さよならベイビィ
助手席で清児は窓に肘をついて外を眺めている。
後部座席の小夜子もぼんやりと窓の外を見ている。
清児の母親だけ、楽しげに鼻歌を歌っている。
「ああ〜♪あなたがいれっば〜こわくはないっわ〜この東京さばーくー♪」
「母さん…うるさい…。」
「だぁってー!静かなの好かんもん!」
「…小夜子ちゃんが笑いよーよ!」
「だって真由さんおもろいもん。」
「やーだーお義母さんって呼んで☆」
「本当に黙ってくれん?」
「清ちゃんったら☆照れちゃって!」
「当たり前やろ!恥ずかしい!」
「はいはい!」
ミニクーパーはスピードをあげる。
待ちどおしかった一日は、あっという間だった。
まだ小夜子の家に着かなければいいのに。
スピード狂の母親を少し怨みたかった。しかし、風景はどんどん流れていく。
時間も早い。
清児の大好きな夕暮れもすっかり終わり、色褪せた、いつもの町並みになっている。
夕暮れの光には魔力があると信じている。
全てが太陽のおすそ分けに彩られて、昼間よりも夕暮れ、そして朝焼けの方がずっと美しいと思う。
もっとも、清児が朝焼けを眺めることは滅多にない。
そして街のイルミネーションはそれなりにきれいだけど、飾り立てたわざとらしさを感じてあまり好きではない。
時折、小夜子が道案内する。
清児は、道に迷えばいいのに、と思いながら窓の外を眺め続けていた。
「清児?なにむくれてんの?あんた。」
「だって…もうすぐ着くやん。」
「しょーがないやん!困った子。」
「…。」
清児は余計に仏頂面になる。
「また明日の学校で会えるやん?」
小夜子がなだめるように言った。
「…うん。」
「今度の日曜日も遊ぼう」
「いーよ。」
「ま!かわいげのない!小夜子ちゃんからせっかくお誘いなのに!」
「うるっさいなー。」
「照れちゃって!」
「あ、次の角、右に入ってください。坂昇ったとこでええです。」
「はぁーいよ!」
清児の機嫌などお構い無しに小夜子の家の近所についてしまった。
「なんか、色々とありがとうございました。ほんまに楽しかったです。」
小夜子がぺこりと頭を下げた。
「いーえー!清児の事よろしくね!変な子だけど、きっと好きな子には優しいから。」
「はい!」
清児の母親と小夜子は外で楽しげに会話をしている。肝心の清児は車の中で拗ねている。
「こら清児!出てらっしゃい!」
母親が言っても知らん顔している。
小夜子は車に歩いていく。
「清児くん。」
清児は犬の様に小夜子を見上げる。
「困ったちゃんやなぁ。」
「…。」
「また明日会えんねんで?」
小夜子は笑った。
「…うん。」
「ちっちゃい子みたいやで?」
「…うん。」
「うち、帰ってまうで?」
「…やだ。」
「やだやないわ。ほんまに…。」
「…。」
「うちの家の前まで送ってくれる??」
小夜子がにっこり笑う。
「…うん!!」
清児の目が輝きを取り戻した。 |