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僕と彼女の逃げない追いかけっこ。

作者:不皿雨鮮
 誰かが困っていた時、それを助けるのが正しいと僕、夕凪京斗は教えられて来た。だけども、どうやらそんなことはないらしいと今日この頃になって理解し始めた。
 理解の原因となったのは、高校に入ってすぐにできた友達だ。名前は柊木華。彼女は楽観主義で、また楽しそうなことにしか興味がないという、遊び人のような人間だった。
「あはははっ! いやー、困った困った」
 全力ダッシュをする華と、それに巻き込まれた形の僕。後ろから憤怒の形相を宿している少年少女達が追いかけてきている。
 ――さて、一体全体どうしてこうなったのだろう。
 確か僕は、久し振りにバイトも休みを貰った休日を、自由気ままに自堕落かつ無駄で無意味に過ごそうと思っていたはずなのに。

 時は遡って一時間前。嗚呼、確かこの時はまだ、とても平穏な日常だったはずなのだ。だらだらとテレビで録画したアニメを聞き流しつつ本を読み、午後も三時間を潰した頃だった。
 突如、スマートフォンから心臓に悪い音が聞こえ、その時読んでいた本を顔面に落としてしまった。額を擦りつつスマートフォンを手に取り、小さく溜息を吐く。
『HELP ME!』
 スマートフォンだというのに、華の豪快で楽しげな笑みと大胆な口調で脳内再生されてしまう。恐らく、文面とは真逆の笑みを携えながら入力しているのだろう。
『何?』
 送り返すと即座に返ってくる。さてはて、これは本当に困っているのか、それとも単に暇だから対応が早いのか。
『至急、学校に来て! 私だけじゃ対応できない!』
『了解』
 嫌だと言えば、多分面倒ごとを僕の家にまで連れ込むのだ。だからここで了解と言うしかない。たった数ヶ月の付き合いだが、それくらいはもう理解している。
 さっさと動きやすい服に着替えて高校に――私立高校で、制服は式の日でなければ基本は着なくてもいい――向かう。去年に改装工事を行い、まだまだキレイな校舎の中は騒々しいものとなっていた。
「うっしゃあああ、援軍が来たぁ! 今から反撃じゃい!」
 女子らしくないと言えば女子らしくないが、華らしいと言えば華らしい、そんな口調で楽しげに、僕に抱き着き、押し倒し、そのまま僕を追跡者達に投げ飛ばした。
「援軍速攻で投げないでくれないかな! っていうか、援軍のつもりないしッ!」
 うるせぇ、だとか、邪魔なんだよ、だとか。そんな暴言の嵐を喰らいながら、それでも彼らをなだめて事情を聞く。
 ド簡潔に要約してしまえば、誰も彼も何らかのトラブルに華のせいで巻き込まれた被害者達で、反省しろと迫っているらしい。
 それらを聞いて僕は、嗚呼被害者は僕だけじゃないんだなという安心感と、そして、なのにどうして僕と彼らは相容れない関係なのだろうかという疑問が浮かんだ。
 僕は華のことを悪くは思えないが、彼らは華のことを悪くしか思えない。どうして同じ被害者なのに、そう思い、それがどこからか滲み出ていたのだろう。
 数十分の話し合いの後、決裂し、逆に追われる形になった。途中で華と合流し、同時に分かれていた追跡者達も合流し、二対大複数という圧倒的に不利な形での追いかけっこになった。

 それから必死に逃げ続け今に至る、という訳だ。
 いやはや、女子更衣室に隠れるような経験をしたことのある男子というのは、現実ではなかなかいないだろう。
「どうするつもりなの、華」
「えっとー、今のところ考えられる方法は?」
「一、捕まる。二、逃げ切る。三、――」
 今のところ考えられる三つの手段を提示すると、華は数秒考えて、現状維持を選んだ。つまるところ、ここに立て籠もるという選択肢。第四の選択肢というようなものではない。選択しないという選択は、選択したということにはならない。
 ここに立て籠もるというのは、女子である華ならばともかく、僕には大変キツイ選択だ。何というか、精神的にきつい。
「ねぇ、華、一体どうして、こんなことになったの?」
「なんでって言われてもねぇ。私が困っていたら、彼らが助けてくれて、そうしたら自爆したんだよ。それを私のせいにされてもねぇ、責任転嫁ってやつ? 全く、無責任なもんだ」
「責任転嫁したくせに責任転嫁って批判できるその神経、僕は凄いと思うよ」
「あはははっ、ありがと。それにしても、困ったね、これじゃあ、ここで一日くらいは過ごさないといけないかもしれないねぇ。どうする?」
「現状維持を選んだんでしょ」
「まぁね、だけどそれは私の選択だ。でも、私が聞いている京斗、君自身の選択だよ。さて、気を取り直してもう一度聞こう。京斗、これから一体どうするんだい?」
 小さく溜息を吐く。ああ、そうかと僕は思う。これが僕と彼らの違いか、華のこういう面を知っているか知らないかの違い。それがこの違いなのだ。
「ああ、そうだね、じゃあ、こうしよう」
華と話し合い、そうして綿密な打ち合わせを行い、お互いにイヤホンを耳にさす。
『聞こえる、華?』
『うん、聞こえる。くくっ、いいねぇ、なんだかスパイみたいだ』
『そういうのいいから、ちゃんと配置に着いた?』
 楽しそうな口調で各自配置に着く。さて、ここからがお仕事だ。

「いたぞ! 追え!」
「こっちに行ったぞ!」
「いや、何言ってんだ! こっちだ!」
「嘘吐けよ、こっちに決まってんだろ!」
 怒号があちこちで飛び交う。それらはゆっくり、そして確実に、遅延性の毒のように彼らの連携を崩していく。
「いい加減にしろよ! お前ら、もしかしてあいつらの仲間かよ!」
「嘘の報告ばっかり、ふざけんなよ!」
『はははっ! それだけの人数がいて、まだ捕まえられないのかい?』
「殺すぞ! カスが!」
『殺してみな、バァーカ』
「追え、あいつら絶対に捕まえんぞ!」
「だからこっちだろ!? お前らどっちに行ってんだよ!」
 そうして一時間、これまでよりも活発に彼らは動き回り、そしてダウンさせた。疲れ果てさせた。
『お疲れ様。ところで、僕と華は一歩も動いていなかったけど、みんな何をしていたのかな?』
 もう動けないだろうと踏んで、僕はそう問いかける。――正しくは、僕や華ではなく、また彼らでもない生徒のスマートフォンが、そう問いかけた。
 これが僕の選んだ選択だ。僕の選択であり、華の選択を覆さないある種のベストアンサー。
 つまるところ――。「僕と華は一歩も動かず、別の生徒に協力してもらい相手を撹乱させ、時間を潰す」。
 これが、第三の選択。
 まぁ、そんな訳で。この話のオチにへと向かおうか。

 言ってしまえば、彼らはもともと華のことをあまり良くは思わない人間だった。楽観主義で楽しいことにしか興味のない、そういう人間を嫌う人間はよくいるのだ。しかし、逆にそれを好く人間もいる。
 さて、というわけで、そんな好まない彼らと好む人間とをぶつけてみた。
『それじゃあ、お疲れ様。また明日ね』
 ああ、そうだ。言い忘れていた。僕は楽観主義ではないが、華と同じく面白いこと楽しいことが好きで、尚且つ少し性格が悪い。以後、お見知りおきを。
即興小説トレーニングのお題って、結構変なのが多いのを忘れていた。
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ちなみに、4時間の制限時間を設けましたが、書いた時間は2時間程度です。

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