夢じゃない。
日も暮れて、今から店も忙しくなる時間帯になるのに清児の母親は小夜子を送ると言い張る。
「…わかった!じゃ行こう!」
清児は切り出す。
「でも、悪いです…。」
小夜子は申し訳なさそうに言う。
「あたいが行きたいって言ってるんだからいいの!」
「…はぃ。」
二人で先に店を出る。
「ごめんね?」
「んん。うち、なんか悪いな…。」
「あの人は基本的に14歳で歳が止まってるらしいよ」
清児は苦笑しながら言った。
「素敵なお母さんやん。」
「そうかな…?」
「うん。」
「…じゃあ俺は?」
「また…。」
「気になるやん!」
「清児くんかて…素敵やで」
「やった!」
「じゃあ…うちは?」
うつむいても分かるくらいに小夜子は赤い。
「きまっとーやん!見たこともないくらい素敵な女の子!」
「大袈裟や!」
「俺にとって本当のコト」
清児は小夜子をビルとビルの間に連れていく。
「清児くん?」
「…俺ね、こんな気持ちになったん初めてって言ったやん?」
「…ん。」
「また、遊びに行こう。」
「ん。」
「…好きだよ。」
「…ん。」
「小夜子ちゃん、」
「ん?」
「誰も見とらん。」
「…え?」
「正直に答えてくれん?」
「…ん。」
「俺を小夜子ちゃんだけのものにしてくれる?」
「……。」
金色が溶け込んだ赤い日差しが隙間にも差し込む。
沈黙が、暖かい日差しに溶けて流れた。児は小夜子の手を自分の左胸に当てる。
小夜子の肩に額をあてる。
「…清児くん。顔あげてや。」
清児は言われた通りに顔をあげた。
寂しそうで泣きそうな顔。小夜子は困ったように微笑む。
清児の顔を両手ではさむ。清児は背中を丸めて、目が同じ位置になる。
「誰も見てへんから、内緒やで。」
唇と唇が少し触れ合う。
「うちのファーストキスやから。」
小夜子はうつむいて恥ずかしそうに笑った。
清児の反応がない。
「…昼間のアレやなくてちゃんとしときたいって思っ…て…清児くん?」
あまりにも反応がないので小夜子は顔をあげた。
「−!」
ぼろぼろと流れたのは鼻血ではなく、涙だった。
「な…泣かんで…ええやん…。」
「だっで…!!びっくりしたっちゃもん!!!」
清児はゴシゴシと涙を拭う。
「清児くん…変子ちゃんやな…。」
「なんそれ…」
「変な子。」
「うぅっ…ヒドイ…」
「アハハ…!」清児は壁に手をついて、
小夜子にくちづけた。
「好き。」
「…うちも」
「夢じゃないよね?」
小夜子は清児の頬をつねる。
「いたいいたい!!」
「お約束やん?」
「そんな約束守らんで!」
二人は笑いながら手を繋いで表にでた。
「初めて〜のちう〜♪きみとちう〜うひひ!あいにーぢゅーおーまいまー」
「…母さん…テキトー。」
「真由さん!!」
清児の母親が花壇の前でウンコ座りをして煙草を吸っている。
「よ!青春ど真ん中!!」
「うるさい…。」
「ごめんなさい。お待たせしてもうて…」
「いーのいーの!ひっさびさにドキドキしたんよ−!うっふふ〜!やるね〜お二人さん!」
ひゅーひゅーと囃し立てる。
「桃の天然水?」
「なんそれ?」
「知らんとー?」
「知らん!」
「お母さんアレ好きやったのにナー!」
「知らん!」
「うぷぷ。照れちゃって!さ!行きますか!」
いつから見られてたんだろう?清児と小夜子は気まずそうに顔を見合わせた。 |