*今回、少々ですが「陵辱系」の表現が入ります。
苦手な方はご注意下さい。
「少し遅れてしまうな・・・」
車のドアを閉め、腕時計に目を走らせて、神藤はちょっと考えた。
もぅ、生徒会室へ紗月姫を迎えに行くと言っておいた時間だ。
これから成澤のプライベートルームまで行き、この控え用の招待状を渡して、それから生徒会室へ行ったのでは間違いなく時間に遅れてしまうだろう。
今朝貰った招待状を、放課後になるまでの間に何処に失くすのだろう。とも思うが、咲月は失くしてしまったと言ってきた。
それも、失くした事を紗月姫に知られては申し訳ないのでナイショにしてくれと言う。
順番的に、咲月に招待状を届けてから、生徒会室へ紗月姫を迎えに行く事になるだろう。
とにかく急ごうと、校舎へと向かう。
神藤が約束の時間などに遅れた時に、紗月姫が彼だけに見せるちょっと拗ねた顔や怒った顔を思い出し、神藤の口元が楽しげにほころんだ。
───神藤が悪いのよっ! 時間に遅れるから!
そう言って拗ねてしまうだろうか・・・。
考えていると本当にクスクス笑い出しそうになってしまうが、そこはポーカーフェイスが得意技の彼の事、何も考えていないような顔で校舎内へ入る。
時間的に下校時間なので、玄関に取られた広いエントランスホールには、帰宅する生徒や迎えの者などで賑わっていた。
神藤を紗月姫のお付きだと知っているお嬢様達は、彼が一人であるのを良い事に、紗月姫が一緒に居る時には決して掛けない様な声を彼に掛けてゆく。
「ごきげんよう。神藤さん」
「お仕事熱心ですのね」
「また明日、お姿を拝見できる事を楽しみにしておりますわ」
神藤も声を掛けられるたびに、立ち止まったり会釈をしたり、「有難うございます」と返したり忙しい。
本当は紗月姫以外の女性にお愛想を振ったりはしたくはないが、従者の無礼はそのまま紗月姫のイメージダウンに繋がる。その為、神藤は決して主人以外の人間に話し掛けられても無下に扱ったりはしない。全ては紗月姫の為であるのだから。
優しく誠実な態度ではあるが、男性にも女性にもその態度を変えることが無いので、容姿の良さも手伝い、必然的に彼に心を寄せる女性も多くなる。
その気配を感じた時、紗月姫はいつも機嫌が悪くなるのだ。
───神藤は、手が早いのね!
冗談なのか本気なのか、そう言って怒った顔をする。
彼としては少々困ってしまうが、それでもそんな顔を見せるのは神藤にだけである事、そして、自分に対してそんな「やきもち」のような態度をとってしまう紗月姫を、彼はとても可愛らしく感じてしまい嬉しくなるのだ。
主人を「可愛らしい」などと感じてはいけないが、彼は幼い頃からの紗月姫をずっと見ている。成長していく過程を知っているだけに、紗月姫の「女性としての心の成長」のようなものは、彼に例えようのない「親のような愛しさ」を感じさせる。
そして・・・。
その「親のような愛しさ」以上の感情も・・・・・。
「親のような愛しさ」以上の感情は、年々強くなっていく。
一年一年、紗月姫が美しく成長していくのを傍で見ている彼は、「お世話役」という言葉でセーブしている自分の感情を、時々止めておけなくなりそうで辛くなる。
自分は、そんな感情を持って良い人間ではない。
そんな感情を口に出す事を許される人間ではないのだ。
心が辛くなると、いつもそう心に言い聞かせる。
いつまでそれで自分を誤魔化せるのか、自分自身不安を覚えながら・・・。
神藤は階段を五階に向かって速足で上がり始めた。
本当なら早くこの招待状を咲月に届け、紗月姫の元へ行きたいので階段など駆け上がって行きたいが、大の男が階段を駆け上がって行くなどという鬼気迫る姿を見せて、すれ違うお嬢様方を驚かせてはいけない。
彼は出来るだけ急ぎ、それでも出来るだけ落ち着いた足取りで、生徒会室が有る四階を通り過ぎ、辻川や成澤のプライベートルームがある五階へ向かった。
彼が通り越した四階で、今何が起こっているのか・・・。
知る由も無く・・・・・。
「紗月姫様・・・」
いつもは「辻川様」と呼ぶ栗原の声が、紗月姫の耳元で熱い吐息と共に囁き出される。
紗月姫はビクッと体を震わせた。
「・・・震えているのですか?・・・かわいい方だ・・」
栗原は立ち竦んで動けなくなっている紗月姫を抱き締めたまま、背中に回した手で、彼女の柔らかく美しい黒髪を梳く。
紗月姫の体は、本当に小刻みにカタカタと震えていた。
パーティーの招待のお礼を言いに生徒会室へ入ってきた栗原は、事もあろうに紗月姫へ「自分の気持ちを解かって欲しい」と彼女を抱き締めたのだ。
「お礼がしたい」と。
「口にしてはいけないのでしょうが・・・紗月姫様、・・・私は、初めて貴女をお見かけした時から、貴女が好きでした・・・」
熱っぽい声で語られる告白。
ちょっとした「慣れ」さえ感じてしまうような仕草で、彼は紗月姫の体に手を這わせ、愛しそうに髪に頬ずりをする。
「あ・・・」
紗月姫は、体の震えを止められない。
泣き出してしまいたくなるような恐怖と恥ずかしさを感じている自分が居るのだ。
その原因は、ただ一つ。
───≪いつもはお高くとまっているくせに、何を震えてやがる・・・≫
栗原に抱き締められた瞬間に、動揺した紗月姫の心は・・・。
「心の扉」を、開いてしまったのだ・・・・・。
「・・・ぃ・・や・・・」
流れ込んでくる、周囲にいる人間の「思考」「想像」「妄想」。
ここにはいない人間達の「思考」を雑音に、一際大きく紗月姫の中へ入ってくる栗原の「思考」。
───≪財閥のお嬢様とヤれるなんて、こんなチャンス二度とないぞ≫
「はな・・・して・・」
───≪この綺麗な顔、ぐちゃぐちゃになるまでヨガらせてやる≫
「い、や・・・、はなし・・て・・・」
───≪こんな顔して、咲月より凄かったりしてな≫
「はなしなさい!」
次から次へと流れ込んでくる、怖いまでの人間の欲望。
目の前の自分を、ただ、快楽を得る為の性の道具としか見なくなっている男の「思考」そして「妄想」。
「思考」と共に流れ込んでくる「妄想」は、男の体の下で我を忘れ悶え乱れる、有り得ない紗月姫の姿を、紗月姫自身に見せつける!
「いやぁ・・・っ!」
今までだって何度も、男が描く妄想の相手にされた事はある。
人間の欲望など、見慣れているし、感じ慣れている。
傷付きながら、哀しくなりながら、「それが人間なのだ」と、どこか冷めた目で諦めていた。
しかし・・・。
「紗月姫様! はしたないですよ! そんな大声をお出しになっては!」
───≪もっと大声出してみろ! その方が何倍も楽しくなる!≫
これは、いつもの「妄想」ではない・・・。
自分に振り掛かっている。
「現実」なのだ・・・。
「!」
大声を出しそうになった紗月姫は、瞬間的に声を飲み込む!
大声を出して抵抗すれば、この男を喜ばせるだけなのだ。
紗月姫への忠告と同時に、栗原は紗月姫を抱き締めたまま絨毯の上へ座り、紗月姫を叩きつけるように床へ押し倒した!
いくら絨毯が敷かれていても下は硬い床。
そんな所へ男の力で叩きつけられてショックが無いはずも無く、体と共に頭を打ちつけた紗月姫は、一瞬気が遠くなり眩暈がした。
これは・・・「現実」・・・?
この男が、私を、自分の欲望の相手にしようとしているのは・・・。
いつも通り、「妄想」ではないの・・・・・?
いつも紗月姫が感じているのは、真実の「思考」。
そして、人の心の「想像」と「妄想」。
しかし、これは「現実」。
「現実」という物の恐ろしさが、実際に手を掛けられ、男の力で捻じ伏せられるという体験した事の無い恐怖が、紗月姫の心の中に感じた事の無い動揺を生み出す。
「何を・・・、するのです・・・」
頭を打ちつけられたせいか、少し意識がぼやけている。
紗月姫は喉から搾り出すような声を出していた。
「悦ばせてあげる、と言ったではないですか? 愛しい貴女を」
栗原が優しげな声でそう言いながら、両手で紗月姫の脚を上下に大きく撫でる。
スカートの中を潜っては出て、潜っては出て。その範囲はだんだんと大きくなってきた。
───≪すっげぇ・・・柔らかい・・・。堪んないな・・・≫
「思考」と共に入り込む、栗原の精神の昂ぶり、その波動。
───≪どんな風に乱れてくれるのか楽しみだな。・・・アノ男、うまい事ヤってんだろうなぁ≫
「想像」の中に新しく入り込む影は、神藤の姿。
───≪アノ男だけにヤらせとくにはもったいない。こういうイイ女は是非回してもらわないと。・・・そのかわり、咲月は回してやるから、ってな≫
神藤を自分レベルにまで下げて、完全に誤解を生んでいる「思考」に、より哀しさが込み上げる。
「こんな・・・事をして・・・、ただで済むと思っているの・・・?」
強気の言葉を口から出していつもの自分を取り戻そうとするが、意識がハッキリとしないせいかその口調にいつもの凛とした気高さは感じられない。
栗原の耳には、犯される直前の女が口にする悪あがきにしか聞こえないのだ。
「誤解ですよ。紗月姫様。悦ばせてあげる、と言ったでしょう?」
脚を撫でていた栗原の手が、引きちぎるように制服の胸当てを取り、ウエストベルトを外す。
「主人に奉仕するのは従者の役目。神藤君にばかり奉仕させず、僕にも御奉仕させて下さいよ! こんな綺麗なご主人様なら、頑張って御奉仕しますよ! 紗月姫お嬢様!」
栗原は慣れた手つきで、脇から太腿の辺りまで続く制服の脇ファスナーを一気に下げ、体を伸し掛けながら紗月姫の体から制服を剥ぎ取った!
「い・・やぁ・・・っ!」
「お待ちしていたわ。神藤さん」
成澤専用のプライベートルームのドアを開け、咲月はドアの前に立つ神藤を迎えた。
「お待たせ致しました。招待状の控えをお持ち致しましたので」
神藤が招待状を差し出すが、咲月は受け取らない。
代わりに、その差し出された手をグイッと引っ張った。
「せっかく来て頂いたのですもの。ちょっとお入りになって」
「申し訳ございません。紗月姫お嬢様をお迎えに上がる時間ですので・・・」
予想していた言葉だったのかもしれない。咲月はちょっとクネッと体を曲げると、急に神藤の胸の中へ倒れこんだ。
「成澤様? どうなされました?」
「・・・ごめんなさい。・・・眩暈がして」
「それでしたら、少し静かにお休みになったほうがいい。私は失礼しますので」
「神藤さん・・・」
神藤に離されそうになった咲月は、彼の胸に手をあて、栗原に「奉仕」をさせているときのような目で彼を見上げた。
「今、栗原が居ないの・・・。不安だから、せめてソファまで連れて行ってくださらない・・・?」
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