乱闘!!
5時間目は体育の授業だった。
清児は着替えもせずにそのままグラウンドにでた。
「浅倉ぁ!!貴様なめるのもたいがいにせぇよ!!」
体育教師・富田。
必要以上に清児達を目の敵にしている。
そして、自分が強いんだと生徒たちに誇示するようにタンクトップから厚い筋肉を見せて、違反者や忘れ物をした生徒を執拗に詰ったりする奴だ
富田は清児の胸倉を掴み、殴り飛ばした。
「…。」
清児は立ち上がると、口をもごもごと動かし、ぺっ、と唾を吐いた。
他の生徒たちの動きが固まり、富田と清児を見ていた。
「どこに唾吐きようか貴様!」
「血が出たけんたい。」
「はぁ?」
「いてぇ。」
「貴様…」
富田が殴りかかろうとした瞬間、清児の目が据わり、富田の腹に拳を撃った。
「がはっ!こんクソガキが!!」
前によろけた富田の横っ面に向かって清児は上段回し蹴りをした。
生徒たちが騒ぎ出した。
富田は倒れたかと思うと物凄い形相で清児を睨みつけ思いっきり清児を殴り付けた。
ごすッ!!
と鈍い音と弾かれたように清児が後ろに倒れた。
富田は怒りに肩で息をして脳震盪を起こして倒れた清児を睨みつけていた。
富田もぐらりとよろめいて片膝をついた。
「…この…クソガキ!」
小夜子が清児に駆け寄り、半泣き状態で清児を抱き起こした。
「黒川、そげな男と関わりようとか?」
富田が嘲笑う。
小夜子は富田を睨む。
「ふん。」
富田は馬鹿にした一瞥を向け他の生徒たちを見た。
「貴様ら!なんボーッとしとんか!授業再開するぞ!」
清児の顔は鼻血と砂で汚れている。
「どーしたん?!」
のんきにジャージをだるく着たイチが二人を見て血相を変えて駆け寄ってきた。
「…あ、い…いちのせ…くん…。清児くんが…死んでまう〜…」
小夜子はボロボロ泣きだし、イチは清児を抱え上げた
「小夜子ちゃん来て!保健の先生に事情説明!」
「コラ!一瀬!!待て!」
「うるせー!!それどころじゃねんだよ!後で来てやるからテメェが待ってろ!」
イチは清児を保健室に運んだ。
「…どういう事なの?」
保健室で担当の中原優子が泣きじゃくる小夜子を宥めながら優しく尋ねた。
清児は応急処置を受けてベットにいる。意識はまだ戻っていない。
「あ、ひっく…あの、清…清児くんが…体育の授業を遅れて…ジャージとか…着てへんくて…先生に殴られて…清児くん…殴り返して…先生蹴飛ばして…先生怒って清児くん殴り飛ばしたら…清児くん起きひんの…」
かなりのショックと鳴咽で小夜子はうまく喋れなかった。
「あの糞ヤロー!!!」
イチが物凄い勢いで立ち上がる。
「一瀬くん!待ちなさい!」
耳をつんざく音をたて、ドアから飛び出して行った。
「ちょ!ちょっと!一瀬くん!あ、黒川さん、彼見ててね!」
中原優子もイチの後を追った。
残された小夜子は清児のベットに行った。
「…清児くん…」
小夜子は泣きじゃくりながら清児の顔に額をつけた。
「…痛い。」
清児の手が小夜子の髪をゆっくりと撫でる。
「清児くん!!」
「…痛い…ー…いい匂いやね…何つけてんの?…香水。」
痛みをこらえながら清児は弱く微笑んだ。
「なにしてんねん…。〜っアホ…。」
「…泣かんでよ」
清児は困ったように笑う。
「…なんであんな事…したん?」
「ん?…何でって…」
清児は視線を天井に移す。
「あいつが嫌いだから。」
「そんな理由…。」
「…うん。」
保健室だけが切り取られたように静かだった。
校内は騒然としていた。
イチと富田が乱闘し、それを止めるために何人かの教諭達が入り乱れ、生徒たちが次々と窓から顔を出して騒いでいた。
山崎と龍も教室から飛び出してイチを止めようと乱入した。
「外、騒がしいな。」
小夜子が心配そうに窓の方を見る。
「行かなくちゃ。」
清児がハッとして起き上がろうとした。
「−いっ!」
頭が痛む。
清児の顔の左側が熱を持ち始め、腫れだしている。
「無理したらあかんて!」
「無理はしてないよ。行きたいけん、行くんよ。」
清児は笑った。
小夜子がせっかく泣き止んだのに、また、泣きそうな顔をしている。
「小夜子ちゃん、」
清児は困ったような微笑みで小夜子を見る。
「…俺、今はこんなんやけど、小夜子ちゃんと小夜子ちゃんの笑顔を守れるような男になるけん。」
そう言って、小夜子の頭を自分の胸に引き寄せた。
小夜子の髪にくちづけ、泣きそうな瞼にもくちづけた。
「…アホ。うち、そんなに弱くないもん。」
小夜子は涙を手で拭い、はにかんだ。
「うん。」
清児は小夜子の髪を撫でて、立ち上がる。
「保健の先生に、よろしく。」
清児はそう言って、保健室をでた。
グラウンドに出ると予想以上だった。
まるでK1の会場のようだった。
イチと富田が殴り合い、龍も教師と乱闘になっていた。
山崎はそれを止めようと二組の間に入っている。
生徒たちはやんややんやと歓声をあげ、教師達はそれを止めようと叫んでいる。
「浅倉やん!」
野次馬の中の一人が叫んだ。
清児は痛む頭を我慢して走り出した。
「イっちゃん!!龍!!」
富田に馬乗りになっていたイチの動きが止まった。
龍も教師を突き飛ばし、動きを止めた。
「清ちゃん!!」
「清児!!お前その顔…」
「お前ら…なんしようと?退学になったら…どうすると?…俺が悪いのに…お前らまで悪くなるやん。」
清児は泣きそうになる。
騒いでいた生徒たちも、教師達も静まる。
「清ちゃん…」
「イっちゃん…、龍、山ちゃん…ありがとう。俺のために。」
「富田がいきなり殴ったって聞いたけん、俺…」
「俺もやり返したけんね。」
清児は少し笑った。
「浅倉、高村、一瀬、山崎。お前達、保護者に連絡する。」
校長が出て来て、静かにそう言った。
「原因は俺です。だから…退学なら、俺だけにしてください。」
清児は頭を下げた。
校長は清児をじっと見た。
「親御さん達に話をしてから、君達の処分を考える。浅倉、頭をあげ…」
校長が話終わる前に、清児は地面に崩れ落ちた。 |