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水色
作:森本エリ



退屈している少女たち


「黒川、帰っちゃったねー。」
木下こずえがつまらなそうにぼやいた。
「ねー学祭の委員、浅倉、降ろされちゃったねー。沙織せっかく一緒やったのにね。」
「でもぉ、すごくない?沙織が実行委員って決まって男共バンバン浅倉の後釜狙ってたし。」
板倉と木下の会話を無視して沙織はぼんやりとしていた。
「沙織ぃ?」
「あ、ごめん。何?」
「いやいや!聞いてなかったのぉ?」
「寝不足でさぁ…」
「またクラブかなんか行ってたの?」
「ううん。違うけど…」
「ていうか、沙織、浅倉の事マジで好きなん?」
「は?」
「や、だって、違うの?」
「うーん。ま、ね。」
「浅倉、黒川と付き合ってんじゃん。どーするん?」
「なんかさぁ浅倉って今まで全然女に興味ない感じやったやん?黒川ってそんなにいい?顔はまぁ可愛いけど、格好とか普通やし。」
「なんか、浅倉達に構われてるからって調子こいてない?」
「あ、だよねー!」
「反応薄くてつまんないよね!」
「沙織さぁ、吉田使えば?アイツ沙織の為なら何でもしそーじゃん?」
「…。」
沙織は会話に全く入ってこない。
板倉と木下は呆れたように沙織を見た。
「ねー沙織?」
「…吉田、黒川ヤッてくれるかな?」
沙織が呟いた。
「は?」
「ん?いや!何もない。」
「てか今超こわい事言ったやろ?」
板倉が言った。
「なんかめちゃくちゃにしたくない?」
木下が沙織の腕を掴んだ。
「こずえ…?」
「楽しいかも!ヤらせよーよ!沙織!」
「マジでヤバイよそれは!」
板倉がこずえの肩を掴む。
「だって浅倉こずえに怒鳴ったもん!許せない!黒川が学校来なくなったらいいじゃん!浅倉も大人しくなるって!んで浅倉に沙織が近づけばいーじゃん!」
「何であんたに指図されなきゃいけないのよ!」
沙織が木下の手を振り払う。
空気が一気に凍り付いた。
                                    
「じゃーん!」
「わぁ!百合さんキレイ!」
とあるセレクトショップにて、試着室から出て来た百合はカクテルドレスに身を包みエレガントな魅力に溢れている。
小夜子は思わず手を叩く。
「んっふっふ。今度知り合いのパーティーがあるのだ。これ買っちゃおうかなー!」
「えっ!これ、ン十万ですよ!?」
「百合さんはこう見えて実業家なんですの。婚約者も金持ち御曹司だから☆」

「ひゃあ…」
「ね、ね、小夜子ちんもあの黒いヤツ着てみなよ!」
そう指さされたのは、GAULTIERのレースのミニドレス。
「着るだけ無料よ!」
百合に言われて小夜子もその気になった。
試着室に入る。
百合の様な色気は全くないが、華奢な身体にミニドレスはぴったりと馴染み、小夜子は小悪魔を絵に描いたようになる。

「きゃあー!可愛い!」
「ほんまですか?!」
「うん!じゃあ決まりね!あ、ちょっと…」
百合は店員に耳打ちをした。
店員は静かに頷き、奥に行くと箱を持ってきて、中から7センチの黒いウサギの尻尾のようなボンボンがついたエナメルのピンヒールを出した。
Christian Diorのピンヒールだった。
「履いてみて☆」
百合がニコリと微笑んだ。
黒いおかっぱと黒いレース調のミニドレスと黒いピンヒール。小夜子の白い肌が際立つ。
「可愛すぎ!」
百合が小夜子に頬擦りをする。
「次!」
百合がそう言うと小夜子は店員にパウダールームに連れていかれた。
「ゆっ!百合さん?!」
「いーから!」
−一時間後。
小夜子はメイクを施され、完璧な小悪魔になった。
「きゃあ!雑誌の表紙でもイケるわよ。さ!行こうか!」
「えっ?!」
百合はカクテルドレスと新しいヒールを着たまま、小夜子の手をひいた。
光沢の美しいパールホワイトのロングドレスが百合に馴染んでいる。
「百合さん!服!」
「アタシの服と小夜子ちゃんの制服はちゃんと包んでもらってるわよ。」
「ちゃいます!このドレス!」
「ん?買ったもん。アタシのものよ?」
「えええっ?!」
「しっ!騒いじゃダメよ!レディなんだから。」
「だっだって!全部でいくらやったんですか!?」
「やだ!野暮ね。行くわよ!」
百合は何事もなかった様に店を出た。
店員は慣れていると言わんばかりに冷静で上品に百合達を見送った。
慣れないピンヒールで歩きにくかったが、小夜子はなるべく姿勢良く、百合の真似をして歩いた。
「百合さん、出鱈目ですわ…。」
「アタシのストレス発散法よ。」
車に戻り二人は一息ついた。
「やっと龍哉に会えると思ってたのに停学なんて…ひどくない?」
悲しそうに溜息をつく百合の横顔はいっそう美しいと小夜子は思う。
「…女友達にも笑われたわ。あんたが年下にはまるなんて、ヤキがまわったんじゃないかって。」
「百合さん…」
「ごめんね。初対面で巻き込んじゃって。」
百合が無理に笑う。
何だか秋に咲く向日葵みたいに切なく輝く微笑みだと思った。
(清児くんに影響されてないか?うち。)
「とんでもないです。うちこそこんなスゴイ物頂いて…いや!お金バイトしてでも返します!」
「ぶっ(笑)返さないでよ。付き合ってもらってるのよ。制服のまま連れ回すのもね。」
「…百合さんスゴすぎ。」
小夜子は少し考える。
「ちょっと待ってて下さい。」
小夜子はそう言って車をでてトランクを開けてもらい、携帯を出した。
            『件名なし』
『今から会えますか?』
チューニングしてもらったギターを抱えて清児は固まった。
「どーしたの?清ちゃん?またFで苦戦してんの?」
「違う!いきなり小夜子ちゃんからメールが着て!今から会えるかって!」
「嘘んッ!小夜子ちん積極的ィ!」
「やっべ!俺どーしよー!!」
「行ってきなよ!据え膳喰わぬは男の恥やろ!!」
「なんか違うけど!いい?多分あんま時間かからんと思うけんまっとって!」
清児は慌てて藍色の柄シャツとジーンズに着替えた。そして小夜子に電話をかける。
「もしもし?!小夜子ちゃん!?」
「あ、清児くん?今は家?」
「うん!どーしたと?!」
「あんなぁ、事情があってな、お願いがあんねん…」
「何?今どこ?」
「今?天神やで。」
「え?そういや学校は?」
「事情があるんよ。今からそっち行ってもええかな?清児くんちはどこ?」
「えっと小笹ってとこ!」
「わかった…」
小夜子の声が誰かに確認をとるように遠くなる。
「今から30分位に小笹の方に着くわ。近くなったらまた電話するね。」
小夜子はそう言うと電話を切った。
「何があるの?」
助手席に座った小夜子を不思議そうに百合が見た。
「プププ。ささやかなお礼ですわ!」
小夜子が悪戯っぽく笑った。
「百合さん!行きましょ」
小夜子がそう言うとフェラーリが荒馬の唸りを上げて発進した。
                        『緊急!!』
『高村君をすぐに呼んでください!絶対!合わせたい人がいます。』
−?
清児はちっとも意味が解らない。
しかし緊急とまで言われて清児はとりあえず龍に電話した。
『…なんだぁ?』
「…寝てたね?」
『あ?俺課題をしてて…いつの間にか眠っちまっとる…』
溜息が聞こえる。
「今すぐ俺んちに来て。」
『何で?』
「知らん。小夜子ちんが会わせたい人がおるってさ」
『ん〜?何だぁ?ま、とりあえず行くよ。』
電話が切られた。
清児は首を傾げる。
「清ちゃん、すまねー。なんかベースの奴に呼ばれたけん、俺行くわ。」
山崎が申し訳ないと手を合わせる。
「あ、マジで?仕方ないね。何かわざわざ来て貰ってごめんね?」
「んん!目標は2ヵ月後の学祭よ!それまで頑張ってね!そん時はボーカルだけでいいけん。」
「ん。了解!」
「じゃ、またね!」
「ばいばーい。」
清児は山崎を見送り、そのまま玄関先で煙草を吸った。
20分後くらいに龍が来た。
「お、珍しいね。歩き?」
「バイク禁止令が出た。」
黒を基調とした花柄シャツにブラックジーンズ。
先の尖ったラバーソール。シルバーチェーンがじゃらじゃらなってる。
清児の電話が鳴る。
「もしもし?」
「あ!清児くん?今なぁ交番の辺りやねんけど、どう行ったらえーの?」
やたら複雑で坂のイカツイ道を説明するのが面倒だったが、清児は丁寧に説明した。
5分くらいして、けたたましい轟音を立てながら走ってくるフェラーリを見た。
「さすが金持ちの土地やね…」
二人はそれを見ていた。
フェラーリが清児の家の前に停まった。
清児と龍は玄関先で顔を見合わせた。
「清児くん!」
一瞬誰だか解らなかった。
フェラーリから降りてきたのはゴージャスなラブリーベイベ。清児と龍は目を見張った。
「さっ!!小夜子ちゃん?!」
もう一人が降りてきた。
黒い絹のような髪を持つ、女神。
「百合…?」
龍が見とれていた。
「た…龍哉…?」
龍が百合の元に走り、抱きしめる。
「えっ?」
清児は二人を見た後小夜子を見た。
「ドラマみたいやわ…」
小夜子がうっとりと呟いている。
「ちょっと?小夜子ちゃん?どういう事?」
「後でね。」
「小夜子ちゃん!ありがとう!」
龍から離れた百合が感激して小夜子に抱き着いた。
「喜んでもらえて良かったです。」
小夜子はニッコリと笑った。
「小夜子ちゃんは天使だったのね!」
百合が嬉しそうに言った。
「ありがと…。」
龍が照れ臭そうに笑った。
「じゃあ、デートでもして来てくださいな。」
「でも、小夜子ちゃんは?」
百合が心配そうに言った。
「紹介します。うちの彼氏の浅倉清児くんです。」
小夜子はニッコリと笑った。
「あ、ども。」
清児は頭を下げた。
「素敵な子ね。」
百合が笑う。
「そーゆー事なんで、気兼ねなくデートして下さい」
小夜子は百合を車に押しやって手を振った。
                        二人が乗ったフェラーリを見送り二人きりになった。
「…とりあえず、中に入りーよ。」
清児は小夜子に手招きをする。
「変な事せんよ!?」
「何言ってんのー。」
何となく身構えた小夜子だったが清児の屈託のない笑顔を見てホッとしたような表紙抜けしたような複雑な気分になった。
                                    
「お邪魔します…」
清児の部屋はさっきのままベットにはギターが置かれていて机の上は勉強道具が散乱していて床にはCDが散らばっていた。
壁には12インチレコードが何枚も飾ってある。
「ごめん…汚いねぇ。」
清児はばつの悪い顔で笑っていたが
「かっこいい!清児くんギターしてるん?!」
小夜子はキラキラした目で清児を見た。
「いや…始めたばっか…あ!紅茶飲む?」
「お構いなく!うわ!CDいっぱいやね!」
はしゃぐ小夜子の腕を掴み、清児は小夜子にキスをした。
「!?」
「シロップ漬けのチェリーみたい。」
清児はそういって部屋を出ていった。
取り残された小夜子は顔を真っ赤にしてその場にへたりこんだ。












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