君の為に歌う唄。
なんだか練習はやり尽くしてしまった気分だった。
生意気な北嶋のライブでも見てやろうと四人は体育館に向かった。
出演者なので裏から入る。体育館は結構、人が入っていた。
清児は急に、恐ろしい程、緊張した。
何と言っても初めて人前で歌うのだ。
体が上手く動かない。
他人の肉体を操作するような気分だった。
「次は、二年生、BLACKTIGERCATさんです!」
妙に真面目なアナウンスもぶっ飛ばす勢いでギターが掻き鳴らされた。
これは−。
ミッシェルガンエレファントの『プラズマ・ダイブ』
清児は龍を見た。
龍は−たいしたことねぇさ−と言いたげに首を傾げた。
しかし、清児は北嶋が疾走感を失わず歌うのを見ていると悔しかった。
次は『YOUNGJAGUAR』
「…おい…龍…」
イチが龍の肩を叩く。
「あん?」
イチの視線が釘づけになった方をみる。
「!!」
龍が目を剥く。
「…ちっ!なんであいつら来るかなー……」
龍がやれやれと首を振った。
清児をちらっと見遣る。
清児は思い切りうろたえている。
客のウケも結構いい。体育館の湿度が上がってきているようで、シャツが肌にはりつく。
深呼吸をしたり、両手をぷらつかせたり、気持ちを落ち着かせようと逆に焦っているようだ。
龍はコームを取り出し、髪形を整えた。
残り10分。
ちょっと時間が押している。
大体12、3分といった所だろう。
「清児、」
龍が手招きする。
「あ?」
清児も身を寄せた。
「あの北嶋って野郎な、小夜子姫の事好きだってよ」
鼻で笑うような言い方で耳打ちした。
清児は龍から少し離れて、奴の目を見た。
明らかに怒りが目に浮かんでいる。
「あんな奴に飲まれちゃって、このままなら、かっぱらってかれるかもよ、姫」
龍がニヤニヤと笑いながら言った。
「…………」
「図星か……?」
清児が龍の胸倉を掴む。
「ふざけんな、飲むのは、この俺だ!!誰があんな奴に飲まれるか!!」
龍が降参と言うように両手を上げた。
「何やってんだよ!!」
山崎が龍から清児を引き離す。
「いや、別に」
龍が笑った。
清児はフイと何処かに行った。
「清ちゃん!」
イチが後を追うとして立ち上がる。
「ほっとけ!」
龍が言った。
清児は走って体育館の中に行った。
直ぐさま小夜子を見つけた。
壁にもたれ掛かり、轟音の中、沙織とパックのジュースを飲んでいた。
「もうすぐ出番やないん?!」
息を切らせた清児を見て、今までぼんやりして小夜子が目を大きくして驚いていた。
清児は小夜子を外に連れ出した。
「どないしたん?!」
体育館の地下に行き、途中の踊り場で小夜子を抱きしめた。
「清児くん……?」
「小夜子ちゃん、俺と北嶋どっちがいい?!」
「はぁ?!」
思わず腕から離れて清児を見る。
「…ぶっちゃけアイツらあんなにやるとは思わんかった…」
「ダサっ!」
小夜子の一言に清児はかなりへこんだ。
「今更何言ってん!カッコ悪!」
清児の腕から力が抜けていく。
「北嶋くんなんか今日初めて知ったんに、いきなり俺と北嶋くんどっちがいいなんて、聞かんでもわかるやろー!」
小夜子が清児の肩を叩く。
「何焦ってんの?清児くんらしくないわ、」
小夜子が清児の両手を取り、にぎにぎと揉む。
しょげてうつむく清児。
「早く見たいわ、清児くん達のライブ。」
小夜子はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
清児は深呼吸をした。
「俺、頑張ってくるけん」
清児も笑い返した。
「何やってたんだよ!早く清ちゃん!」
ステージ裏に戻ると山崎が焦っていた。
北嶋達の出番が終わる。
拍手や歓声が聞こえる。
けれど、清児の気持ちはとても落ち着いていた。
幕が閉じられて、セッティングの為に放送部と演劇部の裏方が走る。
「準備はいいか?」
龍が清児の肩に手をおく。
「万全!」
清児がニカッと笑った。
「よっしゃ!」
イチが手を叩く。
「じゃあ、」
山崎が拳を差し出す。
皆、その拳に自分の拳を重ねていく。
ざわめきが薄れ、鼓動が高鳴るのが聞こえる。
「ファイト!」
清児が叫んだ。
「「「いッッぱーーーつ!!!!!」」」
皆が叫んで、山崎がステージに駆け出す。
ベースを抱えてイチもそれに続いた。
清児も歩きだし、暗幕の影の龍を見て、笑った。
チューニングをした。
皆でお互いを見合った。
ざわめきがしている。
「客、入ってるっぽいね」
清児が笑う。
「まぁ、たいしたことはねーだろう!」
イチも笑った。
アンプのスイッチを入れる。ミキサーに合図を送った。
「次は、本日のラスト、三年生、餓鬼レンジャーさんです……」
清児はマイクスタンドの前で目を閉じていた。
ゆっくりと幕が開いていく。
きゃああああぁぁぁあ!!女の子達の歓声が体育館に響いた。
清児は驚いて目を開けた。イチと山崎もお互いを見た。
浅倉せんぱーい!!!
複数の女の子達の黄色い歓声。
なんと、体育館の半分が黒い人だかりになっていた。山崎を見て笑い声も上がっていた。
後ろの方では先生達も見ていた。
「…えーっと、」
清児は咳ばらいをした。
「予想以上に人がいて、ビックリしました…」
黄色い歓声が応える。
男も負けじと拳を振り上げる。
「一曲しかやりません。好きな人と聴いてください《STAND・BY・ME》」
清児がそう言うとマイクから少し離れた。
ワン・ツー・スリー!清児が小声で山崎のスティックとカウントした。
イチのベースと山崎の抑え目なドラミングがお馴染みのイントロをなぞっていく。清児のギターもそれに被さる。
リズムに合わせて誰かが手拍子を始めた。
「When the night… has come…」
清児が熱っぽく掠れた声で歌い始めた。
最前列の女の子達の視線が一気に清児に集まる。
清児は歌いながら視線を泳がせ、小夜子を探した。体育館が見渡せる。
薄暗い中でやけに皆の表情ははっきりと見えた。
真ん中の端で、小夜子が沙織と嬉しそうにステージを見ていた。
目が合うと顔をクシャクシャにして笑った。
サビに入る。
ゆっくりとフェードアウトさせる。
音が消えていくとともに観客が困惑し始める。
照明が消えた。
ざわめく会場。それでも手拍子が止まない。
龍が歩いてくる。
ステージの真ん中で清児の隣に立ち、笑顔をかわす。龍が手を上げた。
山崎が頷く。
ダンダンダンダンダン!!半呼吸入れて、龍の唸るサックスが入り、イチと清児がスライドで音を唸らせ、一気に照明が照らされた。度肝を抜かれた観客達。
一変してギターを掻きむしり、挑発的に歌い連ねる清児。
清児と肩を合わせながらサックスでがなる龍。
呆気に取られた女の子達を押し退けて、男達が前に押し寄せる。
イチも前に出て、男達を挑発する。
モッシュ&ダイブ
拳を上げる男達。
負けずに清児に手を伸ばす女の子達
体育館の中はまるでサウナ。
後ろの先生達も呆気に取られている。
STAND BY ME
高校生にしてはあまりにも完成度の高いアレンジだった。
それもそのはず、山崎は17歳にしてドラム歴5年。
筋金入りの音楽大好き野郎で、ギターだってベースだってブルースハープだって演れる。
龍はおくびにも出さなかったが、サックスを始めて2年の腕前だし、イチだって14歳の頃にセックスピストルズ、特にシド・ヴィシャスに触発されて以来、何気にベースを続けていた。
龍とイチは照れて音楽してますなんて言えなかったのに、清児に触発されて弾けるようにバンドを組んだ。
今までリスナーでいた清児は歌い続けるうちに秘めた才能を押し出して行った。
アドリブと歓声の轟音が鳴り響く中、清児は今まで感じたことのない快感に飲み込まれて行った。
興奮を凌駕していく達成感と快楽に意識を手放した。
「え…?っちょ!オイ!」
龍がサックスを手放し清児を抱えた。
ストラップにぶら下がったサックスは勢い余って龍の横腹に直撃した。
まばゆい照明、押し寄せる興奮と人々の熱気。鳴り止まない音の洪水。
一気に溶け出した暗闇−−刹那の浮遊感。
「−あ」
目の前には小夜子の笑顔と白い天井。
−白い天井?
「おはよ!清児くんっ」
清児の息遣いが荒い。
「…え?ら、ライブは?」
気の抜けたような、困惑してうわずった声で清児は小夜子に聞いた。
「終わったで。瞬間に清児くん気失ってんもん、皆ビックリしてたで!高村くんが受け止めてくれんかったら危なかったかもなぁ、でもめちゃめちゃすごかってん!男子も女子も興奮しまくってたで!」
保健室のベッドの枕元で小夜子は喜々としてまくし立てた。
清児の体内で燻る熱が再度、上昇し始めた。
初舞台の興奮の余韻が尾を引きずっていた。
清児は起き上がって、小夜子の腕を引き寄せる。
「えっ…!!」
「どうだった?小夜子ちゃん的に」
真正面から小夜子を見た。
「……さ、最高でした。」
小夜子が吃る。
「……ご褒美ちょうだい」
抱き寄せられて小夜子はベッドに倒れ込む。
「せ…せ…いじ…くん?」
「……してみたい…」
「えっ!えっ!?え?!」
「はい、ストップ!」
カーテンが引き開けられ、中原優子が立ちはだかっていた。
「先生!!」
小夜子が清児の腕から抜け出そうともがいている。
「……おったんや」
清児が肩を落とす。
「全く!浅倉くん!小夜子ちゃんの事大事にしなさい!」
そういって正四角形の小さなビニールに包まれた物を清児に投げた。
「え???」
清児はそれを指でつまむ。
「終わったら、シーツはそこの洗濯機で洗って乾燥機にいれといてね!先生は職員室にいるから!」
「嘘!?ありえへん!!」
小夜子が焦りだす。
「いいの?不純異性交遊見逃して?」
清児がニヤニヤしながら中原優子を見た。
「あんた達のどこが不純だっていうの?」
中原優子が腰に手を当てて二人を見る。
「……俺、真剣に小夜子ちゃんの事、愛してるよ」
「そーゆー事は二人キリの時に言いなさいよ」
中原優子が溜息をつく。
「今回だけよ!」
そう言うと踵を返して保健室を出て行った。
勿論、施錠をして、誰も入ってこないようにしてくれていた。
「ありえへん……」
小夜子が絶望的に呟いた。
「やっぱイヤ?」
清児が小夜子の顔を心配そうに覗き込む。
「だって、だって、」
小夜子が清児の赤い柄シャツを掴む。
「初…めて…やし…」
「俺も……」
小夜子の熱っぽく潤んだ瞳を隠すように清児はくちづけをした。
「見つけたぜ?高村、一瀬……」
黒づくめの男達が龍達の前に立ちはだかった。
「………オイ」
龍達は女の子達に囲まれていて男達に気付いていない。
「高村あぁぁーーー!!」
「お?あぁ……」
龍は男達に目をやると明らかに落胆した。
「裏山の神社で待ってろよ、ちゃんと相手すっから」
龍がしっしっと手を降る。
「ちきしょー!なめんな」
「うるせーなぁ!山崎が生まれて初めてチビッコ以外の女にモテてんだから、あっち行ってろよ!」
イチが前に出て来た黒ずくめの側近の男の胸倉を掴み押し飛ばした。
「てめーチビッコ以外とか言うな!!」
レインボーアフロにレモンイエローのツナギ姿の山崎がイチにつかみ掛かる。
「瑠璃ちゃんは10歳だがとってもおしゃまさんなんだぞ!!」
「知るか!!ロリコンと間違われるぞ!!」
「ううぅッ…それはイヤ!俺は!かたせ梨乃とか好きだ!!」
「出た!熟女好き!!」
「でも松浦亜弥も好き!!」
「全然方向性バラバラ!」
龍が顔を両手で覆う。
「俺、深キョンとか…」
−ドスッ!
イチの腹に沙織の肘鉄が入る。
「ぐはっ!!」
しーー……ん。
一斉に静まり返る辺り。
イチの噎せる声が虚しく響く。
「い、い…行こうか…」
龍が咳ばらいをして腰を折って再起動待ちのイチの肩を抱いた。
「頑張ってね(はぁと)ダーリン☆」
沙織が両手を顔の前で組んでぶりっ子ポーズで首を傾げた。
黒ずくめの男達さえひく。
「あぁ…行ってくるよ…鉄腕ハニィ…君が行った方が良さそうなくらいさ……」
「ヤダぁ☆アタシこわいもーんッ!」
「君の方がこわいよ、ベイビー…」
「も一回したげようか?」
「ご遠慮いたします…」
「さ!行くベ行くベ!」
「やっぱ…決闘するなら…」
龍が腕組をしてイチを見る。
「神社か…河原でしょ?」
イチがニヤッと笑った。
「さぁ来い!黒ずくめ!」
山崎が怒鳴る。
「ふざけんな!」
5対3の決闘が始まった。
「…清児くん…明るいの…ヤダ…」
白い肌が柔らかな日差しに映えて眩しくて清児は思わず目を細める。
「ビデオに録っておきたいくらい綺麗……」
「変態…!」
小夜子が笑う。
清児は微笑み返し、小夜子のブラに手をかける。
剥き出しの上半身は意外と筋肉質で、小夜子は改めて清児を男だと実感する。
両足の間にぶつかる熱い質感に緊張する。
恥ずかしさと緊張感で一杯になる。
清児は焦りながらたどたどしく小夜子の制服を脱がせていく、そして自分も脱いでいく。
ようやく、二人は一糸纏わぬ姿になり、お互いを見合う。
「…恥ずかしいッ…」
「俺も……」
清児の指が小夜子の鎖骨から横腹をなぞっていく。
「う…んッ」
小夜子が身をよじらせる。香水の香りが清児の鼻をかすめる。
「ねぇ…?香水…何つけてるん?」
小夜子の首筋に顔を埋める。
「イ…イヴ・サンローランの…ベイビードール……」
熱くなる吐息でからがら答える小夜子。
「ね、清児くん…シャワーとか浴びてへんよ?」
「今更…?」
清児は小さく笑って小夜子の胸に唇を落とした。
龍は、砂埃を上げて転がる黒ずくめの男の胸倉を掴み自分の方を向かせる。
「古賀さんのチームは俺らは継がねーよ!勝手にテメーらで話つけろ!!」そう言いながら相手を殴る。
「お前…古賀さんはお前にヘッドの座を…一瀬に副ヘッドにするって…」
「俺らは断ってるんだよ!なのに何でお前らが来てんだよ!!」
「お前ら…いいのか…?」
「バイクが好きなのは変わらねぇ、だけどな、俺達の目標はそこにはねぇんだ」
手を離して龍は俯いた。
「ヘッドはお前だ、鷹崎。頼むから、ただの暴走族にはしないでくれよ。」「お前も一瀬もあのイカレタ女男みたいな奴と黄色いデカイのとバンドすんのか?」
「俺はしないよ。バーテンになる。決めてんだ、店出来たら、街の弾かれ者のお前らの為に酒だしてやるから財布膨らませて来いよ」
「ふっ…よく言うぜ。……あのイカレたバンド、カッコ良かったぜ。」
龍は、鷹崎の肩を抱いて立ち上がらせると、砂埃を払ってやった。
「明日の夜辺り、チームに顔出すよ。古賀さんとキッチリ話つけなきゃな」龍は笑った。
「俺ら、馬鹿みたいやん」
ボコボコにされた顔でふて腐れた子供の様に口を尖らせて鷹崎は呟いた。
「あぁ、俺ら馬鹿だよ。それが俺らのチャームポイントだろ」
「相変わらず、すかした奴だな。テメーはよ」
鷹崎は鼻で笑った。
「お蔭様でな!」
「あーぁ!骨折り損のくたびれ儲けかよ!」
イチが首を鳴らしながら言った。
「暴れたら腹へったよ!」
山崎が背伸びをする。
「後夜祭始まるんじゃね?また店まわろうぜ!」
「鷹崎達もくるかー?」
イチが振り返る。
鷹崎以外はのびきっている。
「いけねーよ!」
鷹崎が顔をくしゃくしゃにして笑った。
「皆で保健室に運ぼうぜ!」
山崎が一人で二人を肩にしょい込み、龍が一人、イチが一人を担いで、鷹崎は歩いた。
「すんげーな、あのデカイの……」
「だろ?デカイのは身体だけじゃねー、気持ちも器もでけぇよ、アイツ。あ、チ●ポもな!」
「アハハ!!聞きたくねー!!」
…ゴゥンゴゥン…ガタガタ西日の差す保健室のベッドの上で二人は寄り添って腰掛けていた。
洗濯機の音と時折生徒たちの声が聞こえた。
二人は放心したように床に溶けた日差しを眺めていた。
最中にひどく痛がる小夜子が愛しくて、可哀相だった。
なんだか、世界で一番ひどい人になった気がした。
それでも、小夜子は清児を受け入れてくれた。
拙い愛撫も情熱も幸せだと囁いてくれた。
清児はブラックジーンズを腰に引っ掛けただけの恰好で小夜子はちゃんと制服を着ていた。
コンドームは厳重にティッシュで包んで、後でトイレに流す予定だ。
「なぁ…清児くん?」
夕方の日差しを見つめたまま清児の肩と胸の真ん中辺りに頭を預け、夢を見ているようにうっとりとした表情で呟いた。
「ん…?」
清児はまどろんだ小夜子の瞳を盗み見ながら、とても愛しいと思う。
「うち…、幸せやわ…。こんなに…幸せって、初めてなんに…思えて…嬉しい」
「小夜子ちゃん…」
清児は泣きそうになる。
涙腺の辺りが痛い。
でも、胸の中は嬉しさの余り張り裂けそうだ。
「俺も幸せ…」
今まで出来なかったけれど強く小夜子を抱きしめた。
「よっしゃッ!!」
「あー重ーい!!」
ガヤガヤと廊下が騒がしくなっている。
清児と小夜子は顔を見合わせた。
ガチャ!!ガタガタガタ!
「何で開いてねーの?!」
…ヤベッ!
清児は小夜子の手を引いて窓に行く。
窓を開けて、まず、自分から外に出る。
校舎裏にも後夜祭のせいか人がいる。
ひそかに逢瀬を交わす恋人達がいる。いきなり目の前に降り立った清児に驚く。
「わぁぁ!何なんだ?!」
「きゃあぁあ!浅倉くんやん!」
「しーっしーっ!」
清児は必死に相手を宥める。
カップルは不思議そうに口をつぐんだ。
「ごめんね、邪魔して!俺らも同類やから、許して」
ふわっとスカートを翻しながら小夜子が降りて来た。清児が小夜子を抱きとめる。
そのまま小夜子を抱いたまま走りだす。
「内緒にして!」
「きゃああぁぁ!!」
小夜子を肩でしょいあげ、何だか掻っ払って行っている様に見える。
「…カッコイイ」
「えッ?!」
カップルの女の方がうっとりと清児の後ろ姿を見ている。
男の方が彼女の肩を掴む。
「なんでもないよ!」
彼女がはっとして笑ってごまかした。
そしてまたいちゃつき始めた。
「先生!!」
職員室の前で小夜子を下ろし、中原優子を探した。
「浅倉くん!どうしたの?!」
「急患!急患!」
「中原先生ー!」
清児と秒違いで山崎が入って来た。
「あれ?清ちゃん!」
「う…?よぅ!」
「よぉ!」
山崎はニカッと笑った。
「息が上がってるよ?どーしたん?」
「いやッ?!べ別に?!」
「ふーん。あ!優子先生!俺らのダチ、手当てしてくれね?」
「もー!また何かしでかしたの?」
「?ダチ?」
清児が不思議そうに山崎を見る。
「龍っちゃん達のバイクチームの人達!」
「へー…!」
「清ちゃん大丈夫?」
「う、うん!」
「余裕よねぇ、浅倉くん」
中原優子が清児の横腹を突く。
「しっ!」
向きを変えず清児が口に人差し指を当てて、素早く中原を制止する。
「???」
「何もない!行こ行こ!」
「小夜子ー!!どこ行ってたのぉ?」
職員室の前で小夜子は沙織に捕まっていた。
「んー??いや??フラフラしてたんよ〜…」
「清ちゃんと?」
「えッ?う、うん!」
沙織がジロジロと小夜子を見回す。
「なんか…」
「え?!」
「乱れてるよ?髪の毛とか…服とか?」
「走ってん!」
「何で?」
「えッ…ちょっとしたゴタゴタが…」
「ふぅーん…」
沙織は妙な顔で小夜子を見ていた。
「おー!小夜子ちん!」
「おぅ!」
小夜子がきょどりながらイチに挨拶をする。
「なんか、変!」
沙織は膨れっ面をする。
「お前の顔の方がなんか変!」
ばしッ!!
イチの背中に平手打ち。
「痛いっす!」
「SMにはまってんのか?お前らは」
呆れて龍が言った。
「はまってねーよ!」
「お待たせ!急患は?」
「お!こっち、こっち!」
バタバタと廊下を走る。
戻ったときには全員目を覚ましていた。鷹崎達はとりあえず湿布をしてもらった。
「あんた達は問題多すぎ」
中原優子が愚痴をこぼしながらテキパキと片付けをする。
「ごめんごめん!」
山崎がヘラッと笑う。
いきさつを聞かれるのが面倒で、さっさと保健室を出て行った。
なんとも目立つ集団だ。
派手な4人組と黒ずくめの5人組。
校内一の美少女と、噂のお姫様。
なんかの組織のような趣だ。
先頭は清児と龍。
後ろにはイチと山崎。
そして小夜子と沙織。
その後を黒ずくめの5人組。
小夜子と沙織が一番VIPに見える。
「そーいや、後夜祭、またライブやるけど、赤いタンバリンでいいよな?お前、またぶっ倒れたりすんなよ?」
龍が清児に確認する。
「え?嘘!?」
「俺らグランドチャンピオンよ?お前ぶっ倒れたから知らないだろうが。」
「マジ?!」
「北嶋の野郎が2位だ。」
「ふーん。赤いタンバリンでいいよ。太陽族もやる?」
「そだな。」
「よっしゃ!」
清児は突然走り出した。
龍が吹き出す。
つられてイチも笑い、山崎が清児を追い掛けた。
「うぁああ!怪物がくるぞー!!!」
清児は走りながら前方の通行人を脅した。
振り返る生徒たち。
物凄い形相のレインボーアフロにレモンイエローのツナギの山崎にビビり、軽いパニックが起こる。
ぎゃああああああ!!
ヒィィィィ!!!
でたあぁぁぁあ!!!
龍達はそれを見て腹を抱えて爆笑した。
おいかけっこをする清児と山崎が行く先々、悲鳴があがる。
しばらくして、清児が捕まった。
清児も龍もイチも山崎も小夜子も沙織も、ただ単純に楽しかった。
ふざけて笑い合って愛し合って。
悪いことも良いことも、楽しめる。
ただ純粋に楽しめた。
後夜祭ライブだって最高潮に盛り上がったし、皆、かけがえのない仲間だった。
これ以上最高な仲間はいないと、愛し合える人はいないと清児は思っていた。
きっと皆同じ気持ちだろう。
清児はそう信じていた。
本当に皆もそう信じていた。 |