思い立ったが吉日
−会いたい。
課題と反省文が終わった。清児は一息ついて煙草に火をつけた。−会いたい。
胸がむずむずする。
禁断症状の出た中毒患者の様にそわそわする。
無意識に辺りを見回し、溜息をつく。
『謹慎中は外出禁止。』
そりゃないぜ、先生。
(罰だから当たり前)
毎日龍、イチ、山崎とメールをしている。しかし、続かない。
暇だ!とか課題だりぃ!とかどうしようもない。
小夜子とはあまりメールも電話もしない。何故なら清児が集中できなくなるからだ。
清児は久々に小夜子にメールをした。
『件名なし』
『課題と反省文終わらせたよ。あと一週間近くあるのが辛い。』
−送信。
清児は心底暇だと思った。
「会いたーーーい!!!」
叫ぶ。ノートやペンを投げる。
「はーーーーーっ……」
長い溜息をついてベットに寝転がる。
「KILLERQUEEN」
がなる。清児は勢い良く起き上がる。
ガッ!
足を棚にぶつけてしまった
「いっだッ!!」
足を摩りながら携帯を開く。
『おめでとう☆彡』
『うちは今素敵なお姉様と遊んでます( ̄ー ̄)』
「なーんやそれー!!」
清児はゴロゴロと床を転がる。
−ごん!
次は頭を打った。
「いっ…何で?」
何だか全てが嫌いになった。
もういいや。
清児は起き上がり、下に行った。
冷蔵庫を開けて牛乳をそのまま飲んだ。
父親の馬鹿でかいステレオの電源を入れる。
ソファに身体を投げ出した。
アジコをMDでシャーベッツをCDで同時にかけた。
シャーベッツの歌が終わるとUAの声が聞こえて、全く違う楽曲で頭がおかしくなる。
最高に贅沢な暇潰しだと思った。
耳から頭がイカレて行く気分。
シャーベッツの『AURORA』は乾いている真夏の憂鬱さを感じながら聞いていた時の事を思い出す。
けだるくて、車道とか、そこを走る車だとか、苛立っている通行人だとか全てを嫌いながら、人々の不快を煽りながら笑う太陽の美しい日差しを、愛してる虚しさだとか、重い足を包んでくれるオールスターの鮮やかな赤だとか。
蝉の合唱が雨か日差しの様に降り注ぐ空気とか。
バスの窓から眺めた原っぱのミニチュアみたいな知らない人の家の庭だとか。
青い空の虚しさだとか。
夕暮れの純粋さだとか。
記憶の切れ端を寄せ集めていたら頭痛がし始めた。
じんわり厚い汗の膜が身体に張り付いている。
清児は二つとも停止させて、ぼんやりと天井を見ていた。
小夜子の事を考えた。
初めて見たときの事、小夜子が唯一、可愛い女の子に見えた。
勢い良く吐き出された煙は空中でゆったりと流れて、なんだか、意外に世界は、のんびりしているのかも知れないと思った。
目を開いて、ただ、ぼんやりとしている。
小夜子の事を思い出すと、心が一人でそわそわし始める。
身体は対象物の不在についていけない。
もどかしい。
今すぐ抱きしめたいのだ。
柔らかい肌とか体温とか、鼻をくすぐる甘くて官能的な花の香りをひっくるめ、全部、感じたい。
勝手に急いだ心が迷子になっている。
清児は悲しくて溜息をついた。
裸足の指先がなんとなく可哀相に思えるくらい、寂しかった。
僕の心には始めから神様は不在で信じるとか思えるのは〜友達と自分だけ。
裏切られるとか考えたこともな〜い。
ご〜めんね〜神様〜。
清児は手を頭の後ろに組んで適当な歌を歌った。
大好きな〜の〜は〜君だけさ〜
あ、何か吉井さんっぽい。清児は一人で乾いた笑いをした。
吉井ロビンソンか…カッコイイよなぁ…。
ちょっと悔しくなる。
やっぱ山ちゃんとのバンドの話し、頑張ってみようかな?
清児は立ち上がり、二階に走った。
山崎に電話する。
「どーしたの?清ちゃん」
周りが騒がしい。
「バンドの練習中?」
「うん。」
「あのさ…俺に…」
「ん?」
「音楽ば教えてくれん?」
「マジか!!清ちゃん!」
「うん!」
「やった!!どーしたん!いきなり?!」
「や、俺も頑張るものが欲しいなぁと思ったけん。」
「いーねーいーねー!」
それから小一時間ほど盛り上がった。
バンドの練習はどうした山崎。
電話を切った後30分くらいには山崎が清児の家に来ていた。
「俺、すっげぇ嬉しいよ!清ちゃんはルックスもいいし、雰囲気もあるし、絶対うまく行くと思う!」
山崎は興奮してまくし立てた。
「でも、歌った事ないもん。カラオケくらいやし。」
「あんときから俺清ちゃんの歌声の虜よ!」
「え・キモいよ、山ちゃん」
「ひ、ひどッ!」
「ごめん!つい!」
「ま、いーけど。ちょうどボーカルが抜けるけん。皆に話してみるよ。」
「山ちゃんギターとか解る?」
「少しなら!」
「そっか…、」
清児は頭を掻きながら、クロゼットに行く。
「えーっとねぇ…」
服を掻き分け奥に手を伸ばした。
ゴソゴソと何かを取り出した。
ベージュのハードケース。ギブソンU.S.Aのロゴ
「え!何で持ってんの?!ギブソン!」
「うちの母さん音楽好きでむかーし自分もギターしようと思ってマックでバイトして買ったんだけど、挫折したんだって。俺が中二の時にくれたんだけど、俺はリスナーでいいと思ったっとったけん仕舞われたままやったんよね。」
中はビビッドピンクの布に保護された、チェリーレッドのギブソンスタジオ99。玄は錆び付いていた。
「勿体ない!!」
「俺、ギターボーカルやる!」
清児はニヤリと笑った。 |