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水色
作:森本エリ



キラキラ☆


「バイクじゃなくてごめんね。」
清児は苦笑した。
「えーの!うち、バイク怖いもん。しかもうちの特等席あるし♪」
ピンクの座布団が荷台に乗せられている。
小夜子は横向きに座った。跨がるとスカートが張るからだ。
「ズボン穿いてくればよかったかなぁ…」
清児のシャツに捕まり小夜子は呟いた。
「え!何で?可愛ーとに」
「ほんま?」
「うん。」
「ま、ええか…。」
「今日はスミレのお姫様やね。」
「恥ずかしくない?」
「え?何が?」
「お姫様とか言うの。」
「何で?」
「うぅ…ん」
「スミレってね、スモトリグサて言うんやけど。花相撲に使うからスモトリグサ。やから小夜子ちゃんは相撲のお姫様かー!」
−バチッ!
「痛ッ!!」
「いたらんこと言わんでえーねん。」
「スミレの花言葉はひかえめ、誠実って言うんやけどな…。」
「それが??」
「…いや?ピッタリやね〜と思いました。」スイスイと自転車は進む。街を離れ山道に変わる。
「うち、降りるで!」
「いや!いかん!」
「きついやろ?」
「小夜子ちゃん軽いから大丈夫!」
山の上に行く道は自転車では通れない。
山道はくねった坂道で、いくら小夜子が軽くても清児の息は上がっていた。
「大丈夫なん?」
「…うん」
「無理しなくてもええのに…」
「いいの!」
若葉が太陽を受けて透けていた。
爽やかな風が体をすりぬけていく。
「ちょっと来て。」
清児は小夜子の手を取る。木の間から街が一望できた。
「うわ、スゴイわ!」
「夕方はもっとキレイ。」
はしゃぐ小夜子は清児にタワーやドームの名前を聞いた。
清児はずっと見ていても飽きないと思った。
溜池に着いた時は日も高く昇り、水面が小夜子を歓迎するように輝いている。
若葉たちもさらさらと音をたて、日をいっぱいに吸い込んでいた。
「めっちゃキレイ!」
「あそこ、あの花、俺、小夜子ちゃんを見たとき、あの花を思い出したんよ。」
「キレイ!…てほんまに?」
「うん。」
「…ありがと」
「ははっ。あ、チェリータルト食べる?」
「うん!」
清児は箱の中にある小さなチェリータルトを出した。
赤い薄いゼリーが被さったチェリータルトは宝石みたいに見えた。
「これってどこに売ってるん?」
「?母さんが作るんよ。あの人こういうの好きで、たまに気が向いた時に店にも出してるけど…ほとんど家でしか作らん。生のチェリーはあんまり使われんとかなんか言ってたな。」
「へー!スゴイ!」
「あ。」
「なん?」
「今日一段と可愛いと思ったら…化粧してる。」
清児は真っ直ぐ小夜子を覗き込む。
「なっ!アホ!」
「まぁ、照れない照れない。食べよ。」
「…清児くんって疲れるわ。」
「え!嘘?」
「ほんまに。平気で恥ずかしい事言うし。」
「だって、可愛い女の子はちゃんと褒めなさいって母さん言ってたし、父さんは好きな女の子にはちゃんと素直な言葉を使えって言ってたよ。」
「…。」
「けどね、そんな女の子、小夜子ちゃんしかおらん」
清児は気の抜けたような笑顔で小夜子をみた。
小夜子はうつむいて、草を毟っていた。
「アハハ!どーしたの?」
「なんもあらへん!」
「はい。」
清児はチェリータルトを差し出した。
「あ、切るのがない!」
清児は慌てた。
「うー;どないする?」
「ま、いーや。」
清児はチェリータルトに噛り付く。
「ほい。」
そして小夜子に自分が食べた反対方向を差し出した。
小夜子がそのまま噛った。思わず清児は見とれていた。
「おいしー!」
小夜子は清児をみた。
「あ。…そう?よかった」
清児は笑ってごまかした。
気を紛らわすためにに煙草を吸った。その後はひたすらガムを噛みながら空を見ていた。
チェリータルトは小夜子にほとんどあげた。
「えーの?うち全部食べちゃったよ?」
「うん。」
「怒った?」
「まさか。あ。」
清児は小夜子を見て笑った。
「口の周りイッパイついてる。」
指をさして笑う。
小夜子は顔を真っ赤にして清児を叩く。
「うるさいなー!とるからほっといてや!」
「やだ。」
ばたつく手を握って小夜子を押さえた。
「ほっとけません。」
清児は笑った。
思わず清児は唇を見つめる。
小夜子も清児を上目使いに見つめる。
−震えている。
暑い。
じわりと汗が流れる。
風がさわさわと二人を撫でる。
恐る恐る清児は小夜子の唇に舌を這わせた。
チェリータルトの味がした。
二人の息が熱をもつ。
清児の薄荷味の舌。
チェリータルトの味が小夜子の唇で交ざる。
「…口紅とれた。」
清児は舌を止めて呟いた。小夜子はうつむいている。
「清児くん…」
「はい?」
「アホ…。」
「…はい。」「…犬。」
「わん。」
小夜子が笑い出す。
「もー!口紅せっかくつけたんに!」
「俺の為でしょ?」
「ちゃうわ!!」
「そーなん…。」
清児は肩を落とす。
「……そや。」
「ちょっとくらい…は?」
「うん。ちょっとくらいえーよ」
「やった!」
「アホやわー。」
小夜子がけらけらと笑う。それを見ていつになく全てがキレイだと清児は思った。
清児は寝転がる。
「…ひざ枕してあげよーか?」
「うん!」
二人で青い空を見た。
小夜子の香水の香り。
清児は仰向けから、俯せになった。












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