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ロストストーリー ~この物語の無い世界で~ 作者:猫村銀杏
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7.ノアの能力

7.ノアの能力

 僕は吹き飛ばされて尻餅をついていたが、またすぐに次の攻撃が来るかもしれないと、急いで立ち上がり身構える。ところが、ツクルは僕のほうをじっと睨んではいるが追撃はしてこない。
「一体、何をやったんだ? あの一瞬だけ動きがとんでもなく早くなった……」
 ツクルは驚いたように目を見開く。
 僕から見ればツクルのほうがあの一瞬だけ遅くなったのだが、ツクルと同様にその現象を不思議に思っていることは変わりない。
「さあな、お前で必死に考えていろ」
 一体、何が起きたのか? 僕自身もそれを目まぐるしく考えていたが、混乱している様をツクルに見せるわけにはいかない。そんな様子を見せてしまえばツクルは躍起になって攻撃してくるだろうし、今は正体不明の僕の能力に怯えさせておくのが一番いい。
 だから、僕は見せかけだけでも虚勢を張る。
「メーセ、奴は何の能力を使ったんだ?」
 やばい……。
 ツクルは僕から能力を聞きだすのが無理とみるや、メーセにその判断を仰いだ。さっきは分からなかった僕の能力も、実際に僕が動くのを見ればバレバレになってしまうのだろうか?
「わかりません。私にはIDなしが何か能力を使ったようには見えませんでした」
「ただ、純粋な体術であれをかわしたと?」
「ちょっと信じがたいですけど、それ以外に考えられないので多分そうなのでしょうね。なにかトリックがある気がしますが……、今のところそれが分からない以上、純粋にその動きができるものだと認識して戦うべきでしょう」
 どうやってメーセが僕達のことを分析しているのかは分からないが、その能力を使ってこちらの能力がわからなくても臨機応変に対応する冷静さは厄介だ。
「やっぱり、一筋縄ではいかないってわけか」
 メーセの分析にツクルも同調する。
「そうですね。思った以上に厄介な相手かもしれません。私も手を貸しましょうか?」
 ツクルが警戒心を強めたことで、メーセも助太刀するなんてことになったら万事休すだ。どうも支援能力に特化していそうなメーセだが実際の戦闘力がどれほどのものかわからない。現時点で戦力差は天地なのに、強いほうがさらに強化されるのなんて理不尽だろうと、僕は絶望する。
「俺だけじゃあ不安だっていうの?」
「なんせ、正体不明の相手ですからね。心配にもなります」
「でもいいよ。俺はメーセのこと傷つけたくないから」
「あらら、かっこいいこと言ってくれちゃって。じゃあ任せるからがんばって!」
 そう言ってメーセはツクルに向けてウィンクをする。ツクルのほうも満更ではなさそうだ。とはいえ、なんでこいつらは戦いの最中にいちゃいちゃしているのか……。ふつふつと形容しがたい怒りが湧き上がる。
 それでも、僕にはどうすることもできない。むしろ、ツクルとメーセがこうして時間をつぶしてくれるほうが僕の命の猶予も伸びるのかもしれない。あわよくば、レストランの時のように逃げられればと願わなくもないが、今のツクルとメーセにあの時の油断はなく、二人の間で会話をしながらもその注意がこっちに向いているのがヒリヒリと伝わってくる。
 どうやれば生き残れるかと頭をめまぐるしくまわすが、何も活路が見いだせない。
「ソウタ!」
「うわっ、びっくりした!」
 張りつめた空気の中、突然、ノアに横から呼びかけられる。十分に警戒していたはずなのに、いきなりノアが現れたことに驚き、僕は思わず一歩身を引いてしまった。ツクルがまた攻めてきたのかと思って血の気も引いたが、それがノアだったことで少しだけ安堵した。
「ここであいつらと戦ってもこっちに勝ち目はありません。おとなしく逃げますよ」
「どうやって?」
 それが易々と出来れば苦労はしない。あんな危険な連中を相手に逃げだしたいのは僕も同じだが、レストランの時と違ってあいつらは殺る(やる)気満々である。
 僕はノアに短い返事を返しながらも、ツクルとメーセから目は離せない。あいつらがいつ攻めてくるかと気が気ではなかった。
「あれ?」
 そうやって身構えていたが、何か様子がおかしい。こちらが身構えているのに向こうはぴくりとも動かない。
 相も変わらず、殺気はこっちに向いているのに、不思議とこちらを傍観しているようだった。
 これは……、さっきツクルが殴ってきた時に、周りの動きがゆっくりに見えた現象と同じだ。
「気づきました? 大丈夫ですよ」
 ノアの言葉につられたのか、根拠はないのになぜだか大丈夫だということはわかる。
 僕はツクル達への警戒心を緩めて、ノアの方を振り向く。
 ノアは僕を見て、にっこりと笑っている。
「どうなっているの? これ?」
 その表情を見て、僕はさらに安堵を重ねる。でも、やっぱりさっぱり意味がわからない。
「ちょっとだけ時間の流れをいじって、私達の間に流れる時間だけをゆっくりにしました」
「時間を飛ぶ能力は失ったって言っていたじゃん!!」
「ええ、確かに時を飛ぶ能力は使えませんがなにもかも使えなくなったわけじゃありません。私にはまだ時の流れを動かす能力が残っています。私達に流れる時間をゆっくり進むようにすれば、向こうはこっちの動きについてこれないはずです」
「そういうことは先に言っておけよ!」
 なるほど、つまりさっきの状況も、今の状況も、ノアが時間の流れを操作していたということか。
 無能だと思っていたノアがそんなとびきり便利な能力を持っていたとは、驚きではあるが嬉しい知らせだ。
 だが、今更になってそんな重要なことをいうとは。こっちがどれだけ肝を冷やしていたと思っているのか……。時を飛ぶ能力には及ばなくても、時の流れを動かせるだけでも十分に強そうだ。
 なんだよ、こいつ頼りになるじゃん。
「特に言う必要もないと思っていましたので……、何か問題ありましたか?」
「問題ありありだよ!」
「でも私がそれを言っていようがいまいが、私にしかこれは制御できませんので、ソウタにはどうすることもできませんよ」
「それに巻き込まれる僕のことを少しは考慮にいれませんか?」
 それを知っていて身構えているのと、何も知らずに巻き込まれるのとでは、全く受け止め方が違う。味方まで驚かせてどうするつもりなのか。敵を欺くにはまず味方からというが、それにしてもタチが悪い。
「確かにそれを考慮にいれていませんでした。驚きました?」
 ノアは悪びれる風もなく、全くもってタチが悪いと思う。
 でも、なんのネタバレもなく突然こんなものを見せられてしまえばそのインパクトも絶大である。まるでこの世界を僕とノアだけが支配しているような不思議な感覚すらあるこの状況に僕は高揚感を覚える。
 先にノアの能力を知っていれば、この状況も冷静に受け止められたかもしれない。
 つまり、こっちのほうが話としては面白いわけだ。
 まさか、これもあれか。僕の物語を作る能力のせいか?
 僕がこっちの物語を望んでいるからこういう展開になってしまっているのだろうか?
「驚いたなんてもんじゃないよ。それならあいつらから逃げられるんだね」
「はい、今すぐ逃げましょう」
「いや、一撃だけでいいから、あのにいさまを殴らせろ」
「ソウタがあいつを殴ったところで、なんの効果もありませんよ」
 ノアがそっけなく言う。
「そんなことわかっているよ。あんな化け物相手に何かが出来るとは思えない。それでもあいつに一発くらいいれてやらないと気が収まらない」
 動きと図体の違いからツクル達とのレベルの差なんてはっきりとわかっている。それでもさっきあいつの拳を避けた時と同じ状況が作れるのなら一撃くらいは入れることができると思う。せっかく、こんな能力が使えるのだから人泡くらいは吹かせてやりたい。
 これだけ余裕ぶっこいてイチャイチャしているのを見せられて、イライラしないはずがない。
「でも、私のほうもあまり能力がもちません」
「え? マジ?」
「マジです。これはこれで体力をとても使います。これを多用することはできませんから、あくまで緊急回避用なのです。もし戦闘が長引いたら、この能力も使えなくなって逃げることすらできません」
 時間操作の能力でも強すぎる上の制約事項だろうか……。なかなかに厄介なものだと思う。
「一撃だけでいいから、時間をくれないか? それでも、もたない?」
 少しだけのワガママだが、ノアは聞き入れてくれるだろうか? どうしても一撃を入れたいのは、ツクル達への鬱憤を晴らすことだけが目的という訳じゃない。今後の展開にも重要なものになるはずだ。
「わかりました。本当に一撃だけですよ」
 ノアは少し思案顔をするが決心してうなずき、時を動かす前にいた場所へと戻る。
 僕等の間に、再び時間の流れが戻ってくる。
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