フォトンセイバー
上昇に伴って発生する重力に従い、リュウキは座り込む。
スカーも巻き添えで尻もちをついた。
気にせずリュウキの首筋をスンスン嗅いでいる。
「すげえな……」
上昇が終わったタワーは氷の巨塔に代わる。
魔法の追撃を受けても傷すら付かない。
縦に伸びた要塞。最強の監視塔。
リュウキは端っこに座っているが、豆粒のような敵チームに足がすくむ。
「サラ、ここから魔力引いておいた方が良いんじゃないか?」
「引いておくわ」
完全に射程外とも言えるここは安息の地。
サラさえ生き残れば可能性はある。
「こっちに指示は?」
「金髪ちゃんには――」
不意に氷の床が魔法で激しく揺れ、足を投げていたリュウキの体が滑り落ちる。
『ッ!』
寸前でリュウキは氷の薄い床に手を伸ばし、なんとか掴んだ。
一緒に投げ出されたスカーもリュウキの足の甲に上手く座って事なきを得る。
なるべく下を見ないようにギュッと脚に抱きつき、不安そうに見上げる。
「お、おい!」
咄嗟にガロードが近寄って手を差し伸べる。
その手を掴もうとした瞬間。再度激しく揺れ、リュウキの手が床と離れる。
完全に二人は空に投げ出されてしまった。
『行動開始!』
リュウキはそう叫ぶとしがみつくスカーの手を引き寄せ、離れないように抱きしめた。
「こんな状況でそんなことしちゃ……」
「ばか、風だよ風! 風でゆっくり行くんだよ!」
風を切る音に掻き消されないように耳元で叫ぶ。
目に見えて降下速度が緩やかになっていった。
「ああ、助かった」
「このままで良い?」
リュウキ達の横を、金髪ちゃんを持ち上げたガロードが急降下していく。
先に降りていったガロードは無防備なリュウキのヘイトを逸らす為に暴れ回る。
「多分、ダメだな」
「チューしてくれたら早く降りるよ」
そう言ってリュウキの耳元で唾液をチュッチュと鳴らす。
「……」
この状態はスカーの魔法で成立している。
生かすも殺すも自由。リュウキに断る権利はない。
「わかった、勝つ為だからな」
二人は緩やかに降下しながら唇を交わす。
重なり合った答えにスカーは頬を赤く染め、甘えるように唸る。
地面にふんわり着地した二人の元に土の塊が飛び込む。
「お預けでいいか?」
リュウキの右手にスカーの氷が宿る。
「早く終わらせてくれるなら」
そう言って胸の前に手を持ってくると寂しそうに人差し指で遊び始める。
振られた氷は容易く土を斬り裂き、二人を避けるように別れた。
「当たり前だろ」
言い切ったリュウキの前に大剣が姿を表す。
ビームを吐き出した変な剣だ。
「気になってたんだが、これってなんなんだ?」
「剣先を下げたら魔法を撃つように作った」
えっへん!
スカーは誇らしげに胸を張る。
「へ、へえ……」
「その氷を強引な感じに装填したらもっとカッコイイ!」
「そうかぁ」
「リュウキはこういうの好きだよね?」
本当はスッキリした刀とか使いたい。
ジャパニーズソードって奴を。
リュウキは自慢げの本人に言えなかった。
「ま、まあな」
「リュウキのことはなんでも分かるし」
キスで機嫌が良くなったスカーは銀世界を生み出し、生命の動きを制限する。
「さ、さむいっ」
「す、スカートじゃ死んじゃうぅ!」
敵はそんなことを言いながらガロードと向き合う。
「クロウ様! お助け下さい……!」
その間にリュウキはヒビに氷を突き立て、火花と共に強制的に変形させる。
機械音を鳴らして剥き出しになった銃口に氷を差し込む。
しっかりハマるように手の甲で氷を殴ってカチッと嵌めさせる。
自然に元の姿への戻った大剣は、喜ぶように青い輝きをヒビから溢れさせた。
「カッコイイっ!」
特に何も言わないリュウキに対し、じっと見ていたスカーは目をキラキラさせる。
「自分で作っといてそれかよ」
『ううん、武器はかっこよくないよ』
「はぁ?」
肩に剣を乗せるとサラがオーラを放って現れる。
「何サボってるの? 向こうは激戦なのに」
「わ、分かってるって」
そう言い残して消えるとガロードの近くに姿を見せていた。
「俺らも行くか!」
『それは、もう無理だろう』
吹雪の中で響く声。周囲を見ると青い髪の男とカロンが居た。
遠目から見てもなかなかのイケメン。
「いつから居た?」
「ずっと見ていたさ」
「なんだと!」
「不意打ちは嫌いなんでね」
心もイケメンな男。
「ムカつく……」
「時の代わりにお前を刻むとしよう」
「ムカつくぜ、イケメン野郎!」
「聞いていたか? 話を」
セリフもイケメンな相手にリュウキは不快感を露わにする。
『寝込みを襲ってエッチするような人間なので仕方ないです』
「酷いな、捌いてやろう」
「お願いします」
スカーが「言い過ぎだ!」と否定するが届きはしない。
「援護してくれるか?」
「今度はちゃんと守る」
リュウキは大剣を構えて走り出す。
カロンの向かい風が進行を遅らせる。
風と雪が混ざり合った豪雪は強烈に絡み合い、速度を激しく低下させる。
追い風となった男にとって、雪を纏ったリュウキは酷くノロマな獲物に映る。
「今から時計になってくれるか?」
剣を握った男は風に身を任せて襲いかかる。
リュウキは簡単に弾き、構わず突撃する。
放たれる尖ったつららをスカーが明後日の方向に変える。
リュウキは剣を横に振る。
「危ない!」
男とリュウキの間に土の壁が立ち塞がる。
剣は土をないモノとして扱い、何事も無かったように壁としての役目を終わらせる。
「なっ」
そのまま大きく振りあげ、剣先が地を見る。
一定の角度まで倒された大剣の変形機構が稼働する。
姿を現した銃口が青い粒子を吹かす。
『フォトンセイバー!』
リュウキは即席で考えた技名を叫ぶと勢いに任せて振り下ろした。
「や、や、やめろおおお!!」
光の刃で構成された巨大な剣は残像を残しながら大地を叩く。
直線上のクリエイト魔法を崩壊させ、身を守っていた男は簡単に消え去った。
「クロウさん!?」
光が収まると剣はガシャンと変形。消えた者に対し、煙を吐いて嘲笑する。
「かっけ〜!」
技名を聞いていたスカーは、リュウキにトコトコ近寄る。
拍手を送ってピョンピョン跳ねる。
「叫んでも威力は変わらないし、動きバレるしメリットねえなやっぱ」
「ダメ! ちゃんと唱えて!」
「はぁ? 恥ずかしいんだぞ」
「今のカッコよかったもん……」
お願い。と言って手を合わせてねだる姿にリュウキは負けてしまう。
「わかったわかった」
「約束! それとフォトンじゃなくて【アナライザーマグナム】だよ!」
ダセエ。
そんな言葉を喉奥にしまい込むリュウキ。
「……降伏するなら今のうちだ」
「しませんよ」
スカーがツンツンと人差し指で決めゼリフを強制する。
『この、アナライザーマグナムで終わりたいのか?』
「ダサすぎません?」
スカーはカロンの言葉にぷんぷん怒る。
「かっこいいもん! ね、ガロード!」
スカーに気づいたガロードが剣で適当に相手をあしらいながら応える。
『あ? まあ、ダサいんじゃねーか?』
「そんなあ……」
落ち込んだスカーはリュウキに泣きついた。
リュウキにしか聞こえない声で「ルビまで考えたのに……」と言う。
「うえーん」
「が、ガロードはわかってねえんだよな! 【アナライザーマグナム】のかっこよさが」
『いや、だせえよ』
優しいリュウキの言葉はバッサリ斬られてしまう。
「もう許さないもん」
スカーは銀世界を自ら終わらせ、灼熱地獄を生み出す。
突飛な爆発が他の女を襲い、赤い空から燃える鳥に似せた魔法が急降下していく。
「きゃあっ」
垂れた汗が焼けた地面に触れてジジッと蒸発する。
『みんなには、カッコ悪く消えてもらうね』