「人の考えている事が分かる能力があったら、どうなさいます?」
突飛な質問に、男二人は目を丸くした。
「これはこれは。お嬢様は、子供っぽい空想じみた不思議な事をお訊きになる」
───《そんな人間がいるか!薄気味悪い!ったく、ネンネのお嬢チャンの考えていることは解からん》
少々頭部が後退しかかった、かっぷくの良い男。
叩き上げでここまで登り詰めた男は、高井物産社長。
仕事もエネルギッシュだが、女性関係も実にエネルギッシュ。それを証拠に、さっきから彼の頭の中には、今目の前で突飛な質問をした美しい少女を裸にする妄想しか浮かんではいない。
「そんな失礼を言うものではありませんよ、お父さん。紗月姫さんは冗談でお訊きになっているだけだ。ねぇ?紗月姫さん?」
───《そんな能力欲しいもんだ。そうしたらこの女の考えている事なんか全部読みきって、そのお高くとまった綺麗な顔がぐしゃぐしゃになるまで弄んでやるのに》
成り上がり者には少々不似合いなスーツを着た男。
もうすぐ三十歳になろうという、高井物産の跡取り息子。
それほど優秀という訳でもなく、万人の女性に好かれる顔つきをしている訳でもない。しかし、金の力で女には困ってはいない。
しかしそんな彼も、自分達より数段も格が上のこの少女には、手出しが出来ない。
その不満を解消するかのように、彼の頭の中にはさっきから、目の前で流れるように優雅に紅茶のカップをその可愛らしい口元に運ぶ少女を、無理矢理陵辱する妄想しか巡ってはいない。
流れる絹糸のように美しい黒髪を乱し、身に着けている淡いエメラルドグリーンのワンピースを引き裂かれ、泣き叫び許しを請いながら犯される少女の姿・・・。
そんな妄想を、ひとつ残らず「読み取られている」とも知らずに・・・・・。
「そんな能力があったら、人間とはいえませんわね」
紗月姫は、もうすぐ十八歳になる少女とは思えないほど妖艶な表情で微笑み、目の前にいる男達の視線を一時も離させない。
「『化け物』だわ・・・」
───《そうそう、そんな化け物いないよ。お嬢チャン》
───《そんな化け物がいたら、お目にかかりたいさ》
「・・・・・」
何も気付いていないと思っている愚かな男達の視線を遮るように、紗月姫はそっと、「心の扉」を閉めた・・・。
「花のように可憐で、天使のように美しい」
幼い頃からそう称え称賛され、逸脱した才能を持ち、「辻川の宝刀」と言われてきた少女。
辻川財閥の一人娘。
辻川紗月姫。
腰まで伸ばされた漆黒の黒髪。透けるような白い肌。聡明で儚げな瞳に、美しい微笑を絶やさない可愛らしいピンク色の唇。
幼い頃から可愛らしかった紗月姫だが、成長するに従ってその美しさは増すばかり・・・。
彼女を目の前にした男達が、不誠実な妄想を思い描いてしまうのも無理は無いほどに。
そしてもうひとつ。
彼女には「人外の能力」が備わっている。
人は時にそれを、「超能力」と呼ぶのかもしれない。
母親の胎内に胎児として存在していた頃から、彼女は両親に話しかけた。
産まれてすぐ、話も出来ない乳幼児の頃も両親の「頭の中」へ話しかけ続けた。
紗月姫の両親に超能力のようなものは存在しない。
いわば紗月姫は、「突然変異」の産物。
しかし両親は、そんな紗月姫を忌み嫌う事は一切無く、愛情をもって普通に大切に育てた。
いつかは「この能力」が紗月姫の中から無くなってくれるかもしれない。
そんな希望を込めて。
だがその能力は、消えるどころか成長するに従って、年々大きくなって行くばかりだった。
「もうすぐ・・・帰ってくるわね」
優しい花達に囲まれた場所で、紗月姫は軽く目を閉じ、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「早く帰ってきて・・・」
彼女か心待ちにしているのは、彼女の「お世話役」の青年。
「・・・神藤・・・」
両親以外、ただ一人、彼女の能力を知る青年。
こんにちは。玉紀 直です。
主人公の少女。紗月姫ちゃん。
財閥の令嬢、という本来ならば幸せな境遇の彼女ですが、もって産まれたこの「能力」の為に、彼女の今までは、決して幸せばかりのものではありませんでした。
しかし、それを知り、彼女を守り続けている人がいます。
次回は「彼」のお話を・・・。
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