最終回.ハルと千年王城・朱雀
俺が瞬きをした瞬間。
目の前に立っていたはずの朱雀は忽然と姿を消していた。
ありえねぇ出来事だが、朱雀に会って、ありえねぇ出来事すらも受け入れれるようになった。
「なんだよ・・・1年間一緒に居たのに、別れ際はすげえアッサリじゃねぇか・・・」
俺は一人夕日を見つめてから、目の前に居るはずのない朱雀に向けて呟いた。
一緒にいるのが当たり前になった朱雀。
ここに来るまでは隣にいたのに、家路に着こうという今、いない。
「確かに、初めてここに来た時はすげぇ嫌だったよ、引越しも、転校も、この京都も」
観光地前のバス停で、我が家経由のバスを待ちながら独り言をポツリポツリと呟く。
「だけど、今やっと好きになれたんだぜ?
お前は役目が終ったから・・・自分のいるべき場所に帰っちまったのか・・・? 朱雀・・・」
時刻通りにやって来たバスに乗り込み、俺は家に着くまでの間、たくさんの想い出を振り返っていた。
マンション近くの停留所でバスから降りると、下がってしまった肩をピンと伸ばして気を引き締める。
いつまでもぐずぐず言うなんて、俺らしくねぇ。
それに、親父や母さん、朱雀に懐いていた秋奈にちゃんと説明しなきゃなんねぇからな。
朱雀はもう、櫻井家に帰ってこないって事を・・・
マンションに入り、エレベーターに乗り込むと10ボタンを力強く押した。
ガラス張りのエレベーターから見える赤に染まった空は、1年前に見たあの綺麗な夕日とダブる。
チン!
あっという間にたどり着く10階、1001号室。
俺は躊躇いがちに手をドアノブに掛けた。
いつもなら俺の後から玄関へ入る朱雀。
だが、俺の後ろには誰も立ってなどいない。
意を決して、ガチャリとドアを引き開ける俺。
玄関で靴を脱ぎ捨て、リビングへ進むと、どこかで聞いたような音楽が耳に入ってくる。
・・・ん?
なんだ、この変な音楽・・・?
♪チャッチャ、チャチャチャ チャッチャ、チャチャチャチャーチャチャ チャチャーチャチャ〜
前にも聞いたことがあるような・・・?
デジャヴ?
俺は胸騒ぎに似たものを感じ、すぐさまリビングへ駆け込むと、テレビが設置されてある方へ鋭い眼差しを向けた!
「遅いではないか、ハル」
突然聞こえてきた、間の抜けた声。
それは毎日毎日耳にしてきた声。
さも俺が悪いみたいな言い草で、話しかけてきたのは・・・
「朱雀・・・?」
いなくなったはずの朱雀が目の前で、夕方の再放送ドラマを座って見ているじゃぁありませんか。
・・・つーか、あれ?
さっき俺たち、さよなら的な雰囲気で別れたよ・・な・・・?
俺が呆然とリビングで突っ立っていると、朱雀は何もかも見透かした笑みを湛えて説明調に話し出す。
「あやうく夕方の再放送番組を見逃すところであった、危ない危ない〜」
ニンマリ、いや、憎っったらしい微笑を向けてくる朱雀。
あぁ、『もう帰らなくては』ってのは、夕方のドラマが始まっちまうから、早く(俺の)家に帰らなきゃ。って事か?
あぁ、忘れてたぜ・・・こいつが可愛い女の子の皮を被った、悪魔だってこと・・・
してやられた・・・く、クソスパッツ女ぁあああああーーーーーー!!
「ふふっ、安心するがよい、ハル。わたしはずっと付いていてやるからな!」
朱雀の弾んだ声が耳を通り抜ける。
俺は心の中で絶叫しながらも、これから言わんとする言葉はなんとも情けねぇ。
だって、保身が大事だろ?
俺は目に薄っすら涙を浮かべながらも、必死に口角をつり上げ、鉄扇片手に微笑む朱雀へ一言。
「・・・ウレシイナァ・・・これからも朱雀と一緒にいれるなんて・・さ・・・」
春は出会いの季節、見知った土地の京都。
俺は千年王城と共に、愛すべきこの地で暮らしていく――
おしまい(ぐすん・・・! |