離しているのだろう。


「イズー。髪を」


「……はい、お兄さま」


 イズーは少し震えている様にも見えた。


「ちょっと、ちょっと待ってくれ」


 俺は公爵家の秘密なんて知りたく無い。そう言いかけた。

 イズーの手が止まる。

 王都に来る時、少しは変わろうと思ったんじゃなかったのか、俺は。

 今更顔色を変えた俺に、トリスタンは言った。


「大丈夫だ。先王陛下も御存知の事だ。お前に迷惑は掛けない」


「……分かった」


 イズーの手が編み込まれた左右の髪をほどく。

 そこには髪と同色の猫耳があった。


「な、なんで?」


「分からない。ただ、イズーはコレのせいでずっと屋敷から出られないのだ」


 ステータスは間違い無く人族のものだった。

 ハーフやクォーターでも、種族によって違いはあるが、変化はある。

 トリスタンとイズーは、母親が違うらしい。

 イズーの母親は愛人で、イズーが生まれた時に獣人が人族を偽ったのだと疑いが掛かり、幽閉された末に亡くなったそうだ。

 シュテルン家は、フラテル教の信者では無い。イズーは半分は公爵家の血が流れている。

外聞もあり、イズーの誕生が闇に葬られる事は無かったが、公表する事も出来ず、この屋敷にひっそりと隔離されているらしい。


「イズーに獣人族の血が流れていようと私は気にしないが、親族の中にはうるさい者もいる」


「お兄さま……」


「先王陛下には許可を頂いた。ノアに見てもらえば、その疑いもハッキリするだろうと」


 トリスタンの表情はいつもと変わらないが、その眼はどこか晴れやかな気がした。

 イズーは胸に手を当てて、安心した様な、でも悲しそうな顔をしている。


「これで兄上には文句を言わせない。イズーはずっとここで暮らせばいい」


 イズーの手に自分の手を重ねて、トリスタンを安心させる様に言った。

 シュテルン家は現在、トリスタンの父であるノイシュが当主の座についている。

 トリスタンには兄がおり、その兄が次期当主である事は決まっているそうだ。

 その兄が、自分が当主になる前にイズーをどこか遠くの田舎へやろうと画策していたらしい。

 ノイシュには、俺の正体は知らせず、先王陛下からイズーについて報告が行く手筈になっているらしい。

 この屋敷に出入りする人間は限られているので、俺とイズーが接触したと言う情報も漏れる心配はしなくていいと、トリスタンに言われた。



「ノア。お願いがある」


「……俺に出来る事ならば」


 まだトリスタンの事は、よく分からない。

 先王に頼まれただけで無く、彼はちゃんと俺の意志を尊重してくれている気がする。ならば俺も、少しくらいはトリスタンに協力したい。


「たまにでいい。イズーの話し相手になってくれ」


「お兄さま!」


 イズーが耳をピンと立たせて、トリスタンを見る。

 なんだ。そんな事なら構わない。本当に優しいお兄さんだな。


「俺でいいなら、喜んで」


「ノアさま……」


 俺が笑って受け合うと、イズーは耳をピコピコさせて戸惑うように両手をモジモジさせた。

 きっと彼女の話し相手は、彼女の正体を知っているごく限られた人間だけだったのだろう。ならば話し相手くらい、お安い御用である。


「俺の事はどうぞ、ノアと呼んで下さい」


「……はい、ノア。私の事もどうぞお好きなように」


 その日は三人で食事をして、俺は心地よい眠りに着いた。



 翌日、俺はギルド本部までシュテルン家の馬車で運ばれた。

 装飾や紋章はパッと見ても分からないくらいに地味に抑えてある。

 それでも見る者が見れば分かるだろうけれど。

 御者にお礼を言って、本部の手前で下ろしてもらう。


「さて、頑張りますか」


 ギルド本部は朝からフル稼働していた。

 資料を運ぶ職員に名前を告げると、二階へ案内される。

 本部長室と書かれた部屋をノックし、返事が返ってきたので入室する。


「ようこそ、アルビオン王国ギルド本部へ。キミがノア君だね?」


 頷いて、お決まりの自己紹介をする。

 今度の上司は、かなりお年を召したお爺様だった。

 優しげな目と白い髭が特徴的である。名は、マースと言う。


「話しは聞いているよ。鑑定士としては、なかなか優秀らしいね。しかし、三の郭ではなく、本部に配属か」


「はい。窓口として配属されました」


 三の郭の支部は、鑑定と情報を主に取り扱う。

 二の郭の本部は、窓口業務が主な仕事だ。

 本部では更に、各地から集められた膨大な情報をまとめる機関があるが、同じギルドでも専門の職員が処理にあたっている為、俺はノータッチである。


 鑑定所が三の郭にあるのは、実用的で納得できるが、窓口も三の郭ではダメなのだろうか?

 少しそう思ったが、物流の中心は二の郭にあり、治安の問題から結局は二の郭に物も人も集まるようだった。


「ふむ。人事はわしの意見だけでは決められん。アルブスの支部長とエセックス辺境伯の強い推薦か。アルブスと王都の窓口は違うじゃろうが、頑張りたまえ」


「はい、よろしくお願い致します」


 本部長は、俺を鑑定所に配属したいのだろうな。

 本部長からしたら、完全にコネで窓口に入ったように見えるだろう。

 あからさまに先王陛下の話や、俺のスキルをバラす訳にもいかないし。

 人事部が決めた事だから、様子を見て、俺が使えない人間なら配属先を考えるように言うだろうな。


「案内を付けよう」


「失礼します」


 ノックの音がして、タイミングよく男が入ってくる。

 本部長に紹介されたのは、俺をここまで案内してくれた人だった。


「彼は情報課の者だが、本部にも支部にも詳しい。色々聞くといいだろう」


「ありがとうございます」


 俺は本部長に礼を言い、男と共には本部長室から退出した。



「えっと、」


「話は聞いてる。俺はルーク。協力者だよ」


 ルークはそう言うと、パチンとウインクした。

 先王の言っていた協力者は、このルークと言うチャラい男らしい。茶髪を長く伸ばし、後ろの高い所で緩く縛っている。

 軽薄そうな仕草に、若干不安になる。


「ああ、引くなって! 大丈夫、こう見えて口は堅いからさぁ」


 全くそうは見えないが、先王が選んだのだから、きっと大丈夫だろう。多分。

 情報課と言うのは市民に紛れて噂の真偽を確かめたりするらしいから、こういう男の性質は合っているのかもしれない。


「ノア・イグニスです。よろしく」


「よろしく、よろしく!」


 手を握られてブンブン振られる。これまでにあまり関わった事の無いテンションの人物に、俺はやっぱり不安を感じるのだった。



2015/01/11 修正

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