44.相手の名前は正確に。
「ふむふむ、遠慮は要らん。長椅子に掛けて結構じゃよ、ハル少年」
偉そうに片方の前足を指し出し、俺にソファーに腰掛けるよう促す権兵衛さん。
俺ん家なんですけど・・・!!
勝手に他人の家へ侵入してきた、薄汚れたキツネ。
俺は当たり前の疑問をぶつけてみた。
「あの〜、何しに来たんスか?」
偉そうな態度のキツネに、俺は一応低姿勢でモノを尋ねる。
おそらく、おそらくだが、俺の方が年下であろう。
「決まっておるじゃろう! 朱雀殿と茶でもと思って伝説の茶葉を持ってきたんじゃ、お前さんに用なぞあるかい!」
礼儀を弁え低姿勢で発言したにもかかわらず、権兵衛さんは俺を一喝した後、くどくど説教をたれやがる。
え、理不尽じゃね・・・?
どうやら朱雀とお茶を飲むためにやって来たが、その朱雀がいない! と、憤慨。
遠いところ折角来たのだから、
「お茶を飲んでから帰る」と、風呂敷から茶葉とお茶セットを取り出し、湯飲みに注いだ熱いお茶を俺の目の前に出す、権兵衛さん。
ふふふ、ジ・エンド・オブ・俺の自由。
前回置いていったお土産のせいで、権兵衛さんをあまり好きになれないでいる、俺。
何を話そう・・・
沈黙が訪れ、茶を啜る音だけが広いリビングに響いた。
「わしゃてっきり朱雀殿が、ヒトを忌んでおったのかと思ったがの・・・」
突然権兵衛さんはため息に似た、穏やかな声を俺に向けた。
『ヒトを忌んでいた』?
どういう意味だろう?
そういえば、俺は朱雀の事をあまり知らない。
俺と会う前は一体何をしてた? 本当に人間じゃないとしたら、一体何者だ?
もしかしたら、朱雀が居ない今、それを聞き出すチャンスかもしれねぇ!
権兵衛・・・じゃない、どんべえさんに・・・ごんべえ・・・あれ? どっちだっけ?
まぁいいか、どんべえさんなら俺の知らない謎を知っているかもしれない。
なにせ朱雀の茶のみ友達なのだから!
出されたお茶を啜った後じっくり間をとり、遠回しのセリフは抜きにして、核心から入ることにした。ちゃっちゃと聞いて、さっさと帰ってもらおう!
「あの〜どんべえさん、朱雀は本当に人間じゃないんスか? (もはや人間の域を超えてるけど)」
テーブルに湯飲みを置き、食い入るように目の前の(薄汚れた)キツネを見つめる俺。
どんべえさんの少しつり上がり気味の目が、僅かに笑みをたたえたように感じた。 |