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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第三章【騎士団編】
25/82

油断

気がついたら80万アクセスです。本当にありがとうございます。


うーん、今回の表現後からいじるかも。


 昼前。俺達は街へ出た。

 まずは飯だとフランに引っ張られ、わいわいと騒がしい酒場に到着した。


「オヤジ、二階借りるよ!」


「またお前らか。暴れんなよ!」


 カウンターと少しの席しか無い混雑しそうな一階と違って、二階はちょっとお洒落なレストランの様な内装である。


「まあ、見た目は小汚く見えるかもしれないけど、出す料理は美味いから」


 フランは得意気に言う。

 二階は普段、あまり使われていないそうだ。

 今はオヤジさん一人で切り盛りしているから、二階で食べるならば、客が料理をセルフで運ばなければならない。

 室内を見渡す。ごちゃごちゃとしているように見えて、清潔感はある。

 ジェラードが下から料理を運んできた。

 皆で頂く。なかなか美味い。


「良い店だな。料理も美味いし」


「だろ? ノアが話しの分かるやつで良かったわ!」


 フランが机をドンと叩いて言った。ジェラードが頷いて続ける。


「エセックス卿の身内だとか、団長の友人だとか言うから、どんなお坊ちゃんかと思ったけど」


「口に合わないとか言われたらどうしようかと思ったぜ」


「いや、俺は普通だよ。貴族でもないし」


 この店に来るまでに、歩きながら少し話した。

 最初はお互いにちょっと遠慮して話していたが、すぐに打ち解けた。

 何時までも畏まった話し方は疲れるし。

 ソルはまだ少し戸惑っているが、その内慣れるだろう。


 むしろ三人の方が貴族の子弟だろ。すごく庶民的なんだが。

 そう疑問をぶつけると、大げさにフランが手を振る。


「俺達はそんなに有名な家の出じゃないからさ」


「そうそう。俺は三男だし、フランも四男」


 ジェラードは自分とフランを指差しながら言う。

 やっぱり家格によって色々あるらしい。


「俺は、養子です」


 ソルがポツリと言った。

 ならば貴族ばかりの騎士団内にいるのは大変だろうな。


「やっぱり、家柄って大事なのか?」


 俺がそう聞くと、フランが唸りながら言った。


「ウチの団はどうしても特殊だからな」


 ジェラードとソルも、それぞれ微妙な顔だ。


「実力は評価して貰えるが、その実力を発揮する機会が少ない」


「結局それが理由で、見習いのまま辞めていく人も多いっす」


 実力を発揮する機会。

 経験値を上げたいが、起用が難しい。

 このままでは、本当に実力がある者がその芽を出す前に辞めてしまう。そして家格による上下関係が、団内の空気を腐敗させて行く。

 五大国では、国同士の大掛かりな戦争がない状態が続いている。その為、国を守る者の力がどんどん飾りになって行く。

 先王やトリスタンが憂いているのは、こういう事だろうな。


「これから、たまに騎士団に顔を出すんだろ?」


「ああ、そのつもり」


「なら、マロースには気を付けろ」


 フランが声を潜めて言った。


「おい、フラン!」


「いや、聞いておいた方がいいだろう」


 ソルが焦った様にフランを止めようとするが、ジェラードは聞けと言う。


「マロースって誰? 今日、訓練場にいたかな?」


「いや、あの人は朝から訓練なんてしないっスよ」


 これまで穏やかだったソルが、吐き捨てるように言った。


 マロース・フロスト。フロスト伯爵家の次男。

 メンシス騎士団のナンバースリー。

 団内は今、トリスタン派とフロスト派で割れているらしい。

 特徴を聞くと、昨日こちらを見ていた派手な顔の男と一致した。

 では、マロースの周りにいた一派が、反トリスタンのやつらなのか。ソル達の反応から見て、見習い達からはあまり好かれていないようだが。


「分かった。マロースと二人きりになるのは避けるよ」


 三人の忠告は有り難いものだった。

 厄介事に自分から突っ込んで行くのはごめんである。

 他にも、主だったメンバーの話や普段の団の雰囲気などを聞いた。



 人を殺すには、別に特別な力はいらない。

 極端な話だが、殺意やきっかけがあれば、そこらに転がる石で殴っても、人は殺せる。

 問題は、俺が殺意やきっかけがあったとしても、人を殺せないと言う事だ。


 正当防衛。仕方なかった。やらなければ、やられる。

 死にたくない。常々そう思っていると言うのに。


 腹を満たした後、三人に街を案内してもらった。

 王都の穏やかな街並みに、油断していた。

 ソル達と少し離れて店を覗き込んでいた俺は、背後から近づく気配に全く反応できなかった。


 気が付いた時には、俺は地面に転がって、血飛沫を浴びていた。

 見上げる先には、抜刀したフラン、血を流す獣人を押さえ込むジェラード、俺を守って立つソルがいた。

 頭がガンガンして、腹の底から何かが抜けていく気がする。


「ノアさん、大丈夫ッスか?」


 ソルの声が遠く聞こえる。

 どこにも痛みは無い。とりあえず頷いた。


「どこも怪我して無いよな?」


 血の付いた剣を持ったまま、フランが近づく。

 それに無意識に後退りしようとした俺は、何とかその場に体を押し留めた。


「あ、ありがとう」


「いやいや、仕事だし。怪我無くて良かったわ」


「もし怪我なんかさせたら、副団長に殺されるぜ」


 三人は俺の護衛で、物取りに狙われた瞬間、助けてくれたのだ。

 獣人が持っていたナイフが、遠くに転がっている。

 周囲の人間達は、遠巻きにこちらを見ているが、三人が騎士見習いだと身なりから分かったのか、誰も近づいては来ない。



「これだから、獣人は」



 誰かが言った一言が、やけに耳に残った。




 ジェラードは獣人を縛り上げ、警邏に引き渡す為にその場に残った。

 三人で駐屯地に戻る。

 フランは街であった事を副団長に報告しに向かった。

 ソルにタオルを借りて、顔に飛んだ血を鏡を見て拭う。


「教会に行かないで大丈夫ッスか?」


「ああ、うん。俺、フラテル教じゃないから」


「あ、そうッスよね。エセックス卿は獣人肯定派ですもんね」


 フラテル教。

 人族の間では主流の宗教だ。

 全ては人族から始まり、栄え、人族の聖なる力が悪を退ける。

 獣人は人族の亜種であり、下等な存在。それ故に悪しき魂が宿りやすい。


 そう教えを説いている。

 フラテル教は、五大国のロトス帝国が発祥の宗教だ。

 その昔、暗黒期に滅びかけた国をフラテル教の聖騎士が救ったらしい。

 その伝説は今でも語り継がれ、人族が世界で最も優れているという選民意識から、五大国では主流の宗教となった。


 王都は勿論、大きな街には、フラテルの教会がある。

 悪い事があった時、穢れを感じた時は、教会に行って清めて貰うのがフラテル教徒の習わしである。

 前回の暗黒期で、おじさんの取った行動は、フラテル教にとっても、ロトス帝国にとっても、色々な意味で衝撃的だったろう。


 落ち着きを取り戻した俺は、馬車に乗ってトリスタンの屋敷へ帰って来た。

 トリスタンはまだ城から戻っていない。


 静かなリビングで、俺はメイドのニーナに出してもらったお茶を飲んでいた。

 手首のブレスレットを触る。

 俺が獣人に襲われた時、何の反応も無かった。

 精霊の気紛れか、ソル達がいるから大丈夫だと警告しなかったのか。


 例えば、今回襲われた事で腕を失ったとして、俺が生きていれば精霊は問題ないと思っているのかもしれない。

 生きているのだから、俺のお願いは聞いてくれているのだ。


 フランは戸惑いなく、獣人を斬って捨てた。

 俺には無い、戦う覚悟だ。

 動くべき時に動ける。


 俺は何も出来なかった。

 ただ地面に転がっていただけである。

 正当防衛で、獣人を斬った。やらなければ、やられていたから。獣人は人間より下等な存在だから、法に照らさなくても構わない。

 もし俺が何かの弾みで、あの獣人を殺してしまったとして、俺は元の俺に戻れるのだろうか。

 フランの様に、護衛対象や自分を守るのは当たり前だと思えるのだろうか。

 所詮、戦った事の無い人間の甘い考えではあるけれど。


 俺はトリスタンが屋敷に戻るまで、埒もなく考えていた。



201/01/11 修正

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