*今回、「流血表現」「残酷表現」が入ります。
お気をつけ下さい。
「神藤さん!」
栗原が紗月姫の元へ行っている。
それも、彼女を〝楽しませる〟行為に出ている。
そう咲月の口から聞いた神藤は、その瞬間、踵を返した!
しかし、素早く起き上がり手を伸ばした咲月が、その腕を掴んだ!
正確には、スーツの生地を辛うじて掴んだ。・・・と言ったほうが正しい。
「もぅ無駄よぉ。栗原が行ってから、何分経っていると思っているの? 今頃二人共〝お楽しみ中〟。邪魔しちゃ駄目っ」
「・・・成澤様・・・」
背を向けていた神藤が、ゆっくりと顔を横へ向け、目だけで咲月を見た。
「・・・貴女が、栗原君にご命令をなさったのですか?」
ビクッ!!
神藤の声を聞いた瞬間、咲月の体は震え、その目と視線を合わせた瞬間、体中が固まった!
「栗原君は、貴女のお付きだ。・・・貴女が、ご命令なさったのですか・・・? 紗月姫お嬢様に手を掛けるように・・・と」
地から這い出るような声。鋭い氷柱で突き刺されたような視線。
声が詰まり、弁解しようにも咲月は声が出ない。
ソファの上に起き上がって掴んだ神藤のスーツの袖は、固まった指の間からスルリと抜けた。
「もしも・・・私が駆けつけた時、私のお嬢様を汚すような事が有ったのなら。・・・私は、彼を五体満足でお返しする訳には参りませんが・・・宜しいですね?」
咲月は声も出ない。もちろん動けない。それどころか、まるで殺人鬼の目の前で裸の自分をさらしているような恐怖に、体中が自然に震え始めている。
神藤はそんな咲月から目を逸らし、足早に部屋を出た。
「なに・・・アノ男・・・」
咲月の喉からやっと出た声は、恐怖に震え引きつっていた。
・・・殺されるかもしれない・・・。
そんな恐怖を、咲月は神藤から感じたのだ。
恐怖に震える頭で、咲月は神藤の台詞を思い出す。
紗月姫を汚すような事が有れば、栗原を五体満足では返せない。・・・と。
「まさか・・・ね・・」
咲月は唇の端をヒクッと引きつらせながら、薄笑いを漏らす。
「まさか・・・」
何も考えられない。彼女の頭の中は、栗原の身を案ずる事より、己の身に降りかかりそうになっている危険に震えている。
栗原が紗月姫を汚せば、恐らく自分もただでは済まない。
口にはしなかったが、神藤の目はそう語っていたのだから。
カラン・・・。
カラ・・カラ・・・ン・・・。
パラパラパラ・・・・・。
───それは、一瞬の出来事だった・・・。
高い天井の照明は一瞬にして粉々に砕け、ガラスの雨となって降り注いだ!
デスクや調度品が、まるで雷の直撃にでも遭ったかのように、一瞬にして粉砕したのだ!
そして、紗月姫の上に圧し掛かっていた栗原の体は、まるで強風に弾き飛ばされたかのように、十メートルは離れた壁に叩き付けられたのだ!
「ハ・・ッ、あっ・・ぐ・・・ゥゥゥ・・」
明らかに、喉から出たのとは違う〝音〟。
そんな音を立てて、栗原の体が壁からスルスルと床へ崩れていく。
体中が痛い。息をしようとすると胸が痛む。肋骨でも折れたのだろうか?
壁に叩きつけられた瞬間、喉の奥に何かが詰まり息が出来なくなった。
喉が詰まった原因となる物は口腔内をいっぱいにし、半開きの口からタラタラと流れ落ちる。
吐瀉物だ・・・。
突然の衝撃、突然の体内物の逆流。栗原の体は全身を針で刺されたかのように痛んだ。
叩きつけられた頭は、その衝撃のあまり目の前の視界を歪め、火花を散らせる。
・ ・・何が・・・おこったんだ・・・。
自分は、目当てにしていた紗月姫の服を剥ぎ取り、これから夢のような快楽の時間を過ごすはずだったのだ。
その準備は充分に出来ていた。
しかし・・・。
床に座り込み体も崩れそうになっている体勢で、栗原は今自分が快楽の相手にしようとしていた紗月姫に目を向けた。
上半身を起こし、自分の体を隠すように両手で自分を抱き締める紗月姫は、呆然とした表情で栗原を見ている。
砕け散って、降り注いだはずの照明。
粉砕した、デスクや調度品。
部屋の中に飛び散った、その破片、残骸。
しかし、痛む体とぼやけた視界で、栗原はある事に気付く。
紗月姫とその周りには、破片も残骸も、何も飛び散っては居ない。まるで紗月姫を〝避けた〟かのように、綺麗に彼女の周辺にだけ何も無いのだ。
「・・・なん・・だ・・・?」
───≪なんで・・・あの女の周りだけ、何も無い? 大体、これは・・・何が起こったんだ・・・≫
ピクンッ・・・。
紗月姫は抱き締めた自分の体が、自然に震えたのを感じた。
嫌だった・・・。
触られたくは無かった・・・。
神藤以外の男になど、自分の体に触れさせたくは無かった。
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で。
辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて辛くて。
「さわらないで!!」そう叫んだ瞬間・・・。
体中から、〝思い〟が噴出した!
その〝思い〟は、大きな波動となり、空間を揺るがし・・・。
この惨状を招いたのだ。
───≪あの女だけ・・・無事だなんて・・・≫
栗原の視線は、紗月姫から離れない。
自分はこんなにも傷を負って苦しんでいるというのに、まるで守られるように無傷なままの紗月姫が、だんだんと憎らしく感じてきた。
───≪オレはこんな目に遭ってんのに・・・どうして無事だ・・・? どうして、無傷だ・・・?≫
栗原の視界には紗月姫しか映らない。
いつもストイックに己を隠す衣服を剥ぎ取られ、〝女〟の姿を見せた、華の様な少女。
白い肌にかかる、乱れた黒髪。
それはそれだけで、あまりにも魅惑的な光景だった。
しかし、そんな紗月姫の姿さえ、今の栗原には憎悪の対照となる。
───≪てめぇみたいな女、オレがガンガン鳴かせてやるのに・・・≫
「や・・めて・・・」
───≪てめぇばっかり、とくべつですってツラしやがって・・・。とくべつですから、ケガもしません・・・ってか?≫
「・・・い・・や・・・ぁ・・」
───≪ナニサマだとおもっていやがる・・・。〝おじょうさまです〟ってか・・・? テメェなんざ、そのカラダふみつけられて、キタネェおとこどもにギタギタにされりゃぁいいんだ!!≫
「いやあぁぁっ!!」
流れ込んでくる思考。思考のままの妄想が、光景となって紗月姫の体に染み渡ってくる。
身を裂かれそうな、欲望と、嘲笑と、憎悪。
その全ては、紗月姫の心を狂わせる!
「もぅ、やめてぇっ!!」
力いっぱい自分を抱きしめ、紗月姫が叫ぶ!
その叫びは空間に歪みを作り、不純な波動を生み出す。
そして・・・。
「!!!」
栗原の体が、びくんっと伸び上がった!
「あ・・・」
開けた口から、かすかな声が漏れる。
そして、あっという間に栗原の金髪が赤髪に変わったのだ。
真っ赤な・・・赤い髪の毛に。
赤髪の先から髪を赤く染めた液体が滴り落ち、栗原のワイシャツを赤く染めていく。
その〝液体〟は、栗原の〝血〟だった・・・・。
逆流を始めた栗原の血液は頭部に溜まり、頭皮の毛穴から噴き出して来たのだ
毛穴だけでは足りない血液は、とうとう耳の穴から、そしてピアスの穴から噴き出し始める。
片耳に二つずつ開けているピアス穴から、ダイヤのピアスがボロッと落ち、そこからもダラダラと赤い血が流れ出した。
───≪そうか・・・お前か・・・? お前がオレをこんな目にあわせているんだな・・・?≫
自分の体に起こっている恐ろしい現象を、夢の中の事のように感じながら、狂いかけてゆく意識の中で、栗原はひたすら紗月姫を睨み付ける。
───≪おまえがやっているのか・・・? この〝化け物〟め≫
「ぃ、やぁ・・・」
紗月姫は自分を抱き締めたまま、全身が真っ赤に染まっていく栗原から目が離せなくなっていた。
───≪化け物め・・・テメェなんざ、くたばっちまえ!!≫
「やめてぇ・・・っっ」
『化け物』
その言葉が、紗月姫の記憶の奥底から掘り起こされる。
それは、ずっとずっと、昔・・・。
あまりの辛さに、紗月姫が心の奥底に沈め込んだ記憶・・・。
───≪化け物!!お前なんざ人間じゃない!!!≫
「いやああぁぁっ!!!」
心が、壊れる・・・。
張り詰めた心。
詰め込みすぎた思い。
彼女の精神だけでは背負いきれない、〝人の想い〟・・・。
助けて・・・・。
誰か、助けて!!
「神藤ぉぉっっ!!!」
その叫びが、声になっていたかは分からない。
けれど紗月姫は、その名前しか、口から出て来なかった。
壊れそうな〝心〟を・・・。
いつも支えてくれた。
大切な人の名前。
パアァンッ!!
最後の紗月姫の叫びは、冷たく鋭く、室内を揺るがした。
その波動は、刃物のように目の前の男を襲う。
紗月姫を苦しめ、精神の限界に追い込んだ男に・・・・・。
そして・・・。
重く鈍い、弾ける様な音と共に。
男の首が・・・、飛んだ・・・。
*「活動報告」の方に1/23~31まで、web拍手で頂いたコメントのお返事を掲載させて頂いています。
お返事が遅くなっていますこと、お詫び申し上げます。
この間にコメントを下さった方。覗いてみて下さいませ。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/28254/blogkey/24346/
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