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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
第二章【転換期編】
19/82

朝の出来事

予定外に一話増えました。

まだ最初に考えていたプロットに追いつかないです。

更新頑張ります。


 昨日は唐突すぎで、何も話せなかったな。

 おじさんは何故俺を呼んだのだろう。

 支部長にも許可を取ってあると言っていたが、普通に考えたらシフトに大穴空けてる事になるのだから理由が気になる。

 俺のスキルが支部長に知られた事が関係するのだろうけれど。それだけだろうか。


 早朝、目が覚める。

 外はひんやりとした空気が漂っていて、人気が無い。

 久しぶりに、体を動かしてみようかと立て掛けてある木刀を手に取り、中庭に出た。


 俺は真剣を持った事が無い。

 ナイジェルに護身術の訓練を受けた時も、強要されなかった。

 十二歳になった頃からだろうか。俺はナイジェルの勧めで、木刀を握った。

 鑑定士のスキルを磨く事や、知識の吸収ばかりで勉強漬けの俺を見かねて、ナイジェルが外に引っ張り出して稽古を付けてくれたのだ。


 転生したのだから、少しは経験が生かせるものだと思ったが、ゲームの様には行かなかった。

 色々試してみたが、スキルが開花する事も無かった。

 自分自身を鑑定士のスキルで見る事は出来ないが、持って産まれた剣の才能は低いのだと分かった。

 大した努力もせずにと思われるかもしれない。

 死にたく無いなら強くなれと。

 皆が皆、そう思って強くなれるならば、天才なんて言葉があるのはどうしてだろう。

 漫画の主人公の様にはなれなかった。俺は強くなるのを諦めた。


 それでも、体を鍛えるのは戦うのとは別だろう。

 もしもの時、敵から逃れられる可能性が少しでも広がるかもしれない。

 そう思って、たまにこうして鍛錬もどきを行っている。

 

 俺は真剣を握った事が無い。

 いざという時、パニクって自分で自分を刺すのがオチだから。


 中庭で木刀を振る。無心になって、ひたすら振る。

 こういう精神統一は好きだ。


 カツン。


 廊下に響く硬質な足音。

 俺は木刀を振るのを止めて、音の方を向いた。


「そなたは、この城の兵か?」


 美丈夫、と言うのだろうか。一目で貴族だと分かる佇まいの男性が声を掛けてきた。

 俺は胸に右手を当てて、軽くお辞儀する。


「いいえ。私は縁あって、伯爵様に世話になっている者です。ノア・イグニスと申します」


「そうか。私はトリスタンと申す」


 トリスタンと名乗った彼は、多分メンシス騎士団の人だ。

 旅の間は甲冑を着ていたし、俺は最後尾で馬車の中だったから、顔は把握していないけれど。


「ノアよ。手合わせをせぬか。木刀で良い」


「……はい。私では騎士様のお相手は勤まらないと思いますが、それでもよろしければ」


 困った。貴族特有のお遊びだろうか。下手に断れない。

 幸い、木刀でいいと言ってくれているし、適当に負けて逃げるか。

 俺は断りを入れてから、一旦部屋に戻って、木刀をもう一本持って来た。

 ナイジェル用のものがそのまま部屋に残っていたのだ。


「では、お手柔らかにお願い致します」


「ああ」


 ただ静かに見合う。

 先に動いたのは俺だ。技量も何も無い俺が、相手の隙を突くなんて出来ない。

 簡単にいなされ、そこからは一方的に打ち込まれた。ひたすら押し切られない様に防いだ。

 疲れが見え始めた俺の剣先がブレたのを見て、トリスタンが木刀を強く横にはらう。

 俺の手から、見事に木刀が飛び、首筋にトリスタンの剣先が突きつけられる。


「ま、参りました」


 俺は息も絶え絶えである。対してトリスタンは表情ひとつ変わらない。


「どう思った?」


 どうにか息を整えて言う。


「はい、お強いですね。さすが騎士様です。剣先にブレが無く、ひとつひとつの攻撃が重い。手加減されてなければ、直ぐ飛ばされていたでしょう」


 素直に思った事を伝える。

 しかしトリスタンは、それだけでは納得しなかった。


「では、ノアよ。魔術も使えばどうなる?」


「結果は変わらないでしょう。私程度の魔術では、トリスタン様の動きの前では無力です」


 これも本当の事だ。

 彼ぐらい実力のある人間の前で、魔力を使ったとしても、発動までの時間を考えれば、結局その前に叩かれて終わる。


「そなたが私で、私がエセックス卿だ」


「は?」


 すぐには飲み込めなかった。

 つまり、おじさんと自分の実力差の事を言いたいらしい。


「昨日、卿に会って早々、一騎打ちをしたのだ」


 何やってんだあの人。


「一瞬で勝負は決した。私の負けだ」


「エセックス卿は、この国の誰よりも経験がおありです」


 トリスタンの凍える瞳がこちらを向く。

 怒らせただろうか。さっきからヒヤヒヤする。


「正に。我らには経験が足らない。お飾りの騎士団よ」


 珍しい人だな。清々しいくらい潔い。

 おじさんは、貴族のお坊ちゃん達の鼻っ柱を折る為にやったんだろうな。

 少なくとも、この人は経験不足の自覚がある。


「それでも強いと言えるか?」


「私にとったら、全ての人が強いと感じます。トリスタン様がお強いと思った事に偽りはありません」


 ハッキリと言うと、トリスタンの口元が、少し緩んだような気がした。


「そうか。……何でもよい。他に思った事があれば正直に述べよ。叱りはせぬ」


 今ので終わる所だろ。お世辞じゃなく本当に強いと言ったのに。

 逆鱗に触れて、叩き切られやしないか。様々な事を考えながら、俺はスキルを発動させた。

 見事にキレイな数字が並んでいる。ひとつひとつの能力値が高く、隙が無い。

 しかし、言い換えれば突出したものが無いのだ。


「トリスタン様が得意とされている魔術の属性は何でしょうか?」


「全てを限界まで高める様心がけているが。強いて言えば、光だろうか」


「ならば、そちらをもっと伸ばしてみては如何でしょうか?光属性ならば、騎士団にも相応しい属性ではないかと存じますが」


 トリスタンは自分の事をよく分かっていた。伸びしろは光属性にこそある。

 家訓なのか騎士団の掟か知らないが、均等に鍛える方法をとったせいで、得意分野が伸び悩んでいるのだ。

 彼は少しの間沈黙し、それから頷いた。


「参考にしよう。有意義な時間だった。また会おう」


「はい、ありがとうございました」


 トリスタンは来た時と同じくカツン、カツンと規則正しい音を立てながら、城へと消えていった。

 なんだか朝からドッと疲れた。



2015/01/10 修正

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