ソルジャーと英雄と非日常な日常。縦書き表示RDF


ソルジャーと英雄と非日常な日常。
作:荒也


「悔しい」
エアリスは頬を膨らませ、苦笑するザックスを見上げた。
「いや、うん。今日の埋め合わせは必ず!」
「それ、何回目?」
「ごめんってば」
散々困らせてから、彼女はため息をついてそれを見上げる。心底困りきって、手に持った携帯をいじりながら迷っているザックス。
しょうがないな、とエアリスは不意に笑み、しかしそれは苦笑以外の何者でもなく。
「次は、ね?」
「ああ、ごめん。じゃ!」
そう言って走り去る彼の背中を見る。ハリネズミのような黒い髪が光に反射して走っていく。背中にはまだあの大きな剣はなかったので、エアリスはその背中が思っていたより大きかったことに気付いた。
何が悔しいか、多分ザックスはわかっていないだろう。彼女はむう、と顔をしかめてさっきまで上機嫌に世話していた花々を見下ろす。相変わらず可憐に咲いて、黄色と白が交互に揺れる。今日は何故かそれを見ても気分が晴れなかった。
本当は、彼とプレートの上に行って買い物に付き合う約束だったのだ。それを無情に電話の音が打ち切って、ザックスは連れて行かれてしまった。
何が悔しいって。
「セフィロス、か」
彼より重要度が低いのかと思ってしまうこと。まあ、そんなこと無いに決まっているが、自分がそう言う気分になってしまうのが許せない。
「むう……」
今は長いすに腰掛け、ただ光に向かって揺れる花を見下ろすのだった。



一方、ザックスは、苛々と神羅カンパニービル内、その上司の姿を捜して歩き回っていた。確かにこの辺りにいると言ったのに。硬質の、鈍色に光る床は、見ているとどうしようもなく腹立たしい!
その耳にひどく落ち着き払った耳障りな足音を捉えるとそちらを振り返る。流れるような銀髪と、上から下まで真っ黒な戦闘装束と、馬鹿みたいに長い刀。確かに待ち合わせた上司その人であることを確認した。
「待たせた」
「全くだよ。人を呼び出しといてさ!」
「機嫌が悪いな?」
「オレはデートに行くところだったんですー」
「ほう?」
相手が楽しそうに聴いているのを見ると、苦言を言うのも馬鹿らしくなって諦めた。
――セフィロス。
ウータイ戦争中には英雄ともてはやされた男である。もっとも、ザックスは他のソルジャーやツォン、あとはテレビで知っているくらいで、彼の実力というのはまだ一度もお目にかかったことが無い。と言うのも、いかんせん1st昇格が戦争終結後だったために友人としての付き合いはあっても、彼と同じ任務になってもセフィロスが戦うまでも無いものが大半だったから。
そんな事を考えていても仕方ないかと頭を仕事モードに切り替え、少しだけ背が高い彼を見上げる。それを察したのか、セフィロスは小脇に抱えていた資料を出した。
「そんなに硬くなるな。ただの残党狩りだ」
「残党?ウータイの?」
「そう書いてある」
「あんたが行くのにか、って訊いてんだけど」
不服そうなザックスの声に彼もふと振り返り、首をかしげる。
「司令に含みがあるのはいつものことだ」
「んなアホな……」
がっくりと肩を落として、改めて彼はこの会社に入ったことを後悔した。
一回目の後悔は、エアリスに「悔しい」と言わしめてしまったことだ。
そんなセフィロスはそんなことは気にも留めず、さっさと歩き出す。
「状況の確認。潜伏先は伍番街の……」
「セフィロス?」
途切れた言葉にザックスが彼を見上げると、彼は口元に苦笑を浮かべていた。
「誰だったか――いつか、お前が田舎育ち仲間で筋がいいと言っていた兵士がいたな?」
「ん?クラウド?」
「そいつを呼んで来い。ここで待っていてやる」
「はあ!?説明は?」
「こういうことには慣れていない兵士が多いんだ」
そう言って彼が見せた紙切れには、伍番街:植物園。植物の一部はモンスター化しており、一般人の立ち入りを規制、と書いてあった。
「……なあ」
「なんだ」
「あんた、オレ達を何だと思ってる?」

それはともかくとして。
連れてこられたクラウドも尻尾を巻いて逃げ出したくなった。もちろんそんなことはザックスが赦さないが。
「宝条ラボ第二研究棟、なーんちゃって」
「ザックス?どの辺まで本気?」
「ほぼ全部」
「だよなあ……」
二人で肩を落とす若者たちを従え、セフィロスもまた憮然としてその植物園?を見ていた。
誰でも気軽に入れるアーチ型の門は人工蔦でデコレートされていたが、それに何故か食虫花が花をつけていたり、卵を産んでいたり。奥のほうに視線を移すと、門から既にぎっしりと緑色の壁、草は異常に伸びて、そこかしこに人さえ飲んでしまいそうなサイズの食虫花が咲いていて。蔦と言う蔦、茨と言う茨が餌食を探してさまよっていた。
今立っているアスファルトから一歩でもその人工砂の大地に足を踏み入れたが最後、一般人ならまあ間違いなく瞬殺されるだろう。
「セフィロス……オレ帰りたい」
「却下だ」
ともあれ、まずは入るために対策を練る必要があった。
クラウドが隣でファイガを放てば、と提案したが、セフィロスはそれに首を振った。
「ここは少しプレートを薄くしてある。崩れたらスラムに被害が及ぶ」
「へえ。英雄さんも下々に目が行くんだね」
「ザックス。貴様の女はこの下だろう」
「……あ」
彼をからかおうとしたザックスの顔が引き攣った。ここが何処であるかを失念していたらしい。彼は心底焦りを隠せない顔でセフィロスを見上げる。
英雄はと言うとそれを見下ろし、ため息をつく。まあ、年齢ゆえかもしれないが都合のいいときばかり少年に戻らないで欲しいものだと、思う。
彼はおもむろにその手を門に向かって伸ばすと、小声で詠唱をはじめた。
薄緑色のマジックサークルが展開、銀髪が緑を反射しながら靡き、詠唱が終る。真っ直ぐにターゲットに向かって伸びていく薄氷の軌跡に、二人の少年と他の兵士は、茫然と見入っていた。
途端に、なにかがはじける音。
「―――!」
気付いたセフィロスがうしろの兵士たちを振り返ろうとしたが間に合わないととっさの判断、とにかくクラウドの前に走って刀を引き抜き、護りの体勢になる。
凄まじい勢いで跳ね返ってきた冷気を散らし、それからザックスを振り返る。彼もまた勘だけは良いようで、自分の前に剣を突き立ててほっと胸を撫で下ろしていたのだった。それを確認したら、今度は固まっているクラウドを見下ろし。
「大丈夫か」
「は……はい。何が?」
「リフレクだ。魔法を使うのは予想していたことだろう」
それからセフィロスも自分の認識不足でブリザガを使ってしまったことを悔いつつ、後ろにいた一般兵達を振り返った。彼らは巻き添えを食ってほぼ全滅状態でそこに横たわっている。すでにザックスがそちらに走り寄っていて、一人一人の状態を確認しているところであった。
「セフィロス!まだみんな生きてる」
「……回復系はケアルガだけだ。足りるか」
「やってみてくれ」
彼が言うと、もう一度ゼフィロスの周囲に光の輪が広がり、倒れた兵士に癒しの光が降った。何人かは目を醒ましたが、他の者達は依然立ち上がることも出来そうに無かった。
ザックスが舌打ちしてクラウドを見上げる。
「ここ頼めるか?もしオレ達が植物を何とかできたら、ここから援護してくれれば助かる」
クラウドが頷き返すと、悪いなと立ち上がり、セフィロスのほうへ走る。
いいのかと訊かれたが、頷いて。
「強行突破なら得意だろ」
「まあな。だが恐らく残党どもは兵士も狙うぞ」
「クラウドの銃の腕はなかなかだぜ。接近戦もな」
「それは……それは。是非今度見せてもらいたいものだ」
彼は苦笑すると、ザックスと並んで歩き出そうとし――それから思い出したようにクラウドを振り返るとバリアのマテリアを投げてよこした。一般兵に扱いきれるかは判らないが。
走って突っ込むと、とたんに襲い掛かる蔦。まずは絡め取る魂胆か、他の植物は手を出さない。背中が空きがちなザックスに前を行かせ、せわしく刀を振るいながら、周りを見回す。
「セフィロス、扉が開かない」
「ちッ」
突き当たりの扉を背にザックスと並ぶ。走り抜けてきた通路が狭まりながら迫る。緑色に絡み合いながら、それを見てこれが可愛い女の子の集団ならまた違うのになと、ザックスはふざけたことをかんがえて失笑した。
隣から不意にセフィロスの手が彼の服を掴んで引き寄せる。自分の前に盾のように。
「おい!?」
「少しだけ耐えろ」
言うのと同時に、背中と背中が触れる感覚。音で彼が刀を振り上げたのがわかった。
その数瞬後にはもう緑色が眼前に迫り。ザックスの剣が、間一髪受け止めていた。
重い。
剣を持ち、支える手が震え、足が少しだけ後ろに押された。
「まだかよっ」
「あと……少し」
ぱん、と音がするのと、彼が耐え切れず吹き飛ばされるのはほぼ同時であった。
開けた場所に飛び出したザックスを抱えるようにしてセフィロスが物陰に走りこんだ。銃撃で多少負った傷をすぐ魔法で塞ぎ。
壁に背中をつけて喘鳴するザックスを見下ろし、彼は怪訝そうに大丈夫かと声を掛けた。
「吹っ飛ぶ瞬間に腰に手ぇ回しただろ。ちょっと吐くかと思った」
「そうか。まだいけるな」
「当っ然」
彼はさっさと立ち上がると、剣を握りなおす。
「そんで、敵さんはこのバリケードの向こう側にいるわけだな」
「そう言うことだ」
「魔法は……使えないんだろうなあ」
ザックスは面倒そうに顔をしかめた。壁の隙間から覗くと、銃を持った人影が数人分、見える。全員の目が、この物陰に集中していた。
セフィロスもその横で今更のように、クラウドにバリアのマテリアを預けたのを後悔する。
「残党、か。神羅を怨んでるんだろうな」
「何故そう思う?」
寂しそうな顔をしたザックスを彼は不思議そうに見下ろした。
「あ、いや、別に悪いことしてるやつの肩を持つんじゃないぜ?そうじゃなくって、戦争の発端ってこっちだって聞いた事あるからさ」
「…………そうかもしれないな」
何か含みのありそうな声にザックスは怪訝そうな顔をしたが、セフィロスは構わず前を向く。
「セフィロス。あいつら多分まだリフレクかけてる」
「厄介な」
彼が不愉快そうに目を細めると、同時に見計らったように彼らがばらばらの方向へ散ったのが見えた。
「あ!」
「追う」
「一人で大丈夫なのか?」
「自分の心配をしろ。左右の道に三対三で逃げた。一人で三人を相手にする」
「げー。それ、セフィロスでも勝てるかどうか」
「オレを誰だと思ってる?」
そう言って不敵に笑う、セフィロス。彼は見とれているザックスになど振り向きもせず、左の通路に走っていった。
取り残されたザックスもまた、肩を竦めて苦笑いし、右に走って行くのだった。



畜生。
クラウドは癖のある金髪、長い前髪を掻き揚げて苛々とあたりを見回した。彼を囲むのは四人のウータイ人。少年の細い肩の向こうにはバリアで護られた負傷者たちがいた。
「神羅の奴は、皆仇ってか……!」
その言葉に、一人が反応する。四十か五十の、壮年の男である。
「小僧。私には貴様と同じくらいの息子がいた。我々が八つ裂きにしたいほど憎んでいるのは後ろのそいつらだ。戦争に参加しない世代に危害を加える気は無いんだよ」
不思議な、なまりのある声だった。
クラウドは父親としての情を彼の目の中に見て、少しだけ戸惑った。それと言うのも彼自身父親と言うのを知らないからだったが、それでもぐっと剣を握った手に力をこめ。
銃はとうに投げ捨ててしまったのだった。
「これは、オレの仲間だ」
「我々を攻撃するのか?」
心底、悲しそうな声であった。それにも心を動かされないようにしながら、剣を構え。
「必要なら」
実は、バリアを使った時点でもうへとへとである。彼はたしかに優秀だったがそれでもマテリアを扱うには至らなかったのだ。
クラウドはそれを悟られないために、それと心を整えるためにもう一度言った。
「……必要なら」



澄んだ音がした。彼は舌打ちして離れ、背後からの剣戟に対応するように半回転、壁際に走ってなんとか後方の安全を確保する。ザックスは彼らの軽業師のような動きに早速眩暈がしてきたが、こういう場合諦めるとろくなことにならないものである。
彼らは奇妙な模様の面をつけてそろいの黒装束、曲芸でもするならさぞかし見栄えもよかろうと、またもや別の方向に逃避しかけた思考を無理やり元に戻す。
「いい加減にしろよ」
怒り交じりに。まったく、本当に今日はついてない。
かわるがわる襲ってくる白刃を大剣で受け流しながら、反撃するのを躊躇している自分に気付いて、また眉間の皺を深くする。
手を汚して、エアリスに嫌われるのが怖いのか。そう思うと少しおかしいが。
こんなんじゃ英雄なんて程遠い。
そんなことをぐるぐる考えていると、軽い発砲音が響いた。ザックスはとっさに剣で弾いたが、それは紛れもなく銃の音。相手が剣しか使わなかったので、両方の可能性をすっかり忘れていた。もう一度部が悪くなったのを確認してため息をつき、壁沿いに走る、腕を銃弾が掠める。
マテリアはあるが、ここで使うと下に影響が出そうで怖い。
ザックスは歯を食いしばると袋小路に入って突き当たりで振り返り、上から斬りつけてこようとした刃を受け止め弾き、返す刃で斬りつける。
面が割れ、驚いた表情のまま青年が倒れた。まずは一人。
「降参――してくれないか……」
諦め顔で続く刃を弾く。今度の相手はさっきのやり方をしっかり見ていたのか、ザックスの反撃の餌食にならないようにすぐに飛びのいた。すれすれで脇を通り抜けた大剣。そこに出来た隙を見逃さず彼の懐に走りこんだ細身の黒装束のみぞおちに左腕の一撃を加えたザックスは、そのまま倒れそうになったそいつを盾に剣を構えなおした。
続けざまに襲い掛かろうとしていた体格の良い黒装束が一瞬バランスを崩して慌てて体勢を立て直し、後ろに退く。
ザックスの盾になっているのは体格から、少女であると推測された。
「おっさん!この子と引き換えに、こんなの止めないか?何が目的か知らないけどさ」
「……」
面は全く喋らない。
変わりに銃を構え。
「な……!」
少女を後ろに放り出したザックスの腕を銃弾が貫いた。悲鳴を上げる暇もなく第二撃を剣で辛うじて受け流し。
舌打ちして走り、男の剣と切り結ぶ。押し返す力に少しだけ驚きながらも、さっきの行動に対する不快感をやはり隠せない。ザックスは圧迫する力を緩めず、その表情の無い面を睨みつけた。
「さっきのは何だ!?あれはあんたの仲間じゃないのか?」
弾き返されると、再び構えなおし。
「神羅への復讐ができるなら、命さえ決して重くはない!」
二つの声が重なった。は、と振り返ろうとしたザックスに前方の男が剣を振り上げた。斬撃を受け止めるのと同時に、背中から衝撃。見下ろすと、腹部から剣の切っ先が覗いていた。
洒落にならない状況である。
「な―――が、は」
「特に、その娘にはな」
低い声、と、ザックスの膝が崩れかける。
家族。土地。そんなところか。彼は歯を食いしばるとまずは前方の刃を弾いてから後ろの少女の腕を掴み、なおも斬りかかろうとする男に投げた。少女は受身を取ろうとしたが、男が下ろし損ねた剣に体を貫かれ、押し殺した悲鳴を上げる。
ザックスは回復の暇を与えず男の方に剣を振り上げたが、彼はそれをバリアで弾くと隙ができた青年の腕に銃を向けた。
撃たれて剣を取り落としたザックスを見下ろし、背後からの足音に気付くと傍らの少女を抱き上げて振り返る。倒れたザックスに銃口を向けたまま。
「……まったく。つくづく甘い奴だ」
セフィロスが、やれやれとため息をつくのが見えた。
「悪か、ったな」
「―――覚悟など、出来ていなかったんだろう」
男が、間で会話に割って入った。
「この小僧は」
「その通りだ」
あろうことかセフィロスまで同意して失笑する。ザックスとしては、助けに来たのかからかいに来たのかはっきりしてほしいところである。
そんな事を言っている暇があるなら、背中から刺さったままの剣を何とかしてほしいものだと、思う。
「ザックス」
「はい……よ」
「死ぬか」
「撃たれ、たら間違いなく。………と。腹も、早く、治さないと、あ、危ない感じ?」
セフィロスが軽く顔をしかめたのが見えた。
――いや、普通に考えてその態度はおかしいだろ!
そんな思いを口にはしなくても判ったのか、セフィロスはふっと笑って銃を構えた男の腕を飛ばし、その脇を走りぬけた。一瞬唖然とし、状況を把握した男のくぐもった悲鳴を聞きながらザックスの腕を掴んで強引に立たせると、勢い良く背中から剣を引き抜いた。
あまりにも乱暴な起こし方にザックスも一瞬意識が飛びかけたが、一応回復はしてくれたらしいので文句は言えない。
「………………セフィロス……」
静かに渦巻く、怒気。
面を取った男が振り返るのを見ると、彼はふっと眉を顰めてザックスの傷を見る。治っているどころか、ますます酷くなっているのが判ると、舌打ちしてリジェネをかけなおした。ウータイ独特の呪い、と言う奴だろうか。面倒だ。
セフィロスにとっては相手もまた、面倒な人物ではあるが。
「セ、?」
何か言おうとしたザックスの足が浮く。
「お前は聞くな」
「は?」
次いで体ごと重力に猛反発、何が起こったか良くわからないうちに後ろにあったはずの窓を突き破って急降下。いや、確か今までいたのは三階だったような気が。
大してなにか考えごとをする暇もなく舗装された地面に背中が激突した。
悲鳴を上げたり咳こむ余裕もなく、胸の辺りを両腕で抑えて丸くなる。遠くのほうで何か聞こえる気がするが、一先ずは呼吸の仕方を思い出さなくては。
やっと呼吸が落ち着いて一息つくと、予想外に修羅場なところに落ちてきたらしかった。
効果の切れかけたバリアに覆われた負傷者と、それを背にして戦うクラウドの後姿。少年にしては少し痩せているその肩が大きく上下している。ザックスが、これではいけないと立ち上がったところに、少年が飛ばされてきた。
その肩を掴んで、笑ってやる。
「よう。かっこいい、じゃねえか」
「血」
「あん?」
「………怪我」
クラウドの疲れきった声が何を指してそう言っているのか判ると、ザックスは傷の傷みを思い出して苦笑した。
「大丈夫だって。悪運なら、英雄、様にだって、負けないぜ」
クラウドの疲労は、恐らくマテリアの長期使用によるものだろう。
「相手、は」
「あと二人……」
「最初は」
「四人。情けないよ。自分の弱さを痛感した気分だ」
彼はそう言って悔しそうに眉根を寄せて、俯いた。
ザックスはそれに対して苦笑し。
「多分、今のオレより、クラウド、のが強い。多分、上ももう……片がつく。もう少し、頑張ろう、な」
心配そうにザックスを見上げたクラウドだったが、やれやれと首を振って相手から奪った剣で二刀流と洒落込んだ両腕を体の前に構え。
「弱いなりにさ。オレも誰かを護りたいって、思ったんだよ。それが、他の誰かの恨みを買うとしても」
ああ。
と、ザックスは、感嘆にも似たため息をついて、細い背中を護るように立って剣を持ち上げる。
こいつは、オレとは違った強さを持っていると。
「そだな。オレも、見習わないと、な」



彼は小さくため息をつくと、切っ先で笑う初老の男を見据えた。
「娘の仇か。お前ほど執念深い男も初めてだ」
男の抱くのは、亡き娘の容をした呪人形。セフィロスが十年ほど前に落としたウータイの城の一つに仕えていた父娘。娘は姫君の影武者をしていたが、健闘も空しくセフィロスに討たれ。そのときからその父――目の前の男は、たびたび彼に敵討をしようと試みていた。
戦争が終結しても。
「それもここで終わり、か。長かった、な」
そう言う彼に、セフィロスも苦笑して返す。
「ああ。――妙な親近感を覚える程度にはな」
暫くそのままの姿勢で力なく笑いあう。まるで、退役する老兵と、見送る息子のようだと、セフィロスは思った。もっとも、彼は自分に親など無いものと思っているが。
いたとして、ここまで強く自分を思ってくれるのだろうか。
「ひとつ訊きたい」
「なんだ」
「ザックスにかけた呪、お前が死ねば解けるのだろうな?」
セフィロスの言葉に、男が失笑した。
「とうに、解いている。まさか投げ捨てるとは思わないからな」
そんなに聞かれたくない話だったかと見上げる男に、セフィロスもまた苦笑し。
「別れくらいは、綺麗に済ませたいからな」
「勝者の戯言だな」
彼はすっと銀の軌跡を描いて構えられた刀を見上げ、これが最後と判ると目を閉じた。



ザックスは終始痛いのだるいのと騒いでいたが、セフィロスの拳骨で黙る。脇で苦笑しているクラウドに気付くと涙目で彼を見下ろし。
「ほんとに痛いんだぞ!」
「おかわりか」
「いらねえよ馬鹿!」
構えたセフィロスのほうに向き直ると不意に笑み、頭を乱暴に撫でられる。
ザックスは右で、クラウドは左で。
「ぎゃー!やめろ!年甲斐もねえ!」
クラウドは暫く唖然としていたが、やがて自分が何をされたのか判ると嬉しいような悔しいような気分になった。セフィロスを見上げると、抗議するような目をして。
「……同感です」
セフィロスは言われたことには何ら反応をせず、しかし一応敬語なところはザックスも見習うべきだと、見当違いなことを思う。
負傷者を全員神羅の護送ヘリに運び終え、三人はプレートの上の舗装された地面に座り込んで、茫然と空を見上げていた。思ったより時間がたっていて、もうその青もじわじわと薄紫に変わっていくところであった。
「ところでさー」
ザックスの呟きが自分に対するものであることがわかると、セフィロスはなんだ、と問い返した。
「聞かなくって良いって、なんのこと」
「さあな」
気の無い返事。仕方ないかと思い直して隣で魂が抜けたようにしているクラウドを見る。彼はというとザックスの視線に気付いていないようなので、唐突に抱きついてやるとぎゃああと悲鳴を上げた。
……ザックスは少し傷つかなくもなかったが。
「なんだよ!」
「つかれたなあー、クラウド。おにーさんとホテルで休もうか」
「ひい、寄るな異常性愛者!」
「……冗談だよ、ひっでえなあ。オレにだって天使のような本命がいますー」
「……え?」
どちらかと言うとこの反応のほうがさっきの発言よりは破壊力があるような。セフィロスも非生産的な会話に苦笑しながら立ち上がる。
部下二人に手を差し出し。
「敢闘賞だな。夕飯でも食べに行くか」
「セフィロスの奢り?」
ザックスがにやりと笑うと、そうだな、と笑う。クラウドは赤くなったり青くなったりと忙しいようだったが、あえなく二人に夜の町を連れまわされるのだった。



エアリスは、むすっとして彼を振り返った。花畑の向こうに見えたのはいつも来る彼より少し背の高いシルエット。
青年は、少女の不満そうな表情に気付いて苦笑する。
「悪かったな。この前は」
「ほんとに。セフィロス、ザックスとっちゃうんだもん。買い物、先延ばし」
セフィロスはゆっくりと歩を進める。壊れ、塗料の剥がれた長椅子の間に伸びる一本道を歩く姿は、エアリスとしては認めたくないが、神々しいとも思える美しさ。その風景だけで一つの絵画のようである。
相変わらず不機嫌そうな彼女の隣まで来ると、おもむろにその手を取って小さな袋を手渡した。ご丁寧に、贈り物用にエアリス好みのラッピングまで施してある。
渋々受け取ったエアリスは彼を見上げ、首を傾げた。
「何、これ?」
「肥料だ。まあ……肥えた土にも必要なものかはわからないがな」
「ううん。ありがと」
そう言って笑う、後ろで高く括られた栗色の髪がふわりと揺れる。セフィロスは、この笑みがあまり好きではない。同じ色の目をしていて、強く気高い彼女に僻んでいるだけなのはよく自覚しているので、口にはしないが。
それに、つるんで遊ぶのは楽しい。矛盾していると、我ながら思う。
「それで、なにしに来たの」
「懺悔。というやつだ」
「へえ?珍しい、ね。ここ、もう神様、いないのに」
「だからここでする」
エアリスは目をぱちくりさせると、その意味を悟って大声で笑う。
品がない、と何度か注意したが、セフィロスももう諦めていた。
「あ―――!」
突如、二人とは全く違う大声。セフィロスが振り返るとザックスが扉の前で泣きそうな顔をしていて、エアリスは何がおかしいのかますます笑う。
「ななな、なんであんたがここにいるんだ!」
「それはもう」
くすくす笑いながらエアリスはセフィロスの腕を取って自分の肩に回す。彼も楽しくなって少女の細い肩を抱き寄せて不敵に笑う。
「エアリスの兄のセフィロスだ。以後よろしく」
腕の中でエアリスが笑いすぎて死にそうなのが見えた。
「嘘だ!」
「嘘だ」
埋め合わせを先延ばしにしていた罰なのか。
ザックスは何かの手違いだと思いたかったが、彼はそれから一日、この二人に弄って遊ばれるのだった。
エアリスが、最後に一言、次はデートだねとザックスの耳元に囁いたのを、セフィロスも聞かぬ振りをして。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう