食べる子は育つ・2
去年の入学式の日のことでした。私も去年からここで働き始めたんです。
入学式ということもあってか、昼食は、ほとんどの新入生の方々はしばらく両親の下を離れるということで街の方で取られていまして、在校生の方々は春休みだったので帰省しており、食堂には2、3人しかいませんでした。毎年のことだったらしく、料理人の人たちは数人を除いて休暇を取っており、その日の材料も少ししか仕入れてなかったらしいんですよ。
私が先輩のメイドから色々と仕事を聞いていると、別のメイドが静かに、だけど血相を変えて厨房に入ってきました。
「オーダー、……メニュー全部です」
厨房が騒然となりました。
「どんな大男が来たんだ?」
そのとき、マルトーさんが笑いながら厨房から出て行きました。私を含めたみんなもその人物を見に行ったんです。
「それが…あの方です」
先輩が指さした先を見てみんな固まりました。
「……」
そこには蒼い髪でメガネをかけた小さな女の子が読書をしていました。その方がタバサさんだったんです。
「なん…だと…!」
「貴族の新入生は化け物か!?」
料理人の人たちは動揺しましたが、マルトーさんだけは冷静でした。
「ふん、全部作った後になんだかんだ言って全部キャンセルするつもりだろう。3品ぐらい作ったら止める」
そうにらんで料理を作り始めました。私もそう考えて再び先輩に色々仕事を聞き始めたんですが、すぐにその考えが間違いだということに気付いたんです。
「20品目、突破されました!」「生産が追っ付きません!」
「狼狽えるな、野郎共!相手は1人、しかも嬢ちゃんじゃねえか!」
5分後、厨房は戦場になっていました。
「動けよ、俺の右手!」
「待っている人がいるんだ!ここで倒れるわけにはいかない!」
「俺、これが終わったら結婚するんだ…」
「まだだ、まだ終わらんよ!」
あまりの忙しさに、料理人の方々はなんか今から死んでしまう感じの台詞を叫んでいました。私たちメイドも運ぶのにてんてこ舞いでした。
厨房がそんな地獄絵図になっているのにも関わらず、食堂の方のタバサさんは、黙々と、優雅に、凄まじい速度で出された料理を召し上がっていらっしゃいました。
「これでしまいだ!」
80品目全て作り終える頃には料理人ではマルトーさんしか立っておらず、私たちも足が棒のようになっていました。 最後の料理を出し終えてから数秒後。
「……ごちそうさま」
食堂の方からそう声が聞こえてきました。
「…やった。俺たちは勝ったんだ」
「もう作らなくて済むんだ!」
「ヒャッハー!」
厨房で歓喜の声を上がるなか、マルトーさんだけが難しい顔をしていました。
「…まだだ。あの嬢ちゃんがあのことに気づいてなけりゃ、俺らの勝ちだ」
その時、タバサさんが無言で手を上げました。
「は、はいっ」
私は慌ててタバサさんの所へ行き、用件を聞きました。
「料理長を呼んで」
そう言われたので、私はマルトーさんを連れてきました。
「へい、お呼びで?」
マルトーさんは表面上は取り繕っていましたが、頬には冷や汗が流れていました。
タバサさんは無表情に本を読みながらおっしゃいました。
「塩が足りなかった」
その言葉を聞いた瞬間、マルトーさんは諦めたように、清々しく笑いました。
「嬢ちゃんの言うとおりだ。今日は人はあまりこねぇだろうし、まさかこんな大食いな嬢ちゃんがくるとは思わなくてな。お叱りなら俺が…」
「けどおいしかった」
マルトーさんがさらに続けようとすると、タバサさんが遮ってそうおっしゃって下さったんですよ。
「今までおいしかったっておっしゃってくれる貴族の方は、生徒の中では、タバサさんが初めてだったんですよ。そのあと、料理に真摯な意見をくださってタバサさんと仲良くなったんです」
「美味しいのに美味しいというのは当然」
タバサは無表情に本を読みながら言いました。
「へい、お待ち!」
話が終わると同時にマルトーは調理場から大きな鍋と皿を持ってきました。それから鍋の中身がなくなるまで、2人は黙々と食べていました。
「兄ちゃん、次はこれだ!」
「わかりましたでありまする〜」
シチューが底をついたあと、食べさせてもらったお礼を何かしたい、とリュートが頼みこみました。最初は断っていましたが、あまりに熱心に頼み込むので
「今から貴族の方々の夕食が始まりますので配膳をお願いします」
ということになりました。タバサはというと、食堂の席に座り本を読みながら夕食を待っていました。この少女、まだ食べるつもりです。……タバサ、恐ろしい娘!
リュートが配膳をしている途中。
「おや、そこにいるのはタバサの使い魔じゃないか?」
と背後から声がかけられました。
リュートが振り返ってみると金髪の見るからに優男が配膳を待っていました。
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