49.「ル」の連呼を侮るなかれ
あぁ、もう帰りてぇな・・・
俺がそんな事を思っていたそのとき。
目の前に子猫がちょこんと座っているじゃねぇか。
なに? このアッサリ感は?
「にゃぁ」
可愛らしい一声をあげた子猫、いや、クリスティーナはつぶらな瞳で俺をじっと見つめている。
落ち着け春彦! ここで逃がすわけにはいかない! どうする? ガバッといくか?!
いや、ここは慎重にいくべきだ!!
心の中で自問自答を繰り返し、俺はゆっくり屈み、クリスティーナの前に手を差し出し優しく声を掛けた。
「ルールルル、ルールルル」
恥もアホらしさも忘れ、俺は【北の国からクニエイ作戦】を決行していたのだ。
その不思議な音色に導かれるように、クリスティーナは俺の手元に歩み寄り、その身を委ねた。
クリスティーナ、GETだぜー♪
子猫の小さな体を抱き上げ、小躍りしながらハゲ林を出ようと踵を返した。
その時、
竹林特有の静けさを破る、甲高い笛の音が聞こえてきた。
俺の背後に何者かの気配を感じる。
バッと振り向くと、
そこには奇妙な少年がぽつんと立っている。
どっからどう見ても小学5、6年生。
真っ白な髪に白い肌、平安時代風の白いへんてこな服で、たしか・・・水干とかいう服装だ。
その目は朱雀と同じ、金の目。
だが、朱雀とは違い、怖ろしい獣のように感じる・・・
驚きと同時に緊張が押し寄せる。
俺はクリスティーナを小脇に抱えながら、今までにない圧迫感を覚えた。
少年は無表情且つ、感情がこもっていない声で、俺に話しかけてくる。
「お手前が小生の眷属、八葦杜守を攫った者か?」
・・・は?
朱雀以上に会話が理解できねぇ。
俺は首をかしげて少年にやんわり質問返しをしてみた。
「ボク、名前は? どっから来たんだ? お母さんと一緒じゃぁないのか?」
「命が惜しくば小生の問に答えよ」
小馬鹿にするように尋ねた質問。
少年は表情一つ変えずに、厳しく問いただした。
生意気なガキめ・・・!
態度を一変させ、俺はいつも通りの声で少年に言葉を返す。
「なんとかのカミなんて、俺は知らねぇよ! 攫うとか人聞き悪いこと言うもんじゃねぇぜ」
腕を組みながら語尾荒く説教をたれ、少年を睨む。
すると少年は少しつり上がった目を大きく見開き、すぐ元に戻すと冷ややかな口調で告げた。
「ならば、今すぐお手前が連れている小生が眷属を開放し、この地から出てゆくがよい」
少年は竹笛を片手に持ち、俺に指差すようにその手を振り下ろす。
それはまるで真剣を向けられたような、気味の悪い感覚。
俺の背中に一筋の冷たい汗が流れる。 |