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相棒は猫

作者: 尚文産商堂

プロローグ


複数の宇宙空間があるこの世界。

すべての宇宙空間や、空間自体が圧縮されている縮空間全土をカバーする警察力確保のために設立された機関である、宇宙警察、略してIP。

すべての国が加盟した条約である、宇宙警察条約によって設立されたIPは、すべての国に対して査察権を有している唯一の機関でもあった。


第1章 ダメダメな二人組


「こらー!まてー!」

「待てと言われて誰が待つか!」

薄暗い通路の中、女性の叫びと走り逃げる男の姿、それに複数の猫がいた。

次の瞬間、猫の一匹が突然男に飛びかかった。

「万引きの容疑で逮捕だ!手錠は?」

「うん、ここにあるわ」

彼女が手錠をかけようとした、その時だった。

男が突然足を高く振り上げて、再び逃げ出した。

「きゃぁ!」

女性が悲鳴を上げた。

猫が、それを介抱している間に、男はどこかへ消えた。


「………」

「…すみません」

宇宙警察署総本部へ戻ると、本部長が怒り心頭で本部長室にいた。

女性のほうが先に謝った。

「すみません、じゃないぞ。

お前たちが組んでから1年になるが、万引き犯一人捕まえられないとはな。

お前の気持ちもよくわかるが、事故で死んだ前の相棒とまでは言わん。

だがな、万引き犯ぐらいは捕まえてくれ」

「……」

彼女は泣いているようだった。

「あ…すまなかったな。あの事は、もう忘れようと努力している時だったな」

彼女は、目をぬぐいながら言った。

「いえ、いいんです。

彼は、私の相棒であり、唯一の夫でもありました。

宇宙警察へ入ってから初めての相棒で、5年間、ずっと一緒でした。

でも、あの事故以来、いつ起きるか分からない昏睡状態になって……」

彼女は、目をハンカチで押えてそのまま署長室から出て行った。

「いいんですか、本部長。彼女をそのままにしておいて」

「彼女を慰めるのは、相棒であるお前の仕事だよ。

あいつは、俺の友人の一人娘なんだ。

よろしく頼んだぞ、アック」

「分かってますよ」

アックは、そのまま尻尾を揺らしながら歩いて出て行った。


彼女は、机で静かに泣いていた。

アックは、机のすぐ横に自分専用のいすを持ってきて、座った。

「もう泣くなって、時がすべてを忘れさせてくれるって、昔の第3惑星の格言だろ?」

「そうなんだけどね…忘れさせてくれないものも、なかにはあるんだよ」

彼女の机の上には、彼の写真が置いてあった。

写真の中には、事故前の彼の笑顔が残されていた。

「彼のことは、確かにかわいそうだった。

いまだに事故の理由は不明、当事者の航宙社の役員が総辞職して、それで、おしまい。

結局、上からの圧力で、調べる前から結果は出されていたからな」

アックは、耳をそばだてて、何かを聞きながら言っていた。

「なあ、河瀬。こういう時は、気分転換だ。

ちょっと飲まないか?」

河瀬は、笑って答えた。

「そうよね。じゃあ、ちょっとだけ飲みに行きましょうか」

二人は、仕事にきりがついてから、飲みに行った。


近くのバーで、軽く飲んでから、家に帰った。

河瀬の自宅にアックが居候している格好だった。

彼が、まだ元気に動いている時から、アックはここにいた。

「さて、どうする?」

「お風呂に入ってから寝る。

それぐらいしか、もうすべきことはないでしょ」

河瀬は、にこやかに言った。

これから起こることは、誰もわからなかった。

最後の平和の日になったこの日のことは、誰もが覚える日になっただろう。


第2章 事件発生


翌日、朝起きて宇宙警察署総本部に出勤すると、忙しそうに働いていた。

「ああ、君たち。やっと来たか。すぐに本部長室に来てくれ」

彼らが向かうと、本部長と、もう一人誰かいた。

「あの〜、こちらの方は…」

河瀬が聞いた。

「新中立国家共同体元外交官の猪野岳だ。昔はアックのところに出向していた」

「そのような方が、私たちに何の用なんでしょうか」

「縮空間が崩壊している」

「え?」

アックが絶句した。

「今は、カンルーガンの出身地である、Lv.10クラスが、徐々に消滅しているようなのだ。

君たちに対して、そのことを調査してもらいたいのだ」

「でも、私たちは…」

河瀬が反論しようとした。しかし、猪野岳は、その反論を許さないようだった。

「やってくれるな?」

「…わかりました。出来るだけのことをさせていただきます」

「では、よろしく頼んだ」

猪野岳はそれだけ言うと、部屋から出て行った。


「やれやれ」

本部長は、帽子を深くかぶりなおして、椅子にゆったりと座って言った。

「まあ、そういうことだ。

ゆっくりと出張してこい」

そのまま二人を送り出すと、すぐに部屋に閉じこもった。


「やれやれ、出張か」

「船に乗るのは、あまり好きじゃないの…」

「彼が死んだのを思い出すのか?」

アックが言った。河瀬は何も言わずにうつむいたままだった。

「……すまない。アック一族の癖みたいでな」

「ううん、いいの。もう慣れたから」

「そっか。さて、じゃあ飛行場に向かおう。Lv.10に向かう前に、Lv.5に寄っておかないと」

「アックの故郷ね。私も見たことがないから行ってみたかったの」

「じゃあ決定だな。新中立国家共同体を経由しないと高次縮空間へは行けないから、まずは新中立国家共同体を目指さないと」

アックはそう言った。河瀬はうなづいた。


船に乗り込んだ河瀬とアックは、新中立国家共同体を経由して、Lv.5縮空間に到達した。

縮空間というのは、通常の空間に比べ、空間自体が縮んでいる空間のことを指す。Lv.Xならば、通常の空間に比べてX分の1縮んでいることになる。ただ、人や船の大きさが変わることはないし、光の速さも変わることはないので、低次縮空間が、高次縮空間に入ると、低次縮空間から見て、光の速さを超えたように感じるような状態になるのだ。

要は、光よりも速く移動するために使われているのだった。

この通行路は、昔の人たちが開拓した通路を通ることによって、相互通行が可能になっていた。

他にも、いくつかの道が発見されていたが、いちばん交通量が多いのがこの線だった。

「やっぱり結構いるね」

河瀬が、リュックを背負いなおして歩いていた。

この空間は、彼らが来てから大きく変わったといわれていた。

アックよりもはるかに大きな人々が進出してきたが、最初にアックがいた惑星系は一つ丸ごと保護されていた。

「そりゃそうさ。ここにいる人間のうち、99%が、観光客なんだからな。おかげで、生まれたころと大きく変わった」

アックは吐き捨てた。

Lv.5は、最初に発見したといわれているアック族が先住権を有していたが、さまざまな方法によって、保護地域以外の居住権を喪失していた。


いま、彼らがいる惑星には、Lv.5縮空間の宇宙警察支部があるのである。そこで、いったん情報収集をしようと考えたのである。

建物は、この宇宙空間の様々な官公庁が集まっている場所に建っていた。

河瀬とアックは、そこにはいり、受付の人に聞いた。

「すいません。太陽系からきた河瀬なんですが、情報部部長のバイカルさんいますか?」

「しばらくお待ちください…」

数秒後、返事が返ってきた。

「バイカル氏を呼んでおります。1分以内には来るはずですので、そのままお待ちください」


1分後に、彼は降りてきた。

「初めまして、バイカル・ピザルです」

彼は、河瀬に握手を求めた。

「初めまして。私は河瀬直海といいます。彼は、私のパートナーのギガント・カマント・チャップ・アックです。宇宙警察の中では、唯一のアック族です」

「うわさには聞いたことがあります。初めてお目にかかりますね」

そういって、アックとも握手をした。

「こちらこそ初めまして。早速なんですが、Lv.10で発生している空間消滅について詳細な情報を集めに来たのですが…」

「その話ならば、こちらでどうぞ」

彼は、オフィスへと河瀬たちを案内した。


3人とも椅子に座ると、彼は話し始めた。

「その情報寄せられたのは、1週間前のことなんです。

Lv.10のカンルーガン領域内を航行中の運送業の船が、突然姿を消したんです。

カンルーガン当局が捜索をしたところ、彼が配達先としていた惑星が忽然と消滅していたのです。さらに驚くべきことには、当局の船も、同様の遭難状態に陥ったということです。

宇宙警察は、彼らの船を捜索していましたが、ある日、宇宙の端に到着したのです」

「それは、どういうことなんでしょうか」

河瀬が質問した。

「Lv.10の空間は、トーラス図形になっているのです。簡単に説明しますと、ドーナツ状の空間ということになります。つまり、有限だが端が無い宇宙空間なのです。そこに端が発見されたということは、宇宙が変化しているということになります」

「その変化によって、船が遭難をしているということですね」

アックが聞いた。

「まさしく、そのとおりだと考えています。

現時点では、宇宙が縮小している事を伏せて、カンルーガン族を緊急避難をさせています。

しかし、徐々に戻りたいと考えている人々も増えておりますので、いつまで持つか…」

「分かりました。では、そのことに関して調査をすればよろしいのですね」

「そういうことになりますな」

河瀬とアックは立ち上がり、バイカルと再び握手をしてから、Lv.10へと旅立った。


第3章 Lv.10縮空間


Lv.10縮空間へといく場合は、途中で体構造粒子を変更する必要があった。

Lv.6へ行く時に、タキオン粒子へと変更するための装置を起動させるのだ。

先人がそれを実際に行うための機械を開発したという話だったが、今となってはわからないことだった。

「これ以上の高次縮空間には、それぞれの固有の民族がいて、彼らの先住権が国際条約によって保障されているんだ」

「アック、それぐらい私でも知ってるわ。宇宙警察に入るときの試験に出たもの」

「そうかい、おっと、ここがアック族が生まれ育った町の、Lv.6縮空間だな。

スタディン幕僚長殿を筆頭とするベル号の乗組員が俺らを見つけるまで、ほかの人たちがいるのは知らなかったという話もあるからな」

「なるほどね。ほかと交流が無かったら、それも仕方が無かったんじゃないの?」

「そうなんだがな…」

そういいながら、アックは尻尾を丸めた。

「とりあえず、俺は寝るよ。到着したら教えてくれ」

「はいはい」

そう言って、アックは座席の上で丸くなって眠った。


Lv.9にまできたとき、船内に警報が鳴り響いた。

「Lv.10へ行くお客様にお伝えいたします。

宇宙警察総本部より寄せられました情報によりますと、Lv.10縮空間は、自己消滅したという発表がありました。

本船は、ただいまよりLv.9縮空間宇宙警察本部へと移動いたします。

なお、現時点でのLv.9縮空間消滅に関しましての情報はございませんので、ご安心ください」

河瀬は、あわててアックを起こした。

「アック、起きて。さっきの放送聞いた?」

「ああ、もちろんだ。俺らは寝ていてもちゃんと周りの音が聞こえるようになっているんでな」

「だったら話が早いわ。これから、Lv.9宇宙警察本部へ向かうらしいんだけど、その時に下船して話を聞いてみない?」

「もちろんだ。縮空間消滅の原因究明が俺らの任務だからな」

こうして船は、Lv.9で唯一、人が住んでいる場所、Lv.9縮空間宇宙警察本部へと向かった。


「Lv.10へ行くための通路はすべて封鎖した」

「なぜですか?」

河瀬とアックが、Lv.9縮空間宇宙警察本部本部長と対面していた。

「原因がいまだにわからない状態で、Lv.10縮空間をそのまま開放し続けるのは無理がある。

今わかっているのは、神々の力が及ばないような謎の力が働いていることだけだ」

「現在の研究結果は?」

「不明だ。さっき言ったことだけしか分かっていない」

「そうですか…」

河瀬は立ち上がり、部屋から出ようとしたその時だった。

突然向こう側からドアが開かれて、息を上げて誰かが入ってきた。

「すいません!Lv.9縮空間外縁部にて空間消滅が確認されました。総本部は即時退避を勧告しています」

「そうか…現時点での民間人および警察関係者の人数は?」

「Lv.10からの避難者及び先ほどの緊急着陸した民間船が一隻を合わせて約250名。警察関係者が350名です」

「順次避難させろ。ただし、民間人優先にしとけよ、Lv.5クラスまで強制避難させる」

「了解です!」

彼は、再び走り去った。本部長は、河瀬とアックに伝えた。

「君たちも早めに逃げなさい。この空間も、じきに崩壊するだろう」

「その前に、小型機を一隻借りれますか?」

「…何をするかはあえて聞かん。ちゃんと返してくれよ」

「分かっています。こちらも任務なので」

それだけ言うと、そのまま彼らは船に乗った。


「どこに行く気だ?」

「こいつのコンピューターの性能ってわかる?」

「スペックか?たしか……ベル号並みの性能だったはずだ。それがどうしたんだ?」

「神が着ている服の隙間から世界の真理を見に行くの」

「まさか…Lv.9縮空間外縁部に行くんだな」

「その通り。この船では、1時間ぐらいで到着するから、緊急離脱の準備もしながら理論を組み立てておかないと…」

河瀬はぶつぶつ言いながら、コンピューターで計算を始めていた。

アックは、そんな彼女に一言いった。

「あまりにも近づくと、あいつみたいになるぞ。あいつも、Lv.6縮空間外縁部に近づきすぎて、ああなったんだからな」

「わかってる。あのときは彼一人だけしかいなかった。でも、いまは私だけじゃない。でしょ?」

「そうだが…」

「それに、彼から得たものの方が失ったものよりも多いのよ。だから、行くの」

「それに、任務だからか?」

「そう言うこと」

それだけ話し合うと、正式に船の行き先を決定し、河瀬はいろいろと調べ続けて、アックは席で丸くなった。


「アック、起きて。着いたわよ」

「んあ?ああ、着いたのか」

アックは背伸びをして、椅子から飛び降りた。

「じゃあ、ちょっと外を見てみるか」

「もう見てるわよ」

河瀬はそう言った。

船の画面には、外の光景が映し出されていた。

真っ暗だった。

「真っ暗じゃないか。カメラでも壊れたのか?」

「違うよ。カメラの故障じゃなくて、この方向に何も光源が無いって言うことなのよ」

「じゃあ、つけているだけ無駄じゃないか」

「ところがそうでもないんだなー。今見ている方面は、謎の異常重力勾配を観測しているの」

「つまりどうしたの?」

「今ある世界のすべては、4次元以上11次元以下のどこかに存在しているといわれている重力次元によって質量を得ているの。その次元は一定の法則によって勾配を形成しているの。昔は、逆二乗の法則って言われていたけど、いまは、重力勾配の法則って言われているの。その法則はすべての空間で有効だったはずなんだけど、ここではそれが崩れているの…」

「だからどうしたって言うんだ?宇宙の端っこだからこそ、そんな法則が働かないこともあるっていうことだろ?」

「そうじゃないの。今、私たちがいるところは、その法則が作られるきっかけになった場所。この場所はこの法則に最も合致していなければならない場所なの」

そのとき、遠くのほうから声が聞こえた。

「だれか…だれかきたのか?」

「あなたは……」

「じぶんは、かわせなるひこだ。そこにいるのは?」

「成彦…あなた、生きていたのね!」

「そのこえは…なおみか…ひさしぶりだな」

「でも、あなたは今、病院にいるはずだけど…」

「いしきはわからないものだ…ここにこうしてはなせるようになっているのは、いしきがそこかでおまえとつながっているということだ…」

「あなた…どうして、どうしてこんなところで?ちゃんと体に戻ってきてよ…」

「じぶんは、きづいたらこんなところにいた。いしきのぶんやというのは、まだよくわかっていない。ただ、じぶんは、こんなところでひとりさみしくいきるつもりもない。あんしんしろ。ちゃんとおまえのもとにもどる…か…ら……」

声はだんだん遠のいていった。そのとたん、周りの空間がへしゃげ始めた。

「成彦ー!」

河瀬が、暗闇に飛び出そうとする勢いで叫んだ。あわててアックが座席へと戻した。

「危ないぞ!もう、この空間も危ないんだ!脱出する!」

船のAIは、勝手に動き始めていた。

すでに、危険だと判断し、Lv.9縮空間から、Lv.5縮空間宇宙警察本部へと強制転移させられていた。


第4章 再び高次縮空間へ


Lv.5は大混乱になっていた。高次の縮空間から来た人々や、もともといた人たちで、どうなっているかがわからない状況だった。

「こんにちはー」

アックと河瀬が宇宙警察の建物に入ったとき、中は誰もいなかった。

受付には、代理ロボットがいた。

「こちらは、Lv.5縮空間、宇宙警察本部です。ご用件をお伺いします」

「宇宙警察総本部から出張してきたアックと河瀬だ。本部長か、代表者と話がしたい」

「申し訳ございませんが、現在、本部長、またはそれに類する代表者は本署内におりません。こちらからご連絡いたしましょうか?」

「いや、かまわない。どうして誰もいないんだ?」

「当縮空間におきまして、大規模な人口流入が発生し、その統制のために現地警察の要請に基づき派遣されました。現在、低次縮空間に移動を開始しつつあります」

「なるほどな。そういうことか」

アックは河瀬とともに、本部から出た。


仕方ないので、いったん総本部まで引き返すことにしたが、その前に、彼がいる病院に行ってみることにした。


受付に行くと、早速河瀬が受付嬢に話した。

「河瀬なんですが…」

「河瀬さんですね。はい、3階のNCUに入院しています」

「ありがとうございました」

アックと河瀬は、二人で病室に見に行った。


「失礼しますよ」

中に誰もいないことを確認するように、ゆっくりとドアを開けた。

彼以外は、誰もいなかった。

「やっぱり、起きてないのね…」

「あれは、単なる幻だ。彼が元のように戻ることを願い続けた結果起きただけだ」

「心理的にも私はその症状が出やすいって言われているの。ただ、その根本的な原因はわからないって」

「そうか…」

アックは、彼が寝ているベッドの上に乗った。

すこし、たわんだ。


それから、彼らはずっと語りかけていた。

これまでの事、これからの事。

夜も更けるまでずっと病室にいた。

看護士の方が、病室へ入ってきて、帰るようにやんわりと注意をした。

河瀬とアックは、彼らの家に帰った。


家に帰ると、河瀬が言った。

「もう一度、縮空間へ行こう」

「本気で言っているのか?あの空間は、Lv.6クラスまでが封鎖されているんだぞ」

「それでも、彼を見つける最後のチャンスかもしれないし、まだ報告し終わってないでしょ」

「報告がまだだから、任務は終了していないと、そう言うことだな」

「ええ、そう言うこと」

アックは、仕方なさそうに言った。

「しゃーないな、つきあってやろう」

「ありがとうね」

「ただしな、帰ってきたら、ちゃんと報告することだ。分かった?」

「当たり前だよ」

河瀬は笑って言った。この時点で、Lv.5より高次の縮空間は、関係者以外は立ち入り厳禁となっていた。すでに消滅したといううわさもあり、徐々に低次の縮空間に人があふれることになった。


重力勾配の異常が原因だとわかってからでも、どれほどの異常なのかを調べるという名目で、Lv.7縮空間で検査をすることになった。

それ以上の高次縮空間は、すでに崩壊していたのである。

アックと河瀬が乗った船は、Lv.7縮空間へ入った時点で、それぞれの決められた検査をしてみた。

「現在、Lv.7縮空間は、初期観測比空間率1.477101%にまで減少。惑星系は、すでに消滅した模様。残された空間も、ブラックホールの近くにいるかのように、近くの空間が湾曲して見える」

アックはそう報告したが、河瀬は心ここにあらずという感覚だった。

「そう……」

河瀬は、何かを探しているようだった。

「あの理論は正しかったようだな。重力勾配定数値が、通常の39倍を表していて、増加し続けている」

返事をしない河瀬に、アックがそう言った。

「なあ、そうやっていても、どうせ聞こえないだろ?確認作業はもう終わったし、これで帰ろう」

「帰るなら、アックだけ帰って。私はもう少しここにいたい」

「そんなこと言わないで…ここにいたら、そのまま飲みこまれるぞ」

「彼と一緒にいられるのなら、それでも構わない」

「そんなこと言わないで、おれのご飯はだれが世話をしてくれるんだ?」

「それぐらい、自分でできるでしょ…」

船のAIが、警報を出し、機首を低次縮空間へと移した。

「やめて!」

河瀬が、船を一時的に手動操作にしようとした。

しかし、アックは、その手を引っ掻いた。呆然としている河瀬に向かって、アックは叫んだ。

「諦めるんだ!あれは、幻だからな!」

しかし、河瀬はがんとして受け入れようとしなかった。

「そんなことない!絶対彼は生きてるの!この空間の先に、彼がいるの!」

そうこうしているうちに、船は低次縮空間へ移動した。


河瀬は、船の中で泣いていた。

アックの問いかけに関しても、一切答えなかった。

彼女は、家でずっと泣いていた。

アックは、そんな河瀬をおいて、総本部へ報告書を提出しに行った。


「失礼します、報告書を提出しに来ました」

「ああ、アックか。入ってもいいぞ」

アックが入ると、ひとりで書類と闘っている総本部長がいた。

「…大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それで、報告書を提出しにきたんだろ?」

「そうです。これです」

アックは、総本部長に報告書を渡した。

「そう言えば、河瀬はどうした?」

「彼女なら、いま、家で休んでます。これからすぐに戻るつもりです」

「そうか、まあ、彼女をよろしく頼むよ」

それだけ聞くと、アックは、再び家へ戻った。


家に入ると、誰もいなかった。

「あれ?河瀬は…?」

家を見回すと、机の上に、手紙が置いてあるのを見つけた。

「やっぱり、私は彼を探しに行きます。彼はやはり、あの先にいると思うのです。

これから、アックと会うことはもうないと思います。

さようなら」

アックは、その手紙を握りしめて、警察署へと急いで戻った。


総本部長の部屋へ飛び込むと、書類と戦い続けている彼に向かって叫んだ。

「河瀬が、ひとりで縮空間へ向かった!」


第5章 救助、そして…


アックが総本部長を連れて、向かった先は、航宙機が置いてある保管庫だった。

「船を動かす準備の間に、病院へ連絡をとった。

河瀬は、そっちにいないらしい」

「とすると、やっぱり…」

その時、総本部長に報告が入った。

「Lv.5縮空間、高次縮空間行き特異点警固班です。

河瀬と名乗る女性が、強行突破し、Lv.6へ向かいました。

現在、Lv.6は、初期空間比1.985452%まで減少。

内部へはいるのは危険ですので、誰も入れない状態です」

「分かった。これからそちらへ向うから、開放の準備をしてくれ」

「了解」

その後、2分後までに、船の出港準備が整った。

「ここから、一気にLv.6まで向かう。最大出力だ。

どれくらいかかる?」

出発の最終確認をしながら総本部長が聞いた。

「39分ほどで着きますが、帰りの燃料も消費し尽くす可能性があります」

「仕方がない、燃料は考えずに向かう。

出発だ」

船は、ゆっくりと浮き上がり、一瞬で特異点へ向かった。


特異点というのは、縮空間と縮空間同士を結ぶゲートのようなもので、そこを通らないと、縮空間から脱出することができなくなるものである。

つまり、それがなくなると、その縮空間からは出れなくなるというものと言われていた。


「Lv.5縮空間へ到着。Lv.6突入まで、残り2分です」

アックが画面を見て言った。

総本部長は、アックに伝えた。

「ここまでくると、もう帰れない可能性も否定できない。

それでも行くんだな」

「河瀬には、いろいろと世話になってますから、

彼女を助けることで、この恩を返そうと考えてるんです」

「日本的な考え方だな、分かった。

では、急ごう」


Lv.6へ向かう特異点は、すでに、半分以上閉じているように見えた。

「総本部長!」

「これから、中へ入る。特異点が完全に閉まっても出てこれなかったら、副総本部長の昇格人事を発令することになる。そのことを全員に伝えてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

敬礼して、見送っていた。


Lv.6の中は、空電が発生していた。

どこを見回していても、稲妻がおこっていない場所はなかった。

「見つけました!河瀬が乗った船です!」

アックが叫ぶと同時に、船が急スピードで旋回をはじめ、そのまま、河瀬が乗っている船へと向かった。


「河瀬!」

アックが、船のAIに向かって叫んだ。

「アック?来ちゃダメって言っていたのに…」

「来ちゃダメだと言われて、来ないやつがいるか!さっさと帰るぞ!」

「もうちょっと待って。彼が近くにいるのがわかるの」

「これ以上待てない!周りが見えなくなったわけじゃないだろ!すでに、この空間は、消滅寸前だ!」

河瀬は、一方的に通信を切断した。

「河瀬!」

アックは、再び通信をつなごうと、さまざまなことを試みたが、無駄だった。

船の外部モニターには、わずかにゆがんだ船の姿が映されていた。

AIは、すぐに逃げ出すことを繰り返し伝えていたが、アックは、無視した。

河瀬の船のAIは、作動しないようになっているのかもしれなかった。


そして、唐突のことだった。

オーロラのような光が、一帯を覆った。

その瞬間に、2隻の船は、Lv.5へと弾き飛ばされた。

「河瀬!」

アックと総本部長が言った。そして、彼女の船を見つけると、すぐに船同士をつなぎ、Lv.5宇宙警察本部へ連れて行った。


Lv.5宇宙警察本部には、宇宙警察の部隊のほかにも、もう一人いた。

アックが、その人の名前を言った。

「猪野岳さん」

「報告書を読ませてもらった。危険を冒してまで、よく調べたな」

「それが仕事ですから」

アックが言った。

船から降りたとたんに、河瀬は倒れ、保健室に運ばれていた。

本部長の部屋には、アックと総本部長、Lv.5縮空間の本部長、それに猪野岳がいた。

「これまで、観測されたことがない事態だ。その中で、よくやってくれたと思う」

「ありがとうございます」

アックは一礼した。

猪野岳は、その報告書をパラパラめくった。

「しかし、これは本当のことなのかね?重力勾配の異常というのは」

「そうです。これは、実際の観測に基づいて仕上げました。それが虚偽であるということはありません」

「そうか…予測と違ったのだな…」

「どうしたのですか?」

「あ、いや。こっちの話だ。そう言えば、河瀬は?」

「保健室で寝てます。この空間も危なくなりつつあるので、いったん家に戻るつもりです。留守にしていた時の、メールや手紙が溜まっているはずですから」

「そうか」

その時、扉が開き、河瀬が入ってきた。

「河瀬!」

アックがすぐに近寄った。

「もう大丈夫なのか?」

「うん…ごめんね、迷惑かけちゃって」

「どうってことないさ。それで、どうだったんだ?」

「彼の声は、聞こえなかった…」

「そうか……」

それだけ言うと、アックは総本部長に向かって伝えた。

「すいませんが、先に帰らさせてもらいます」

「ああ、ゆっくりと休め。お前たちにいま必要なのは、休暇だろうからな。1週間ぐらい、有給をとれ」

「そうさせてもらいます」

それだけ言うと、まだ足元がおぼつかない河瀬と、彼女をいたわっているアックが、そのまま歩いて家に帰った。


第6章 回復


家に帰ると、友人や親からいろいろな留守番電話やメールが届いていた。

その中で、病院からのメールがあった。

「河瀬成彦氏、起床しました。現在、元気に話ができる状態です」

河瀬は、それを見たとたんに、その場にへたり込んでしまった。途中で、コードっを引っ張ってしまい、電灯を落としてしまった。

「どうしたんだ?」

それを知らないアックが、物音を聞いて別の部屋からこちらにきた。

「彼が、彼が生き返ったって…」

「ほんとか!それは、めでたい話だ!」

「うん…これから、病院に行ってみる…」

河瀬は、ぼんやりと準備を始めた。


10分ほどで準備が終わると、アックが河瀬の代わりに病院へ連れて行った。

「河瀬なんですが…」

「河瀬さんね。今日は、一般病棟の405号室ですよ」

「ありがとうございます!」

河瀬は、比較的大きな声を出して、周りから苦笑いで見られていた。

顔を赤くしながら、そそくさと、その部屋へ向かった。


部屋は個室だった。

「失礼しますよ〜」

河瀬がドアを開けると、そこには、ベットで外を見ている人がいた。

彼は、こちらを見た。

「成彦…?」

「和菜だな。久しぶりだな。俺は、1年ばかり眠っていたらしいな。夢で、お前のことばかり見ていたような気がするな…」

「成彦…!」

河瀬は、成彦に向かって飛び出した。

アックは、静かに部屋から出た。


エピローグ


1年後、総本部付近の暗い路地裏。

誰かを追いかけているようだった。

「まて〜!」

女の声が聞こえる。

「誰が待つか!」

いつの日か聞いたことがある声、見たことがある状況。

猫が何匹かいる。


その場所を追いかけられている人が通った瞬間に、猫の1匹がその人に向かって飛び出した。

「同じ手を食らうか!」

「じゃあ、これならどうだ?」

猫をよけようとして、反射的によけた犯人に対して、銃を突き付ける男。

「成彦!」

「これで、逮捕だな。万引きの現行犯と、ひったくりの容疑で逮捕する。

権利については…知ってるよな」

「っく…」

彼は、そのまま地元の警察へ引き渡された。


家に戻り、成彦と和菜とアックは、ベットに入っていた。

「…なあ、和菜」

「どうしたの?」

「…あれから、1年なんだな」

「そうよ、あなたが起きてから、もう1年たつの」

「縮空間がLv.3クラスまで、雪崩を打ったように崩壊したろ?あれは、俺の意識が戻ったからと思ってしまうんだ」

「そんなことは無いわ。単なる偶然よ」

「そうか…それならいいんだが…」

「じゃあ、お休みね。あなた」

「ああ、おやすみ」

彼らは互いにキスをした。そして、電気を消して、眠りについた。

アックは、布団の上で丸くなった。

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[一言] 描写、説明が極度に不足していまして、せっかくのお話が作者の脳内から出ていないケースではないでしょうか。 読みやすさ、読みにくさの点から申し上げますと、大変恐縮ですが、私にはちょっと読みづらか…
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