42.素晴らしき日本のゴミ事情
メイドカフェの店内入り口付近にて、スパッツを履いた少女にひれ伏す一人のメイドさん。
なんだ、この画は?
「ハル、この者はわたしの眷属なのだ。もう会っていたとは知らなかったぞ?」
烏丸ちゃんに目線向けた後、朱雀は小首を傾げて俺に尋ねる。
眷属・・・? 相変わらず言ってること理解できねぇなー・・・
つーか、知らないのも無理ねぇよ。丁度朱雀が給食のおかわりに夢中だった時だもんよ。
「ちょっとね・・・」
俺が話を濁そうとしたとき、間髪入れず、烏丸ちゃんが謎の【やんす】語で切り出したのだ。
「そうなんでやんす! あちき、最近めっきり社に供物があがらず、仕方なくこのバイトを始めやした。しかし、まだ給金も入らぬ状態・・・空腹に耐えかねて残飯を漁ってやした・・・そんな時、このお優しい坊ちゃんが食べ物を恵んでくれたのでやんす!」
世の中のメイドさん愛好家の方々が、この光景を見たら泣きますよ?
美少女のメイドさんが『あちき』って・・・
萌えが最高に似合うコが『やんす』って・・・
「そうか、苦労していたのだな。だが、ハルはそなたにやれぬぞ」
朱雀は気の毒そうに、烏丸ちゃんの肩にそっと手を置いた。
俺は朱雀の言い回しが妙に気になり、固唾を呑んで続きの言葉を待った。
「もちろんでございやす! この坊ちゃんが朱雀様の従者であったとは露知らず・・・烏丸をお許し下さい!」
深々と頭を下げ、切実な声で詫び入る烏丸ちゃん。
「うむ。しばしわたしの元に、置いておかねばならぬからな」
さして気にする様子もなく、にっこり頷く朱雀。
従者・・・
俺、そういうポジションだったワケ?
烏丸ちゃんがゆっくりと顔を上げ、朱雀の金の目をじっと見つめた。
「朱雀様、あちきは陰ながら見守らせていただきやんす。」
俺を抜きに意味深な会話を交わす2人。
俺の口は半開きになったまま元に戻らず、理解不能の会話だけが耳を通過していく。
遠く彼方から(距離にして約20メートル程だが)甘ったるい声と、やけにでかい歓声が店内に響いた。
「それでは、まろんの愛情でさらにおいしくしちゃいまぁす」
「「イエーイ♪」」
ぁぁ、すんげぇ楽しそうだな、謙吾とリョウ・・・
俺だけ全然楽しくないのはなぜだろうか?
これはもう、萌えの世界から脱出して、家に帰るべきだと俺は考える。
肩からずり落ちた鞄を掛け直して、一直線にドアへ向かった。
さらば、萌え。
ドアノブに手を掛けたその時、可愛らしい声が待ったをかける。
「待ってくだせぇ・・・じゃない、待ってハルくん! あたし、お礼を言いたかったの・・・ホントにありがとう! あたしの王子様じゃなかったけど、これは運命の出会いだと思うの・・・! だから、だから・・・」
元の口調に戻った烏丸ちゃんは両手の指を組み合わせて、胸の前に置くと、上目遣いで訴える表情を見せた。
彼女の可愛らしさに、世の男たちは間違いなく悩殺されるだろう。
彼女の正体を知っている筈の俺さえも、心が僅かに揺れる。
彼女の続きの言葉に息を呑む。
「だから・・・また食べ物、恵んでね!!」
切実な叫びだった。
それもそのはず、近頃はゴミの処理も厳しいものだ。
残飯を探すのも一苦労だろうな。
「・・・うん・・」
俺は引きつった笑みを浮かべて一言返し、そのまま烏丸ちゃんに手を振って、足早にメイドカフェを後にした。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」 烏丸ちゃんのマニュアルに沿った、ぎこちない声だけがいつまでも耳に残る・・・
まだ明るい空を見つめて俺は黙々と小路を歩く。
俺の後を追ってきたであろう朱雀が横に並び、声を弾ませて話しかけてきた。
「女中喫茶店とはなかなか面白い所なのだな! ハル、また行こうではないか♪」
・・・もう行かねェーよ!! 俺だけ全然面白くなかったんだけど!
かくして、俺の萌え初体験は一瞬で終了した・・・(ぐずん。 |