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水色
作:森本エリ



災い転じて…


小夜子が病院に着いた。
清児は検査中で、検査室の前では、血と砂埃で汚れたイチと涙と鼻水で顔を汚した山崎が落ち着きなくうろうろとしていた。
息を弾ませた小夜子を見たとき、イチは彼女に縋り付きたくなった。

「小夜子ちゃん…っ!」
イチが小夜子の前に泣き崩れた。
「頼む…アイツ起こして…俺、アイツに管とかつけられて部屋に連れていかれたの見たら…、なんか…今まで平気だったのに…っ急に…」
「イチ、」
龍がイチの肩を掴む。
「落ち着け、お前にやられた富田に一発殴られたくらいで清児はくたばらねぇよ。」
「…でもっ」
「俺だって尋常じゃないんよ。お前がそんなんだったら俺もキツイ。」
「龍っちゃん…」
「清児がラブリーベイベをほっとくわけねーべ?」
「…うん。そうやね。」
検査室のドアが開く。
「先生!彼は?」
中原優子が一番に医師の所へ行く。
「脳震盪を起こしてますね。
でもそんなにたいした事ではありません、今夜くらいで目を覚ますでしょう。」
「…そうですか」
「本当に大丈夫なんだな?」
龍は医師を睨むように言った。
「…心配しすぎなさんな。たいしたことないから。」
医師が笑って応える。
「…頼むよ、先生…。」
龍は俯いて呟いた。
「とにかく、今日は帰りなさい。他の問題もあるでしょ?」
中原優子が優しく4人に言った。
「清児!!!」「奥さん!落ち着いて!」
清児の母親が看護士に追い掛けられながら走って来た。
「龍くん!イチくん!山ちゃん!清児は?!」
「あ、真由さん。」
「あんた達もどうしたの?」
「あ…」
龍とイチと山崎はお互いを見合う。
少し黙り、今日の出来事について清児の母親に話した。
                                    
「…っ男前な話やね〜!」
真由は感激そうに言った。
「…ま、真由さん?」
「なに?」
「いや、清児、意識とんでますけど?」
「ばっか!うちの清児がそんくらいでくたばるかっつーの!」
「はぁ…」
「あんた達もご苦労様!小夜子ちゃん、心配かけたわね。」
「え…、いえ…。あの…」
小夜子は言い難そうに俯いた。
「ん?」
「あの…清児くんが起きるまで…うち…傍に…おっても…いいですか?」
一気に皆の視線が小夜子に集まる。
「…え、あ、え?」
            小夜子は真っ赤になりながら皆を見回す。
「…」
「嬉しいこと言ってくれるわねぇ…」
「なんか、いーなぁ…清ちゃん。なぁ、イチ!俺がくたばったら同じ事言ってね」
「やだよ、バカ」
「なんだよ!泣いた癖に」
「おめーが一番に泣いただろ!」
「でもよ、親御さんになんていうよ?俺らならともかく、女の子だし。」
「龍くん痛いとこついたわね?それが問題よ。」
「…。」
「イチ彼女いねーの?」
「…いねーよ。龍っちゃんは?」
「……。」
皆黙り込む。
「おい!なんで俺にきかねーんだよ!」
「聞くだけ無駄だろ。」
「テメーはまたそーゆー事を!」
イチと山崎が取っ組み合いを始める。
「やめろよ!バカ!」
龍が止める。
「つーかよー、イチ?あいつは?」
山崎の言葉にイチの動きが止まる。
「ばか!あんな女、逆に親が心配するっつーの!」
「八重子?」
龍の頭に一人の女の子の顔が浮かぶ。
イチの幼なじみでパンキッシュな大きな猫目の女の子。どちらかというと綺麗だった。
『いつかはナンシー・スパンゲンのようなダイナマイトセクシーな女になるの』と言うのが口癖でメイクもナンシーを真似している。しかし、いくら食べてもガリガリで、セクシーとは無縁なボディライン。
「…あれはなぁ。」
イチがぼやいた。
「薬中のパンクス女にしか見えねぇもんな。」
「とか言って、好きだろ」
龍のからかいにイチが焦り出す。
「やだよ!あんな女!」
「シド・ヴィシャスに対抗して髪伸ばしてるんだろ」
「うるせー!!違うよ!」
「はいはい。」
「とにかく!」
真由が二人を遮るように言った。
「親御さんも心配するから、諦めるしかないわよ。」真由が珍しくまともな事を言った。
「アタシはすごく嬉しいよ。うちの子をこんなに思ってくれる人がいるなんて」
真由は慰めるように小夜子を抱き寄せてその小さな頭を撫でた。「一日くらいなら大丈夫です…お願いします…」
小夜子が真由を見上げる。
「小夜ちゃん…」
「…ちょっと待ってて。あ龍ちゃんバイク貸して。」
イチは立ち上がり、龍がバイクのキーを投げて寄越すとそのまま何処かに行った。
           
「イチ何処にいったんかねぇ?」

山崎がのんびりとした口調で言う。
「八重子のとこだろ。」
龍がへっ、と鼻で笑った。 イチは自分の家まで行った。
イチと八重子は隣同士の幼なじみだ。
「八重子!」
イチはずかずかと玄関を入っていく。
「何よ?」
二階からキャミソールと自分で切ったジーンズのホットパンツ、肩にかからないくらいの金髪の緩いウェーブヘアの女が降りて来た。町田八重子。
龍が記憶していたのは一年くらい前の彼女だ。
今はボディラインに女らしさが出てきている。
「お前な、おじさんとおばさんがいないんやから鍵くらい締めとけ。」
「うるさいなー。なんしにきたん?」
「お前に頼みがあるんやけど、」
「なに?」
「清ちゃんが…」
「…また『清ちゃん』の話?」
「なんでや?」
「清ちゃん清ちゃんってあんた達ホモ?」
「貴様!なん言いよーとや!?」
イチはカッとなり、階段を昇る。
八重子が逃げる。
追い掛けるイチ。八重子の部屋のベットで捕まえる。「久しぶりに来たと思ったら、清ちゃんについて、あたいに頼み?!いっつもいっつもベタベタして!」
「ちょっと待て!」
牙を剥く八重子をイチは押さえ付ける。
「落ち着け、バカ!」
「何でジャージなんよ?だっさ!」
「うるせー!いいから頼みきけっつの!」
「やだよ、汗くさい!」
「あーもーっ!待ってろ!バカ八重子!」
イチは八重子の部屋の窓から自分の部屋に入っていく。
イチは自分の部屋に渡り、ジャージを脱ぎ捨て、タンクトップと皮パンに着替え、ライダースを羽織った。
「香水も振ってね!」
「うるせー!」
そしてまた八重子の部屋に戻る。
「−で?」
「清ちゃんが倒れた。清ちゃんの彼女が付き添いたいって言ってんだけど、さすがに男の所に泊まるのはマズイやん?だけんお前電話だけしてやらん?」
「やーよ!めんどくさい」
「頼む!千円やるけん!」
「本当に?!」
「うん!とりあえずお前も来て!」
「しょーがないなー!」
八重子は楽しそうに着替え始める。
イチは溜息をつきながら目をつぶり、ベットに身体を投げたした。                                    小夜子が遠くにいる。
清児は夢を見ていた。
もちろん、清児自身は現実だと思っている。
龍やイチや山崎もいる。
皆で楽しそうに話している。
自分もあっちに行きたいのだが身体が動かない。
誰も自分を見ようとしない。
学校の奴らにほっとかれても何にも気にならない。
嫌われてても構わない。
清児は初めて他人が自分からいなくなることに対し不安を感じた。
−待ってよ!                       どこにいくの?            俺はここにおるよ!                           龍!!                           イっちゃん!山ちゃん!                                 小夜子ちゃん!                                       −!!?
目を開くと見知らぬ部屋。暗闇。救いの月明かり。傍らに眠る小夜子
−???
清児は首だけを動かした。
「…小夜子…ちゃん??」
見知らぬ場所と小夜子の寝顔。
富田と殴り合い(?)をして…保健室でそのまま寝たのか?
そんなはずはない。
何だか長い間眠っていた気がする。
身体が怠い。
清児がもそもそと動く。
「ん…」
小夜子が目を覚ましたようだ。
清児の動きが止まる。
「せっ!!清児くん!?」
小夜子が慌てて清児につかみ掛かる。
「!?ど、どうしたん?」
清児は驚いて小夜子を見る
「よ…よかったぁ…」
小夜子が清児の胸に顔を埋めた。
「清児くん意識が飛んでもうたって聞いたから…。なかなか起きひんし…。」
清児は小夜子の背中を撫でる。
「ここ…どこ?」
「病院やで。」
「な、何で?」
「清児くん倒れたからや」
「嘘っ?!」
「嘘やないよ…。」

小夜子が少し怒った様な口調になる。
「ごめん…。てか、こっちおいでよ。寒かろ?」
清児が自分の布団をめくる
「や、うちのベットあるねんっ!」
「あっためてあげる。」
「なっ!何言うてん!」
月明かりでも解るくらい、小夜子の顔は赤い。
清児は小夜子の肩に触る。
「冷えとるやん。おいで」
清児は身体を起こすとベットから出た。
「清児くん!起きたら…」
「トイレ行きます。」
清児は手を上げる。
「あ、うん。」
清児はふらふらと部屋を出た。
何なん?このオイシイ状況は?!
清児はトイレに向かう途中昨日の出来事を思い出していた。
静まりかえった院内にペッタペッタと清児の足音が響く。
ちょっと面白くなって、リズムに合わせ、頭の中で適当な歌を作って歌った。
            清児は用を済ませて病室に戻った。
「今何時?」
「えっと…」
小夜子は携帯を開く。
「23時…0時前15分」
「そっかぁ…」
清児は今まで寝ていたのもあって、目が冴えている。
「…先生と殴り合いする人なんか始めてみたわ。」
「ああ…龍達に悪かったなぁ…。」
清児はベットに腰掛け、うなだれた。
「高村君たち、気にしてないみたいやで。」
「父さんに何て言われるかなぁ…。」
「…。」
小夜子は清児の頭を撫でる。
「真由さんは感激しとったで。」
「母さんはそういう人だよ。」
「ならお父さんもそんなにおこらへんって。」
「う〜ん…。」
清児は小夜子の腰を抱きしめた。
小夜子もよしよしと清児の頭を撫でる。
「まぁ、いいや。小夜子ちゃんとこんな貴重な時間を過ごせるんやけん。」
清児は小夜子を見上げてへらっと笑った。












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