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16話:お袋とテープと日記と手紙
 やあ、俺だ。
 ジーンに拘束された俺だ。
 手首縛られて、首にも首輪の如く縄をかけられて、羞恥プレイの如く校舎を歩いてきた俺だ。
 
 今はジーンの部屋に居るんだが、なんで俺はあんな辱めを受けたんだ?
 
 数十分前の事を思い出せない。
 一体俺の身に何が……

「これが“○月○日、マゾ訓練でキレるの巻”ですね」
「ありがとね。他にもある?」
「ええ、これは“○月○日、錬金術講義で教官に説教をするの巻”です」
「あらあらまあまあ」
「こちらが“○月○日、国軍将官に喧嘩を売るの巻”ですね」
「…負けた?」
「ええ。完敗だったようです」
「………」
「どれからお聞きになられますか」
「うーん。じゃあマゾ訓練編で」
「解りました」
 
 そして流れる俺の啖呵。
 
“諸君!! 派手に行こう!!”


 あああああ!! やめてーーーッ!! 聞きたくなーい!! 恥ずかしいから、恥ずかしいからヤメテ!!
 
 そうか、現実から目をそらせてただけなんだね。アハ、アハハハ。
 




 
 上記のような事態になったのは他でもない、お袋が来たからだ。
 あの後、本当縄をかけられたまま校舎を横断し、女子寮のジーン・ルールールの部屋に連行された。
 もうね、道行く人の呟きが忘れられない。

“え? シグ、ルド…君?”
“あ、変人がまた何かやってるし”
“お、本当だ。ジーンさんも可哀想にな、あの変人に付き合わされて”
“にしてはちょっと嬉しそうな顔してねーか”
“あ、うそっ、シグルド君ってそう言う趣味?”
“うわ、いくら変人でもそれは無いわー”
“そんな、好きだったのにっ!!”
 
 そんな声が耳にこびり付いてる。
 あ、いや、最後のはそう言うのが合っても良いんじゃないかと言う願望です。
 てかオイッ!! トラウマってレベルじゃねーぞ!!
 
精神が病むぞ!! だから離して! お願い、僕を解放して!!
 
 何度そう叫んだ事か、しかしジーンは無情にも縄を解く事はなかった。
 しかも周りの皆はそういうプレイだと思ってやがる。
 自決しても可笑しくないくらいのプレイだった。
 
 ジーンの部屋に入ったは良いが、そこにはルールールーが居て、物凄い生暖かい目で見られた。大丈夫、お姉さんは信じてるよ。って感じで。

「ごめんね、シグ君。お姉さん何か間違ってたのかもしれないね」
 
 そんな事を言って部屋から出て行った。
 お前は何を言っとるのかと、一体何を思ってそのセリフを言ったのかと、問い詰めたくて仕方が無かった。
 まあ、俺が言葉を発する前に出て行ってしまったのだが。

「ルーは少し突飛な思考回路を持っているので暫くは戻ってこないかもしれませんね」
 
 あ、そうなの?
 あれか不思議ちゃんか。

「ですが、計算どおり……」
 
 あくまで無表情にそう言うが、まあ、もういいよ。
 俺、ジーンさんの思考は理解出来ないから。
 
「そう言えばシグルド」
「ん?」
「手紙の数が少ないとイズミさんが嘆いておられましたよ」
「え? マジで!?」
「ええ。2ヶ月半で5いえ6通でしたか」

 何故把握しているのか怖くて仕方ないが、間違っては居ない。

「ですね」
「……これを見て下さい」 
 
 そう言って机から取り出してくるのはお菓子の入っていたであろうアルミの箱。
 蓋を開ければ30通くらいの手紙の山だ。
 凄いな、こんなに手紙書く物なのか?
 いや、女性だからかもしれなが…でもお袋も一応女性だし、沢山書いた方がいいのか。

「へえ、ジーンって家と頻繁に連絡とってるんだな」
「………」
 
 ジーンは一瞬動きを止め、次に箱の中の手紙を一通差し出してくる。
 俺は首を傾げながら、その手紙を見る。
 
「あっらぁ」
 
 なんとそこにはイズミ・カーティスの名が。
 と言う事は。

「あーもしかしてそれ全部、その」
「ええ、イズミさんからの物です」
 
 謝れば良いのか、それとも驚けば良いのか反応に困った。

「あと実家と連絡を取った事は4度ほどです」
 
 あ、やっぱそんなモンだよね。

「ええ。ここ二ヶ月ほどは貴方と一緒に居て毎日が充実しておりましたので。暇を潰す為に手紙を書いていましたが、それも貴方と出会ってからは退屈と無縁でしたから」
「って事は結構前から居たんだ」
「ええ。寮に入ったのは式の1ヶ月ほど前でしたね」
「へえ」
「本来なら貴方もそれくらいの余裕を持って受け入れられる予定でしたよ」
「そうなの?」
「ええ。上位10名ほどは1ヶ月の猶予で様々な事を事前に知る事の出来るシステムでしたので」
「それって贔屓じゃね?」
「贔屓ですが、別段問題ないでしょう。実際大した情報にはなりませんでしたので」
「そんなモンか」
「そんな物です」
 
 そう言ってジーンさんは箱をベッドの上に置き、俺の首から下がる縄をベッドの柱に結びつける。

「えっと、ジーンさん?」
「立ち話もなんですから座ってください」
 
 なら縄を解け、後ろ手に縛られて座るのってシンドイんだぞ。
 あと、逃げないから柱に括らないで、お願い。

「どうしたんです?」
「いや、逃げないからさ、この縄を」
「おすわり」
「…い、いや。犬じゃないんだかr」
「おすわり」
「だ、だから」
「おすわり」
「……はい」
 
 ジーンさんはベッドを指差して命令してくる。
 俺はそれに出来るだけ逆らったが、無理だ。無理だよ!! やめてよね!!ジーンさんに勝てるワケ無いでしょ!?
 
 ジーンさんも俺の隣に座り、膝の上に手紙箱を乗せ一枚づつ読んでいく。
 
 もうね。これは新手の拷問かと。
 いっその事殺してくれと思ったね。
 なんせ、手紙の内容は俺尽くしだった。
 
 曰く、シグルドの友達ならばシグルドを見張って欲しい。あの子はすぐに無茶をするから。
 曰く、シグルドは無理してないだろうか? 手紙を送ってくる回数も少なくて不安だ。
 曰く、シグルドから手紙が来たよ。私の身を案じてくれてて泣いた。
 曰く、シグルドに虫が付いたら殺してもいいからね。
 曰く、また手紙が来たよ。学校の錬金術のレベルが低すぎて勉強にならないとか。
 曰く、あの子は大丈夫? 最近手紙が来ない、不安でしょうがないよ。
 
 そんな感じだ。
 羞恥で死ねたら俺は死んでいる。
 俺は何でもっと手紙書かなかったのかと、お袋も親父も手紙で書いてくれたらいいのに。
 あと、やたらくすぐったい。やっぱ愛は偉大だ。
 
 顔が熱くてしょうがない。
 めちゃくちゃ赤面してる自信がある。
 
「こんな感じの手紙が多数ですね」
「ううぅぅ」
「唸るくらいならもっとデリカシーを育てなさい」
「はい」
「これだけ愛される事は稀です、少し貴方が羨ましい。私は親と仲が良いとは言えませんので」
「あー、うん。まあ、うちは特殊だと思うけど」
「それでも、羨ましいですね。私は見ての通り混血ですので、奇異の視線と言う物もありますし。そのお陰で家族仲も微妙ですので」
 
 そんな感じでジーンの少し込み入った事情やらを始めて聞いた。
 なんでも4種くらいの混血児らしい。
 どんだけだよ。
 イシュヴァール・アメストリア・シン・ドラグマらしい。
 マジでどう言う家計図なのか興味が出てくる。 
 
 聞いてみると、冒険家やら密輸業やら国外逃亡の手助けやら、代々そんな感じの事を生業としてきたそうな。
 ジーンの両親は技師と密輸業を生業としているらしい。
 相性はいいだろうね。
 でもまあ、外に対して警戒心の強いご両親故かご近所との付き合いも良いとは言えず。
 家庭内でも会話が少ないそうな。

 まあ、色々あるわな。
 
「夢は軍人となって両親を豚箱にぶち込む事です」
 
 〆の言葉としてそんな事を言われたが、俺に何を求めてるの?
 凄い良い笑顔でそんな事言われても俺は反応できないよ?

「まあ、協力出来るならするお」
 
 とりあえずそんな言葉で濁しておいたが「是非一緒にうちの両親を捕まえましょう!!」なんて言われて抱きつかれた。キラキラした目で言うもんだからちょっと見とれた。
 
 で。
 
 そんな状態の時にこの部屋の扉が吹き飛んだ。
 まあ、言うまでもなくお袋だ。
 
「シグルドー? ずいぶんお楽しみだったみたいだね」
 
 これまた良い笑顔だ。
 俺の目には阿修羅にしか見えないがな。

「あ、お袋久しぶり!! つかコレ見てから言ってくれ」
 
 俺は手を目立たせるように前屈みになって言う。
 てかおい。お袋の後ろに上半身半裸のアルフォードが見えるんだが、アイツは一体なにをしとるんだ。
 アルフォードは俺のそんな視線に気付いたのか、ニヤニヤしながら声をかけてくる。

「いやな、お前を育てた親だ。どんな化物かとな見に行ったんだが」
 
 そこで堪えきれないとばかりに笑う。

「がっはっは!! お前はやっぱり面白いぞ!! お前の親父さんの弟子になりたかったが断られてな!!」
 
 がっはっは。となおも笑う筋肉。
 てか親父来てるのかよ。
 
「シグルド」
「お、親父ーーーッ!! 助けてくれ!!」
「…生きろ」
 
 スイッと視線を逸らされた。
 
「無視してんじゃない!!」
 
 なんて言葉と一緒にお袋にドツカレ蹴られ

 “あれだけ目立つなと言ったでしょうが!!”
 “ジーンさんに聞いたけどアレを使ったらしいね、どれだけ馬鹿な事をしたかわかってるのかい!?”
 “どれだけ心配したと……”
 
 最後には抱きつかれてワンワンと泣かれた。
 かなり堪えた。
 でも縄を解いてくれないから抱きしめ返す事も出来ないのよね。
 
 んで泣き止んで来た時に、ジーンが挨拶を始めた。

「初めまして、ジーン・ノルメです。手紙のやりとりは沢山しましたが、始めてお会いしますね」
「うっぐすっ。ああ、見苦しい所を見せたね、私はイズミ・カーティスよろしく」
「はい。よろしくお願いします」
 
 そこからはポンポンと俺の情報をやりとりして、あっという間に仲良くなった。
 
「ああ、そうだ。良い物があるんです」
 
 そんな言葉と共に出てきたのはダンボールの箱で、中にはカセットテープがギッシリと。
 もうこの時点で嫌な予感はビンビン感じていたんだが……。

“○月○日:始めての演説の巻”
“○月○日:僕は最強伝説の巻”
“○月○日:寮生活始めての……の巻”
“○月○日:銃剣訓練で教官を負かすの巻”
 
 え?
 
 全部身に覚えがあるんだ。
 てか3つ目のは怖くて「……」の部分は何かとか聞けないけど、他のは全部身に覚えがあるんだ。
 それってもしかして……。
 
「シグルドと行動を共にする事が多かったので、自然と集まってしまったシグルドテープ集です。どれかお聞きになりますか?」
 
 そんな事を言われ、俺は現実を手放した。

 そして冒頭に戻る。
 




 
“俺達は犬か、それとも狼か?”

ああ!! いーーやぁーーーー!!
 
“皆さん、俺を見て下さい”
 
やめて!! 本当やめて!! 死ぬから俺が死ねばいいんだろ!?
 
“あのエスパーとかじゃ……”

ん?

“新しい時代の脈動を!!”

ひいいいいいい。死ぬ、死ぬからああ。許してーーーーっ!!
 
“これが俺の!! 全力全開!!”

ひい!? え? ドドドド童貞ちゃうわ!! では無く、どうやって音拾ったんだ!!
 

 そんなのが、2時間に渡り上演された。 
 俺のHPいくつだと思っていやがる、始まって20分で死んだわ。
 
 親父もアルフォードも助けてくれず、廊下で筋肉について盛り上がってるしさ。
 これはね、拷問だよ?
 知ってるかな、人はただ過去を振り返るだけでも頭を抱えたくなる思い出があるんだ。
 それを、それをおおおお!! 両親の前でしかも音声だけだと!?
 いらん妄想掻きたてて余計死ねる!!
 
 お袋は一喜一憂しておるし、ジーンは事細かに俺の事を説明するし。
 なんなの、もう許してくれよ。
 
 上演が終わってからもジーンの“シグルド観察日記”とやらがお袋の手に渡った。
 なんでもお袋が頼んでたらしい。
 
 普通に死ぬ、自決する。
 
「私の個人的な日記にもシグルドの事が多い、というかシグルドの事を書けば一日分は埋まりますので、大した差ではありませんが」
「まあ、この子は良くも悪くも目立つからね」
「ええ容姿端麗、その上よく解らないカリスマ、一緒に居て楽しい。これだけそろえば目立つしかありません」
「あははは。ジーンは良く解ってるね!! うちの娘になる?」
「よろしいのですか?」
「……まずは私を超えて貰う」
「考えておきます」
 
 なんてやりとりもあった。
 そのまま、意気投合し続け、お袋と親父は一拍して帰った。
 お袋と親父とアルフォードとジーンと俺で夜通し語り合った。
 親父とアルフォードは俺の部屋で寝たんだが、俺はお袋に抱きつかれてジーンの部屋で寝た。
 ルーさんから涙目で「私がしっかりしないとシグ君が…」て言われた。
 あの人は何を考えてるんだ。
 ちなみにルーさんはジーンと一緒のベッドで寝た。
 ボソボソと話し声が聞こえてたが、聞き取れなかった。
 
 カセットテープと観察日記とやらは、お袋が貰ってた。
 泣いた。
 
 帰り際に、

「全く、もう目立つなとは言わない、でもね、出来得る限り自重しな。本当に心配でたまらないよ。あと鍛練のノルマを増やす事、軍の将官であれ大総統であれ、負けるな。いいね」
 
 なんて事を言われた。むちゃくちゃだが、確かにそれくらいの技術がないと俺は安全も確保できない。
 親父からは、
 
「肝が冷えた。が、お前はお前のやりたいようにやれ、俺達は俺達の出来る事でお前を守る」
 
 親父は本当なんて言うのか厳しいような優しいような、そんな人だ。
 
 あと俺からグリさん宛に伝言を頼んだ。
 用件は大総統キング・ブラッドレイについて。
 正直、あの人は傀儡とは思えない。
 調査の結果とかは大分先になるだろうけど、あの人は油断ならない。少しでも多くの情報を集めておきたい所だ。
 味方であれ敵であれ、な。

 まあ、そんな感じで俺の一日が終わった。
 疲れに疲れたが、取り合えず一ヶ月に10通手紙書くのをノルマにがんばろうと思う。




 


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