流血の惨事
「もう、大丈夫。」
小夜子は自分で確認するように頷いた。
「あ、鼻水出てる。」
清児が小夜子の鼻を指差した。
「え!?嘘や!!」
「うそー。」
しれっと歩き出す。
「もぅ!!浅倉くんのアホ!!嫌いや!」
「あ!それなし!ごめん!俺が悪かったです!ごめんなさい!」
慌てて小夜子に謝り倒す。
「浅倉くんのお願い聞いてあげへん。」
「やだ!今のなし!ごめんって!……ごめんね?」
機嫌をうかがうように清児が小夜子をのぞきこむ。
少しむくれた顔も可愛い。
「……。」
「なに笑ろうてるん?」
横目で清児を見ながら小夜子は言う。
「ううん。」
「にやついてる!」
「ううん。」
「嘘や!」
「だって、小夜子ちゃん、すげー可愛いーっちゃもん。」
みるみる小夜子の頬が赤くなる。
「なに言ってん!そんなん言うても許してあげへん。」
「ごめんね。俺、こんな気持ちになったの初めてで。なんか言いたくて仕方ない。」
「うちかて浅倉くんみたいな人初めてや。」
「嫌?」
「…嫌やないけど…。」
「よかった。」
清児は小夜子の手をとり、自分の左胸に押し当てた。
「ね?俺バクバク言ってるやろ?」
確かに、清児の胸から小夜子の手の平に激しい鼓動の感触が伝わった。
「ずっと、こんなんなってる。」
清児は困ったような笑顔で小夜子を見ている。
清児の赤茶のカーリー(天然)ヘアは、柔らかく、風にふわふわと揺らされている。
小夜子の艶やかな黒髪はさらさらと流れる。
「…うちかて…同じや…」
「!!」
ふわりとした両手で清児の手をとり、小夜子も自分の左胸に清児の手の平をあてた。
「……な?わかる?」
潤んだ瞳でおずおずと清児を見上げる。
「う…うん…。あ!」
思わず清児はしゃがみ込み片手で顔を押さえる。
「!どないしたん?!!」
ぼたぼたと指の間から血が落ちる。
「浅倉くん?!!」
小夜子が驚いて清児を覗き込む。
そして鞄からタオルハンカチとティッシュを出して清児の顔にあてる。
「大丈夫?どないしたん?」
小夜子は必死に鼻血を拭いてくれるが、清児としては上の流血より、下の充血が気になって仕方なかった。 |