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プロローグ
プロローグ・3「神藤」


「少し、遅れてしまったかな?」
 辻川邸の、何処までも続く長い正門前を車で走りながら、彼は呟く。
 ピッタリと閉じられ、固く開く事を拒む、天までも届きそうな高い門。
 その正門正面入口に車が着くと、門に取り付けられたセキュリティシステムが車の情報を読み取り、静かに門が開いた。

 深い黒が美しい、オプシディアンブラックのメルセデスベンツ。
 辻川邸の敷地内に入り、門の中に入ったとは思えないような長い並木道を走る。
 やっと前庭が見え始めたところで車は左へ曲がり、ガレージの方向へ向かい出した。
 今車を運転している彼。いつもはそのまま前庭を通り、屋敷の表玄関前へと車を着ける。
 しかしそれは、彼の「主人」が一緒である時のみ。
 彼一人の時はそのままガレージへ車を置きに走る。
 しかし彼は、ガレージへ向かう途中の道で車を停めた。
 彼の部下である男が二人、道の途中に立ち「停まってくれ」と言わんばかりに手を上げていたのだ。
 彼はちょっと眉をしかめた。
 部下二人はとても慌てている。自分が留守中に、帰って早々車を停めなければならないほどの出来事と言えば、ひとつしかないのだ。

「お嬢様に、何かあったのか?」
 彼は厳しい口調で言いながら運転席を降りた。
 彼より少し年下であるか、同じくらいの年であろう部下二人は、彼の厳しい視線に捉まり息を呑んで背筋を伸ばした。

 百八十五はあろう長身に、均整の取れた身体つき、その立ち姿からも存在感を感じさせる彼。
 彫りの深い端整な顔立ち。しかしその切れ長の目はどこか冷たさが漂い、人間味をあまり感じさせない。
 だが、そこに甘さを加えるのが、その雰囲気とは正反対の柔らかなクセ毛。一見黒髪に見えるが、光に透けると微かに銀色に輝く。
 しかもこのクセ毛は、彼の「主人」のお気に入りだ。


「実は、お嬢様の姿が、一時間ほど前から確認できないのです」
 やはりそれか・・・。
 思った通りの答えが返ってきた事に、彼は思わず苦笑いを漏らす。
 自分が傍にいない時、よくこういう事が起こる。
 彼ら、「お付き」達の主人である辻川家の一人娘、紗月姫が、彼女に付く十人ほどのお付き達が気付かないうちに姿をくらましてしまうのだ。

「解かった。私が捜そう。他の者にもそう伝えてくれ。手出しは無用だ」
 彼はそう言ってから、車をガレージへ戻して置くようにと言い渡し、横道へそれて木々の間へと入り込んだ。

 彼、神藤煌しんどうあきらは「お付き」の最上位役に着いている人間。
 紗月姫の「お世話役」であり、「ボディガード」だ。
 紗月姫が産まれて間もない頃から、ずっと傍にいる。
 何をするにも、何処へ行くにも、常に紗月姫の傍にいて片時も離れる事がない。
 また紗月姫も彼に絶対の信用を置いていた。

 いつも一緒とは言っても、頭がキレ、辻川の内情に精通している彼は、辻川財閥の統括本部で情報管理の仕事を辻川の当主に任されている。
 その為、いつもではないが時々紗月姫の傍を離れるのだ。
 そんな時は他のお付きに、紗月姫の傍にいるようにと頼んで行くのだが・・・。

 ハッキリ言って、他のお付き達では、「気まぐれで我侭なお嬢様」の面倒は見切れていないのが実状。
 神藤以外のお付が、九人揃っていてもこの失態。
 普段彼が、どれだけ紗月姫を上手く扱っているかがよく解かる。


「しょうがないお嬢様だ・・・。まったく、いくつになられても・・・」
 一見、呆れているような台詞ではあるが、その口調はどこか嬉しそうで、声はあくまで優しい。

「お嬢様・・・」
 自分の心の中へ、彼はそっと呟く。




こんにちは。玉紀 直です。
 外出から帰ってきた「彼」。
 誰よりも彼女を想い、誰よりも彼女を守る資格を持った人です。
 そんな二人は、いわゆる「主従関係」。
 二人が待ち合わせるように出会うのは、「約束の場所」

 次回は、その場所へ、移動しましょう・・・。

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