34.鶴の…ではなく、鮫の恩返し
俺は乙さんに先導され、また学校近くの小川にやって来た。
なぜ小川?
俺たちの後には玄武と、いかにも不機嫌な朱雀が立っている。
・・・わかったって、乙さんからお礼貰ったら分けてやるから。
すっかり陽が沈んでしまい、辺りは暗くなっている。
そんな中、小川を見下ろす乙さんに、最大の疑問をぶつけてみることにした。
「あの、乙さん。ところで何でこの小川で死にかけてたんですか?」
俺は乙さんの顔を覗き込むように尋ねる。
それを聞いた乙さんが眉間にしわを寄せて、切ない表情を浮かべた。
やべぇ、俺なんかマズイこと言っちゃったかな・・・?!
乙さんは切実に語る。
「聞いてくださいませ、ハルヒコ様。昨日の事です。わたくしは退屈しのぎに竜宮から散歩に出かけました・・・」
唇を歪め、さらに続ける。
「冬の間、特にすることもなく退屈で退屈で仕方ありませんでした。そしてやっと春が巡り、久々に海ではしゃぐダイバーやサーファーを襲おうと、回遊ポイントに瞬間移動を試みました」
・・・
俺の耳が悪くなったのか?
俺の耳が正常であれば、人間を襲うって聞こえましたが・・・
いやいや、ちょっ、待てぇええ!! 人を襲うんですか?!
ってか、瞬間移動? できんのォ?!
俺は体を硬直させ、額から流れる冷や汗もそのままに、眉間にしわを寄せて彼女を見つめる。
こんな美女からこんな言葉、聞きたくなかったな〜・・・
「ところが、冬の間瞬間移動術を使っていなかったせいか、とんだ失敗をし、湖に出てしまったのです! そして人間共がわたくしを見てキモチワルイだの、フカヒレに加工してしまおうだの言い張るのです」
さめざめ泣き出した乙さん。
確かに彼らの気持ちも分からないでもない。
むしろ、サメバージョンでいるからそんなことになるんだと思うが。
今の美女バージョンで湖に出てきていたら彼らの対応も違ったと思うが。
「わたくし、命かながらこの小川まで瞬間移動してまいりました。しかし、どんどん力が抜けてゆき、助けを求めていたしだいでございます」
着物の袖で、鼻水をビーンとかむ乙さん。
「ギャハハ! 川にいたのがハルヒコで良かったじゃねぇか、乙姫! 俺様だったら助けずフカヒレに加工してたぜぇ〜」
「わたしだって、わたしだって助けたのだっ・・・!」
玄武がからかうようにチャチを入れてくる。
朱雀はまだブチブチ文句をほざく。
「ハルヒコ様、これから竜宮へ繋がる浜辺まで移動いたします。そこから竜宮へ向かい、おもてなし致しますわ!」
乙さんが目を細めて微笑み、俺の手をギュっと握る。
乙さんはどの角度から見ても美女オーラが出ている。こんな美女がもてなしてくれるんだったら、どこへでもついて行きます!!
・・・でも、浦島太郎の物語が頭に浮かんでくるのは気のせいか・・・?
竜宮城へ行った浦島は、地上に戻ったとき、じいさんになったって・・・絵本で読んだけど。
目の前の小川が急に怖ろしく見えてきやがった。
もし絵本どおりの展開だったら、俺ヨボヨボじいさんじゃね?
「面白そうだから、俺らは入り口の浜辺に先回りしてるぜぇ」
玄武が楽しそうな顔で、まず無理な事を言ってのけた。
このまちに浜辺が無いって分かってんのか?
ちょっと行って来るわ! の距離じゃねぇぞ? 海はさ。
「玄武様、わかりました。では後ほどお会いいたしましょう」
乙さんは玄武と朱雀に向かって丁寧にお辞儀をすると、俺の腕をガシッと掴み、深さ10センチの小川にダイブした。
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