23.おわる祝典
びちょぬれ庵を後にした俺たち。
人力車は道行く人々からクスクス笑われながら、超低速で歴史のまちを走る。
夕暮れは刻々と迫っていた。
「朱雀殿、まもなく辻ですぞ」 彦左衛門さんが謎の発言、『辻』って何のことだ?
「うむ。もう集まっている頃であろう」 朱雀は額に手を当てて、遠くを見るポーズを取る。
ちょうど2本の道路が交差する十字路、つまりそれが『辻』だそうだ。
人力車が減速しだし、辻に近づいていることが俺にも分かった。
そして、俺の体から血の気が失せていくのも分かった。
さして交通量の多くない十字路。
そこにたくさんの人が群がっているのが肉眼でも見えたのだ。
「おぉっ♪ やはりもう着いていたか! 奴らハルの誕生日を祝いに駆けつけて来たのだ」
朱雀が人力車の上で立ち上がり、集まった大勢の人々に手を大きく振る。
俺は焦点が定まらず、呆然としたまま眼前のありえない光景に鳥肌がわきあがった。
ゾッ……
「すざぐどのぉお゛〜!」
距離およそ50M、辻では俺たちに手を振りながら叫ぶ人々の姿。
いや、
人々では、ない。
「いぐぞぉ〜みなのもの゛〜、ぜぇ〜の゛〜」
「「はるぼっぢゃん゛おめでどうございまず〜!」」
一斉に声を揃えて俺への祝いの言葉を叫ぶ彼ら。
その声はまるで地獄から響く怖ろしい・呪われた響きだ。
彼らの姿は日本のホラー映画で活躍できそうなくらい、強烈。
ボロボロの兜を被り、身につけた鎧はところどころ欠けている。
戦国時代の衣装を身に纏った彼ら。
骨と皮だけ、あるいはすでに白骨のみになった姿……
幽霊の集団が俺を祝福してる!!
「ぎぃゃああああああああああああ!!」
俺は再び情けない叫び声を上げ、たぶん気絶した。
『たぶん』ってのはその後のことが記憶にないからだ。
体が少し浮遊感を感じる。
チン
と、エレベーターの音で俺は目を覚ました。
「気がついたか、ハル」
「おぉっ、大丈夫かね? ハル坊」
どうやら朱雀と彦左衛門さんに抱えられ、俺は我が家に帰ってきたみたいだ。
うぅっ。やっと開放されたぁ……!
幾つもの恐怖体験を経て、すっかり夜になっちまったがやっと戻ってきた!
やっぱ俺の安息の場所は我が家だ!
玄関のドアをガチャリと開けると、俺はその場に固まる。
……この某TV番組、5男4女大家族的な玄関はなんだ?
スニーカーにサンダル、ローファーに革靴、ブーツetc……
所狭しと靴が並べられ、俺の靴が置けないんだけど。
リビングからは楽しげな笑い声と、料理の良い匂い。
そぉーっとドアノブを回し、リビングに入る俺。
「「お帰りー!」」
料理を囲んで見覚えのある人物が勢揃い。
父、母、妹・秋奈、ダチ・謙吾とリョウ、加えてなぜか玄武、さらにどんべえさん?
間違った、権兵衛さん。
頭が真っ白になり、その場に立ち尽くしていると、後から朱雀の弾んだ声が聞こえた。
「ふふっ、ハルは幸せ者だな!」
……今まで生きていて、最高の誕生日になりましたヨ……ウレシイナァー……ぐずん。
|