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  東方蜃気楼 作者:ままま
――俺、この戦争が終わったら結婚するんだ

ハハッ、ジョニー俺のお古でいいのかい?――
妖怪と満月
俺は歩いた。何時間も、何日も、何週間も、何ヶ月も、何年も。さすが人外、いや妖怪なのかほとんど飲まず食わず、しかも疲れを知らないという点に驚きっぱなしなのだが。何日かに一度、食べれそうな木の実、キノコ、あとは水だけで大丈夫とか。どの川や湖いっても美味しく飲めるとは!本当にここは日本かどうか疑いたくなる。いや、世界的に見たら日本の水は超綺麗なんだけどさ。

「今宵は三日月ってな。心なしか怖いなぁ」

俺の体を棍棒がすり抜けた事件以来俺は考えた。棍棒は貫通するのに地面や木を貫通しないのは何故か?地面貫通したら大変なことになるのでそれは考えないでおこう。やはり攻撃といった悪意に対応する能力なのだろうか?妖力ってのも大分曖昧だがなんとなくわかってきた。よくある修行の精神統一をしてみたのだが、体は空の瓶、そしてその中を血管のように管が入り組んでいるようにイメージし、その中にいかにも妖力的なオーラを出す液体が循環していると考える。そんなことをしているうちに無意識にそれを感じることができるようになった。妖力が流れる管の太さを変えたり部位に集中させて集めてみたり、案外楽しいから困る。

この流れる力が妖力かどうかは置いておく。まぁあの鬼がそう言うのだからたぶんそうなのだろう。幽霊でもないからやはり棍棒の影響を受け付けなかったのは鬼の言うとおり能力なのだろう。別の妖怪に会えればいいのだが生憎あの鬼以降まったく出会わない。運がいいのか、悪いのか。能力の訓練、というのも棍棒出来たから周りの木もいけるんじゃね?と思ったのが始まりだ。木々関係なく歩けるようになれば山歩きもずっと楽になる。肉体的には余裕なのだが精神的にアレなのだ。地面を貫通しないように気をつけよう。まぁたかが妖怪一匹、鬼の言からすると俺には大妖怪の才能があるみたいが、大地様には勝てないだろう、うん!

「イメージイメージ」

もう何年も続けていたせいか、体を空間に、管が通り、妖力が循環する、なんて1個1個イメージする必要はなくなった。人間、否妖怪か、慣れればなんでも出来るものなのだ。妖力を別の『存在』になったかのように考える。棍棒の影響を受け付けなかったときと同じように、妖力を棍棒を受け付けないものにするようにイメージする。


霧か、雲か、水か、風か、煙か・・・『蜃気楼』か


流れる妖力が霧散する。集中が途切れたわけではない、そうイメージしたのだ。全身を均等に、ふだんより太く流れる妖力が全身をさらに細かく深くより濃ゆく。『蜃気楼』について心惹かれるのは気のせいだろうか、霧雲水風煙より『それがいい』と頭ではなく心が薦めてくる。まるで、まるでこれが俺のあり方のように。『蜃気楼』・・・そう俺は『蜃気楼』見えるが見えない。近づけば消える。触れることのできぬもの。そこに『蜃気楼』は存在する。それに本質は見えない。それはただの幻惑、存在していない。


――そう『自分』こそ『存在して存在しない』


結果を言うと上手くいった。木に恐る恐る触ってみるとスカッと気持ちがいいくらいに、何もないように触ることが出来なかった。俺が触れない、というより木が俺に触れることができない、といったところかもしれない


――そう『自分』こそ『触れられて触れられぬ』


俺は蜃気楼の妖怪なのかな?と思う。確かに『蜃気楼』ならば棍棒で攻撃を受け付けないのも当然だ。それはただの幻なのだから。『存在していない』ものを攻撃など出来るわけがない。それど、俺は、俺は今ここにいる。『存在している』のだ。矛盾してね?


――そう『自分』こそ『目に見えて目に見えぬ』


頭にこういうワードが先程から浮かんでくるの仕様か?『存在して存在しない』どこかで聞いたことのあるような言葉だ。確か、夢で聞いたような。いや、『自分』がそう言ったのか?鬼と別れて以来、俺はたびたび夢を見るようになった。なにもない場所で・・・なんか呟いていた。そんな感じだった気がする。最初のほうこそ起きる瞬間に全て忘れた。今ではなんとなくだがその情景を思い出せるようになった。


――そう『自分』こそ『後ろの正面であり正面の後ろ』


ぼ~っとしているとフイに思い出す。されど考えた瞬間ぼやけて消えていく。まるで『蜃気楼』のように遠くから見えても、近づいたら何もないかのように消えて無くなる。だがそんなことに俺は不思議と疑問に思わなかった。まるで、まるでそれが当たり前、かのように。


――そう『自分』こそ『匂いがあり匂いがなく臭いは理解不能』


少しずつ・・・少しずつ『自分』が一体なんなのかわかったきたような気がする。何年も過ごしているうちに、だんだんと全身を流れる妖力の量が増えているような気がした。俺が元人間ならば、妖怪に近づいている、と表現出来たかもしれない。あの鬼が言うには長生きしただけで大妖怪になれる的なことを言ってたので、生きているだけで妖力が増えていくものなのだろう。あれからどのくらい月日がたったのかは知らないが。月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也ってな


――そう『自分』こそ『感情経験知識存外論外未定不定情緒不安定』


「そろそろ行くか」

東の空がかすみ始めた。やうやう白くなりゆく山ぎは、さすがかの清少納言も言ったとおり素晴らしい光景だ。空気が綺麗なのもあるだろう。夕日と間違えるぐらい燃えるようなオレンジ色が、青色と混じりほのかの紫を映し出す。・・・本当は別の考えごとをしたかったのかもしれない。考えれば考えるほど確信にせまっていくのだ。まるで知っているかのように。俺はなんとなく、なんとなくだが、もう少しだけ待ってほしいと思った。心のどこかの無意識の海の向こうの孤島の真ん中に埋められた何重もの鍵がかけれた箱の中に、俺はまだ人間にいたい、妖怪なんかじゃない。そういう感情が有ったのだろう。もう少し考えればきっと『たどり着く』はずだ。そのとき、俺は完全な妖怪になるのだろう。


ザッザッザッ

少し溶け出した雪を噛みしめ歩く。もう少しで春になる。桜が綺麗に咲く時期だ。これで何度目かわからない。ただ、楽しみだった。人間としての俺の最期には良すぎだ。そして『自分』の門出には十分すぎる。俺卒業、私入学みたいな!

かすかな日光が溶けだした雪を反射しキラキラと光る。箱が解錠されたようなきがする。さきほどの陰鬱な感じはなく、ただ産まれた子供を歓迎するかのように、山は風で唸っていた。





桜が満開になる。現代の俺がいたころではありないほど鮮やかで、そして大量の桜が舞っていた。獣道を歩く歩く歩く。木々の間から漏れる光が強くなった。おそらく、桜の森を抜けるのだろう。何年も山を彷徨い続けた俺は心なしか、少し寂しかった。だが反面嬉しいこともあった。森を抜けた、すると広がるのは草原、後ろの森からは獣を鳴き声風のうなり声。まるで俺を見送ってくれるかのように。俺は無意識、とは言わないがごく自然に、お辞儀した。草原を見渡す。目のあたりに妖力を集めて視力を強化する。この使い方は最近覚えたものだ。あの冬の日の後、妖力の使い方、能力の詳細が夢を通して、知らないはずなのに知るようになった。あの棍棒を貫通したのも、木をすり抜けたのも俺がもつ能力の片鱗にすぎなかった。

「お!あれは・・・村か?・・・村にしては小規模だ。というか土器作ってら」

どんだけ古いんだよ!ありないっす先生!!!っと叫ぶ。叫んでも誰も注意しないこの世界は本当にいい場所だ。というか土器ってなによ!?まぁいいか、行くか。妖怪だけど隠れていれば問題ないだろう。そういう方面に俺の能力は便利だ。なにしろ


――存在して存在しない程度の能力


なのだから。この能力を理解すると、とあるゲームのことを思い出す。まぁその世界に来たのだろうか、特に何も思わなかった。存在しないのだから攻撃なんか喰らうわけがない。だが俺は存在している、だから俺自身から攻撃できるし触ることもできる。矛盾、故に俺、それが『自分』の本質。

彼はふっと、まるでピントがはずれた写真のようにぼやけて霧のように霧散し、消えた。




俺は存在しないまま見渡し、丁度いい崖があったので、そこに移動し座った。消えた時から計算するとほんの一秒もたってないまま移動した、もちろん存在しないままで。ついでに村全体の様子を探るため、俺の存在範囲を広げた。見る聞くのとは大分違うが、わかる、その程度のことはできる。俺は『存在して存在する』のだ、どこにでも俺は存在するし、俺は存在しない。だから、村全ての場所に俺が存在しても不思議ではない。能力そのものは不思議だが。


「これは縄文時代か?だいぶ古い時代に来てしまったものだ」


村の様子を見ると、土をこね合わせ縄で模様を作り、火で焼き固める様子が見えた。時々村の住人が俺のいるほうを見て、首をかかげて作業に戻る。そんな光景も見れた。俺は存在してないのだから見ることはでいないだろうな、だが感受性が高い子供のほうがなんとなく俺に感づいているようだ。大人よりも首をかかげる子供のほうが多い。妖精にしろ、お化けにしろ、そういうものは大抵子供の話だ。子供の冒険にはそういうものが一杯だ。大人にはわからぬ世界、子供だけの世界。子供が見えて大人には見えぬ。そんな存在はいっぱいだ。悲しいかな、これが現実なのよ


俺はその日からずっと崖から村を見ていた。最近はそういうものなのかと理解したのか、こっちを見てくることは無くなった。土器を作り、海岸で貝を捕り、村人全てで一緒に食べる。よきかなよきかな。最近老けたような気がする。まぁしょうがない。俺をじっと見て、時々崖のところまで遊びに来た少年は、大きくなると遊びに来なくなり、恋人ができ、子供が出来た。大人になった少年は、こちらを指さして子供に話しかける。そういう光景を何世代も見た。

近くの森で迷い人が出れば草を揺らして案内し、海流によって流されて船を引き寄せ、作った土器が壊れないよう妖力を込めて強化した。妖力は悪いものではない。妖力とは妖怪の使う力のことだ。純粋なそれは人間の使う霊力や気以上に白い。なんの問題もなかった。


――どうしてこんなことをしたのかって?


簡単だ、なんとなくだよ。愛着とも違う。俺はただの気まぐれなのだろう。現に助けなかったこともある。気に入った人もいないし気に入らない人もいない。ただそれだけだ





夢を見た。懐かしい夢だ。村にたどり着いて以来見ることのなかった夢だ。今回は違った。普段は曖昧な意識でただ見ていただけだが、今は考えることも出来る。最期の知識の授与、と言ったところだろう。夢から覚めるたびに俺は妖力が膨れ、能力の使い方を知った。今日は最期の鍵を開けるときだ。あの箱の中に『自分』はいる。最期までもったいぶりやがって。空間とは呼べないほどの何もない空すらない空間で、箱を開けるのは俺。最期の知識、俺の正体だ。俺が『自分』を受け入れて何百年か、やっとだ。俺は妖怪だ。とびっきりの能力を持った妖怪だ。それは体質とも言える。なぜ俺が妖怪という枠にいるのか疑問に思うほどの。同じだった


――神が信仰によって姿を保ち力を得ることと


人々の感情、『存在していないものに対する恐怖』から俺は生まれた。必要だから世界は俺を産んだ。人々が増えることで恐怖の数が増えたから俺は育った。俺は恐怖の妖怪。話す相手、好きになる相手、嫌いになる相手、恐れる相手、全てには対象がいる。ならば、ならば『存在していないものに対する恐怖』など存在するわけがない。されどそこには存在した、矛盾だ。だから必要だった。『存在していないものに対する恐怖』を受け取る『存在しているもの』が


人々の恐怖が俺を産んだ

故に俺は恐怖の妖怪

存在していない恐怖を受け取る器として世界は俺を産んだ

故に俺は存在していない

故に、故に俺は存在する。『存在して存在しない』という概念として

ならば俺はどこにもいる。そしてどこにもいない。

感情が知識を増やし、知識が経験を促し、経験が感情を産む

欲望、恐怖、勇気、快感、後悔、不満、嫉妬、軽蔑、愉快、痛感、期待、憎しみ、怒り、苦しみ、感謝、空虚、嫉妬、驚愕、興奮そして『恐怖』


あらゆる人類の千差万別の感情の受け皿として、俺は千差万別の人格を持っている。人格に感情を注入することで個性は生まれる。そして、俺は産まれた。俺こそ『存在と非存在』私こそ矛盾、儂が感情、小生は知識、我が経験。・・・・『自分』こそ妖怪




――妖怪ってな~んだ?


・・・恐怖の原型だから怖い存在――

能力をさっさと明かすことにしました。


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