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水色
作:森本エリ



甘ったるい繭が崩壊していく。


            俺達は、甘い飴細工の繭に包まれて、訳も解らず、人生のごく一部を浮遊していた。
愛も夢も甘ったるい飴細工で出来ていた。
                                    さようなら。
                                    思い出は残酷なんだろうか?
                                    まだ冷たさを感じる空気を身体に受け、清児、龍、イチ、山崎、小夜子、沙織は校庭の隅にたむろしていた。
「…終わったねぇ」
清児は鉄棒に腰掛け、風に髪を遊ばせ、誰にともなく呟いた。
丸めた卒業証書。
入学式以来、久しぶりに真面目に着た学ラン。
鉄棒にもたれ掛かり、龍は空を眺めていた。
イチは声を殺して泣く沙織の髪を撫でている。
山崎はしゃがみ込んで、泣いている。
小夜子は清児の隣で少し目を潤ませている。
「…次は、何があるんだろう」
清児は楽しそうに独り言を漏らす。
学ランのボタンは袖まですっからかんだ。
「うち…明日の今頃は空の上やで」
小夜子は空を眺め呟いた。
「…小夜子ぉ」
沙織が小夜子に抱き着いた。
「沙織ちん〜…」
二人はお互いに抱き合い、泣き出した。
4枚の学ランが二人に投げられた。
学ランに覆われながら小夜子と沙織は泣いていた。
「なんか…変だな、アレ」
龍が振り向きながら指を指す。
「確かに。」
イチが笑いながら頷く。
「卒業式もこれで最後やね」
清児が俯いて言った。
「これからはまた新しいようで同じような毎日が待ってるんだよなぁ!詐欺だ!詐欺だ!」
山崎が首を鳴らしながらぼやく。
「……これからも、よろしく」
清児が照れ臭そうに皆に言った。
「腐れ縁にも程があるぜ」
龍が溜息をつく。
「これからも…か」
イチが笑う。
「こちらこそよろしくだ」
山崎が嬉しそうに清児に手を差し出した。
清児が、がっちり、山崎の手を握る。
そしてイチとも握手をする。
龍が手の平を清児に見せた。
清児は龍の手に思い切り自分の手の平をぶつけた。
「いってぇ〜!」
「やりすぎだ、バカ」
自分の手を庇う清児。
苦笑する龍。
「浅倉先輩!!」
前から後輩の女の子達が走ってくる。
「…何人目だ?」
龍がイチと山崎を見る。
「13人目」
呆れたようにイチが応える。
「イチは?」
「5人」
「山崎は?」
「3人!」
「で?」
「龍っちゃんは?」
「3人」
三人は笑い出す。
餓鬼レンジャー効果、おそるべし!
しかし清児は凄い。
三人は女の子に囲まれ、げんなりしている清児を見て笑った。
…よくもまぁ、皆ボタンなんか欲しがるなぁと清児は首を捻る。
どうせ、机の奥にしまってすぐに忘れる。
いつかの大掃除でゴミに出される。
…もし、俺のボタンを見つけて懐かしんだりする時がきて、いい思い出だと、思うコは一体あの中に何人いるんだろう?
きっと忘れてるうちに大人になって、麻疹のような熱を失った彼女達は自分の幼さを笑うだろう。
学ランのボタンは彼女達の指から弾かれて、地球を汚す。
余計なモノは捨てられて、オシマイ。
俺達は生きているから、
俺達は小さいから、
あまり沢山のモノを抱えてはいけない。
何故、彼女達は俺のモノを欲しがるんだろう?
「黒川先輩の事は知ってます!だけど、浅倉先輩の事が、好きです!」
目を潤ませるのは、何故だろう?
叶わない想いをぶつけた自分への称賛?
彼女達は自分の中で自分の中だけの俺を作って夢を見てるだけだ。
清児は笑って見せる。
楽しそうに見える女の子達が欝陶しい。
「ありがとう、でも、俺は小夜子ちゃん以外、興味ないから」
そう何回言っただろう?
本当はもう言いたくない。だって、恥ずかしい。
清児は女の子達の間をすりぬけて、龍達の後ろ姿を追い掛ける。
鎖骨の下で揺れるカイアナイト。
清児はその藍色の石を握りしめる。
清児は立ち止まり、もと来た道を走り出した。
鉄棒の所に置き去りにした小夜子に向かって走る。
二人は寄り添ってまだ涙を引きずっていた。
沙織が清児に気付いて、小夜子の髪を撫でて、頬に挨拶がわりのキスをして、笑いながら小夜子から離れた。
頬のキスを見て、ちょっとドキッとしてしまう。
何だかお伽話の様に綺麗だったから。
清児の横をすり抜けていく沙織、なびかせる髪から舞い上がる柔らかな甘い香。清児は思わず見送る。
沙織も振り返り、微笑んだ。
頑張ってね、少し手を振って沙織はイチを目指し、歩いていく。
清児は小夜子に向き直る。
「沙織ちんに見とれてたやろ〜!」
小夜子が清児を覗き込む。
「アイツ、イっちゃんと付き合っていい奴になったなって思っただけ」
「気付くの遅いわ、清児くん」
「小夜子ちゃん…」
「ん?」
「ボタン、なくなったよ」
「そやなぁ!凄いなぁ!」
「でも、俺は小夜子ちゃんが好きだよ」
「よく解ってるよ」
「俺、小夜子ちゃんが好きだよ…」
「…うん。うちも清児くんが好き」
「…一番?」
「うん、世界一好き」
清児は小夜子の言葉に涙腺が緩む。
「…どうして…離れちゃうの?俺達」
「家の事情やもん、しかたない…うちらはまだ子供やから」
「どうして…俺…」
清児は小夜子の肩を抱く。
「早く、大人になりたい。小夜子ちゃんを…手放さなくて済むように」
「清児くん…」
「どうして…こんなに…悲しいとかいな…?いつか迎えに行くのに」
「……清児くん」
「何?」
「うち…」
小夜子は深く息を吸った。肩が震えて、熱く湿った吐息が、清児の胸に溜まる。
「…どうしたの?」
                                    
「…うちら、もう、終わりにしよ」
                                    その言葉が、信じられなくて清児は小夜子を見た。
小夜子の瞳からとめどない涙が流れていた。
            
「なん…で…?」
            清児は小夜子の頬や、唇に指を当てる。
            
「…好きやから…離れてしまったら、…辛いから」
            小夜子は両手で顔を覆って泣き出した。            
「…でも、一つだけ、お願いや…そのペンダント…ずっとつけてて…そして、この指輪、ずっとつけてていい?」
            清児は何度も頷いた。
            
「…うちらの…目印な」
            
「いつか、清児くんが、約束を果たしてくれるまで…うち…待ってるから」
            
「…どうしても終わりにするん?」
            
「うん…その方が、清児くん目標に打ち込めるやろ?うちのせいで、それがうやむやになったら嫌や」
            
「…最後に…キスしていい?」
            小夜子が頷く前に清児は小夜子の唇を強奪した。
            
「…んぅっ…」
            小夜子は口の中で暴れる清児の舌に必死に応えようとする。
            唇が離れると、混ざり合った唾液が垂れた。
            清児は力いっぱい小夜子を抱きしめた。
            
「明日の空港、見送りに行くよ」
            
「…あかん…お母さんが怒り狂う…」
            
「挨拶しに行く」
            
「ダメ」
小夜子が頑なに拒むので、清児は諦める。
見送りにこられたら、行きたくないと、駄々をこねてしまいそうだ。
もし、そこで清児が行かないでと言ったら、きっと、無謀だろうが二人で逃避行だってするだろう。
            でも、清児にはもっと無謀で大きな目標がある。
才能も、魅力も、これからもっと磨いていかなければならない。
彼の邪魔になりたくない。
もし、離れている間に、お互いが変わってしまっても、構わない。
自分達は成長していくんだからと小夜子は信じていた。
正しいか正しくないかは解らない。
ただ、胸が張り裂けそうなくらい悲しいのはお互い同じなのだろうと、漠然に感じていた。
                                       『水色』FIN.














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