20.ハルの誕生日(人力車現る)
朱雀は俺の手を引き、マンションの入り口で立ち止まった。
昼下がりのここら一帯は車もさほど走っていない、閑静なまち並み。
朱雀がおもむろに、二本の指を使って口笛を鳴らす。
ピュイッ!
ん? 犬でも呼ぶのか?
広いマンションの敷地には更に広い駐車場が備え付けられている。
そこから、俺たちの方へ何かが向かってくるではないか。
犬? ではねぇな。
車でも、自転車でもない。
俺は超低速で向かってくるそれを見て、バカみたいに口を開けっ放しにしながら呆然と立ち尽くす……
「ねぇ朱雀。人力車みたいなのが来たんだけど」
棒読みで質問する俺。
離れた距離からどんどん近づいてくる、人力車?
人力車なんて、さすが京都……?
「あれは、彦左衛門だ」
すっぱり答える朱雀さん。
って、知り合いかよ!
俺たちの前にやっと着いた真っ赤な人力車。
それを轢くのは朱雀の友達(?)の彦左衛門さん。
「やあ朱雀殿、お久しぶりですなぁ」
「うむ、達者であったか? 彦左衛門」
笑顔で挨拶を交わす2人は、どうやら久々の再会のようだな。
「おや、はじめまして坊ちゃん」
彦左衛門さんは丁寧にも深々と俺に挨拶をしてくれた。
朱雀のダチってろくなのがいねぇから、ちょっと感動。
「あ、はじめまして……。俺、櫻井 春ひ……――ん?」
ちょっと待て、あまりにも礼儀のある人だから見落としていたが……
「あれ? この頭にくっついてる折れた矢みたいなものは?」
まじまじと彼の頭を見つめてふと疑問が湧いたのだ。
俺は彦左衛門さんの頭の上に、弓道の矢がくっついているのに気がついた。
それも刺さっているように見えるんですが?
「わはは、坊ちゃんは目の付け所がよろしいなぁ!」 彦左衛門さん、豪快に笑う。
「ハルはなかなかのもんであろう? 宜しく頼むぞ、彦左衛門!」 朱雀さん、ニヤリと笑う。
「あ、はは……は……」 俺、2人に合わせて笑ってみる。
「って、なんじゃそらーーー! どう見てもこのおっさん、落ち武者に見えるんですけど!」
「おっ、ハル坊は鋭いのぉ。それとも拙者死んでから有名になったか? わはははは!」
説明しよう。
俺の目の前ででっかい声で笑っている40代(だと思う)のおっさん、彦左衛門さん。
赤の布地で統一され、黒いフォルムが重厚感を醸し出す人力車を所有。
よれよれの着物に、ヘアスタイルはおそらく時代の先駆け。
頭頂は完全に剃られ、サイドから無造作につくられたロングヘアーの黒髪が肩まで伸びる。
その、毛の無い頭部に刺さりこんでいる――矢。
矢が……
矢がっ……
ぎゃぁああああああ! 頭に矢がブッ刺さってるーーーー?!! |