ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第12章
第12章≪光明の天使≫・6


「妊娠中に初めて紗月姫の〝声〟を聞いた時? 驚いたわよ。当たり前でしょう?」
 椿は紗月姫を気遣うように優しく微笑んで、彼女の髪を撫でた。
「何故自分の身体の中から〝声〟が聞こえるのだろうって、怖かったわ。でも、すぐに怖くなくなったの」
「何故……?」
 リビングのソファの上。そこに座る椿の膝に頭を乗せ、紗月姫は夢心地で訊ねる。
 椿の横に腰を下ろした紗月姫が、いきなり上半身を倒し椿の膝に甘えてきたのだ。そんな事をしたのは初めてかもしれない。そう思うと、椿はどこかくすぐったい思いと嬉しい思いが混濁する。
「だって、どんな子供であろうと、私と総司さんの子供である事は代わりが無いのですもの」
 椿が父を「総司さん」 と呼ぶのを聞くのは初めてだ。いや、もしかしたら椿の胎内に居る時に聞いていたのかもしれないが、残念な事にその記憶は無かった。
 しかし両親の幸せそうな話に、何故か紗月姫の頬が染まる。

「私の事……。怖くは無かったの?」
 椿の膝の温かさと同じくらい温かな気持ちになりながら、紗月姫の口からはすぐに次の質問が飛び出した。
 次々とそんな質問をしてくる娘に対して、椿は何故そんな事を訊くのだろうという疑問が湧くが、逆に自分しか答えを与えてあげられない質問をしてくる娘が妙に愛しく感じた。
「怖くないわ」
 椿は紗月姫の髪を撫でる手を止める。
「愛した人と育んだ命、ですもの。……紗月姫を『怖い』 なんて思った事は無かったわ」
 嬉しい言葉を心に留めて、紗月姫はゆっくりと身体を起こし、答えてほしい一心で椿にすがる。
「お母様……私が授かる子供は……、やはり、私のように特殊能力を持って産まれてくるのでしょうか」
 まだそんな事を考えるのは早い、と言ってしまいそうな質問だが、婚約者が居る身としては考えてしまうのも無理は無い。
 ただ、今はその婚約者がそれどころではない状態だが……。
「まだ分からないわ。そうかもしれないし、逆にまったく何の能力も持たない子供かもしれないその時にならないと分からないでしょう?」
「もしも、特殊能力を持って産まれてきたら、どうしたら良いでしょう?」
 椿は真剣に訊いてくる紗月姫の手を取り、にこりと微笑んだ。

「愛する人と芽生えさせた命ならば、大切にする事だけをお考えなさい。守る事だけをお考えなさい」

 優しく口にしてくれる椿を見ていると、紗月姫は涙が浮かびそうになった。
 椿は守ってくれたのだ。大切にしてくれたのだ。不思議な能力を持ち産まれてきた自分を。
 何の能力も持たない二人から産まれた〝突然変異〟であるにも関わらず、忌み嫌う事もなく、愛してくれたのだ。

「神藤が元気になって、そのうち紗月姫もそんな幸せな授かり物をするようになったら、その時に解かるわ」
 紗月姫に気遣ったのだろう。椿は神藤が元気になる事を前提に、いつか来る幸せを口にする。
「もしも、紗月姫と同じように不思議な能力を持っていたとしても、それは皆で守ってあげれば良いだけの話よ」

 本心でそう口にする椿を見ながら、紗月姫の意識は腹部へ下りた。
 そこに感じる、生命の芽生え。

 ――この子は、幸せだ……。

 産まれてくる前から、その存在を皆に知られる前から、守られる事は確定付けられている。
 例え、特殊能力を持っていようと。

「有難う御座います。お母様」
 紗月姫は思う。
 自分も守ろう。この命を。
 例え、同じように特殊な能力を持った子供でも。
 愛する人と、築いた命なのだから。




 午前中を章太郎との約束通り屋敷で過ごし、午後すぐに病院へ向かおうかと思っていた紗月姫だが、尊実の訪問や、昼から少し椿と話をしていた事で、その日病院へ着いたのは夕方に近かった。
「ではお嬢様、二十時にはお迎えに上がりますので」
 紗月姫を病室まで送って、章太郎は部屋を出る。執事補佐の仕事を別に持つ彼はこのまま屋敷へと戻るが、他のお付きが三人、フロアで待機中だ。

 章太郎が出て行くのを見送ってから、紗月姫はゆっくりとベッドへ歩み寄った。
「今日は遅くなってごめんなさいね」
 ベッドの傍らに腰を下ろし、身を乗り出して横たわったままの神藤に話しかける。
「寂しかった? 煌」
 そう問いながら、紗月姫は神藤の思考を探る。
 探り見えるのは真っ白な闇。
 それが見えると、紗月姫はその行為を中断する。

「私は……寂しかったよ? 煌に会えなくて……」

 神藤の中にあるのは、真っ白な闇だけ。
 彼の中には何も無い。

 紗月姫が会いに来なくても、彼には分からないのだ。




拍手&メッセージが送れます♪





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。