21.ハルの誕生日(彦左衛門現る)
俺の顎が勝手に震えだして、ガチガチうるさいんですが。
ついに顎が壊れたか?
「こやつは落ち武者の彦左衛門だ」
あえて丁寧に説明してくれる朱雀さん。落ち武者のおっさんはハニカミながら頷いた。
頭から血の気が猛烈な勢いで失せていくのが分かる。
だって、目の前のおっさんは間違いなく……
お、おおお、おばっ、おば・け……
ドタッ!
「ハル、なぜ泡を噴いて卒倒しているのだ? さては新手の芸だな?」
「あぁっ、ハル坊が白目を剥いている?! 何か怖ろしいものを見た顔だ……しっかりするんじゃぁ、ハル坊〜!!」
ガタッ ガタン
わずかな振動と、風が覚醒を促す。
俺はうとうとゆっくりと目を開けた。
俺……今まで気絶してたのか?
「ハル、目が覚めたようだな」
安堵に似たやわらかな笑みを浮かべた朱雀を見て、俺の心臓が少しだけ高鳴ってしまった。
不覚だっ!
俺はふと、自分が乗り物に乗って移動していることに気付いた。
時代劇に出てきそうなまち並、茶屋、たくさんの観光客らしき人――
「どこだ……ここ?」
乗り物のスペースはやけに狭く、椅子には真っ赤な布、そして目の前にはその乗り物を轢いている人物がいる。
「わっはっはぁ! ハル坊は実に面白い、皆が興味を抱くのも納得じゃ!」
笑い声の豪快な落ち武者、彦左衛門さん……だ。
とゆうことは、この乗り物は人力車で間違いねぇな。うん。
「ふふっ♪ その通り、ハルは面白人間なのだ」
スパッツ女め、お前に言われたくはねーよ。
けど、さっきまではこの落ち武者のおっさんが本気で怖かったのに――
笑った声を聞いてると今は全然怖くない。
この振動、この風の匂い、朱雀のやわらかい声と彦左衛門さんの明るい声。
悪い気分じゃぁない。
なんだろう、不思議と居心地が、良いんだ。
「ふふっ、なにあれぇ〜」
「コスプレかなぁ? うけるぅ〜」
俺が夢心地でこころを暖めていた時、すぐ近くから気になる会話が聞こえてきた。
超低速で走る人力車は人より速く、チャリより遅い。
観光客らしき女の人たちが、俺たちの方を見ながらクスクス笑っているのだが……なんで?
笑っている目線の先をたどってみると、そこには若いお姉さんたちに満面の笑顔で手を振る彦左衛門さんの姿。
あんた何やってんだぁあ!!
「わははは! どうも別嬪の女子を見るとつい」
そう言って顔を赤らめたおっさん。ホントにお化けなのか?
「彦左衛門、では予定通り頼むぞ」
朱雀はなにやら俺に分からないように、彦左衛門さんにアイコンタクトを送っている。
彼は拳を握り、親指だけを立ててビシッとポーズをとって合図する。
すんげぇ怪しくて不安になるんですが……!
さっきまでの暖かい気持ちはどこへいったのか?
俺の誕生日は、予想通り残念な結果に終りそうだ……(ぐすん。 |