32.美女現る
ひっそり静まり返った理科室で俺は石鹸を泡立て、必死に手を洗う。
そりゃもう、指がふやけて白くなるくらいに、だ。
そんな俺をよそに朱雀は家庭科室から持ってきた(盗んできた)食塩を、水を張った実験用のシンクにドバっとばら撒く。
「サメ子よ、生き返ってわたしに恩返しをするのだ!」
朱雀は勝手に付けたサメの名前を呼びながら、目を輝かせてシンクを眺めている。
・・・あぁ、日本昔話の『鶴の恩返し』的なノリか。
その時、白目を剥いて微動だにしなかったサメが、突然カッ! っと目を見開き、派手に水しぶきをあげて、俺たちの前に姿を現した。
ザバァッ
シンクから出てきたのは、さっきのキモチワルイサメ・・・
ではなく、
美しい女性だ。
は?
女性・・・?
キモチワルイのはどこへ? この美女はどっから出てきた?!
マ、マジ?! マジで鶴の恩返し的ノリ、キターーー!!
数々の修羅場をくぐり抜け、幾多の困難を越えてきた俺でもこの状況は予想外だ!
驚きと、滅多にお目にかかれないくらいの美女を目の前にして、図らずも俺、テンションが上がっております・・・!
水しぶきが床に落ちる中、目は泳ぎっぱなし。
朱雀は待ってましたと言わんばかりにほくそ笑む。
美女はシンクの水が静けさを取り戻した時、閉じていた目をゆっくりと開く。
海のような、真っ青な目。
瞳は深海のように吸い込まれそうな藍。
その姿は天女のようで、全身に降りかかる水しぶきを弾いてる様は神秘的。
天女的ファッションには全く乱れが感じられない。あんだけ派手に飛び出してきたのに・・・
俺は、あまりの唐突な出来事に言葉を失ってしまった。
(朱雀は期待の目で息を呑んでるだけだけど)
そんな静まり返った理科室に、場違いな声が響く・・・ |